現在の日本を守る戦力は陸海空を含む自衛隊、在日米軍基地に属している各部隊、巨大複合企業“CCCNO”社によって試験運用される部署の三つにより国土進行を阻止している。 敵航空戦力を迎撃し無力化することで何者にも邪魔されることなく航空及び海上の戦力から火器を使用、それにより敵上陸部隊を迎撃し侵略行為の成功率を下げ一ヶ月にも渡る状況の維持と戦力の再配置及び武器弾薬の補充を可能とし終戦へ向けての準備を可能とした。 合衆国軍内部では遅すぎる対応にステルス戦略爆撃機による焦土案が提出されるという自体にまで発展したらしく、現ロシア連邦を刺激する行為として否決されているようだが、実際のところ状況によっては再び提出され承認される可能性がないわけでもない。 当然、その憤りは再び核兵器を国土で使用された我々日本人が理解できない訳もなく、この準備期間は長く苦しいモノに感じられただろう。
アジア圏同時二面作戦――作戦名がアジア圏と広範囲に指定されているが東アジア圏が正しい作戦範囲である。 本作戦の最終目標は敵司令部機能の停止による戦争終結であり段階別に作戦が構成されており、既に本作戦は最終段階に状況を移していた。
まず第一段階として敵航空戦力の迎撃及び無力化。 これは常日頃行われていた領空侵犯と変わらなく航空自衛隊が迎撃にあたり一機も本土に通すことなく制空権を確保し、在日米軍基地に配属していた者と“シンファクシ”級潜水空母の脅威によって集められた精鋭達が徐々にその範囲を広げていった。 これによって日本海と東シナ海において比較的安全な状態での海上兵力が展開可能となり、合衆国海軍太平洋第七艦隊とドイツ連邦国防省連邦防衛軍が“シンファクシ”級潜水空母奪還作戦に追加兵員のため準備していた航空母艦“Vorpal”を旗艦とした試験的な遠征群が両海域を担当し、同時に“CCCNO”社が運用している原子力空母“Principality”を旗艦とした戦力が展開され作戦の第一段階を第二段階へ移行することとなる。
次に行われた第二段階では敵勢力に制圧され機能を停止した在韓米軍基地の開放を目的として展開された。 近々、合衆国海軍第七艦隊の軍事基地である佐世保基地に配備される予定とされていたワスプ級強襲揚陸艦“Bonhomme Richard”を運用、大韓民国沿岸部に上陸作戦が行われ浦項市の第一海兵師団司令部制圧。 この時に行われた上陸作戦において敵勢力の抵抗が見受けられず少数での偵察行動を行い大邱基地への輸送経路を確保することに成功する。 制空権を広げた影響か敵勢力の影響を受けることなく人員を大邱基地へ送り基地機能が復旧――作戦の第二段階を進行する上で臨時の前線基地として運用され、そのまま他の主要基地となる四ヶ所の機能を復旧することにも成功。 これによって在韓米軍基地の滑走路が使用可能となり、また格納庫に残されていた機体の運用も可能となったことから一気に作戦の第三段階へ準備が整う。
この作戦行動において大韓民国内に存在する主要五ヶ所の在韓米軍基地を奪還、復旧に成功し最終段階となる敵司令部に対しての強襲制圧作戦へ着実に準備が進められていた。 制空及び警戒飛行のため前線基地としての役割も陸軍基地である大邱基地から移転によって既に基地機能が稼働可能状態にあるハンフリーズ基地と隣接する鳥山空軍基地に移され、敵司令部に一番近い龍山基地には地対空迎撃ミサイルの配備される。 しかし問題が全く存在し無いというわけではない。 CFA-41“Mave”が行った高高度偵察によって在韓米軍基地に生物の反応が検知されなかったという結果が作戦の第二段階で事実であることが証明されてしまった事で捜索はもちろんのこと、人員が補充されるまで満足に基地機能を運用することが難しいという状態が続く。 合衆国軍では恐らく強制収容所に移送された可能性で作戦の最終段階を構想しているが、約28,500人規模の兵力が在韓米軍基地には存在していた事から状況判断が難しく様々な方向から情報を集め――そしてこれらの状態に一応の区切りがついた事から最終作戦のブリーフィングが行われることとなった。
『――本作戦の最終段階への目処がついたため、これより敵司令部への強襲制圧作戦を決行する。 ここまで長らく耐えさせてきたことをまず先に詫びる……だが消えた同法達の役割を残った我らが全うする事こそ彼らにとっての手向けとなると引き継ぎ、不当な侵略行動に対し同盟国を守らねばならない。 これより本時刻を持ってアジア圏同時二面作戦の最終段階へと移行することを宣言する。 作戦概要は航空管制指揮官として前線を偵察し当作戦にも参加するドイツ連邦軍所属のスカーレット少佐から』
同時二面作戦という名の両海域から行われる挟撃に加え在韓米軍基地の機能回復は、この戦火を収めるには十分な力を持つが合衆国軍と複合企業、さらに別件で予定していたとは言えドイツ連邦国防省連邦防衛軍を含めた全戦力の足並みを揃えるのは難しい――海上では尚の事、所属する国が違うからこそ作戦の伝達が遅れ些細なことでも乱れてしまう。 正しく伝達したとして時間という流れの中で変化する状況に最終的な判断を下す人物が存在しなくては戦場にいる者達は作戦中に統制が取れなくなってしまう可能性も存在するのだ――各艦隊に指揮を執る人物を置くより、全体の指揮権をもつ人物が判断を下し命令を統一する方が利点が大きく戦場では好ましい。 それ故にアジア圏同時二面作戦では少し特殊な方法を使いブリーフィングが行われている。
