世界とISと名もなき者へ Re:   作:葵 束

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前章までのあらすじ


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 二十一世紀――技術は日々進歩し続け世界は様々な姿を見せていた。 そんな中、ドイツ連邦国防省連邦防衛軍に所属するスカーレット・リリィは人知れず祖国である日本へと足を踏み入れ、“フリーダム”と名付けられた人型機動兵器を誤って起動させてしまう。 混乱したまま表示され続ける情報に目を通していくうちに核動力搭載型試作機という英単語を目にしてしまい、リリィは“フリーダム”という機体が核で稼働していることに気がつき情報が漏れないよう保有し、また他にも存在するであろう同型機を破壊することを方針と決め――そんな様子を遠くから見ていた篠ノ之束が提案を持ちかけた事でリリィは織斑家にて寝食を共にする事となる。


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 自身が所有している核動力という存在に気を抜くことが出来ない生活を続ける中、日本に向け多数の弾道ミサイルが発射される自体に直面し、迫り来る脅威を見過ごせないリリィは“フリーダム”を、束は“白騎士”を起動させ自身が守りたいモノのために戦場を駆けて行く。 数千を超える脅威を自衛隊とドイツ連邦国防省連邦防衛軍に属している“Flabellum(フラベルム)”隊と共に退けた後、帰宅した束は“白騎士”を兵器として求める者達に苦渋の決断を迫られる。 既に自身が持つ交渉手段はないと家族と友人を守るため犠牲になろうとしたとき、“フリーダム”が束の自由を奪い去り連れ去っていく。
 日本の領域外まで抜け出しドイツ連邦国防省連邦防衛軍に救助される形で二人はドイツの地に足を踏み入れ“白騎士”という存在とは無縁の三ヶ月を過ごす。 しかし“ジン”に酷似した所属不明機の強襲を受けリリィは方針を変更し、ドイツ連邦国防省連邦防衛軍を利用した未確認人型機動兵器に対する特殊戦術飛行隊“ Schwarzer(シュヴァルツェア)”隊を編成――束を守るため“白騎士”とは別の剣を開発し抵抗していく。 技術士官としてドイツ連邦国防省連邦防衛軍に籍を置いた束はリリィと共に動いていく中、ローズ・サミナードが設計したとされる小型戦術核や“CCCNO(シースリーエヌオー)”社が関与したとされる“遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)”実験についての情報を手に入れてしまい、また同時期に、もう一人の篠ノ之束が表舞台に現れたことで束もまた“白騎士”という自身が生み出した火種に対し向き合う事となる。


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 “白騎士事件”と呼ばれるようになった出来事から六ヶ月後、リリィと束は無人戦闘機開発計画で設計した一機を“白騎士”に採用された技術を用いて改修し運用している中、何者かに進水式直前の超大型潜水空母を奪取されたとの知らせを聞き、道中で空中給油を受け停船任務につく。 未確認ではあるが核弾頭が積み込まれているかも知れない――そのような状況下で打ち上げられた艦載機と“ Schwarzer(シュヴァルツェア)”隊は空中戦を繰り広げ既の所で逃げられる。 後に日本へ現れるとの情報を得てリリィは少数精鋭での迎撃、破壊作戦を立案し招かれる形で“CCCNO(シースリーエヌオー)”社が保有する試験中の航空母艦に降り立ち、そこで最高責任者と共に近づく篠ノ之束を目にし、束もまた一時的に自身を偽ることをやめ篠ノ之束として情報を集め――自分自身の記憶に疑いを持ち始めてしまう。


Re:Birth 04
030 Phantom


 2010年12月27日――日本時間十七時四十三分を超えたとき、その爆発は沖縄県本島で観測された。 正確な位置は情報が錯綜(さくそう)しているため不明であるが普天間飛行場周辺から局所的かつ急激な熱エネルギーが解放されたことに伴う上昇気流――所謂(いわゆる)キノコ雲(ヽヽヽヽ)が観測されたのだ。 一体何故、そのようなことが起きたのか観測されてから三十分も経っていない現状では何も判明していないが、明らかなのは人口密集地で核爆発が観測され数千から数万もの人名が一瞬にして失われたということだろう。

