世界とISと名もなき者へ Re:   作:葵 束

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036 9,Feb,2011/Obscurity

 計算上ではCFA-41“Mave(メイヴ)”の限界硬度は81,364ft――つまるところ24,800mまで上昇することができるのだが、残念なことに現代の技術において飛行できたとしても、その高度を飛び必要は全くもって存在しない。 昔であれば手を出すことが出来ない空域として有効であったのだろうが80,000ftならば現在配備されている地対空ミサイルで優に撃墜することができる。 ミサイルの射程外となる高度で飛行すれば撃墜されることはないという手は進歩し続けた技術の前には無意味であり前時代的な思考でしかない。 既に軍用機が飛行可能な空域は地上からの射程内に収められているのだ――同じ高度まで上り迎撃するという行動は時代遅れと言っても良いだろう。 しかしながら現在CFA-41“Mave(メイヴ)”が飛行する高度は50,000ftを超え青い空が宇宙に溶け込み始めた境目を徐々に高度を上げながら飛行している。 リリィの状態を逐次、雪風に確認させながら上昇し続ける機体を制御し現在の高度を維持し作戦内容通りの飛行経路を移動していた。

 従来の戦闘機とは違い“Passive Inertial Canceler(パッシブ イナーシャル キャンセラー)”の応用によりカプセル状のコクピット内部へ高い与圧がかけられ、リリィは酸素マスクを外したまま高高度を飛行する。 機体下部に備えられた各種カメラで制圧目標となる拠点を監視し、自身は小さく呼吸を繰り返しながら神経を研ぎ澄ませ何かしらの迎撃を警戒し続けた。 互いに一言も喋ることなく作戦開始時刻までの僅かな合間、宇宙に近い空を力なく飛ぶ。 予定された時刻まで、残り数分。 CFA-41“Mave(メイヴ)”より少しばかり低い高度で敵陸上基地の無力化を目的とした機体が予定進路についており、各種カメラから確認できる現状では発見された形跡は見受けられないらしい。 それならば作戦の大半は既に完遂したと言っても良い状態なのであろう。

 

「――時間だ、無線封鎖を解除。 攻撃を開始せよ」

 

 リリィの言葉と共に目標となる拠点から爆発の光が発生していく。 流石に肉眼では確認できない距離を機体下部に搭載されたセンサーとカメラ類が正確に捉え雪風が補正しリリィの元へ秒の狂いもなく届けられ、やがて全ての滑走路に攻撃が与えられ機能を停止した報告が届いた。 滑走路の破壊された今、敵性航空勢力の心配はないといっても良い。 今頃、滑走路を使用せずに上がることが可能な機体を探し出しているだろうが、残念なことにソレを見逃すようなパイロットはいない。 今頃地対空ミサイルで上がるまでの間を必死に露払いをしているのかもしれないが、損害が出たという報告は受け取っていないのかリリィの吐く当然だという吐息が自身に現状を知らせていた。

 篠ノ之束(ワタシ)という存在がリリィのためにCFA-41“Mave(メイヴ)”を操縦するパイロットに選ばれてから余り時間は経過していないが、それでもパイロットという人間が取るであろう行動は理解できたと思っている。 “白騎士事件(あのとき)”に感じた恐怖を放つ対象へ自身も成ってしまったのは想像もしてはいなかったが。 気がついたら元いた場所から遠くへ来たものだと、この半年を簡単に思い返す。 周囲を警戒しつつも何もない現状は流石に退屈だと少しばかり思い、手元のパネルを操作しリリィが見ている映像と同じものを出力する。 そのことにリリィは何も言わない。

 

「各部隊の作戦進行度は予定通り――ノア中尉の方は既に目標を破壊し離脱しているな」

「なんか拍子抜けしちゃうね。 こんなのが核爆発を引き起こしただなんて」

「そうだな、だが未だに何を使用したのかすら判明していない。 B83のようなモノを撃ち込まれた訳でもなければ運び込まれたことすら不明なんだ。 それこそ“Radio Active Detonator(レディオアクティブ・デトネイター)”を使用されたと言われても可能性が有る為に主張は通る。 確かにこの状況は正しく拍子抜けという言葉が相応しいんだろうな」

「ま、リリィちゃん的には予想通りがいいんだよね」

 