この作戦に参加する艦隊は一つの共通点を持つことから試験段階とは言え、ほぼ同時の情報共有を可能としていた。 どの旗艦にも“CCCNO”社製の機材を搭載しているということ――原子力空母“Principality”は当然のこと、フランス海軍が使用可能な機材を抜き取った後で売却された航空母艦“Vorpal”も採用した機材の大半は“CCCNO”社製であり“CCCNO”社の中で軍需産業が集中した北米支部の存在により合衆国軍も共通規格として一部を採用している。 特に“Tellus System”は現状秘匿とされた人工衛生を利用しているものの、そのネットワーク形成システム自体は従来のモノと大差無く各機材の方で方式を切り替えてしまえば艦隊間で特殊ネットワークを形成することは可能であり、それが行えるということは膨大な情報通信を可能とするということ――簡単に言ってしまえば音声情報と共に映像情報を
含む膨大な作戦情報を傍受されないよう特殊な状態にし負荷をかけることなく同時に送れ、また即時に展開することが可能というわけだ。 テレビ番組におけるリアルタイム放送へ該当するだろう。 機材さえ揃っていれば、の話だが。
展開に関して各艦隊に搭載されている機材で問題なく行えるのだが、しかし一定以上の情報を送信する方式が少々特殊であるため現状では“CCCNO”社内で使われるか、一方的に送りつけるしか使用方法が存在しない。 つまり原子力空母“Principality”から他の艦隊に向けてしか映像情報は送ることができないのだが、作戦概要を説明する者は“Scarlet Eye”――リリィである。 CFA-41“Mave”を運用するために存在しているような原子力空母“Principality”内に既に存在しているのだ。 今回は問題となる状況ではない。
「本作戦の航空管制指揮を担当する“Scarlet Eye”だ。 私に興味を覚えるものが少なからず存在するだろう、しかし我々は市民を守ることを優先するべきだ――持った興味は捨てておけ。 これより作戦の概要について説明する」
第七艦隊司令官による現状確認が終わり“Tellus System”の回線が切り替わり操作権がリリィの元に回される。 間違いなく今回の艦隊間での膨大な情報通信は軍事利用可能という点で目を付けられるであろうが保有しているのは“CCCNO”社――“Ghost”のような雪風に匹敵するプログラム群を退け続けた実績があるのだから何者かに悪用されることもないはずだ。 それに膨大な情報通信が可能になった所で物理的な被害を生み出せるわけでもないのだから心配するだけ無駄であろう。
室内には自身と百合奈のみ――これから行うブリーフィングは全て“Tellus System”によって送信された画面の向こう側にいる精鋭達に対して行うもの。 航空母艦“Vorpal”に乗艦しているのは原子力空母“Principality”から移動した数名を加えた“Flabellum”隊に所属していた面々。 対して自身を知らない合衆国軍の乗員は、このような子供が現れれば驚くのは必然でしかない。 自身が“Scarlet Eye”として姿を他国の前に表すのは、これが初であり、束の心配や関係性が表に出ないであろうかと出来る限り思考を分散しているせいか嫌な汗が背中を伝う。
「知っているとは思うが日を増すごとに遠方からのミサイル攻撃が増えており、迎撃システムの稼働率が上昇している。 これに対し先日、試験段階の対空レーザー兵器を運用した結果、従来の倍に等しい距離に位置する高速で移動する飛翔物体を迎撃することに成功。 これによって迎撃成功率が上昇し我々の防衛可能となる範囲が広がった結果、作戦の第三段階への移行が認可された」
龍山基地に配備された地対空迎撃ミサイルによって実害となる計算が出された弾道ミサイルの大半は迎撃されているが、そのための地対空迎撃ミサイルとて無限ではない。 そこで2000年初頭から長年試験運用され2010年7月19日にイギリスで開催されたファーンボロー国際航空ショー、そこで行われた約3.2km先を時速480kmで飛行する無人航空機四機を撃墜した対空レーザー兵器が投入されることになった。 ただしファーンボロー国際航空ショーで使用された対空レーザー兵器はRaytheon Companyの兵器であるのだが、今回投入された物は基本的に同じ構成で設計された“CCCNO”社の物である。 一体何故Raytheon Companyの対空レーザー兵器ではないのかということについては、1996年7月18日のアメリカ合衆国とイスラエルが結んだ協定によって開始された開発計画において主に開発を行う企業が定まっていなかったことが原因だ。 今ではNorthrop Grumman Corporationが主契約社として開発しているが当時、規模を広げていた“CCCNO”社も契約を結ぼうと開発計画に名を連ねており最終的には退いたが同様の対空レーザー兵器の開発は続けており、今回のようにシステムのみ運用では数歩先を行く。 結局のところ“Tellus System”と高性能な機材を湯水のように消費していく“CCCNO”社の対空レーザー兵器の方が素早く配備でき、また効果のある運用が可能という結果でしか採用された理由はない。
仕方がないとは言え光学兵器システムには電力の供給源が必要となり、また無人航空機を撃墜したRaytheon Companyの光学兵器システムは軍艦に設置した六基を使用し高エネルギーレーザービームを合成させることで威力を高めている。 対する“CCCNO”社の光学兵器システムは少々方向性が違い開発過程に別の開発技術が流用されているが、結果として見れば小型化に成功しつつ同等のエネルギーを投射することを可能とした。
