束としては日本に向かうミサイルの存在は予想外以上の問題だった。
駅に辿り付き電車を待っている間に携帯のカメラで撮ったリリィの寝顔を堪能しようとした矢先、ホームに響き渡る緊急避難警報。 無視したかったが、その警報に違和感を覚えリリィと同じ思考でレーダーを確認し弾道ミサイルの存在に気がついたのだ。
理解できない状況は予想外という他に何もない。
レーダーで詳しい情報を収集していると“フリーダム”の反応が映り、ただ事ではないと束は理解する。 それは弾道ミサイルが最悪の結果を生み出すことを“フリーダム”の起動でリリィに教えられたからでもあるが、そんなことを冷静に思っている暇はなかった。
何があったか理解できないが弾道ミサイルは日本に向け飛来しており、“フリーダム”ソレを迎撃しに出たのだ。 しかしレーダーに映るのは日本に向けて各方面から飛来する熱源、それを一機だけで何ができるというのだろう。
“白騎士”の力が必要だ。 そう思ったときは人目も気にせず武器も保有していない“白騎士”を起動し空へ舞い上がっていた。
“フリーダム”とは反対方向に“白騎士”は進路を向けリリィに連絡を取り、そして迎撃態勢をとったまま弾道ミサイルを迎え撃とうと待機している。
アメリカの軍事基地から発射された弾道ミサイルが最初に“白騎士”が落とす目標だ。 発射位置の関係上、まだ飛来していないのか時間があり改めて自身が行おうとしている事の重要さに震えてしまう。
――私に、できるの……?
束自身、身体能力は千冬並みにはあると自覚はしているが、リリィのように兵器に詳しいわけでもない。 一瞬の判断が生死を分けてしまう。 それが戦場であり束は恐ろしくて仕方がない。
「……防衛は、まだ来ない?」
反応のない日本の迎撃態勢に少しずつ束へ重荷が積み重なっていく。 混乱しているのだろうか指揮系統が分断されているのか理解はできないものの、おそらく太平洋方面から飛来する弾道ミサイルの情報を収集しているのだろう。 現状、“白騎士”しか迎撃を行えるものはいない。
誰の援護も受けられず一人だけに数百を超える人間の命が委ねられる。 普通ならば、その重圧に人は耐えきれるものではない。 しかし束が何とか耐えられているのはリリィの存在があるからだろう。
――大丈夫、私は一人じゃないんだから……?
そう思っていた瞬間、遠くで何かが爆発した。 それは調べるまでもなく弾道ミサイルだ。 だが何故、弾道ミサイルが爆発しているのだろうと束の頭の中で疑問が湧き上がる。
「何、新しい熱源……え、弾道ミサイルじゃない……」
日本に向けて飛来する弾道ミサイルの熱源が消えていき、新たに別の熱源が“白騎士”のレーダーに映り込む。
またも予想外の事に束の思考は停止しかけけた。
「……ライブラリー照合?」
搭載した記憶もないシステムが束に熱源の正体を教えていく。
――F-15……いや、一つだけ違う……E?
束の知らないシステムを搭載した人物は一人しかいない。 何を思って照合システムを搭載したのか理解できないが、“白騎士”のオペレーティングシステムを昨夜調整していたのはリリィだ。
小さく呟くように型式番号であろう文字を口にするが束には、どういう物か理解できないでいた。 実際何を示しているのだろう。
それが型式番号だとは理解できるものの、実際何を示しているのかは理解できなかった。
どれも戦闘機の型式番号でありF-15は“
黒と赤でカラーリングされた、それら機体がF-15E“
アメリカ本土からは間に合うはずもなく付近に航空空母があることがリリィなら理解できただろうが、束は何故と疑問を浮かべるばかり。 ただ目標が減ったことに少しだけ気持ちが楽になった。
《Von “Flabellum Leader” zu jeder Maschine, und Fall melden Sie den Status》
《“Flabellum 2”, Stand-By.》
《“Flabellum 3” von 7,Stand-by》
《“Flabellum 8”……9,10,Stand-by》
《Sie will, um einen Angriff zu starten. Das ist das letzte……Waffe ist kostenlos. Zuerst traf Tropfen die ballistischen Raketen》
《Wilco》
無線が混戦したわけでもないのにF-15“
空に広がる爆炎が束を圧倒し完全に思考を停止させ、その場にとどめ続けさせた。
――抜けてる!?