 こうなることを予測していたからこそ実行された作戦であり、その枠に収まっているのであれば、それは間違いなく作戦通りということになるのではないだろうか。 なんにせよ退屈な時間になりそうだと思いながら地表の状況を確認し、面白みもないと展開したモニターを消す。 複数の拠点に対する同時強襲により敵航空戦力を封じ込めた今、地上で行われているのは一方的な制圧であり言い換えれば、ただの蹂躙だ。 それでいて、その行動は敵司令部への強襲に対し迎撃、もしくは追撃を行う機体を飛ばさせないことにある時点で、目標となった拠点に対し特に制圧するという意味はない。 ただ不測の事態を起こさせないためにも制圧していたほうが都合が良いというだけだ。

 小型手榴弾サイズの小型戦術核爆弾“Radio Active Detonator(レディオアクティブ・デトネイター)”が、もしも朝鮮人民軍の手に渡っていたとなると小型故に、どのような状態であろうが再び日本の本土で核爆発を起こすことは容易い。 まだB61やB83と言った航空機による運用が可能な大きさを持つモノであれば容易に抑えることはできただろうが、残念なことに服の中に入れて持ち運べる小ささである――発見には困難を極めるであろう。 もし本当に存在するならば、の話にはなるが。 自身にとって現存するモノの小型化は不可能ではないと知っているし、小型化(ソレ)を自ら行い可能だと理解もしている為、戦術核の小型化が存在することは当然だと思っている。 ただシステムを統一化し不要な部品を削るという結果であり、話しに聞く“Radio Active Detonator(レディオアクティブ・デトネイター)”のような小型化は流石に理解が追いつかない。 どのような構造の結果、小型手榴弾サイズまでスケールダウンさせることに成功させたのか、そこが理解できない限り自身の中では“Radio Active Detonator(レディオアクティブ・デトネイター)”という存在が魔法のような眉唾物の法螺話(ほらばなし)としか感じ取れなかった。

 

「――レーダーに反応、何だコイツは? 早い。 数は一、敵司令部施設に向け急速接近中」

 

 警告音が鳴る前にリリィが息を呑み何かしらの操作を行い何かを捉え即座に進路上の部隊へと告げる――恐らく目標は敵指定部なのであろう。 しかし何故という疑念しか生まれない。 進路を見るに敵司令部より北東から――厳密に言えばロシア連邦領土内から飛翔した物体である。

 

「対象を捉えたが、これは“Morgan(モルガン)”か? 開発中だと聞いていたのだが――しかし何故このタイミングで。 それに情報解析では、ここまでの速度は出せなかったはずだ」

「それよりリリィちゃん達、前に“Morgan(ソレ)”って新型弾頭に合わせて開発されたとか言ってたよね? “Radio Active Detonator(レディオアクティブ・デトネイター)”でも装備されてるわけじゃ……」

「雪風が認識した限りでは、その心配は無さそうだが――流石に行動原因も不明となると危機感も覚えるか。 そもそも兵装を積んでいるのか、これは?」

「私に聞かれても開発者じゃないし分からないって……」

 

 未確認人型兵器の出現かと思ったがモニターを見た限りでは航空機のようだ。 しかし開発途中の機体なのか淡い空色を下地に可動部周辺を黄色く塗り分け、まるで足を伸ばしたかのようにエンジンを突き出した歪な姿を見せ真っ直ぐ飛ぶ。 無駄な機動を含めないからこそ落ちることのない速度は、まるでミサイルのようでもあり、その機体が持つ本来の性能が高く感じられ不安になる。 おそらくCFA-41“Mave(メイヴ)”より性能は高くはないであろうが、それでも操縦しているパイロットの経験によっては、どのような機体であろうとも油断することができない兵器と変化してしまう。 何より一撃で命を刈り取ることを可能とした武器を持つ時点で、当たれば終わりなのだ――どのような兵器であれ常に驚異は武器(ソコ)へ集まる。

 目を凝らしモニターに映る機体を注視し感覚を研ぎ澄ます。 流石に都合よく何かを感じることはないが、反対に驚異という感情も沸き上がらない。 確かに戦闘機の形をしている――“白騎士事件”の時に恐怖した対象なのは間違い無いのだが、自身の感覚が慣れてしまったのか何も感じることができなかった。 敵を落とそうという殺気というものが感じ取れないとでも言えばいいのだろうか、何かしら敵対する意思を“Morgan(ソレ)”は見せない。 さも自分は全く無関係であるかのように、ただ飛んでいるようにしか見えないのだ。

 

「――リリィちゃん、“Morgan(アレ)”どう見る?」

 