込み入った話となるが対空レーザー兵器の主契約を抑えることができなかった“CCCNO”社は、振動を量子化した粒子であるPhonon――所謂、音量子や音響量子に目を付け対潜水艦用兵器としてPhonon Maserの開発を現在行っている。 こちらもレーザーと同じように反転分布を用いて電磁波を発生させているのだが振動によって効果を生み出しているため、それを伝える触媒の密度が高い水中に適しており対潜水艦だけではなく魚雷等にも効果が見込まれ新たな個艦防御システムの一つとして開発計画が進行され、試験運用として“Haniel”級ミサイル駆逐艦に搭載されており、この技術を戻し“Tellus System”による戦術データリンクを利用することで試験的に開発されたのが今回使用される“CCCNO”社製の対空レーザー兵器というわけだ。 また先日提供されたCFA-41“Mave”への強化兵装案、その一つに飛行中に生じる風力で発電、蓄積された電力によって運用される空対空高エネルギーレーザー機関銃も加えられており対空レーザー兵器という部門から完全に撤退はしていないことが伺える。
「――本作戦では大別した航空兵力による敵司令部を含む拠点数ヶ所への同時強襲を目的とした制圧作戦となり、これによって敵戦力を分散、封じ込めつつ同時に敵司令部へ強襲し制圧する事となる。 少数精鋭で行われる敵司令部強襲と分隊ごとに指定した拠点を強襲する広範囲同時制圧作戦だ」
既に一定規模の大陸間弾道ミサイルが保管されているであろう軍事基地と航空戦力を有する陸上基地の位置は、リリィが束と共に行った高高度偵察によって判明しており強襲すべき拠点の割り出しは終了していた。 稼動状態を無視したとしても存在している事で脅威となることから、このような別働隊による同時強襲目標として含まれることとなったわけだ。 敵司令部だけを目的とした制圧戦において戦力を温存した陸上基地を何もせず放置するほど危険なものはなく、しかし時間をかけて通過するついでと破壊するにも武器弾薬の消費が好ましくない。 結果的に安全な作戦遂行には別働隊を編成し同時に無力化するのが得策なのだ。
「東シナ海、日本海、大韓民国内の在韓米軍基地――各進行ルート上に点在する基地拠点を破壊しつつ進行することは、この戦力でならば可能であるが難しくもある。 先に基地拠点機能を破壊すれば敵司令部は最悪逃亡する恐れがあり、逆に敵司令部だけを強襲しても統率が取れなくなった敵兵力の行動が完全に把握できない」
【挿絵表示】
ここまでは作戦概要に入るための参加兵員に対する確認――そう自身に言い聞かせながら軽く咳払いし口を開く。
「これらを同時に強襲し抑えるには敵司令部へ向け第五世代ジェット戦闘機――つまりはステルス性の高い機体で構成された精鋭を先行させ強襲時刻を合わせた敵司令部及び全基地拠点同時制圧、これが現状では安全性が最も高く安定した成功率が見込める。 なお表示したマーカ地点、これら全てが制圧対象となる施設であり当然、戦時下であることから今も稼働中だ。 では順を追って作戦内容を説明していく。 まず日本海で待機している第七艦隊と東シナ海で待機しているドイツ連邦軍所属艦から敵司令部強襲を目的としたステルス機が先行して発艦、遅れて鳥山空軍基地から敵陸上基地の無力化を目的とした部隊と先行して発艦した部隊同様、敵司令部強襲を目的とした部隊が発進。 各機、高高度を維持したまま敵陸上基地を担当する部隊が滑走路に対し攻撃を開始――成否を問わず、この攻撃を持って龍山基地で待機していた制圧部隊、及び制空機を動かす。 滑走路の破壊に成功すれば敵航空機による迎撃行動は大きく抑える事ができる。 敵航空戦力を削ることができれば作戦の成功率と各員の生存率は上昇するため、本作戦において滑走路の破壊は敵司令部制圧と同等の重要性を持つ――心してかかれ」
本作戦における龍山基地は所謂偽装工作という扱いとなるのだが全く戦力を配備していないわけではない。 制圧作戦時におけるヘリ部隊や陸上兵力と敵進行時に対する迎撃機等を運用するための戦力は配備されているため、全くの無力というわけでもなく、むしろ普通に戦力として数えることも可能であるのだがアジア圏同時二面作戦において龍山基地は偽装工作という面を強く出したほうが作戦遂行において利益ととなる。 それを隠れ蓑にし各在韓米軍基地の機能回復で監視体制が崩壊した鳥山空軍基地が前線基地として採用され作戦の第三段階において必要となる敵司令部を強襲する一角を担う。 数機のF-22“Raptor”を龍山に向かわせ待機させてはいるが、作戦に必要となるのは鳥山空軍基地等で空対地ミサイルを装備し始めているF-35“Lightning Ⅱ”――敵の目を引きつけるという意味では現状が最適な解とされる。
敵司令部を制圧するために強襲する第五世代ジェット戦闘機は制空優勢を確保するためにF-22“Raptor”が最適であるが、拠点や陸上基地を制圧し滑走路を破壊するのはF-35“Lightning Ⅱ”の役割とされた。 これはについて説明すると作戦に投入可能なF-22“Raptor”の機体数、それによって飛行試験過程を前倒しした結果の作戦遂行能力を確認する目的で投入されたF-35“Lightning Ⅱ”の機体数、これら機数が限られているという原因によって成り立っている。 現在、合衆国軍が配備する第五世代ジェット戦闘機の主流はF-22“Raptor”であるのだが、国外へ配備するには軍事機密の塊であることから輸出対象国外――つまりF-15の導入実績のある日本の航空自衛隊やイスラエル空軍以外への配備は作戦の都合上であっても賛同することは難しかったのだ。 その結果、運用できるF-22“Raptor”の機数はISAF空軍第118戦術航空隊“Mobius”を除くと少なく、対地目標への火器運用が可能とは言え実際に運用してしまうと航空支配戦闘機と呼ばれる程の航空戦力という役割を極力削いでしまうことになる。 そこで折衷案として提示されたのが飛行試験として納入を前倒しにした各型のF-35“Lightning Ⅱ”であった。
