俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】ジョウト地方・45番道路
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《ピコタロー》がんばりやなピカチュウ。世界中のポケモンと人間と友達になるのが夢。
《カスガ》いじっぱりなブルー。顔は怖いが実は女の子。
《オーム》ゆうかんなヘラクロス。むしタイプをこよなく愛している。
《エドワード》のうてんきなオクタン。コウジから譲り受けた激強オネェ。
《バービー》いじっぱりなムチュール。庶民を卑下するセレブ。


【傑作選015】ひっつきもっつきみだれづき

 フスベジムのイブキに勝利し、見事ジョウト地方の全てのジムバッジを集めたハルカ。一同は世界最高峰と言われるポケモンリーグ――セキエイリーグを目指し、フスベシティを出て南に歩いていた。

「オーム! いわくだき!」

「おらぁ!」

 ハルカの指示に合わせて、オームは対峙するアリアドスに拳を振りかぶる。しかしアリアドスは素早く跳び上がって回避し、拳は地面に亀裂を入れるだけだった。

 現在ハルカは旅の途中で出逢った、同じくポケモンリーグに向けて修行中のエリートトレーナーとのバトルの真っ最中だ。トレーナーはまだ戦えると体を震わせる相棒のアリアドスに目を落として、ふっと表情を緩ませた。

「アリアドス! どくばり!」

「ミサイルばり!」

 両者が撃ち合った無数の針は中央で衝突し、周囲に砂埃が舞う。

 流石ここまで旅をしてきたトレーナー。簡単には勝たせてくれない相手に、ハルカの表情にも笑みが溢れていた。

 そんな勝負の様子を、木陰で彼女は仏頂面で見つめていた。

「はっ、馬鹿馬鹿しい」

 息を吐いて、バービーはそう言い捨てる。

「朝でも夜でも目と目が合ったらポケモンバトル。全く、一体勝負のなにが楽しいってのよ。汚れて疲れて傷付くだけじゃないの。これだから庶民の考える事はさっぱり分からないわ」

 高貴な自分には理解し難いと、バービーは目前の価値観を突っ撥ねた。

 勝負に熱中するハルカ達に、バービーの声は届かない。ただバービーの隣に座るカスガの耳には、しかと聞こえていた。

「……アンタねぇ、ちょっとは言葉考えなさいよ」

「はぁ?」

 カスガの言葉に、バービーは酷く顔を顰める。

「仮にも一緒に旅してる仲間でしょ? 別にバトルを好きになれとまでは言わないけど、バトルに一生懸命になってる仲間を馬鹿にするのはやめなさい」

 例え価値観が違えど、仲間の考えは尊重するべきだ。そう説教するカスガだったが、バービーの胸にはなにも響かなかったようだ。

「なに言ってんの? 別にアンタに説教される筋合いないんだけど」

 敵意を剥き出しにして、バービーはカスガに顔を寄せる。

「それともあれ? この前のジム戦でなにも活躍できなかったのを根に持ってるのかしら?」

「!」

 思い出すのは先日のフスベジム、イブキとの勝負。

「ごめんなさいねぇ、セレブはバトルでも活躍しちゃって」

「違う! ていうかアンタだって二戦目徹底的に対策されて、ボコボコにやられてたじゃないの!」

「それは私が対策必須な程手強かったって事でしょ? それに比べてアンタは一戦目に手も足も出せずボロ負けして、二戦目ではとうとうお役御免に」

「うるさいわね! 言っとくけど私はそれ以前のジム戦でそれなりに活躍してんのよ!」

「そんなの私知らないもの」

「なんですって!?」

「まぁまぁ! 二人共落ち着いて!」

 額を合わせて睨み合うカスガとバービーに、エドワードが慌てて仲裁に入る。しかし二匹の燃え滾る怒りは、みずタイプのエドワードでも鎮火できなかった。

 観客席が仲間内の喧嘩で誰も観戦していない状態でも、バトルは構わず続行する。オームはアリアドスのサイコキネシスの術中に嵌り、観客席よりも奥の茂みに飛ばされてしまった。

「クモのすで動きを封じろ!」

 今が勝負と言わんばかりに、アリアドスは口から粘着性の強い蜘蛛の巣を吐き出す。視界から消えたオームに向けて発射されたのだが、蜘蛛の巣はそれより手前のカスガの左手とバービーの右手に絡み付いた。