 これ以上の判断は自身には不可能だとリリィに指示を仰ぐ。 単機による侵入、かつ経路から見て目的は我々と同様の敵司令部の破壊――しかし何故、今更になって同じ行動を起こす必要がある。 この作戦において敵の継続戦闘能力は奪われ司令部の破壊が不可能であっても再度、強襲を仕掛ければ問題なく機能は停止するのだ。 “Morgan(モルガン)”の行動が我々と同じ任務(モノ)であるならば無駄であり、互いを刺激するだけにしかならない。 そんな浅はかな行動に出るとは思えないとすれば弾き出すことができる可能性は限られる。

 

「何とも言えないな。 だが、もし敵司令部施設に我々の知らない……それこそ他国の軍事機密が置かれてるのであれば――私なら間違いなく処理するため消しに動くな。 その痕跡を跡形もなくすために」

「どうする? これ以上の戦力はどこにもないよね、動く?」

「我々が動くのは最悪な状態のみだ――作戦行動中の全機に告げる。 所属不明の航空機が作戦空域に侵入した。 方位0-2-0、ロシア連邦領土内から真っ直ぐ目標となる司令部施設に向かって飛行中。 これより航空無線による警告を行う。 任務が終了した機は不明機に向け警戒飛行しつつ退去、“Omega(オメガ)”隊は現作戦を更新し不明機の着陸を試み、指示に従うまで警告を行え。 何をするかわからない、警戒を厳に」

 

 やはり同じ結論に辿り付いたらしく急ぎ国際緊急周波数を弄ると英語で合衆国軍と名乗った後、作戦行動中であることを伝え離脱を促し、今度はロシア語で同じように通告――しかしながら飛行経路は依然として変わらず、敵司令部へと飛び続けていた。 この場合、無線機の不調とも考えられるが、あの高度からでも恐らくではあるが拠点から上る煙は確認できているであろう。 だが進路を変えることはないということは作戦行動中であることを理解した上で飛行しているということになり、無線機の不調は考えられない。 こちらに益があるとは思えない状態だと思うとリリィも溜息をつきながら警告を発する口を止める。

 これ以上動かせる戦力は、どこにもない――指定した施設等を破壊し任務を終えたとしても、相手は飛行する航空機である。 満足に補給が行えていない機体を当てるわけにはいかないだろう。 敵司令部の制空権は確保したが、あくまで制圧するのは生身の人間である――当然、ただ殺せば終わりというわけにもいかず時間をかけて無力化していくわけだが、それまでの間、あの“Morgan(モルガン)”が大人しくしているとは考えにくい。

 

「……人が乗ってるとは考えにくい速度だよねぇ、あれ」

「無人機である可能性を疑ってる、と? 確かに考えられないことではないが雪風は外部コントロールではないと判断している時点で遠隔操作の線は薄いな。 退去すれば良し、しなければ落とすだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に宜しいんですか、こんなことに大事な機体を使うことになって? それに理論上可能とは言え、このように貴方様を運んだことが知れたら最高役員が良しとしても我々、現場の者が……』

「構わん――そもそも、こういう時のために用意したシステムだ」

 

 頭上から足先に向け微かな振動を感じながらエストは密閉された空間の中で情報を整理し――この輸送システムは一般向けに扱える代物ではないなと評価していた。 戦闘空域外から高速で移動し機体を戦闘状況下においた場合、使用者への負担と機体が消費する二次電池(バッテリー)への負担が大きく、また滞空可能時間を高出力スラスターの出力強化によって大きく向上させたが故に長時間の使用における破損の確率が高く、それらの問題を減らすため開発された輸送システムであるのだが、これでは機体が万全でも使用者への負担が大きすぎる。 そもそも“CCCNO(シースリーエヌオー)”社が第五世代ジェット戦闘機の開発過程において作り上げた試験機を流用しているのだ。 この微かな振動は仕方がないものであろう――そう、我々にとっては微かな振動でしかない。 人間にとっては耐Gスーツを着込み機体を大きく動かさなければ、なんとか耐えられるだけであって、エストのような“災厄”には振動が無いようなものなのだ。 身体構造が人間を基礎(ベース)にしている者が多い中で、百合奈やエストは特別といっても良い――それでも全ての“災厄”が、この程度の振動は耐えられるのだが、人間のままでは耐え切れないであろうと評価するしかない。