本来であれば半年先の納入予定として発表していたA型、まして初期作戦能力を――必要最低限の能力を獲得していない機体を運用することはできず、ソフトウェアも満足に搭載されていないのだから下手をすれば火器運用能力も有してはいないことになる。 しかしながら、ここで必要となるソフトウェアを更に絞り込むことで“CCCNO”社に短期間でのソフトウェア開発が委託されており、後の量産体制を見越して共同開発枠を広げつつも合衆国軍はF-35“Lightning Ⅱ”の開発予定を大幅に前倒しさせた。 これに伴い初飛行を既に終えたB型及びC型を従来の目的通りに運用するという強引な投入が行われることになるも、機体に対する被弾は避けるようにとの要請を受け運用目的は比較的援護が行いやすい敵拠点に対する施設破壊の一点のみとなりF-22“Raptor”が消去法でそれ以外を担当することになる。
投入された理由としてアジア圏同時二面作戦で試験的とは言え運用され成果、もしくは功績を得ることによりDefense Acquisition Board――国防調達委員会に対しての生産数向上を承認させ、また同時に日本政府に対して“白騎士”の情報開示を求めていると考えられた。 作戦に投入されるF-22“Raptor”より機数は少ないが、これを境に開発を推し進めるべきだという政治的な判断もあるのだろう。 もしくは完全な初期作戦能力を得ていないのであれば最悪、敵地で破壊されても完成していないBlack Boxから解析されるものは多くないとの判断があったのかもしれない。
「――本作戦は敵地上空を察知されることなく飛行し司令部を初めとした拠点を強襲、制圧するという危険を伴う任務となる。 この作戦は精密な操縦技術を必要とし、どの部隊も作戦指定時刻通りに動かなくてはならないが、代わりに作戦成功時における生存率は非常に高いとされる。 私は自身の指揮下にいる者へ死んでこいと言うほど愚か者ではなく、当然、僅かでも作戦行動において要らぬ損害が出るようであれば立案するつもりもない。 これは貴君らが無事に本作戦を完遂することが可能であると計算した上での提示だ。 この出撃を持ち本戦争を終結させる、以上だ」
アジア圏同時二面作戦の第三段階を最終とし敵司令部を制圧することは、それほど難しい作戦ではない――犠牲は出るだろうが敵司令部を制圧、もしくは殲滅するのであればドイツ連邦国防省連邦防衛軍の作戦参加は必要なかった。 合衆国軍内部で提出された戦略爆撃機による焦土案でも問題はなかっただろう。 だが焦土案という名の無差別に等しい行いを世間は、どのように見るだろう――それが核兵器を開戦の狼煙として扱い数万人にも及ぶ人名を殺戮した国家であろうと、それと同じように殺戮したという結果を世論は正しいものとして認めるのであろうか。 もし認められたとしても間違いなく後を引き、あの行為は過ちだったと後に言い出し始め国を混乱させる事態に落とし込むであろう。 相互確証破壊としての役割を今の核兵器は持っておらず、ただ一発で都市を壊滅させ万を越える人名を殺戮できる兵器でしかない――であれば焦土案という名の戦略爆撃機運用は核兵器の使用による報復と受け取っても間違いはないのだ。 戦略爆撃機による焦土作戦も相互確証破壊に則った報復も結局は同じ結果を生み出すだけの事でしかなく、特に合衆国軍が実行すればロシア連邦がその行為を口実に世界を二分する大戦を再び開くという可能性すら存在しうる。
いや、他にも理由はあるだろう――核弾頭を使用する際に確認することができる発射地点の割り出し、そこから推察することが可能な範囲に存在するミサイルサイロ及び配備されている弾頭の種類の特定。 国家が持つ軍事機密を第三国に明かしているようなもの。 そのような問題もあり、敵司令部の制圧は核弾頭も戦略爆撃機をも使用しない短時間内で遂行することが可能な作戦を確実なものとするためにドイツ連邦国防省連邦防衛軍の航空母艦“Vorpal”を作戦に参加させることを認めたのだ。 合衆国軍からしてみたら運用期間の短い航空母艦を旗艦とした遠征群よりも東太平洋を担当海域とする第三艦隊の支援を欲しただろう。 しかしながら太平洋艦隊の全戦力を一点に集中させるという事は、担当海域に偏りが生まれ下手をすれば敵の核兵器によって太平洋艦隊そのものが大きな損失として失われかねない。 であるならば自国以外の支援をと考えつくが、このような島国という他国と隣接されていないことで戦火が抑えられているという利点を持ちつつも、軍事的な展開に制限がかかる欠点を持つ国が行おうとする規模の大きな作戦へ参加するには相当な準備期間を必要とし、どの国も“白騎士事件”によって軍内部の見直しを行っているため動くことは非常に難しい。 大国であるからこそ合衆国軍は現状を維持できているのだが、他の国家は軍備を維持するには難しい期間でもある――当然だが戦争に加わる余裕はどこにもないのだ。 ただし“シンファクシ”級潜水空母に対し準備を進めていたドイツ連邦国防省連邦防衛軍は動くことができ、また国防に航空母艦を必要としない事から運用に問題は無く作戦に参加することができた。 結局は早期終結のために素早く動ける艦隊を消去法で消していった結果でしかない。
百合奈が“Tellus System”の信号を切り替え対象を絞る。
「――さて、作戦概要は説明した通りだが我が部隊はヘリ運用による弾道ミサイル基地の破壊が主な任務となる。 ノア中尉には敵司令部強襲任務を、ハルフォーフ大佐には敵基地破壊の任務についてもらう――何か質問はあるか?」
『俺は未だに不安だがな。 この兵力で行うには問題ないだろうが、この艦にある艦載機は確かに二機――それも両方とも試験機だぞ。 しかも両方とも試験段階のミサイルシステムを搭載している……本気なのか、スカーレット』
「言いたいことはわからなくもないのだがステルス性を持つ機体は、そのCFA-44だけだ。 それにF-15を持ってきているとは言え発艦が成功する保証は高くない――基本的に単機で敵ミサイル基地を破壊するという事になるが、対象が大きく動く事もなければ的も小さくもないんだ。 それにF-15が運用できた場合はヘリ部隊の護衛につかせなくてはならない」