「え?」

「ん?」

「あっ」

 驚きも束の間、茂みの奥から立ち上がったオームの雄叫びが轟く。

「もぉー! 俺も本気出すぞー!」

 オームは見えない相手に大技を構えながら、勢いよく茂みを突破した。

「ちょっ、オーム待て!」

「メガホーン!」

 ハルカの制止も間に合わず、オームのメガホーンは手の繋がったカスガとバービーを空へと打ち上げる。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 二匹の悲鳴は遠い空へと吸い込まれていき、まるで流れ星の様にどこかの森へと消えてしまった。

「……あれ?」

「カスガー!」

「バービー!」

 名前を叫んでみたところで、彼女達に届く事は有り得ない。行方不明のハプニングにより、トレーナーとのバトルは中止に終わった。

 

 ◎

 

 鬱蒼とした森の中、空を旅したカスガとバービーは無事に不時着した。

「痛てっ……」

 地面に腰を打ち付けたカスガは、苦しそうに腰を擦っている。

「……ここどこかしら」

「なにこれ!?」

 現在地を模索しようと周囲に首を回していたカスガに、隣から甲高い声が響く。振り向いた先のバービーは、二匹の手に執拗に絡み付いた真っ白の蜘蛛の巣に口をあんぐりと開けていた。

「どうなってんの!? 全然取れないじゃないの!」

 強く引っ張ってみても、蜘蛛の巣は二匹の手を自由にさせてくれない。アリアドスの蜘蛛の巣の粘着性は相当強いようだ。どれだけやっても疲れるだけなので、二匹は自力での解放を早々に諦めた。

「なんでセレブの私がこんな目に……」

 運命を悲観して、バービーは溜息を吐く。

「こんなんじゃ私達、マタドガスみたいに一生一緒じゃないの……。あっ、一応言うけど、左の顔の大きい不細工な方がアンタね」

「どうでも良いわ! ていうか顔どっちも一緒でしょ!」

 いちいち棘のあるバービーの言葉に、カスガは声を荒げた。

「とにかく、早いとこ皆と合流しないと……」

 まずは仲間達との合流が先だと、カスガは飛んできた方向を思案する。その時隣のバービーに、とある名案が舞い降りた。

「あっ、蜘蛛の巣を外す方法思いついた」

「えっ!? なに!?」

 期待するカスガに、バービーは淡々と名案を口にする。

「片方の腕を切断する」

「怖いわ!」

 かなりサイコパスでホラーな妙案に、カスガは期待して損したと絶叫した。

「なにその道徳心の欠片もない方法! そんなの出来る訳ないでしょ!?」

「ごちゃごちゃうるさい! 良いからとっととアンタの左腕切り落としなさいよ!」

「なんで私の腕切り落とす事確定してんのよ!」

「当然でしょ!? 誰のせいでこんな事になってると思ってんのよ!」

「私のせいだって言いたいの!? 大体アンタがしょうもない喧嘩吹っ掛けてくるのが悪いんでしょ!?」

 木々の間を二匹の怒鳴り声がこだまする。その声に呼応して、翼が一斉に羽ばたく音が森に響き渡った。

「「ん?」」

 二匹は喧嘩を中断して、首を背後に回す。喧騒に気分を害した無数のオニスズメ達が、こちらに向かって飛来してきていた。

「「ギャァァァァァァァ!」」

 悲鳴を揃えると、二匹は腕を大きく振って走り出す。その足並みは、先程までの喧嘩が嘘の様にぴったりだった。

「ちょっと! これどうすんのよ!」

 どれだけ地面を走っても、空を飛ぶオニスズメに追いつかれるのは時間の問題だろう。するとバービーは、覚悟を決めたように足を止めた。

「……しょうがないわね!」

 くるりと体を戻すと、口の中に氷点下を下回る冷気を蓄える。

「れいとうビーム!」

 分厚い唇から放たれたビームは、空に向かって直進する。しかしオニスズメの群れの一匹にも直撃する事なく、やがて太陽の熱に溶かされた。

「あれ?」

 得意の冷凍ビームが不発に終わり、バービーの額に冷や汗が垂れる。

「ちょっと! なにしてんのよ!」

「うるさいわね! こういう日だってあんのよ!」

 緊急事態になっても、二匹の喧嘩は再発しそうになる。そんな二匹の口論を掻き消すように、オニスズメ達の怒号の大合唱が轟いた。

「「ギャァァァァァァァ!」」

 二匹はまたしても背中を向けて、全力疾走で逃げ出す。行く先はハルカ達の居る場所とは全くの逆方向だったのだが、今の二匹にそんな事を考えられる余裕はなかった。

 

