俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】アローラ地方・ハノハノビーチ
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《エレナ》ハルカの幼馴染。オダマキ博士の一人娘で、預けられたハルカのポケモンの世話をしている。
《ナゴヤ》なまいきなバシャーモ。ハルカが最初に貰ったポケモンである、俺様主義の唯一無二な相棒。


【傑作選014】ハノハノリゾート☆パラダイス

 蒼い空。碧い海。

 焦げる様な真夏の太陽が、こちらの素肌を突き刺してくる。準備運動は万端。真っ新な星の砂浜を、様々な形の足跡が一斉に駆け出した。

「海だぁー!」

 雄叫びを上げた海パン野郎のハルカとその仲間達は、勢い余って海へと飛び込んだ。

 アローラ地方でも指折りのリゾート地であるハノハノリゾート。そのホテルのすぐ側に広がるハノハノビーチへ、ハルカ達は羽を伸ばしに来ていた。

 海に潜ったハルカが目を開けると、そこにはエメラルドグリーンな海の世界。隣をケイコウオのカップルが優雅に泳いでいき、岩陰ではヒトデマンが緋色のコアを輝かせている。一緒に飛び込んだテッペーやエボルタも、初めて体験する海の解像度に興奮しているようだ。潜水の苦手なトランプは浮輪に揺られており、側を泳ぐピコタローと気儘に過ごしていた。

「おーい! 見てみろよー!」

「ん?」

 声を掛けられて、トランプとピコタローが振り向く。ピンクの棘が可愛らしいナマコブシを右手に掲げたハルカが、海から浮上してきていた。

「なんか面白ぇの見つけたぞ!」

 愉快に語るハルカ。するとナマコブシは口から内臓を吐き出し、その内臓で拳を握ると自分を掴むハルカに反逆した。

「うわぁっ!」

「ハルカ!」

「なにやってんの!?」

 ナマコブシの白い鉄拳に襲われるハルカに、二匹は慌ててライフセービングに急行した。

 なにも海を泳ぐだけがリゾートの楽しみ方ではない。ビーチには様々な地方からの観光客の中に、オダマキ研究所の仲間達がちらほら紛れていた。

 砂浜にうつ伏せになるのはポルコとオーム。二匹の反対方向には、潮風に靡く赤い旗が立てられている。

「よーい……ドン!」

 エノンの掛け声を合図に、二匹は立ち上がってスタートダッシュを決める。目指す先は数十メートル先の旗だ。

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

 ポルコは唸り声を上げると、拮抗して走っていたオームを追い抜いて、自身のスピードを上昇させた。勝利の証である旗は、もう目と豚鼻の先。誰もがポルコの勝利を確信したその時、ポルコは旗に目も暮れずにそのまま猛進してしまった。

「えぇっ!?」

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

 口をぽっかりと開ける一同を置いて、ポルコの背中は小さくなり、がなる唸り声だけが響いてくる。旗を手にしたオームも、素直に喜んで良いのか分からない様子だ。

「なにやってんだあいつ……」

「流石師匠! どこまでも突っ走ってく背中、カッコいいッス!」

「憧れてないで止めてやれよ」

 ただ一匹ポルコに憧れの眼差しを向けるヤンヤンに、エノンはそうツッコむ。このままでは他の観光客に迷惑が掛かると、一同は暴走するポルコを止めに向かった。

 別の砂浜では、乙女達の和気藹々としたビーチバレーが繰り広げられていた。

 カエデがレシーブし、カスガがトス、高く上がったビーチボールをマイが跳び上がってアタックする。ビキニ姿のエレナがなんとか上げようとするが、現実は届かずにボールは砂を付けた。

「やったー!」

「やっぱりマイ強いわね……」

 跳ねて喜ぶマイを、オジョーがネット越しに警戒する。運動神経抜群のマイの活躍により、二組の点数差はかなり苦しい状態になっていた。

「ふっ、これが私達の力よ! アンタ達には到底及ばないでしょうね!」

「私達ほとんどなんもやってないでしょ」

 まるで自分の活躍の様に胸を張るカスガに、カエデがそう訂正する。カスガがそう自慢気に語ったのは、対戦相手に宿敵のバービーが居るからだ。憎い笑顔を浮かべるカスガに、バービーの臍がフツフツと湧き上がる。