『そうじゃない、クラウスの方だ。 テストパイロットとしてCFA-44の扱いは俺より上手いが単機で敵陣へ突入させて無事な保証がどこにある。 ここは二機編隊による敵司令部制圧と制空確保が……』
「かと言ってヘリ部隊に敵航空戦力を向けられたら壊滅するぞ。 F-15の投入も可能であるならば、というだけの話しで実際はヘリ部隊のみでの破壊作戦だ。 “白騎士事件”において“Vorpal”から全機が発艦し作戦行動に移れたという報告は受けてはいるが、それでも艦載機ではない機体を打ち出せるように前脚やカタパルトを弄ったとは言え完全ではない」
ドイツ連邦国防省連邦防衛軍の“Scarlet Eye”として航空母艦“Vorpal”に乗艦し作戦に参加する者――特に現“ Schwarzer”隊として動いている“Flabellum”隊の面々に言葉を投げかけた。 先ほどの作戦説明はアジア圏同時二面作戦に参加する全ての部隊員に対してだが、“Tellus System”の信号を切り替えた今では航空母艦“Vorpal”にしか声は届かない。
第三作戦における本作戦の最終目的、敵司令部の制圧であるが説明通り三ヶ所からの強襲によるものとなる。 これは防衛戦力を分散させる事を目的としており、第五世代ジェット戦闘機が有するステルス性を破られたとき集中するであろう戦力を一機が引きつけ、その隙間を縫うように別方向から強襲を行う二機が敵司令部を叩き制圧する保険でもあった。 この作戦方針は敵陸上基地に対しても同様に行われており、先行して滑走路を破壊した機体に対し無事な陸上基地から上がった敵航空機が接近した場合、第二陣として準備していた機体が後方から接近し目標とされた機体と連携することで挟撃、破壊する。 つまるところ作戦行動において必ず支援が行えるよう各機体毎に役割が割り振られているワケだ。 敵司令部に対して先行する機体は其々が引きつけ役としての囮と本来の目的である強襲を行う役割を持ち、陸上基地また弾道ミサイルが準備されている基地に対し強襲を行う機体が不測の事態に対し囮としての役割を担い、第二陣が先行した機体の支援もしくは敵陸上基地の機能を完全に奪うために動く。
「何も私は市民のために死ねと言っているわけじゃない。 配備されている現状の機では、このような作戦に対し非常に厳しい選択を取らねばならない――故に私は、これが作戦の成功率も各員の生存率も安定しているため選んだ」
『俺としてはヘリ部隊の方が心配だから大佐には、そちらに付いて貰いたいんですけど』
「確かに誰もが死ぬ確率を平等に持ち、その中でもノア中尉は誰よりも高いが無理して敵陣を突破する必要もない――ならば他の危険性を先に潰す方に戦力を回すのは妥当だろう。 そのために三方向からの同時強襲を作戦として立案したのだ。 どの機体が発見され離脱しても問題ないよう状況に応じて作戦行動の変更も視野に入っている」
高硬度偵察によって敵陸上基地に配備されている航空戦力をCFA-41“Mave”により確認しているため、偵察行動に対応し大きな人員替えをしていなければ第三作戦において不測の事態は起こりえない。 また高高度からの航空管制指揮を行いつつも敵司令部周辺の情報を収集することから、その動きを確認することは難しくはなく、ある程度の敵航空戦力を誘導することも可能であろう。 ドイツ連邦国防省連邦防衛軍からはクラウスのCFA-44が、鳥山空軍基地からは“Mobius 1”のF-22“Raptor”が、日本海に待機している第七艦隊からは試験中のF-35C“Lightning Ⅱ”が一斉に敵司令部に向け強襲をかけることになっている。 艦載機としての第五世代ジェット戦闘機開発が進んでいれば本作戦は更に安全性があり確実な内容となっていただろう――だが残念なことに合衆国軍でもF-35C“Lightning Ⅱ”は、つい半年前に初飛行を終えたばかりで運用体制もまだ遠く、同様に純国産として試験段階のCFA-44も完成品とは言い難い程に実戦向きではない。 それでも投入すべきと踏み切ったのは、互いの殺し合いを避け敵の継続戦闘能力を一方的に奪うためだ。
「地対空迎撃システムの効果範囲が広がったとは言え迎撃できなければ意味はない。 我々には、どのミサイルが核弾頭搭載型なのか見分けるすべがないのだから打ち上げられる前に破壊しなくてはならない。 そして敵に気がつかれることなく破壊するためには……わかるだろう?」
『いや、了解した』
「他に質問が無いようなら解散となるが」
『――スカーレット、一つだけ私用みたいな事だがいいだろうか?』
珍しいと思いつつも一体何なのだろうかと眉をしかめる。 自身の表情は映像として航空母艦“Vorpal”に送られているが、その逆はない――そのため一体、どのような表情をしているのか判断することは不可能なのだ。 私的な用件というからにはブリーフィング時において口に出すのは流石に場違いということで、イージスも妙な表所をしているのだろうか。
『――少佐』
随分長いあいだ聞かなかった気がするラウラの声に懐かしさを覚える。 最後に顔を見たのは“シンファクシ”級潜水空母奪還作戦のため行われたブリーフィング後だっただろうか――日が登らないうちに作戦任務に就き日本へ向かう予定を立てていたため、そのままハルフォーフ家で数日間預かってもらうよう頼んでいた訳だが、まさか戦争に巻き込まれることになるとは当時の自分では思いもしなかっただろう。 あの日から既に一ヶ月過ぎたということに驚きを隠せない。
「久しぶりだな、ボーデヴィッヒ少尉――残念だか私の方ではソチラの様子を伺うことができないため声だけで判断するしかない訳だが、元気そうでなによりだ。 予定の日数を大幅に越してしまったことについては謝罪しよう」