 元々沖縄は合衆国軍の核ミサイル保管庫として扱われており、その数は千を越えると言われアジア圏に対しての核抑止として機能していた。 特に戦術地対地巡航ミサイルMGM/CGM-13“Mace(メイス)”は中華人民共和国を意識し配備されていたと言われている。 1972年5月15日の日本本土復帰前に合衆国政府が核兵器を配備していた事実を機密扱いにすることを取りやめ、この事実を知る者は少なくはない。 そんな核弾頭は未だ普天間飛行場地下に隠されていると噂されているが、その情報に正確性は無い――ただし普天間飛行場の位置関係から核弾頭を完全に取り除くことは不可能と言っても良いだろう。 なにせ核兵器という存在は他国からの侵略に対し反撃(カウンター)としても機能するのだ――核攻撃に対する抑止だけではなく、そこに存在するだけで我々はいつでも貴国を滅ぼすことができると突きつけている。 核の無い国が理想的だとは良く言うが現実は核の傘に守られてるに過ぎない。

 

『こちらに精度の高い情報が集まってるわけではないが、それでも短時間で飛び交っている情報から現状を推察することは可能だ』

『――サミナードの推察(ソレ)は正しいだろう。 状況的に見てほぼ間違いなく使用されたのは、行方不明となった“Radio Active Detonator(レディオアクティブ・デトネイター)”と見て間違いない。 それに加え独自のルートから入手した情報と合衆国軍の行動予定と照らし合わせたが、核弾頭に関しての輸送予定は一切存在していない』

『――その情報の精度については信頼してもいいものなのか?』

『確実だ――アメリカ統合参謀本部が出処だからな』

 

 外部から完全に切り離された部屋は当然のことだが光を拒み空中に表示されるモニターだけが光を放ち彼女の顔を照らし出す。 その金の髪や碧眼(へきがん)を持つに相応しい美貌はある意味で目立ちやすく、過去に“Phantom Aufgabe(ファントムタスク)”社という巨大複合企業の礎を築いてしまい名を刻んでしまったからこそ彼女――キャロライン・ベーネットは暗闇の中に留まり情報を得るためのシステムを作り上げたのだ。 外に出ること自体は問題無いのだが、ある一つの要素が1952年12月2日に生まれたことでキャロラインは息を潜め密かに情報を収集する事となる。 当時は理解のできない違和感でしかなかったが一年と八ヶ月後に報告が上がってきたことで、その正体を知ることとなり今も()の行動に注意を払っていた。

 下手に動けば向こうは此方を捉える――それをキャロラインは良しとしなかったからこそ隠れたのだが逆に外を見る目を失ってしまう。 何かで外を見ようにも現存する物では足が付き彼はやがて自身の元に辿り付くわけだが、何としてでも彼の目的を把握できるまでは、この身を隠し続ける必要があった。 それ故に利害関係が一致し尚且つ行動原理が理解できる三人を支援し代わりに外部の情報――特に彼の目的を探ってもらう相互関係を気づいた訳だ。 未だに“Phantom Aufgabe(ファントムタスク)”社に対し強い影響力を持つからこそ行える支援であるが、そこからキャロライン・ベーネットという個人に辿り付けないわけではない。 むしろ彼は既に自分という“災厄(ヽヽ)”に気が付いているのかもしれないのだが、それならば何故彼は何も行動を起こさないのだろう。

 

 

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『スコール・ミューゼルは確かイギリスで行われる舞台に出演するため日本にはいなかったな。 少しでも情報が欲しいところだが……』

「――何が起きたかは知ってるだろうが我々よりも事情に詳しいことはないだろう」

『仕方がないな、ヤツは我々とは違い表から動く人間だ。 ところで既に放射線測定器を始めとした汚染除去用の資材と支援物資の輸送準備を進めているが構わないな?』

「これに関しては支援を惜しまず行え。 人命優先だ」

 

 そう言いながらキャロラインは通信開始時から回線接続がされておらず点灯しない人物の顔を見る。 今回の通信に参加していないのは“Phantom Aufgabe(ファントムタスク)”社に所属し、現在女優として活動しているスコール・ミューゼルただ一人。 別に通信には必ず参加しなくてはならないという規則は無いため、優先的に行わなくてはならないことが存在しているのならば通信に参加していないのは仕方がないことだ。 当然、それに見合うだけの動きを見せているからこそキャロラインは彼女を評価し、この(グループ)に招待したのだ。 行動範囲の広さから彼女の齎す情報の恩恵は大きい――また唯一の人間(ヽヽ)であることから我々とは違う観点からの指摘をキャロラインは重宝していた。

 

『だが問題は別の所にあるだろう――どうする。 沖縄には日本全体の合衆国軍専用の施設が70%も集中している場所だが、当然、今回の爆発で指揮系統が一時的ではあるが混乱している。 何事もなければ問題はないだろうが、軍事境界線において動きが確認されたという情報が入ってきている。 明らかな侵略行為に戦力を投入せず物資の輸送だけを行う気か?』