「くそっ……こうなったら!」

 覚悟を決めたバービーは、そう目の色を変えた。

 次にサーブを打つのはカエデだ。新緑の尻尾を器用に使って、ボールをネットの向こう側に送り届ける。オジョー、バービーと見事に連携し、最後はエレナがアタックを決めた。しかしそのアタックはカスガによって上げられてしまい、空を飛ぶボールにマイが照準を定める。驚異の跳躍力で跳び上がると、まるでバズーカの様なアタックを撃ち放った。

 バービーが滑り込むも間に合いそうにない。またしても得点を奪われてしまったと思ったその時、誰も触れていないのにも関わらず、ボールは空中で停止した。そのままボールは人知れず浮かび上がると、突然音速にスピードを変えて敵陣地に飛び込む。マイ達は驚きのあまりその場を動けず、気付いた時にはボールは砂の上を転がっていた。

「よっしゃー!」

「ちょっと待てぇ!」

 堂々とガッツポーズを掲げるバービーに、カスガがネットの下を潜って殴り込む。

「アンタ今サイコキネシス使ったでしょ!」

「はい? 別にそんなの使ってませんけど?」

「とぼけんじゃないわよ! 急にあんな軌道でボールが飛んでくる訳ないでしょ!? あんなの反則よ!」

「どこにそんな証拠があんのよ!」

 このままでは場内乱闘が勃発しそうになり、慌ててマイが止めに向かった。スポーツマンシップの欠片もない光景に、エレナは苦笑を浮かべ、オジョーは深く溜息を吐いた。

 喧騒な声がビーチに響く一方で、スネオは一匹で砂浜に腰を下ろしていた。スネオの前には潮が満ちたら崩れそうな砂の城。じめんタイプという事もあってか、その完成度は芸術の域に達していた。