『いえ、任務であるということは聞いていますので。 それで、その、お義母さまはどうしてますでしょう、か……?』
「……束は」
答えるべきであろうか、自身のせいで精神的な負荷がかかり壊れてしまったということを――言うべきなのであろうか、ラウラが見ていない間に変わってしまったということを。 いずれ束の状況を知るのであれば正直に答えても問題はないのであろう。 しかしアジア圏同時二面作戦の完遂によって戦争が終結するという大事な時に、航空管制指揮機の搭乗者が不調どころか精神に異常をきたしているとは言えない。 家族であるのならば言うべきなのかもしれない、だが軍人としては余計な混乱を生み出さないよう言わないほうが得策である。
「コチラも忙しくてこの場にはいないが大丈夫だ――元気、というか私が参るぐらいに健康だな。 そうだな、あと少しで束の誕生日だ。 この戦争が終わったら少し遠くに誕生日祝いも兼ねて遊びに出かけようじゃないか」
『了解しました』
「――他に何もないか? ないなら作戦開始時刻まで機体の確認をしておけ」
嘘は付いていないはずだ、そう自身に言い訳を聞かせながら“Tellus System”の回線を閉ざす。 確かに束は精神的な異常を見せているが身体自体は健康体であり、行動に不可解な点が見受けられるが私に対して参るぐらいの行動を見せている――何も間違いはないはずだ。 事実だけを伝えた、そのはずで原子力空母“Principality”へ共に降り立ったクラウス達も束の異常に気が付くことなく航空母艦“Vorpal”へ移動させた。 束の状態を知る者はドイツ連邦国防省連邦防衛軍において自身を除いて誰もいない――だからラウラや作戦に参加する部隊員へ伝わるはずがない。 現状では正しい選択であるというのに何故か焦りを感じ、また自分は同じ部隊の者達を騙さなくてはならないのだろうかと思うと妙な違和感が何かを刺激していく。
そもそも束は第三作戦においてCFA-41“Mave”を飛ばすことが出来る正常な判断が行わるのだろうか。 いや、正常な判断という点では間違いなく束は正しい――唯一違うのは今まで全体を見ていた視線が篠ノ之束という個人の周辺にまで狭まったというだけで、行動に対する判断能力は何一つ変わってない。 ならば航空管制指揮機としての役割だけならば十分にCFA-41“Mave”を操縦することは可能であり、それ以外の判断はいつも通りに自身が行えばよいのだ。
「どうやら向こうで平和な暮らしをしているようだね。 家を買ったと聞いたときは心配したけど、今の話しを聞く限りじゃ杞憂だったようだ――それよりも篠ノ之博士を母と呼ぶ子は一体何かな?」
「――“遺伝子強化試験体”実験という名を知らないとは言わせないぞ」
百合奈がラウラを気にかけた事で、ここぞとばかりに口を開き問い詰めた。 “CCCNO”社という巨大複合企業が“遺伝子強化試験体”実験に参加しているのは情報が少なく確証は持てないが、CLot Numberのラウラは“CCCNO”社製の人工子宮から生み出されたと言う。 この情報に、どれほどの信憑性があるかは現段階では何も言えないが、それでも可能性として存在している――それだけで疑うには十分な材料だった。 それに“CCCNO”社の名をドイツの地で全く聞けないと言うわけでもない。 “Marks Horst”社を傘下企業として抱え込んでいる時点で、ドイツという地に関与するには十分な手を持っているのだ。
表情を変えることなく、口も開くことなく、ただ百合奈は自身の目を見る。 今まで自信を通し、その後ろに存在している何かを見続けていた百合奈が初めて自身を認識したようにも思えた。
「ああ、だから計画同士の内容を照らし合わせて、ああなったのか……なるほど。 “遺伝子強化試験体”実験だったね、確かに、あの計画へ“CCCNO”社は参加したし人工子宮の開発も行った」
「貴様っ……!」
「確かに軍事的な方面で見れば身体能力を調整した非常に高い兵士が生まれるだろう、飲み込みも早いのだから専門的に鍛えれば一般から募集しなくても計画が続く限り軍隊を安定させることができる。 そのことについては我々も予想していたし、当時からドイツ軍に所属する兵員の数が減少していたのだから当然の結果だとは思う」
「そのことを理解して参加したのか!? 何の罪もない命を生体兵器として生み出すことを良しと、舵を取ることなく放置して自らは高みの見物か! わかっているのか、“遺伝子強化試験体”という存在はTerrorismにも有用な手段にもなるんだぞ!!」
「現に人工子宮の技術情報は不正に侵入した何者かに盗み出されたようだけどね。 ただ“CCCNO”社としては生体兵器としての役割を持たせるために参加したつもりは無いし、それを利用して戦争を裏から操ろうという意思もない。 純粋……とは言い難いけど医療目的での研究が参加の主目的なんだよ」
「だとしてもだ! それでもC-0037を含む“遺伝子強化試験体”は軍に押し込められ技術を覚えさせられている。 血を流す事を何も知らない子供に押し付け政治の道具に利用し、安全な場所で私腹を肥やす癌細胞共に餌を撒いただけではないか!!」
ふと自分らしくもない怒りを口に出してることに気がづき、咳払いしつつ上がった熱を押さえ込む。
「珍しいね、昔は感情を表に出すこともなかったのに」
「――魔が差したんだろう、忘れてくれ。 作戦前に言うつもりも無ければ、確証を得るまでは糾弾するつもりもなかったことだ」
「いや、私としては息子の成長に嬉しい限りだよ。 誰かの為に声を上げることができる――それは篠ノ之博士を匿ってる時点で理解できたことだったね。 確かに、この行為はUNCRCに抵触する。 百合の発言も最もさ……」