撃ち漏らしだろうか爆煙の中から数発の弾道ミサイルが潜り抜け日本へ迫る。
迷っている暇はない、そう自身に言い聞かせ武器ではない装甲を武器として握り直すと束は覚悟を決め弾道ミサイルに迫った。
剣なんか握ったことや触ったことも、まして興味を持ったこともない束が剣に見立てた装甲を生まれて初めて物を壊すためだけに振り下ろす。 それは弾道ミサイルに折れることなく食い込むと、そのまま目標を二つに割く。
また、その勢いのまま“白騎士”は近場の弾道ミサイルを同じように叩き斬ると、それらが“白騎士”の後方で花火のように大爆発を起こす。
シールドバリアの存在が爆発から“白騎士”や束を守るが、当の本人は爆発を気にしている余裕もない。 落ち着くまで時間がかかるが爆音が束の行動が成功したということだけ告げているのは理解できた。
《Haben Na……》
《Werde keine Zeit zu beeindrucken “Flabellum 3”……》
《Eva! Es war ein Schuss, um die Chance fehlen Sie beeindruckt sind!!》
“白騎士”の行動と思い切りの良さに感心していたのか一人が口笛を吹きながら束を賞賛する。 しかし、その間に一発の弾道ミサイルがF-15“
それを束が見過ごすはずもなく脚部スラスターを吹かし滑るように移動すると再度、持っていたソレで叩き落とした。
――次は!
次第に束の思考は重圧から逃げるように弾道ミサイルへと向けられていく。
所属不明の戦闘機が共に防衛しているため、それなりに楽ではあるが弾道ミサイルの数が多すぎる。 予想される着弾範囲は広く同じ地点だけを迎撃していては、必ずどこかに弾道ミサイルが落ちてしまい多くの命が消えてしまう。
《Bereich ist zu groß! Nicht abgefangen werden!?》
《……Alle Flugzeuge gut hören! Daraus machen wir eine breite Palette Abfangjäger System! “Flabellum 2” und 10 mit mir und den anderen Treffern für die Mission in Übereinstimmung mit den Anweisungen des “Flabellum 3” und 8!!》
《Kapitän!? So rau ist……》
《Jetzt, als so etwas, Tropfen ballistische Rakete! Es spielt viele Leben retten auch nur eine Person!!》
何を言っているか理解ができないが戦闘機に乗っている人物達が日本人ではないことは確実だ――しかし言葉の意味を捉えているほどの余裕は束にはない。
《Interception und der “weiße Ritter” hier, lassen Sie es mir!》
「……ヴァイサー、リッターって確か……」
ドイツ語で白と騎士を表す単語である。
《……Ich wurde gefunden. Harufofu Oberst auch Ihr sicher!》
ようやく聞き取れた白い騎士という単語で束は彼らが何故、このような場所にいるか理解した気がした。 おそらく彼らは“白騎士”の撃破か鹵獲を目的として弾道ミサイルを迎撃しながら観察しているのだろう。
つまり彼らは束の敵ということとなる。
――そんな……。
飛来する弾道ミサイルは基本片付けたが第一波を迎撃しただけで第二波がないわけではない。
《……Sie zu betrügen?》
《……Es ist immer noch》
部下を抑えながらイージスは“白騎士”を観察し続けていた。
《……Wenn Kurere zu bleiben ist Scarlett in einer Zeit wie》