 第五世代ジェット戦闘機にはウエポンベイの内部に搭載した弾薬を収納しステルス性を高める方式を採用しているのだが、この輸送システムは弾薬の代わりに機体を運用する搭乗者を入れ、作戦空域上空にてウエポンベイを解放し落下中に機体を展開させるシステムとなっている。 まるで人間を投下型爆弾のように扱うため開発部署には頭のネジが何本か外れたような人間しか残っていないが、おそらく合理性を追求した結果がこの振動であるのだから本当にネジが足りないと述べるしかない。 しかし、これでも振動は当初計測した数値の四割近くが遮断されている――それでも人間が耐えられない振動が発生するのは機体の表面に無駄な部分が残っており、飛行中ソレが影響を及ぼし振動を生み出しているのであろう。 そうでなければ採用しているエンジンの出力が高すぎて機体が悲鳴という名の振動を上げているかだ。

 

『――予定地点まで残り20、出力を下げ機体の投下体制を取ります』

「いらん、このまま落とせ」

『そんなことしたら事故になります! ただでさえ我々の首が怪しいというのにこれ以上の問題行為を行ったら首どころの話では……んんっ! 申し訳ありませんが本機は安全上の都合によりエンジンの出力を下げGAT-X105の投下体制に移ります。 現在高度5500ft、機体安定域まで700、投下までカウント360」

 

 現状のまま機体を大きく動かした場合、空中分解する恐れが有るため投下位置を確認しながら減速する必要がある。 ただしエアブレーキ等を使い急激な減速を行うと機体自体に多大な負荷をかけてしまい機体の破損へ繋がりかねない。 そのためエンジンの出力を必要最低限までに引き下げ機体が安定した所で上昇し更に減速をかけ、投下位置まで滑空し射出――そうすることによって万全の態勢で効率的に拠点強襲を行うことが可能となる。 “Infinite Stratos(インフィニット・ストラトス)”――“白騎士”の後継機専用小型輸送システム。 まだ名も付けられるどころか考えられてすらいない機体を運搬するために開発されたステルス機は、百合奈が過去に纏め上げた情報(データ)を元に開発が進められていた。 この非人道的と思われかねない輸送システムは、流石の自分には考えつきはしなかった――というよりも、その必要がなく考えたことがなかったというのが正しいが、やはり自分にはない才能だとエストは羨む。

 他人に余計な力を与えると碌な事にはならない。 それが大きければ大きいほど己に帰ってくる不都合は莫大なものとなる、だからこそ他人という不確定な人間に頼ることはせず自分自身で処理していた。 そのほうが正確であり管理もしやすかったからだ。 百合奈は不都合を理解しつつ与え、このような輸送システムを思いついたのであろう。 互いに篠ノ之束という人間以外の他人を信用せず、それを利用するかしないかと別々の判断をしたわけだ。 纏められた情報(データ)に書かれた名もなき少女を防衛の戦力とした百合奈と、生贄としたエスト――それが辿り付いた結末の違いだとは思いたくはない。 いや、まだ道は途中の可能性があるのだったと自身の首から重力に従い揺れる赤い宝石を見つめ思い直す。

 カウントがゼロに近づく。 機体も高度を下げ現在500ft――人間には耐え切れないであろう振動も、もはや無く、ウエポンベイが解放され空と繋がる。 “ストライク”のシステムを起動させ展開準備を完了させるとTrapeze(トラピーズ)によって機体の外へ押し出された。 速度を落としたとは言え生身の人間が晒されて良いモノではないと、またも改善点を見つけ百合奈が本当に運用していたのか疑念を覚えつつ“シンファクシ”級潜水空母の影を目視する。

 

「予定通り二回目の実地試験を行う。 投下後は速やかに戦域を離脱し指示が有るまで待機していろ」

『了解しました……』

 

 その発言を境にエストは機体から切り離され落下――空中で既に完了していた“ストライク”を起動させ、その身に鎧を纏う。 元来、人間が扱えるように設計はされてはおらず、“ストライク(コレ)”を扱える存在など片手で数えられる人数しかいない。 “災厄”が己の身を守るためだけに生み出された鎧のようなもので、展開するにあたり現存する肉体を一度量子に変換し展開、鎧に神経を接続し直し起動する戦うために作られた機体(カラダ)である。 適性がないものが扱えば二度目はない――展開したが最後、その意識が途切れるまで制御できない力に振り回され、そして死ぬ。 今の人間には量子変換(それ)を耐え切れるだけの耐性はどこにも無い。 起動させたら死ぬ、それが“ストライク”を初めとした機体であった。

