俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】シンオウ地方・ナギサシティ
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《エレナ》ハルカの幼馴染。ポケモンコーディネーターの修行の為、ハルカの旅に同行中。
《ネジ》おくびょうなルカリオ。波導の力が他個体よりも強いが臆病者。
《オジョー》てれやなエネコ。ハルカを恋い慕うもツンデレで素直になれずじまい。


【傑作選019】暗闇のナギサシティ

 早朝の潮風が波を騒がせる。

 最後のジムを目指して旅を続けるハルカ達は、遂にその目的地に辿り着いた。

「ここがナギサシティ……」

 街の全貌を目にして、ハルカは口を溢す。しかしその景色に、一同は違和感を覚えていた。

「なんて言うか……暗くね?」

 時刻は未だ日中。太陽が照らす中、海岸の岩場に栄えた街に人影は見当たらず、どこか物寂しい空気が漂っていた。町のシンボルだろう灯台も、ただのオブジェクトに成り下がっている。

「全然人居ないね」

「皆建物の中に居るみたいだよ」

 ネジが波導で街を確認したところ、少なくとも住人は存在しているようだ。ただ人が住んでいるにも関わらずこの静寂は、間違いなく異常である。

「一体どうなってんだ……?」

 異様な街の入口で、一同の疑問は増すばかりだった。

「あっ、あっちに人が居るみたいだよ!」

 波導で人の気配を感知して、ネジが黒タイルの陸橋を走り出す。ネジの背中を追い掛けると、陸橋の下から男二人の会話が聞こえてきた。陸橋から目を落として、岩場で向かい合う二人の男を確認する。

「こんな事早くやめろ! 街の人に迷惑掛けてんの分かってんだろ!」

 赤いアフロ頭の男が、スカした金髪の男にそう問い詰めている。どうやら話の内容は穏やかなものではないようだ。

「……そんな事、俺の知った事じゃない」

「おい!」

 男の熱い言葉も胸には響かず、金髪の男は踵を返して歩いてしまう。赤髪の男は口では止めようとしたものの、無駄と知ってか足を動かす事はなかった。

「すみませーん!」

 唐突に声が掛けられ、男は振り返る。橋から下りてきたハルカ達は、男のもとへと歩み寄っていた。

「この街の人ですか?」

「いや、そういう訳じゃねぇけど……」

 尋ねてきたハルカに、男はアフロ頭を掻きながら答える。

「俺この街のジムに挑戦しに来たんですけど、ジムの場所って分かりますか?」

 その質問に、男の手は止まった。

「……そっか」

 妙な様子の男に、エレナは首を傾げる。そんなエレナの疑問を吹き飛ばすように、男は眩しい笑顔を見せた。

「良いぜ! それなら俺が案内してやる!」

「ほんとっすか!?」

 案内役に立候補してくれた男に、ハルカは感極まる。

「あぁ! 俺の名前はオーバだ! よろしくな!」

 オーバはそう自己紹介すると、グッと親指を立ててハルカにウインクした。

「はい! よろしくお願いしますオバさん!」

「オーバだ!」

 寂れたナギサシティに、オーバのダイナミックなツッコミが激しく響き渡った。

 

 ◎

 

 暗闇の街と対比して、水平線が朝日を反射して光る。オーバの案内のもと、一同は黒タイルの陸橋を歩いていた。

「なぁオバさん」

「オーバだ!」

「なんかこの街暗くないですか?」

 改めて名乗ったオーバのツッコミは無視して、ハルカが街並を眺めながら話し掛ける。その内容はオーバの表情を神妙にさせた。

「……今この街は停電中なんだ。一人の男……この街のジムリーダーのせいでな」

「はぁ!?」

 予想外の回答に、ハルカは声を荒げた。

「ジムリーダー!?」

「元々重度の改造オタクでな、ジムに引き籠もって一人で機械弄ってんだ。改造に大量の電力が必要だからって、この陸橋もソーラーパネル付きに改造したんだっけか」

「陸橋も!?」

「まぁそれでも足んなくなって、結局停電起こしちまってんだけどな」

 今歩いているこの橋もジムリーダーの改造の産物と知り、ネジは驚愕する。この膨大な数のソーラーパネルでも不足する電力とは、一体なにを改造しているのだろうか。

「そいつは俺の親友でな。なに馬鹿な事してんだって説得しに来たんだが……話なんざ聞いてくれなかった」

 そう語るオーバの横顔は、どこか寂しそうだった。

「全く、はた迷惑なジムリーダーね」

 エレナの隣を歩くオジョーが、オブラートなど捨てて言葉を吐く。この言葉がオーバの耳に届かない事に、ネジはホッと安堵した。

「……もしかして、そのジムリーダーってさっき岩場で話されてた方ですか?」

「えっ?」

「ごめんなさい、ちょっとだけ話してるとこ見ちゃって……」

 振り返ったオーバに、エレナが申し訳なさそうに頭を下げる。ハルカもそこで、先程オーバと一緒に居た金髪の男を思い出した。

「……そうだ。あいつが俺の親友でナギサシティのジムリーダー……デンジだ」

 話の区切りがついたところで、一同は目的地に到着した。

「着いたぜ」

 街の建物とは異質な、どこぞの秘密基地の様なジムだ。ハルカは早速中に入ろうと自動ドアの前に立つ。しかしその扉が、ハルカの侵入を受け入れる事はなかった。手動で開けようにも、それらしきドアノブは見当たらない。