Convention on the Rights of the Child――“児童の権利に関する条約”を短くしCRC、もしくはUNCRCというのだが、これは十八歳未満の者の権利について定める国際条約であり、この第三十八条には十五歳未満の児童を軍隊へ採用することを禁止するものがある。 つまり生まれてから五年経過した程度のラウラが軍属になるという状況は、この条約に離反している行為となるわけだ。 ただ、この条約は1989年に採択されたのだが11年後の2000年に自国の軍隊に志願する者について十八歳未満の者を採用することが認められるOptional Protocol on the Involvement of Children in Armed Conflict――“武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約選択議定書”が採択されていた。 この第三条において『締約国は、“児童の権利に関する条約”第三十八条に定める原則を考慮し及び同条約に基づき十八歳未満の者は特別な保護を受ける権利を有することを認識して、自国の軍隊に志願する者の採用についての最低年齢を同条3に定める年齢より年単位で引き上げる』とされ、現状の軍の所有物扱いであるラウラの法定保護者の権利は自身には無く、法定保護者の同意が得られている状態にある。
つまり、この条約が存在している事から志願扱いとしての採用を認められ、“遺伝子強化試験体”の軍属が認められていることとなるわけだ。 正直に言えば、人間の複製個体や体外受精において誕生した者を軍隊に所属させ問題となった事例がなく、ラウラの置かれた立場が、一体どの条約や法に抵触するのか曖昧な状態でしかない。 当初“CCCNO”社を動かし“遺伝子強化試験体”実験を止めようとした理由は、そこにある。 個人ではなく巨大な複合企業体として世間に広めた方が問題になりやすく対応が早いからだ。
「それでも条約としては認められてるし、国連安全保障理事会の決議でも呼びかけだけで禁止を命じたわけじゃない。 それに遺伝子を調整する技術は確立されていないし、それを知る者も限られるという意味は百合も理解してるよね」
「軍隊への供給を隠し医学的な研究過程として実験自体を世間に認めさせる可能性があるとでもいう気か。 都合の良いように話しを拵えて」
「あくまで可能性の話しだよ。 それに人間っていうのは軍事面と医療面、この両方が同じ規模で存在していた場合、何故か自分に都合に良い情報を選びたがるわけで――平和に浸かりきった人々にとって、この技術は少しばかり良い話として捉えられやすいのかも」
「だが今、そのバランスは軍事面に大きく傾いている。 いくら医学的な応用が可能とは言え、その実例は“遺伝子強化試験体”のみで言い逃れはできない」
「――もしも、その子達が実験過程における何かしらの感染症例等が出た場合、実験情報の有無は非常に重要になる。 経過観察途中の情報を取ることもせず実験の結果を出すことなく凍結した場合、今いる被検体の子達の安全が保証されない場合もある事は予想つくでしょ」
そのことに関しては薄々ではあるが予想が付いていた。
「事なかれ主義って、罵ってくれてもいいんだよ」
「いや、言いたいことは理解できるし事実だ――これ以上、私が言える事はない」
「物分りが良すぎるっていうのも問題だね。 まぁ、こちら側から抗議することには問題ないし百合のために少しばかり動いてみようかな。 その代わりCFA-41のライセンスちょーだい」
「いい加減にしないとぶん殴るぞ、おい」
まさか“遺伝子強化試験体”実験に関して流されたと思いきや、CFA-41“Mave”の開発許可証を寄越せとは、果たして本気で言っているのか冗談なのか今の自分には理解できない。 本当に自由な生き方をしていると思う反面、もう会話するのさえめんどくさいと、今の一瞬で気力が奪われたと感じ小さく溜息をつきながら静かにブリーフィングルームから退出した。
「――以上が本作戦の概要だ。 我々の責任は重大だが行うことは変わらない、高高度からの管制指揮機として情報収集及び伝達を行う」
「ねぇねぇ、リリィちゃん……この縄解いてよー」
先ほどの作戦内容を再び自室に戻り束に説明しなおすのは二度手間であり、共有認識を持たせるという意味で行った“Tellus System”を用いるブリーフィングを否定するような行動ではあるのだが、束をブリーフィングルームに入れると余計な行動を起こし作戦前に混乱を生み出しそうだったため、このような状況になったわけだ。 また最近の束は水槽脳仮説として現実を見ている節があるせいか、行動に対する制限が取り払われたかのように肉体的な接触を好んでいる。 そのため身体を拘束していないと無駄に触ってきたり、抱きしめてきたりと戦時下において非常に鬱陶しく感じ、その度に注意してきたのだが全く聞いていないのか今回も同様に触れてきたため仕方なしに部分的ではあるが“フリーダム”を展開し押さえつけ、束を椅子に縛り付けるという強硬策を採用し、今もなお手錠で椅子と繋がれ縄で動きを制限されていた。
「ちゃんと聞いていたのか」
「聞いてはいたよ。 けど、正直なところどうでもよくない? さっさと核を撃ち込んでハイ終わりとかじゃダメなの?」
「あー、頭が痛い……もう少し真面目に考えてくれ。 場合によっては箒にまで被害が広がる可能性もある」
どうしてこうなってしまったのだろう等と考えるのは今回で何度目か――自分自身に責任があるとは言え流石に疲れるものがある。 一見“白騎士事件”以前の束に見えなくもないのだが、その倫理観は崩壊しており束自身を中心とした視野でしか物事を見ておらず、今のように興味の無い対象へは呆れるほど早く、そして大きく間違った発言をするようになってしまった。 このおかげでラウラに対し『私が参るぐらいに健康』であると返したわけだが、もう少し落ち着いてもらいたくもある。 この身を差し出して落ち着かせるという手段も考えなかったことは無いが流石に航空管制指揮官として、また戦術偵察の任務を請け負った軍人として仕事が山のようにあり、そんなことに身を裂く暇はなかった。