《Selbst……Kapitän nicht sagen, weiß, seine Sache,》
“白騎士”のレーダーに映った新たな熱源を束は見ながら、なんとか聞き取れたスカーレットという単語に反応してしまう。 聞き覚えがある単語に束の脳裏では嫌な予測が組み立てられていく。
《Es ist eine Geschichte, dass der Kerl ist es……Scarlet Lily irgendwo in Japan, aber……》
《Hör auf, Klaus……Ich glaube, dass wird Tsuremodoso der Kerl kann Na verursachen……》
《Die zweite Welle, kommen masu!》
レーダーに捉えたのか三機は“白騎士”に背を見せ弾道ミサイルに向け機体を加速させた。
気のせいだろうと聞き流そうと思ったがスカーレット・リリィと呼ばれる人物が、それほどいるとは思えない。 そんな中『……ドイツ連邦国防省連邦防衛軍所属、管制指揮官スカーレット・リリィ……そういえば満足?』という不機嫌そうなリリィの言葉が蘇る。
――間違いない……。
彼らはリリィを連れ戻しに来たドイツ軍だと確信してしまう。
握り締めた装甲が落ちそうになるが握り直し三機の戦闘機を見つめた。 ドイツ語だからこそ束は会話の意味を理解できなかったのだ。
《Sie verfügen nicht über Scarlett! Und verlassen sich für die es nur Ihren eigenen Augen!!》
再度機銃で弾道ミサイルを落としていく。
必死に何か言いながら三機は自由に空を飛び回り弾道ミサイルを迎撃している。 そんな彼らが束は敵であると思いたくはなかった。
束は自身の目でリリィがスカーレット・リリィ少佐であることを確認しているし、その地位になれば軍の機密情報ですら手に入れられなくもないことも知っている。
《Herr Ritter scheint Takaminokenbutsu es……》
意思のない弾道ミサイルを叩き落とすことは彼らには簡単だったのだろう。 各機が機銃で正確に一発、また一発と破壊していく。
その動きは戦闘機という形をしているものの、まるで蝶のように目を奪われるような動きだった。
当然、束は何もしないわけではない――我に返り出来る限り彼らが迎撃できなさそうな弾道ミサイルを叩き落としていく。 だが半数以上を迎撃しているのはリリィであり、残った半数の更に半数を迎撃しているのは彼らなのだ。
“白騎士”という近代兵器を上回る物を使っておきながら情けないと思う。
――ミサイルがなくなった……?
やがて弾道ミサイルの熱源がレーダーから完全に消えたことに気がつき束は一息つく。
“フリーダム”がいたであろう場所からは、まだ少し反応があったが、おそらくリリィが着弾しないと判断した弾道ミサイルだろう。 そう考えると“白騎士”周辺を通過するはずの弾道ミサイルが綺麗に叩き落とされている理由は、“フリーダム”ほど正確に着弾位置を予測し問題ないと判断する能力が彼らにはなかったからだ。
最低限の動きで多くを救おうとするリリィより束を含むイージス達、戦闘機乗りは愚直過ぎた――そう思えて仕方がない。
《Der Start ist das Ende oder……! Jede Maschine ist der Speer Hanate!!》
「なっ!?」
“白騎士”の動きから弾道ミサイルの飛来が、もう無いことを察し三機が一斉に空対空ミサイルを“白騎士”に向けて放つ。 全機、弾道ミサイルを機銃で落としていたのは“白騎士”に対し有効的なダメージを負わせるため、空対空ミサイルを温存しておく必要があったからだろう。
――重荷になる事を理解してて、なんで使わないのかと思ったら……!