「……あのー、ドア開かないんすけど」

「こっちだ」

 ドアの前で立ち往生するハルカに、オーバが手招きする。オーバのもとに歩くと、なにやら怪しいボタンがあった。

「押してみろ」

 これがジムの扉を開くスイッチなのだろうか。言われた通りハルカはボタンを掌でポチッと押した。

 すると中で機械が騒がしく音を立てて動き出す。戦隊ヒーローのロボットでも出てきそうな壮大な機械音の中、ポンッとジムからなにかが飛び出してきた。ハルカが両手で受け止めて確認すると、それは小さな装飾品だった。

「これって……」

「このジムのバッジ、ビーコンバッジだ」

「ジムバッジ!?」

 突然手に入った勝利の証に、一同は目を疑う。

「どうして!? またジムリーダーと戦ってすらいないのに……」

「……あいつは今改造以外の全ての事に興味ねぇんだ。戦う意欲もありゃしねぇ。だからジムに挑戦しに来た奴らに、こうしてジムバッジをバラ撒いてんのさ」

 オーバはどこかバツが悪そうに目を伏せる。この現状にオーバが最も納得いっていないように見えた。

「……なんだよそれ」

 事情を聞いて、ハルカは掌のバッジを強く握る。

「こんな風に貰ったって嬉しくねぇよ! 俺はジムリーダーと戦って勝った証としてジムバッジが欲しいんだ! こんなバッジ俺は要らねぇ!」

 そう激怒して、ハルカはバッジを地面に投げ捨てた。血が頭に上って顔色は赤くなり、息も荒くなっている。

 憤りを露わにしたハルカにオーバは目を丸くしたが、不意にフッと口元を緩ませた。

「……そうだよな」

 オーバは待っていたのだ。このように熱く滾った挑戦者を。

「ついてきな! 俺がデンジに直接会う方法教えてやんよ!」

 そう言ってオーバは踵を返し、再び歩き出す。先を進んだ背中に、ハルカの熱った頭では追い掛ける以外の選択肢を選べなかった。

 

 ◎

 

 オーバの向かった先は、そう遠くなかった。ただ外周をぐるりと回って、ジムの裏側に来ただけである。

「ここは……」

 裏側には正面よりも控えめな両開きの扉があった。例によって扉は開かず、金属製の頑丈な構造をしている。

「ジムの地下に繋がる裏口だ。お前達にはここから、俺と一緒に電気室に向かってもらう」

「電気室?」

 オーバからの指令に、ハルカは首を傾げる。

「この街は今停電しちまってるが、なにも全部の電力が枯渇した訳じゃねぇ。こういう事態に備えて備蓄してある予備電力ってのがあるんだ。ただその電力をデンジが独占して改造に使いまくってやがる」

「そんな……」

「本当にクズね」

 改造に夢中で視野の狭まるジムリーダーに、エレナは呆れてオジョーは苛立った。

「これから電気室に向かって、その予備電力を街全体に行き渡るようにする。確かレバー一つで切り替えが出来た筈だ」

 予備電力が街に動けば、この暗い街並も解消される。

「そうすれば改造に必要な電力は無くなり、デンジも出てくるだろう」

「そしたら街の停電も元に戻る!」

 これは極めて責任重大な指令だ。ただハルカはそこに責任など、まるで感じていなかった。ハルカにとってこの指令は、ジムリーダーに挑戦する為の試練に過ぎないのだ。

「……分かりました」

 試練の内容を理解して、ハルカは裏口に目を向ける。

「ネジ」

 ネジは裏口の扉に左手を当てて目を閉じる。ひんやりと冷たい鉄から感じる波導で、扉の硬さ、重さ、厚さ等を測っていた。

「……うん、大丈夫」

 ふっと息を吸い込むと、全身の波導を左手に集中して、一気に放出する。

「はっけい!」

 瞬間、固く塞がれていた鉄の扉は、波導に歪んで吹き飛ばされた。

「よし! 良いぞネジ!」

 裏口の開放に成功したネジを、ハルカが褒める。いとも容易く扉を抉じ開けたネジに、オーバは感心していた。

「へぇ……なかなかやるじゃねぇか」

 これは期待できると、オーバの口角が上がった。

「それじゃあ行くぞ! 電気室へ!」

「おぉ!」

 試練達成を目指して、一同は地下への階段を駆け下りる。向かう先は予備電力の眠る電気室だ。

 ただこの強行突破に、中の人間が気付いていない筈がなかった。侵入者の登場を報せるアラートが鳴り響き、男は改造の手を止めてモニターを見る。監視カメラに映った友人と見知らぬ若者に、男は不愉快に目を細めた。