「なにしてるの!?」

「うわっ!」

 突然声を掛けられ、スネオは極端に肩を弾かせる。振り向くと先程の声の主であるユカリが、コラーゲンに両腕で抱えられていた。

「すごい! これスネオが作ったの!?」

「あっ、うん……」

 麗しい姫が暮らしていそうな砂の城に、ユカリとコラーゲンは目を奪われる。

「僕たちもいっしょに作っていい!?」

「勿論」

「やったー!」

 スネオから許可を貰うと、ユカリも尻を付けて砂の山を作り出した。子供の無邪気さは、空に光る太陽よりも眩しいものだ。そう感じて、スネオはふっと表情を緩ませた。

 ナマコブシの反逆から解放されたハルカは、休憩だと砂浜に戻る。水分補給に自分達が差したパラソルの下へと向かうと、ビーチベッドに横になる相棒の姿を見つけた。

「おいナゴヤ! ここまで来てなに寝てんだよ! 折角だからお前も楽しめ」

 ナゴヤはオレンジ色のサングラスにピンク色のアロハシャツを身に纏っていた。

「いや十分楽しんでんな!」

 言葉の途中でナゴヤの衣装に気付き、ハルカは目を疑う。声を荒げたハルカに、ナゴヤはサングラスをズラした。

「なに言ってんだ。俺はお前らと違って浮かれちゃいねぇよ」

「嘘吐け! 鏡見てみろ! めちゃくちゃ浮かれてんぞ!」

 海まで強引に連れて水面に映った姿を見せてやろうかと思ったが、ナゴヤが起き上がる様子はない。ただ煩わしそうに目を瞑るだけだった。

 その時、異変にナゴヤが気付く。

「ん? どうした?」

 ナゴヤだけではない。ブンタやポルコといった仲間達も、僅かな空気の変化を察知していた。

「……遊んでる奴ら全員モンスターボールに戻せ」

「え?」

 立ち上がったナゴヤに、ハルカは首を傾げる。すると観光客に溢れたビーチも、なにやら騒然とし出した。

「おい! なんだあれ!?」

 とある観光客が指を差した方向に、ハルカも目を向ける。群青色に塗りたくられた様な快晴。その空の中に、どういう原理かぽっかりと穴が空いていた。

「空に……穴?」

 その穴から異質な影が姿を現す。

 子供に人気のアイスクリームの様な頭部が、道化師の様な体に浮かんでいる。それは今まで見てきた生物とは、あまりにもかけ離れた生命体だった。

「なんだ……?」

「ポケモン……なのか?」

 謎の生命体の来襲に、ビーチは驚愕に覆われる。そんな観光客を余所に、空に浮かぶ生命体は両手で禍々しい色をした球体を生み出した。球体を何気なく放り投げると、砂浜に着陸した瞬間、その球体は巨大に爆ぜた。

「!?」

 突然の大爆発に観光客は大パニック。ビーチに阿鼻叫喚が響き渡る。生命体は悲鳴も気にしないで、球体を無数に生み出してはビーチへと爆発を起こし続けた。

「うわぁっ!」

「皆! こっち!」

 バカンスどころではなくなったポケモン達も、エレナの先導に従ってモンスターボールへと戻っていく。避難に走るバービーだったが、砂に足がもつれて転んでしまった。

「あっ!」

「バービー!」

 前を走っていたカスガが、振り返って声を掛ける。バービーもすぐに立ち上がって走り出そうとしたが、背後に殺気を感じて振り向いてしまった。邪悪な球体は、バービーを標的として押し寄せていた。

「!」

 直撃を覚悟して目を瞑ったその時、鋭利な刃が球体を斬り裂く。バービーが目を開けると、そこには金属製の頼もしい背中が立っていた。

「ワン!」

「早く戻れ」

 ワンは敵を真っ直ぐ睨んだまま、背後のバービーにそう指示を投げる。

「……ありがと」

「バービー! 早く!」

 バービーは感謝の言葉を残すと、カスガに手を引かれながらエレナのもとへと避難した。

 なにもビーチに残って戦闘態勢に入っているのはワンだけではない。中には既に迎撃の準備に取り掛かっている者も居た。

「相手がなんなのか分かんないけど!」

「そちらがその気なら、こちらもそれに合わせるまででござる」

 背中を合わせながらネジは波導を、ブンタは水遁を錬成する。

「はどうだん!」

「みずしゅりけん!」

 ネジとブンタは生命体を照準に定め、遠距離射撃を図った。撃ち放たれた弾丸と手裏剣は、目論見通り生命体に向かって突き進む。しかし直撃の寸前で、生命体はまるで花弁の様な軽い身のこなしで射撃を回避した。

「なっ!?」

「躱された!?」

 ブンタの水手裏剣はともかく、ネジの波導弾は狙った獲物を逃さない追尾機能がある筈だ。しかしその生命体は、そんな機能は通用しないと嘲笑うかの様に踊っている。

「くっ! ここからじゃ流石にホネブーメランは届かないな……」

 遥か上空を舞う生命体に、スネオは砂浜でなにも動けないでいた。

「スネオ!」

「!」

 そこに声を掛けたのは、相変わらず憤怒に溺れるポルコだ。

「俺をあそこまでぶっ飛ばせ!」

「えぇっ!?」

 予想の斜め上を行く指令に、スネオは耳を疑う。

「でも!」

「良いから! 早くしやがれ泣き虫!」

 スネオの心配は無用だと言うように、ポルコの意志は強く固まっていた。

 その間にも生命体は球体をビーチに撃ち続けている。恐怖に駆られた観光客は安全な場所を求めて走っていき、ビーチに残っているのはハルカ達だけとなっていた。

 生命体は目も鼻もない顔を、くるりと別の方向に向ける。豪華な外装をしたハノハノリゾートホテル。そこは今、逃げ込んだ観光客でごった返しになっていた。

 すると生命体はまるで帽子でも取るかの様に、頭部を取り外して掌に浮かせた。そのまま頭部を軽く放り投げる。投げられた先は大衆の蠢くホテル。そこで数秒後に巻き起こる惨劇を想像する事は、誰にでも容易だった。