それに気がついた束は急ぎ上昇するもF-15E“
そう思った瞬間、“白騎士”は弾道ミサイルを叩き切るように空対空ミサイルも叩き落としていた。 何も考えず、ただ手を振り払うよう剣に見立てた装甲で空対空ミサイルを叩き切っていた。
《Ich habe entschieden!》
三機が交互に機体の場所を変えながら“白騎士”に、その動きを悟らせない。 しかし聞かれてないつもりだろうが混線し、そのイージスの声は束に届いている。
ただ声の主であるイージスが、どれに乗っているのか正直なところ束には分からなかった。
F-15“
「っ、待って! 私は……!!」
そう叫ぶも“白騎士”には外部用の拡声器が装備されていない。
急仕上げで出来る所までを詰め込み時間がないと不必要な部分を搭載しないでおいた、その結果だ。 束の声は高速で動く戦闘機に乗った者達には届かず再度、その機首を向けられる。
今度はミサイルではなく機銃を下から撃ち込まれた。
――なんで……。
何故、理解してもらえないのか。 何故、攻撃されるのかと束は混乱しながらも脚部に搭載したスラスターを片方だけ使い回転するかのように“白騎士”を動かし機銃を避ける。
《Ich habe es!》
イージスではない声が無線から響き束はレーダーに映る別方向からのF-15“
下から迫り来るF-15“
まるで曲芸飛行のようにも思えてしまう。
――違う、もう一機!!
二機のF-15“
気がついたときには距離を狭められ擦り当てるかのように空対空ミサイルを“白騎士”に当てていく。 回避する暇も叩き落とす暇も束に与えてくれない。 ただ、かなりの速度を保ったまま“白騎士”の上を通過する直前、空対空ミサイルを切り離し慣性に乗せ“白騎士”に当て距離を取る。
《In der Tat, es ist Hauptmann!》
ロケットエンジンの使われなかった固体燃料を巻き込んだ空対空ミサイルの爆発は、シールドバリアを張った“白騎士”さえも吹き飛ばすには十分な威力だった。
爆煙の中から現れる白い装甲は海へ向かって落ちていき沈んだ。
《Kein Ritter!?》
白い装甲が“白騎士”だと思っていたクラウスは海面に落ちる直前で、それが“白騎士”の保有していた装甲だと理解する。 “白騎士”は落ちていない。
――このまま死ぬの……私は?
爆煙の中で束は恐怖した。
“ジン”を相手した時とは違う戦場という名の暴力によって殺されるのだ、そう思うと目の前にいる戦闘機が鬼や悪魔のような怪物に見えた。
リリィは、このような場所に居たのだろうか。 このような場所で失踪してから長い間、その身を置いていたのだろうか。
《Überprüfen Sie die Ritter. Es ist in den Rauch noch!》
「っ、しまった……」
少しでも距離を離せば良かったと思いながらF-15“
もはや束の目に映るソレらはなんなのか理解ができない。
距離を離そうにも満足に動けずに、ただ旋回するF-15“
まだ全機、空対空ミサイルを残しているのだ。 今から距離を取っても射程外へと逃げられるわけでもなく、また“白騎士”よりも小回りが利かないが同じくらいの航行速度を持ち何より束は戦争について何も知らない一般人だ。 それら全ての差が束の生存確率を下げる。
《Die Tatsache, dass das Relief nicht Weiß Aufmerksamkeit motiviert genug scheint……Ritter Action! Ich weiß nicht, was passiert!!》
逃げられるのなら今すぐにでも逃げたかった。 しかし簡単に逃がしてくれる相手とも思えない。
“白騎士”の武装も先の空対空ミサイルの着弾によって海面に沈み、その衝撃で椀部にも異常が発生している。 “
戦わなければ生き残れない、などと昔見たテレビ番組のキャッチコピーのような言葉が脳裏によぎるが、どう戦えというのだろう。
死神が持つ鎌のようにF-15“
――来る!?