『率直に言うが今回に関しては多くの民間人に被害が出たからこそ、私は出るべきだと思っているんだが』

『我々が動けば情勢が大きく変わる――“Phantom Aufgabe(ファントムタスク)”社が“白騎士(ヽヽヽ)”を製造したとも世間に受け取られかねない』

『なにも関係もない人々が殺されていくのを黙って見ていろという気か?』

『感情に流されすぎていると言っているのだ。 冷静になれクローディヌ・サミナード――お前の軽率な行動が、どれだけの事態を招くか考えろ』

 

 どちらの発言も正しいものだ。 戦地になり得る場所へ、ただ輸送物資だけを送り込むだけでは略奪の対象となり我々の善意が広がる前に搾取されてしまい、支援物資が少ないほど被害を受けた人々の生活は困難となっていく。 今まで慈善事業をしてきたという訳ではないが、明らかに自然災害では無く何者かの意思が罪もない市民を傷つけ殺していく現状を、あの惨劇を目にした“災厄(ヽヽ)”の一人として見逃すことはできない。 それは(グループ)に属している四人とも同じなのだ。 誰もが搾取される側の痛みと悲しみを見てきたのだ――理解していなければ、この(グループ)に席を置くことを誰が許すものか。

 

「日本政府の対応はどうなっている」

『既に陸上自衛隊第十五旅団が動いているという報告が届いている』

『――第十五となると那覇の災派だな』

 

 沖縄県那覇市にある那覇駐屯地には沖縄地方の防衛警備や災害派遣を任務としている陸上自衛隊西部方面隊に所属している第十五旅団が存在している。 その中でもクローディヌの口にした災派とは、数え切れない多く死傷者の発生が伴う大規模な事故等という各種災害に対して地域や組織の対応限界を超えた際、陸海空の自衛隊部隊を派遣し救助活動を行う災害派遣の略称とされていた。 今回の事例は敵対国が明確ではなく結果として核爆発らしき現象を観測したことから化学テロに属し災害派遣の対象となる。 近年では1995年3月20日に東京都で発生した同時多発テロ――所謂(いわゆる)、地下鉄サリン事件が今回と同様の活動内容に挙げられるだろう。

 

『流石に対応が早い』

『だが驚異が無いわけではない――相手は何せ四年前から核実験を再開した、あの社会主義国だ。 どのような戦力を持っていようが無差別に破壊する大量殺戮兵器を既に使用したと仮定するならば、もう奴らは核兵器を使う事に躊躇いが無い。 いくら軍事技術的に優位に立っていようが防ぐ術がない時点で驚異でしかないのだが』

 

 まるで他人事のように語られる事実にクローディヌは不満そうな息を漏らす。 確かに我々三人(ヽヽヽヽ)に対し核兵器という存在は大きな障害にはなりえないのだから、脅威を感じることも無い上に“Phantom Aufgabe(ファントムタスク)”社への風評に気を配れば市民への被害を無関心だと思われても仕方がない。

 

「――こちらからは戦力的支援を送り出すことは出来ないが外部からの圧力をかけることは可能だ。 だがジュネーブ合意以降、核兵器に関する国際的な約束を大々的に破ってきている。 いくら食料や経済支援を行っても裏では開発し続けるのが今回の標的(ターゲット)だ。 既に“Phantom Aufgabe(ファントムタスク)”社も無視できない反故を受けている」

『つまり誰にも悟られることなく殺れば良いんだな』

「いや、むしろ核開発すら出来ない去勢された状態にしてやればいい。 クローディヌ、お前には指定された座標へアレ(ヽヽ)を運んでもらう。 道中戦闘に巻き込まれるだろうが、その場合の行動は任せる――だが我々が動いているということを悟られるな」

了解(ウィルコ)

 

 指示を受け取ると通信欄で送受信状態を示す点灯が一つ消えた。 クローディヌが通信を遮断し会話から抜けた――となると既に受領のため行動を開始し始めたに違いない。 彼女が持つ機体特性は電撃戦仕様と言っても良く、特にコロイド状の微粒子を機体表面に定着させる電場形成技術によって展開される光学的な迷彩ミラージュコロイド(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)ステルス(ヽヽヽヽ)は今回の隠密作戦において非常に有効で、戦場で培われてきた彼女の判断能力と合わさることで技術面では我々よりも上を行くであろう。 当然だが彼女の侵入に気が付くことのできる国家は今のところ存在しない。