 

 ◎

 

 階段を下りて無機質な通路を走るハルカ達。その道は決して簡単なものではなかった。

「なんだあれ!?」

 進行方向から飛んできた機械に、ハルカは目を見開く。二体の機械はコイルの様な一つ目のカメラを内蔵して、こちらに襲い掛かってきた。

「デンジが開発した警備ロボットだ! 俺達を追い出そうとしてんだろう!」

「ヤバいじゃないですか!」

 街の電気を復旧させる為、ジムリーダーに挑戦する為、こんなところで引き返す訳にはいかない。

「ネジ! はどうだん!」

 ハルカの指示に、ネジは両の掌に波導を集中させて弾を生み出す。その弾を警備ロボットに撃ち放つと、ロボットは木っ端微塵に崩壊した。

「ナイス!」

 危機を脱して、ハルカはガッツポーズを握る。しかし問題はこれで収まらない。今度は進む先の通路がT字に分岐していた。

「分かれ道!?」

「流石に俺も分からねぇな……!」

 もし道を間違えてしまえば、かなりの時間を浪費してしまう。

「ネジ!」

「ちょっと待ってて!」

 ネジは瞼を閉じ、走りながら深く息を吸い込む。そして波導で脳内にジムのマップを作製した。複雑に交差する地図の中から、それらしき電気室のレバーを発見する。

「見つけた! 右だ!」

 先を走ったネジに従って、一同も分かれ道を右へとハンドルを回した。

 曲がった先でも警備ロボットは一同に襲い掛かる。その度にネジが波導弾で撃ち落とし、ネジの体力を消耗させていった。

 ふと気配を感じて、オジョーが振り返る。すると後方から、警備ロボットの大群がこちらに接近してきていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 オジョーの悲鳴に、一同も反応する。ただネジは正面からの警備ロボットへの対応に手一杯だ。

 絶体絶命の状況下、何故かオーバは足を止めて表情を崩す。

「よし、それじゃあ俺達も少しばかり力を貸すとするかな!」

 オーバは取り出したモンスターボールを力一杯投げる。中から飛び出したのは、頭に炎を燃やした業火の猿だった。

「あのポケモンは……」

「ゴウカザル……?」

 初めて見るポケモンに、ハルカはポケモン図鑑で名前を確認する。その間にも警備ロボットはこちらに襲い掛かっていた。

「ゴウカザル! マッハパンチ!」

 オーバの指示に、ゴウカザルは警備ロボットを目で捕捉する。刹那、ゴウカザルの音速の拳が、警備ロボットの大群を一体も漏らす事なく破壊した。

「!」

 正に一瞬の出来事で、ハルカは目を疑う。あれ程大量に居た警備ロボットは、今やガラクタとなって通路に倒れていた。

「……もしかしてこの人、実はめちゃくちゃ強い?」

 目の前のアフロ男の真の実力にようやく気付いて、ハルカは額に冷や汗を垂らした。

「よし! そんじゃあさっさと先行くぞ!」

「はっ、はい!」

 颯爽と駆け出したオーバとゴウカザルに、ハルカもいつの間にか止まっていた足を走らせる。目的の電気室はもう間近に迫っていた。

「見えた!」

 ロボットの警備を掻い潜った先で、ネジが声を上げる。進行先に見えた扉には、確かに『Electrical room』と記載されていた。

 ネジは先に突っ走って、電気室の扉を開ける。中には最新の精密機械が音も立てずに光を放出していた。その中でネジは、一際目を惹くレバーを見つける。

「ネジ! レバーを下ろせ!」

 走るハルカの指示に合わせて、ネジは上がっていたレバーを下ろす。瞬間、静かに稼働していた精密機械は光を失って息を止めた。

 それと同時に、暗闇に覆われていたナギサシティに電気が戻る。オブジェクトに成り下がっていた灯台は光を取り戻し、家に閉じ籠もっていた住人達も晴れやかな表情で外に飛び出していた。

「よくやったぞネジ!」

 電気室に到着したハルカは、優れた活躍を魅せたネジに跳び掛かる。思い掛けない奇襲に困惑こそしたものの、その様子は満更でもなさそうだった。

「これで停電も戻ったんですよね……?」

「あぁ、その筈だ」

 地下からでは街の状態を確認できず、エレナはオーバにそう確認する。心配しなくとも、試練は無事達成された。

「だからあとは」

 オーバが口を開こうとすると、それを遮るように扉が開く。一同が振り返ると、この城の主である金髪の男が電気室へと靴を鳴らして入ってきた。

「……出てきたな」

 全て作戦通りといったように、オーバは笑みを浮かべる。対して男の表情は、仏頂面に不機嫌を上乗せしたようだった。

 遂に相対した男に、ハルカは目付きを険しくさせる。そんな威嚇など一切通用しないとでも言うように、ナギサジムのジムリーダー――デンジは冷徹にハルカに視線を送っていた。

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