恐怖に目をつぶってしまいそうになるが、その目が動くことはなくF-15を見つめていた。
《Klaus! Zu brechen, brechen!!》
《Zu werden!?》
その言葉通りにF-15“
その直後、高速で“白騎士”とF-15“
《あのE型……なんでこんなところに……》
「……リリィ、ちゃん?」
どうやら“フリーダム”のクスィフィアスレール砲から放たれた砲弾がF-15E“
“白騎士”へ更に近づけば当たるよう調整された牽制程度の物だろう。 あのまま近づいても当たることはなく“白騎士”を攻撃するよりも先に砲撃を回避、砲撃元の索敵をしなくてはならないため束の生存時間を伸ばすリリィの一手に呆然としつつも理解する。
《大丈夫……と聞きたいところだけど、なんか派手にヤられてるね》
いつもの調子で言葉を返せない事に束は忘れかけていた恐怖を思い出す。 戦場で人の心を容易に潰せる死への恐怖は例外ではなく束すら潰そうとした。
その吐息からリリィは束が恐怖していることに不思議そうな顔をするのだろう。
《Als ich aufwuchs!?》
《Jede Maschine verteilt!》
クスィフィアスレール砲を見たイージスは“白騎士”よりも“フリーダム”に警戒を向ける。 今まで“白騎士”は近接武装のみで弾道ミサイルを迎撃しF-15に対しては攻撃行動すら見せなかったのだ。 当然の判断である。
それに対し“フリーダム”は展開したままのクスィフィアスレール砲を折りたたむことなくF-15E“
――リリィちゃん……何を?
リリィなら相手に一切の攻撃を与えずに追い払えそうなものだが、その思いとは裏腹にクスィフィアスレール砲から再度、光の矢は放たれる。
当然、警戒していたイージス達にとって避けるのは簡単なのだろう。 砲身を向けられた時には機首を既に下げており射線外へ逃げていた。
《Nun ist die Waffe ist……》
“フリーダム”は“白騎士”をかばうように砲撃し続ける。 それは全て敵に直撃しそうで直撃しない砲撃で、上手いこと機首を“白騎士”に向けさせず距離を離していく。
こうなると“白騎士”への攻撃を断念せざるを得ないのが現状だ。
《Das gestreute, der Typ……》
《Es ist nicht beabsichtigt, den Angriff zu vergießen? Oder beabsichtigen, uns zu induzieren》
露骨すぎる無被弾という結果にイージスとクラウスはリリィが故意に攻撃を逸らし誘導していると理解していた。
これ以上の接近、攻撃は撃墜を意味する。
機体は簡単に作れるが優秀なパイロットは、そう簡単に作れないし無理に攻撃を仕掛ける意味はない。 無駄死にするほど軍人は馬鹿ではない。
《Keine mehr Sie spielen, wenn Sie gefragt werden, um von der Bühne zu verlassen? ……“Flabellum” ich sage jeder Maschine! Es ist ……Homing, eine breite Palette Abfangjäger System zu lösen》
《……私がいなくても見事な引き際。 相変わらず優秀だね、イージス……》
「……ようやく引いてくれる」
ドイツに滞在していたリリィならイージスの言葉が理解できるのは当然だ。 ようやく一息つけると束は安堵の息を漏らした。
しかしリリィは撤退していく機影を見つめながら砲撃体制を崩さない。
――……え、後ろ?
“白騎士”のレーダーに別の熱源が引っかかる。
《……何処から紛れ込んで来たF-35かな?》
そう呟くと“フリーダム”は振り返りクスィフィアスレール砲の砲身を雲の向こうにいるであろう熱源へ向けた。
“白騎士”のレーダーに気がつかれることなく、ある程度の接近を行った機体に束は身体を固まらせる。 先のF-15“
「何処から、って……?」
《……F-35の航空自衛隊配備は数年先の話だし日本に配備されたという話も聞いたことないしね》
少し楽しそうに聞こえるのは束の気のせいだろうか。
《……本当に何処の国が所有してる機体なのかな》
砲弾が高速で放たれる。 雲で視界が塞がれているためクスィフィアスレール砲の射撃タイミングはわからないだろう。
今まで撃墜する意思を見せなかったリリィだったが雲の向こうでは大きな音を立て何かが何かを射出させるような音を出す。 遅れて雲から黒煙を上げ群青色の戦闘機が界面に向け落ちていった。
――撃墜……しちゃった……?