だが、そんな束でも優先順位が高い事例と絡めることにより、自身が知る篠ノ之束という存在に一時的ではあるが戻るらしく――その中で特に妹の名を出したときに見せる反応は劇的だ。 水槽脳仮説の中と思い込んでいても血を分けた妹は大切ということか、それとも他に別の理由でもあるのだろうか。 いや、あったとしても口に出すことはないであろう。
「私はいつだって真面目だし本気だよ~」
「余計にタチが悪い。 いくら世界全てが偽物の可能性があると思っていても、その思考は問題を壊せば無くなるという極めて危険なものだ。 有か無か、という判断で行うのであれば問題を削除するという行為は選択において正しいものだろうが、残念なことに現実は、そう簡単に解決させてくれやしない。 別に今認識している、この世界が仮想現実であるという確証があり、発生した現象を切り取ったり、失敗したからと保存した情報を読み込むことが可能であるというのであれば、束の思考ロジックを直接、この世界に記入することで計算を組み立てるのも一つの手だろう。 そういう手法を私は否定する気はない。 しかし暴力等で解決することは個人で解決できる範囲まで――残念だが、これは個人が判断することのできる範囲から大きく逸脱している」
「じゃぁ、誰が判断するの~? あ、リリィちゃん? うん、リリィちゃんが言うなら脱げって言われれば脱ぐし、全裸で散歩しろって言われればするし、そのままオナニーだってマーキングだってヤれって言われるなら間違いなくやるね――うん」
「――今説明した作戦内容の復唱」
「……高高度から戦闘空域内の監視及び管制指揮のため飛行を行いー、私達から戦闘行動に参加することはなし。 というか私に、ここまで言わせておいて無反応とか酷くない?」
「何故、客観的に見て私がハラスメント行為をしてるかの構図が逆セクハラされてるっていう状況になるんだ。 こっちの方が遥かに意味不明な状況に陥れられてるんだが」
「えー、そう? アソコの毛を綺麗さっぱり全部剃ってツルツルにさせてみたいとか、公開羞恥プレイで辱めてみたいとかしたくないの? それともワンちゃんプレイとかの方が好きだったりする? 四つん這いになって鳴いたり、肉オナホみたいに扱ったりしてくれても別にいいんだよ?」
客観的に見れば明らかに、そういう特殊なプレイにしか見えないのが現状であるというのに、誰が縄で縛られ椅子に座らされている女性が対面する自身にセクハラを行っていると考えつくであろうか。 誰であろうが目に映る光景のまま関係を認識するのが普通であり、その対象に自身が当てはまる等と考えたこともないであろう。 いや、ある意味では男の夢なのかもしれない。 だが残念なことに男性であろうが対象は自身という軍属――言葉だけで誘惑されるほど弱い意思では生きて行くことが困難な役職であり、残念なことに今までの発言を無心で聞くことができてしまう時点で束の発言によって自身の起こす行動に性的な行為が加わることは無かった。 耳にするたびに気力だけが奪われていきそうではあるが。
自分を取り巻く現実を受け入れられなくなった人間が、どこに行き着くかなど聞く必要もないだろう――これまで何度も束は、その姿を自身に見せ続けていた。 現実逃避することで自身の殻に篭もり、手の届く範囲に存在するモノに向け必死に手を伸ばし続けていたのだ。 私の見える世界を否定して欲しいと、私を肯定して欲しいと、そうやって自分を構成するモノだけで世界を完結させようとしている。 本来、その範囲にいたであろう千冬や箒を初めとする者達は、今の範囲にはおらず、その手が自身だけに向けられているのは理解しているつもりだ。
「――私は、束に謝らなくてはいけないんだろうな。 どんな事があろうが篠ノ之束という人間を生きた空間から連れ出さなければ、このように苦しますことも、悩ますこともなかったのだろう。 軍属になることもなかったハズだ」
「え、何言ってんの?」
「精神的に追い詰められてしまう状況に身を置かせたのは私の判断ミスであることは明確なんだ――篠ノ之百合としての判断ではなくスカーレット・リリィとしての判断が、束……お前を追い詰めた。 それを謝りたい」
一体何を言っているのだろうかと不思議そうな表情をし束は呆然と目の前にいる私を見つめ続ける。
「“白騎士”を戦争の道具として扱う可能性も、その技術を流用し多くの人間を害する兵器に転用する可能性も全ては私が危惧しただけの計算結果でしかない。 そんな起きもしていない事象に他人の人生を大きく左右させ、そこまで追い詰めたのは私という人間だ――その責任は取る。 現実と向き合いたくないのであれば逃げても構わない、逃げ続けても構わない――その分は私が見て対応しよう。 人目を避け生涯を終えたいというのであれば、それを私は否定しない。 “CCCNO”社を利用してでも叶えよう。 この世界が偽物であると思い続けたいのであれば、それも構わない――事実、それを証明することは誰にも不可能であるからこそ否定するつもりもない。 だがな、今を生きようとせず逃げ続けて同じ時間を繰り返しても悲劇しか残らないぞ。 また逃げればいい、またやり直せばいい、また繰り返せばいいと自分に言い聞かせていくうちに精神が摩耗して届いたかもしれない現実を否定しまう。 それだけは避けなければならない。 別に今、束の前にいる私を都合の良い情報だけの存在だと思ってくれてもいい。 だが、この任務は“白騎士”を生み出し世界の均衡を乱した私達が果たすべき役割――責務でしかない」
「リリィちゃん……」
「目的なら私がくれてやる――成ってやる。 だから今必要とされている、その技術を私に貸して欲しい」