 ◎

 

 エリートトレーナーと別れたハルカ達は、カスガとバービーの捜索の為、森の中へと足を踏み入れていた。

「カスガー! バービー!」

 大声で名前を呼んでみるも、こちらに返ってくる声は聞こえない。

「……居ないね」

「こっちの方に飛んでいったと思うんだけどなぁ」

 方角はこちらで間違いない筈なのだが、一向に彼女達の痕跡が見つかる様子はなかった。一緒に探すエドワードの表情にも影が差し込む。

「……あの子達、大丈夫かしら?」

「大丈夫だって! あいつらはそこまでやわじゃねぇよ」

 心配するエドワードを元気づけるように、ハルカは明るい声を投げ掛ける。しかしエドワードよりも元気づけるべきポケモンは他に居た。

「……ごめんな。俺のせいでこんな事に」

 二匹を弾き飛ばした張本人であるオームは、強く責任を感じているようだ。

「別にオームのせいじゃねぇよ! そんなしょげてないで、とっととあいつら見つけようぜ!」

「うん……」

 ハルカの励ましの言葉を受けて、オームは懸命に二匹を捜索する。しかし時間はそう待ってはくれなかった。

「……もう夕暮れだね」

 ピコタローの言う通り、太陽が西に傾いていく。夜間の森の捜索は危険だと、一同は二匹の捜索を翌日に移す事にした。

 

 ◎

 

 体力の底を尽いたカスガとバービーは、息を荒らして地面に座り込む。逃避行の末、なんとかオニスズメの群れからの逃走を果たしていた。

「……なんとか逃げ切ったわね」

 息も絶え絶えに、カスガが呟く。

「……もうこんな時間ね」

 ふと見上げると、空はすっかり紫色に塗り潰されていた。無数の星達が孤独な自分達をなんだか嘲笑っているように思えて、どこか胸が苦しくなる。

「今日はどこかで休むとしましょうか」

「はぁ!? 私野宿なんて嫌よ!」

「そんな事言ったってしょうがないでしょ」

 メリープの羊毛の様なふかふかのベッドが無いと寝られないと、バービーが駄々をこねる。そんなバービーに聞く耳も持たず、カスガはどこか良い寝床はないかと周囲を見回した。

 その時バービーの足元に、木からなにかが落ちてくる。

「ん?」

 青色に熟れたオレンの実。鼻先を擽る柑橘類の甘い香りは、忘れていた食欲を刺激させた。

「そういえば昼からなにも食べてなかったわね」

 バービーは空いている左手でオレンの実を拾う。しばらく観察すると、彼女はそれを無言でカスガに差し出した。

「えっ?」

「セレブは地面に落ちた物を口にしたりしないの。これは庶民のアンタにお似合いよ」

 カスガは右手で受け取りながら、バービーを見つめる。バービーの口からは、訊いてもいない演説が流れ続けていた。

「それにアンタは私より体が大きい訳だし? 随分食い意地張ってそうだから遠慮なく食べたらいいわ」

 その時、バービーの腹から「ぐぅ」と音が鳴る。

「………」

 あれだけ流暢に話していた口が閉じ、バービーのピンク色の頬は更に紅潮した。

 カスガは右手のオレンの実をじっと見つめる。するとオレンの実を半分だけ齧り、残った半分をバービーに差し戻した。

「ちょっと! 私は要らないって!」

「良いから食べなさい」

 一度は拒否したバービーだが、腹の虫が鳴ってしまった手前強くは断れず、恥ずかしそうにオレンの実を受け取る。そして半分のオレンの実を一口で頬張った。

「……庶民の味も悪くないわね」

「ふんっ」

 星空を眺めながら、同じオレンの実の味を噛み締める。その後すぐ近くにあった洞穴に身を隠し、二匹は静かに一夜を過ごす事にした。

 

 ◎

 