キャノピーが無く座席もないことから搭乗者は脱出したのだろうが容赦が無さ過ぎる。
《約一億ドルが散る様は他と変わらないね……。 汚い花火だって言えばいいのかな?》
「……は?」
楽しそうに一億ドルというが、それを知って撃墜するリリィの気が知れない。 思わず突拍子のない声を上げても仕方がないだろう。
《ま、何かが綺麗に爆発するわけじゃないし、どれも似たようなものか……》
子供が大量生産された安い玩具を壊してしまった程度のように口にしているが、ソレが束にとっては恐ろしく思えた。
ステルス性能を持つ兵器を玩具程度の感覚で撃墜したということは、リリィにとって戦闘機は何の驚異にもならないということだ。 それは自分が戦闘機を相手しても絶対的な自信を持ち優勢であるということを理解している事なのだろう。
“フリーダム”を所持しているが為の優位性。
もしも何の考えなく撃墜したのならば、リリィの言葉から感じられるソレは本心に近いなにかなのだろう。 軍人として今まで生きていた時間が多すぎたせいで、敵を思い通りに動かし確実に殲滅する事が心の何処かで快楽に変換でもされているのだろうかと思えて仕方がなかった。
そう感じてしまうと可愛らしい外見とは裏腹に束には理解できない何かを抱え込んでいるように思えてしまう。
《ん、パイロットの生存は確認っと……。 結構、ギリギリを狙ったつもりだったからコクピットを外せる自信がなかったけど一安心》
束は再度、落ちていく戦闘機、F-35“
――でも二発撃ってなかったっけ?
もし二発とも直撃コースならば一発しか受けなかったF-35“
そして高額な戦闘機をいとも簡単に捨てるという選択をした思考――並の人間ではないことは確かである。 そもそもクスィフィアスレール砲はレールガンの一種だ。 それを撃たれてから回避ということは不可能に近い。
束の中で軍人という存在が更に大きく恐ろしいものへと形を作っていく。
《さて……聞きたいことはたくさんあるけど、まずは逃げないと……》
「逃げるって……?」
海面で爆発したF-35“
もちろん束の目にもリリィの顔ではなく“フリーダム”の頭部が写っているのだが、その行為をリリィが行っていると理解しているせいか顔を真っ赤にして身体を硬直させてしまう。 その手が機械の手だとしても強く抱きしめられる事が束を更に動けなくさせた。
そして“フリーダム”はメインスラスターを吹かし、“白騎士”を抱いたまま急上昇をする。
「ちょっ!? リ、リリィちゃん!?」
《少し黙ってて……じゃないと、舌噛んじゃうよ》
何故、いきなり急上昇したのか束は理解できないが“白騎士”のレーダーには、はっきりと日本から出てくる熱源を捉えていた。
それから逃げるように“フリーダム”は日本の領海外に向かって加速する。 先に先行していたF-15J“
また足止めしようと別の航空基地から出たF-15J“
F-15“
――なんで、こうなるの……。
急激な加速により意識が遠のいていく中、束は微かにそう思った。
「アレが“白騎士”? ……報告には聞いていたけど、思ったより小さいわね……」
双眼鏡を片手に車の中から海上で起きている戦闘を眺めている人物がいた。
リムジン程ではないが車は、そこはかとなく高級車である雰囲気を醸し出しており、その車内で女は金の髪を揺らし双眼鏡から目を離し横に置いていた資料を手に取り紙を捲る。 その顔は前日、リリィがテレビの画面で見た女優、エスニア・ドラヌと同じ。
「ミューゼル様、どういたしましょう」
しかし運転席に座る男は彼女をミューゼルと呼んだ。
しばらく資料に目を落としていたが彼女は、やがて興味がないかのように顔を正面へ向け資料を投げ置く。
「様子見よ……とりあえず今日はスケジュール通りに動くとするわ。 勝手に向こうが動いてくれるでしょうし……」
「了解いたしました」
車は動き出す。
「このあとは何の予定が入ってるのだったかしら?」
「1400時よりテレビ局からのインタビューを受け、1700時には顔見せと取材……それが終わり次第ホテルにチェックインという流れとなっております」