 当然、“災厄”が扱うために生み出してきた機体(モノ)だ――純粋な災厄であるエストが展開したところで何ら不都合はなく、展開された“ストライク”に変換した神経を再構築しながら通していく。 本来であれば“フリーダム”を扱い単独で行動していたのであろうが、残念なことに天使の姿は“白騎士事件”を境に“CCCNO(シースリーエヌオー)”社の機密からこぼれ落ちているため、扱うには各国の政府とリリィ――“Scarlet Eye(スカーレット・アイ)”の目を誤魔化さなくてはならない。 エストが“フリーダム”を扱うという事は“CCCNO(シースリーエヌオー)”社が篠ノ之束を救出したという現状を、匿ったという結果へ置き変えさせ、日本政府としては各国の弾道ミサイルへ不正に介入し自国へ被害をもたらした犯罪に加担した企業として“CCCNO(シースリーエヌオー)”社に対し強制捜査に乗り出すであろう。 そうなれば最悪“ストライク”と同じような廃人確定となる機体を見つけだし押収した後、“CCCNO(シースリーエヌオー)”社ではない他社へ解析を行わせ技術が流出する。 いくら鎧とは言え物理現象を直に受ける機械でしかない時点で人間の科学技術は、やがて“災厄”が持ち得た技術にまで到達する。 肉体を量子に変換する技術は今の世において一体何に使えば良いのか理解のできない謎の理論であろうが、同様の結果を生み出せる可能性が今の科学技術で全く無いというわけではない。 それを洗練させていった先にあるものが“ストライク”と同じ技術となるのだが、それを早めるという行為は今の世界には毒でしかないのだ。

 いつの世にも物事を悪用する存在は必ずしも息を潜め身を隠し日陰に生き続け、誰かを守るために存在する剣を自殺を促すためだけに使う者が必ずしも存在する。 そういう者程、安全な金銭の匂いに釣られるため泳がしやすいのだが、別に泳がしたところで利益になるわけでもない無駄な行為だ。 そもそも我々には問題ないだろうがメインプランのために存在している二人にとっては、急激な科学技術の発達は良い迷惑であろう。 なにせ両者共に“災厄”として見るのであれば十分に高い基礎能力を保有しているというのに身体は人間そのものなのだから死ぬという現象が通過点になることはない。 我々のように肉体の一部を欠損したところで逆行(ヽヽ)させる事はできないのだ。 こう考えてみると自分自身も同じであったハズなのに、こうも壊れやすい肉体で過ごしていたのだと懐かしく思いつつ、よく生きているなと呆れてしまう。

 ――さて、この船体をどのように処理してやるべきか……。

 そう思いながら脚部のスラスターだけを使い落下中の姿勢を立て直し、第一回目の実地試験時に使用した装備とは別の装備で、ゆっくりと海面に落ち続けた。 出力を上げることで滞空することも可能であったが相手は海の中にいる巨大な潜水空母――高い空から身を沈ませ続ける潜水艦に有効打を与える手段を“ストライク”は持っておらず、リリィから共有された情報通りであれば艦載機の射出能力もあり、目標となる“シンファクシ”級潜水空母とは別の何かに迎撃される可能性すらある。 そうなると優位に立つためには空ではなく同じ土俵となる海中へ舞台を変えたほうが効率的なのだ。

 “ストライク”には装備換装機構が備わっており、それにより機体の役割を多方向へ分散することを可能とし、これら装備の総称をStriker Pack System(ストライカーパックシステム)と呼ぶ。 “CCCNO(シースリーエヌオー)”社では現在、三つの単機能型システムを“ストライク”と共に試験運用しており、第一回目の実地試験時に使用した装備がAQM/E-X03“ランチャーストライカー”と呼ばれる砲撃戦特化型とされ、今現在展開しているものはAQM/E-X01“エールストライカー”と呼ばれる高機動戦闘用とされる。 “ストライク”自体に大気圏内(ヽヽヽヽ)を飛行する機能はなく装備を換装することで戦局に応じ様々な運用を実現するのだが、残念なことに水中戦闘用装備は存在しない。 また水中において“フリーダム”同様、搭載火器となるビーム系兵装はコロイド状の微粒子が融解してしまい威力が大きく減衰し消失してしまうことから、リリィの提案した“ランチャーストライカー”の使用は通らず情報の少なさから高機動戦闘用装備が採用されている。 ただ水中の潜水艦を妨害されることなく沈めるだけの内容であれば対艦刀を主力兵装としたAQM/E-X02“ソードストライカー”を選択していたのだろう。