 危険な任務ではあるのだが有利な立場にいるため安心と安全が保証されている。 我々にとっては子供の使いに似たような作業であるが、当然それに見合う報酬は渡すべきなのだ――そう思いつつも彼女が欲する情報を伝えられない自分が恨めしく思えた。 ただ座っているだけの自分以上に働いてくれる彼女の能力は正当に評価すべきなのだ。 それを止めているのは今も通信を繋げたままにしている最後の一人が原因である。

 

「――また娘に嘘をつき続けたな。 私はいつまで黙ってればいい、ローズ(ヽヽヽ)

『確かにDNA上では、間違いなく彼女は私というローズ(ヽヽヽ)サミナード(ヽヽヽヽヽ)という存在が……生み出した娘に値する存在なのは、違いない。 ……だからといって、クローディヌ・サミナードという個体を、()という個体は――生み出してはいない』

「半世紀も真実(ヽヽ)を知る肉親を探し続けてるというのに当の本人は素知らぬ顔。 そのくせ全くの無干渉かと思いきや“グレイプニール”の改修データーを送ったり……お前は一体何がしたいんだ?」

『知らない方が、幸せなこともある……』

 

 やはり彼女は何かを知っていて隠しているのだろう。 それが何なのかは今のキャロラインには理解できないが、それでも間違いなく自身が知らない――特に唯一と言っても良い王妃(ヽヽ)が死ぬことが無い未来(ヽヽ)という情報を知っているはずだ。 元々、自身が観測することができる結末(ヽヽ)は全て王妃の()でしかないのだが、クローディヌ・サミナードという存在が現れ齎した情報が自身の知りえない何かがあることを証明した。 そこへ辿り付くまでの情報が圧倒的に少ない。 彼女の口にした過程は大変興味深く事実確認を行いたくもあるが、唯一それを知るであろうローズは何も答える必要はないと、その読み取りづらい無表情(ポーカーフェイス)で口をつぐんだまま一言も発しない。

 生物や植物、鉱物は原子レベルから同じ物質で構成されていると言い切れる――故に我々“災厄(ヽヽ)”は生物であり無機物でもあるというのが古くから信じられた解答だ。 しかし彼が起こした事象に巻き込まれ過去へ遡った(ヽヽヽヽヽヽ)結果、クローディヌは我々が粒子と共に対生成される反粒子(ヽヽヽ)的な存在である可能性を提示した。 そもそも時間というのは一方向のみに流れるというのは現代物理学にとって一つの教義(きょうぎ)である。 過去は未来に影響するがその逆はないという意味だが当然ソレを観測することは出来ない。 だが未来が過去へ何かしらの影響を与えている可能性があるというのなら、物理学者であるリチャード・フィリップス・ファインマンが口にした時間を逆行する粒子である反粒子が“災厄”の本質だとしてもおかしくはないのだろう。

 実際のところ時間を逆行する存在をキャロラインは知らないし、クローディヌが口にした事象を鵜呑みにすることはできない。 知りもしないのだから過程として提示されても、はいそうですかと受け入れられるはずがないのは道理だ。  それらを知らなくても良いというのであれば確かに知らなくても良いことなのは間違いない。 ただ、もしもクローディヌが提唱した仮説が正しいものだとすれば我々が“災厄”と呼ばれてきたのも道理だろう。 なにせ地球上に存在する物質を個体だけで対消滅(ヽヽヽ)させることができる存在なのだ――当時を生きた生命体にとって無差別に消滅させていく可能性を秘めた我々は災害に近いものとして捉えていても仕方がないことだ。

 

『――先に、忠告しとく。 クローディヌ・サミナードが口にした、仮説を……実証するのは死を招く……。 矛盾による自己崩壊、はしたくない……でしょ』

「それは命令か?」

『ご自由、に……。 “CCCNO(シースリーエヌオー)”社に――義兄(にい)さんに、勘付かれても……いいのなら、ね』




《Re:Birth 04/Re:Birth 04/Thunder of God》

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※あとがき
 初めましての方は初めまして、お久しぶりの方にはお久しぶりです。 Twitterをしており尚且つ篠ノ之束(aoi_tabane)をフォローしている方は……そうですね、「先程ぶり」とでも言えばいいのでしょうか?
 葵 束です。

 ようやく第四章という新章に突入する事になりました。
 設定上存在する“災厄”もその生き残りも徐々に姿を表し、当時から謎とされていた事象が少しずつ解明されていくことになります。 篠ノ之リリィとクローディヌ・サミナード、そして重複している篠ノ之束という存在――幾重にも重なった不可解な現象が歪を生み……とは言うものの四章は日本という国家が戦火に晒され、世界に対しどのような立ち位置を見せるのかということを書いていくので謎解きはまだ先のおはなし。
 当作品は現在、2010年頃の情報を元に書かれています。
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