「……案外、暇ね」
横目で“白騎士”と“フリーダム”がいたであろう場所を再度見つめ、彼女は小さな溜息をついた。
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✔F-15 【機体】
マクドネル・ダグラス社が製造した戦闘機で愛称は“イーグル”。
1990年に発生した湾岸戦争に初めて実戦投入され作戦期間中、アメリカ空軍所属のF-15は一機の撃墜もなく圧倒的な戦果を上げた。 後継機であるF-22が配備されても未だに高い空戦能力が評価され使用され続けている。
また三菱重工業が中心となり航空自衛隊向けにライセンス生産したF-15J等、様々な形式を持つF-15が製造された。
✔F-15E 【機体】
F-15の改良派生型で同社が作り上げた戦闘爆撃機。
元々、F-15は大型機で強力なエンジンを搭載しているためミサイルを八発搭載しても離陸重量や機動に対する機体強度に余裕があったため、マクドネル・ダグラス社は本格的な戦闘攻撃機型への研究を続け機体の六割を再設計し完成させた。
愛称は“ストライクイーグル”で初飛行は1986年となっている。
✔マクドネル・ダグラス 【企業】
過去に存在していたアメリカ合衆国の航空機製造会社。
1967年にマクドネル・エアクラフト社とダグラス・エアクラフト社の合併によって誕生。 F-15やFA-18、また複数のミサイル等で軍用機分野では成功を収めていたが、1986年以降になると民間機の販売で経営を圧迫し1997年にボーイング社に吸収合併された。
✔カーニア・エヴァシュテル 【人名】
ドイツ連邦国防省連邦防衛軍、第五空軍師団“Flabellum隊”に所属する熟練パイロット。
腕は悪くもなく突出しているほど良くもないが、飛行小隊で長く飛んでいたため四機編成での飛行では必ずしも指揮を任され高度な連携によって多くの戦果を出すこ程の存在である。
Call Slignは「Flabellum 3」で階級は空軍中尉。
✔空対空ミサイル 【兵器】
空中から発射され空中に存在する目標を攻撃するためのミサイル。
基本的に戦闘機から発射され本体前部のシーカーの誘導を受け敵航空機を撃墜する。 第二次世界大戦中頃から開発が始まり1960年頃から本格的に用いられるようになった。
現存する空対空ミサイルは52種類あり射程距離は平均して約55.5キロある。
✔クスィフィアスレール砲 【兵装】
“フリーダム”の腰部両脇に設置されたレール砲兼スラスター基。
弾丸の高速射出を行うことで高い火力を有しており同時に装弾数が多くマルチロックオンシステムによって多数の目標物を同時に攻撃することが可能。 展開していないときは三つ折りの状態で姿勢制御や推進器として機能しおりラケルタビームサーベルのマウント部位も兼ね備えている。
実体弾を撃ち出すため他の搭載兵器とは違った目的の砲撃をする事が可能。
✔ピクウス19mm近接防御機関砲 【兵装】
“フリーダム”の頭部に設置されている機関砲。
主に自機に迫ったミサイルの迎撃に使われる実体弾を用いた武器であり防衛のために設置されているために攻撃的な威力はない。 しかし頭部に設置され高速連射を可能としているため取り扱いやすい武器である。
※本作では登場する機体と全高を合わせる為、18.03mから4.50mへと“フリーダム”の全高が変更された事に従い口径も76mmから19mmに変更されました。
✔スコール・ミューゼル 【人名】
“
長い金髪に美しい美貌を持ち、その外見から世界に名を轟かせる女優エスニア・ドラヌとして活動しており同時にスパイ活動を行っている。 女優として活動している理由がスパイ活動を目立たなくさせるためで、また頻繁に各国への渡航を行うことが多い職業であるため彼女に白羽の矢が立った。
幹部会に所属していながら実働部隊に加わり前線で指揮を取るためか部下からの人望は厚く“Phantom Aufgabe”内で一番信頼されている中心人物である。
《次回、篠ノ之束の隠し持っていた機体が空を翔る(嘘》
【挿絵表示】