 理論上は空気を急排出することで推力を得るスラスターの構造を利用し、水を中排出することで水中での運用も可能であることから、このまま海中に身を潜める“シンファクシ”級潜水空母に取り付こうかと考えるが、エストも“Ghost(ゴースト)”という存在が何を理由として存在しているのかが気になるため下手に手を出すことはできない。 むしろ撃沈させるという行為は情報の損失と同義であることから当初の予定通り足止めを行う事にする。

 《Are you Lily?》

 視界の隅に表示されたメッセージ――間違いなく“Ghost(ゴースト)”によるものだと理解し海面を見渡す。 “ストライク”を初めとする機体が搭載するOperating System(オペレーティングシステム)は全てエストによって生み出されており、当然全てのエラーメッセージも把握しているのだが、エスト自身が把握していないソレは紛れもなく機体外部からの干渉でしか現れないモノだ。 通信後、強制的に表示させる。 既に“ストライク”の機器に“Ghost(ゴースト)”は干渉していると思ったほうがよい状態であろう。 それでもエストは焦りを見せない。

 

「――こちら“CCCNO(シースリーエヌオー)”北米支部総責任者、エスト・フッガダーツだ。 “Ghost(ゴースト)”だな? キサマが大人しくしているなら良し、しないのであれば撃沈する」

 

 “ストライク”のシステムに介入されたとしても自身が死ぬことはないと理解しているからだ。 いくらシステムに介入されたからとは言え現在のエストの神経が通った機体は、干渉することが可能だとしても、その動きを封じることはできないのだから焦るだけ無駄であり――エスト自身が既に、このような状態に慣れきっている。 淡々と問い詰めるように問うが返答は来ない。 海面に浮き出た送受信用の機器があることから全く聞こえていないわけではないだろう。 リリィからは恐ろしく早いレスポンスを持つ何かだと聞いていたのだが、これならば開発中の人工頭脳の方が早いのではないかと思える。

 《can not understand. Are you Lily? Who are you? do not know.》 

 ――理解できない。 貴方はリリィ? 貴方は誰? わからない。

 理解できないのは此方の方だと言いたかったが言うだけ無駄であろうと、船体に亀裂を与えるため着水――左手に高エネルギービームライフルを持ち替え、腰から対装甲コンバットナイフ“アーマーシュナイダー”を取り出し展開する。 “ストライク”に精度の高いレーダーは搭載しておらず、あるのはカメラが捕らえた映像を拡大し照合、その後に所属を識別しモニターへ表示する、ただそれだけのシステムだ。 その画像データーを元に搭乗者の視線をシステムが捉え機体を補正し火器管制システムが動いているわけで、高度なレーダーに頼る誘導方式は採用されていない。 それゆえに対象となる“シンファクシ”級潜水空母を捉えるのはエストの目だけとなる。 ソナーでもあれば正確な位置情報を捉えることができたのであろうが、流石に海面へ影を映す巨大な構造物の姿を探す必要はなかった。 目の前にいるのだ、必要ない。

 《I do not know, the presence of you. It does not exist. Not in the record.》

 ――私は知らない、貴方という存在を。 存在していない。 記録にない。

 元から理解できない反応を見せていた“Ghost(ゴースト)”なのだが、エストには覚えのある反応に嫌な予測を立ててしまう。 ありえないことだと思いつつも完全に否定できる材料もなく上部甲板に位置する場所へ足をつける。




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※あとがき
 束さんの薄い本を一旦仕上げようと時間を削っています――そのため今後の予定も不確かに。 七月に投稿できるかどうかすら怪しくなりました。
 あ、みなさん令和になって始めまして。 エスト主人公による一次創作でも描こうかと思い、設定を詰めてたら普段通りのエストになり――あかん、これ二次的要素を抜いた“災厄”としてのリリィちゃんだということになり、あれ、別に二次じゃなくても行けたんじゃねと後悔してる私です。 設定はあるんです、設定は……設定は。 画力がないんです。
 とりあえず世界的に見た被害を書くべきだと思ったら。こんなあっさりとした山もない戦争に。 むしろ急降下してゆく魔王みたいに下がっていく消化試合。 書く必要あったのかと悩みます。 というか文字数がやっぱ足りない! 一万文字じゃ私が満足できない不満タラタラ状態!! 二万文字で書き上げたかったけど残念なことに時間がないという……。 仕方ないのでエロ本でも描いてきます。

 次回は少し束さんのエr……薄い本を仕上げるため未定です。 時間をください。
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