「マズい!」

 今更動いたところで惨劇は止められない。ただ黙って事態を眺める事しかできないと思われたその時、落下する頭部をハイドロポンプの噴射が見事射止めた。

「!」

 噴射台ではエドワードが、口から白い蒸気を吐くばかりだった。

 気付かぬ間に頭部を復活させた生命体は、攻撃を防がれて少し戸惑っているようだ。ここからはこちらの攻撃の番である。遥か上空を飛ぶ筈の生命体の背後に、突然怪物の気配が現れた。

「おらぁ! これでようやく殴り飛ばせるなぁ!」

 スネオの骨に打ち上げられたポルコが、興奮から血管を色濃く浮かび上がらせる。拳の準備は既に整っていた。

「食らえ! きあいパ」

 渾身の一撃を放とうとしたその時、ポルコの第六感が冴え渡る。

「!」

 ポルコは直前で必殺技をキャンセルすると、代わりに拳に炎を纏わせて生命体に殴り付けた。

「おらぁ!」

 頭部を強く殴られた生命体は、海へと一直線に突き落とされる。ポルコも残念ながら空を飛べる豚ではないので、自由落下を始めて海面に水飛沫を上げた。

「ポルコ!」

 墜落したポルコに、スネオが声を投げる。ポルコは無事なようで、酸素を求めて海から顔を出した。

「おい! あいつ恐らくゴーストだ!」

「えっ!?」

「普通に殴ろうとした時、こいつには効かねぇって感覚があった!」

 生命体のタイプに勘付いたポルコは、技を急遽変更して攻撃した。ネジの波導弾が当たらなかったのにも、それなら合点がいく。そこに明確な根拠はない。完全な野生の勘だった。

 彼は一つ息を吐くと、付けていたサングラスをアロハシャツのポケットに仕舞った。足をもたつかせる砂浜で、電光石火に走り出す。そして波打ち間際で、西に傾きだした空へと高く跳び上がった。

 視線の先は謎の生命体。ポルコに突き落とされた後、海からゆっくりと浮上していた。

 彼は生命体に照準を定めると、足を高熱の炎で燃やす。炎は足から全身に纏わり、海へと勢いよく降下していった。

 太陽と見間違える程の眩さに、生命体も濡れた顔を向ける。その時にはもう遅く、ナゴヤの右脚は生命体の胴体に不時着した。

「フレアドライブ!」

 あまりの衝撃と高熱に周囲の海は一瞬干上がり、半球体の穴が出来上がる。生命体は再び海に沈み、ナゴヤも波の荒れる海へと着水した。

「ナゴヤ!」

「よくやった!」

 ビーチから勝利を確信し、ハルカとエレナがナゴヤの健闘を称える。ポケモン達も自分達の勝利に酔い痴れていた。

「……シャツ焦げちまったじゃねぇか」

 顔を出したナゴヤは黒炭になったアロハシャツを見て、落胆の溜息を吐く。

 その時、光を反射する海から生命体が静かに浮上してきた。

「!」

 息を吐くにはまだ早かったかと、ナゴヤは警戒を強める。しかし生命体にもう戦闘の意思は感じられず、糸で引っ張られるかの様にオレンジに染まっていく空を昇っていった。生命体が現れた謎の空間の穴。そこまで辿り着くと、生命体はその穴の中へと吸い込まれる。そしてまるで何事もなかったかの様に穴は消滅し、鮮やかな夕焼けが目に染みるだけだった。

「……なんだったんだ、あいつ」

 生命体の目的はなんだったのか。そもそもあの生命体はポケモンだったのか。数え切れない程の謎が頭を埋め尽くすが、それを解消する術はどこにもない。

 ハノハノビーチは閑散とし、ただ波の音が耳の側で囀るばかりだった。

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