 ポッポの鳴き声が朝の訪れを報せる。

 洞穴の外から入ってきた朝の日差しに、カスガが目を覚ます。隣のバービーはカスガの左肩で、ぐっすりと夢を見ていた。

 しばらく寝させておきたい気持ちもあったが、そんな悠長な事は言っていられない。今日の内に、なんとしても仲間達と合流しなければならないのだ。早速バービーを起こして洞穴を出ようとしたその時、洞穴の奥から猛獣の呻き声が聞こえてきた。

「ん?」

 くるりとカスガは振り返る。そこには寝起きで機嫌の悪そうなリングマが、険しい目付きで立っていた。

「ちょっ! バービー! 早く起きなさい!」

「むぅ……なによもう……」

 カスガに叩き起こされ、バービーも眠気眼を擦りながら目覚める。寝呆けた視界に映ったリングマの威嚇は、どれだけうるさい目覚まし時計よりも目を覚醒させた。

「グォォォォォォォ!」

「「ギャァァァァァァァ!」」

 慌てて洞穴を飛び出し、早朝から全力で足を働かせる。リングマは棲み処を不法侵入した罪を簡単には許してくれないようで、地獄の果てまで追い掛けてきた。

「もう朝からなんなのよ!」

「昨日からこればっかりじゃない!」

 災難の連続だと不満が口を溢れる。

「こうなったら囮作戦よ! アンタ、大人しくあいつに食べられなさい!」

「嫌に決まってんでしょ!? ていうかこれ繋がってんだから、食べられる時は二人一緒よ!」

「そうじゃない! もう! 誰か助けてぇー!」

 バービーの必死のSOSが、森にこだまする。その声が届いたのか、どこからともなく声が聞こえてきた。

「エドワード! ハイドロポンプ!」

 激流のレーザービームが顔面に命中し、リングマは地面に倒れた。カスガとバービーは耳に届いた聞き馴染みのある声に、ビームの発射位置へと目を向ける。

「カスガ! バービー!」

 そこにはハルカを筆頭とした仲間達の顔が揃っていた。

「ハルカ!」

「皆!」

 見慣れた仲間達の顔に、カスガとバービーは安堵で表情を明るくする。

「ピコタロー! アイアンテールで蜘蛛の巣を斬れ!」

「任せて!」

 ハルカの指示に従って、ピコタローは尻尾を二匹の間に落とす。あれだけ強固だった糸は鋼鉄に硬くした尻尾で容易に解け、ようやく二匹は蜘蛛の巣から解放された。

「やった!」

「エドワードォ!」

 久々に自由の身となった二匹は、エドワードの胸に飛び込む。エドワードは吸盤が二匹にくっつかないように、母親の様な愛情で優しく抱き締めた。

「よくも俺達の仲間を!」

 立ち上がって濡れた毛を逆立たせるリングマに、オームは奮い立つ。今度は標的を間違えない。自慢の一本角に力を込めて、リングマに突進した。

「オーム! メガホーン!」

 オームの角がリングマの腹部に突き刺さる。強い衝撃にリングマは力なく倒れ、そのまま地べたで二度寝してしまった。

「大丈夫だったか!?」

 荒事を片付けて、一同は二匹の側に駆け寄る。エドワードから離れた二匹に、特に大きな怪我は無さそうだ。

「大丈夫じゃないわよ。ずっとこいつと一緒に居させられて、ストレスで溶けるかと思ったんだから」

「なんですって!? 私が世話してあげてたって言うのになんて言い草よ!」

「はぁ!? アンタに世話してもらった覚えなんてないんだけど!」

「ご飯も食べさせたし、寝る場所も見つけてあげたでしょ! セレブってのは一人じゃ生きていけない軟弱者の事なのね!」

「なによ!」

「なにさ!」

「まぁまぁ落ち着いて!」

 いつも通り喧嘩を勃発させる二匹に、エドワードが仲裁に入る。どうやら二匹に心配は無用なようだ。

「……もしかして、ちょっと仲良くなった?」

「そうか?」

 肩に乗ってそう耳元で囁いたピコタローに、ハルカは首を傾げる。顔を顰めて罵り合うカスガとバービーはとても友好的には見えなかったが、ピコタローの目には蜘蛛の巣よりも解けない絆が見えているようだった。

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