俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】カントー地方・タマムシシティ
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《ピコタロー》がんばりやなピカチュウ。世界中のポケモンと人間と友達になるのが夢。
《ポルコ》やんちゃなオコリザル。自称最強の格闘家。
《トランプ》うっかりやなコダック。みずタイプなのにカナヅチ。


【傑作選002】突撃! ロケット団アジト!

 タマムシシティの娯楽の巣窟、ロケットゲームコーナー。数多のスロットマシンが取り揃えられており、大人から子供まで、老若男女が楽しめるタマムシシティの名物スポットである。

 しかし、スロットを回す多くの利用客は知らない。ゲームコーナーを運営するのが、カントー地方を中心にポケモンの非合法取引、生体実験で資金を稼ぎ、世界の征服を目論むポケモンマフィア、ロケット団だという事を。そのスロットの裏側に、ロケット団のアジトが隠されているという事を。

 ドガァァァンッ!

「「!?」」

 突然の騒音に、アジトで息を吐いていたロケット団の下っ端達は揃って顔を弾かせる。衝撃に舞った砂埃で視界は濁っていたが、壁に殴り壊されたような大きな穴が空いているのが確認できた。その穴の向こうには、眼前のスロットも放置してこちらに目を奪われるゲームコーナーの様子も窺える。

 砂埃の奥に影が薄らと見える。どうやら壁を破壊して乗り込んできたのは、たった一人と三匹のようだ。

「誰だ!?」

「一体なにしに来た!?」

 下っ端の疑問を晴らすように、砂埃が晴れていく。

「俺が誰だって?」

 そこに立っていたのはポケモントレーナーの少年と、ピカチュウ、コダック、オコリザルだった。

「俺の名前はハルカ! お前らをぶっ潰しにきた!」

 ハルカの悪に怯む事のない宣戦布告に対し、下っ端達も戦闘態勢に入った。

「クソガキが!」

「貴様なんかにこのロケット団が潰されるか!」

 下っ端達はモンスターボールを取り出し、それぞれアーボック、ゴルバットを繰り出した。アーボックは舌を出してこちらを威嚇し、ゴルバットも黒い眼差しで睨んでくる。

 しかし、その程度でハルカ達の憤りが委縮する事は無かった。

「ポルコ! メガトンパンチ!」

 ハルカの指示を受け、ポルコは右の拳に力を溜める。最大限まで威力の溜まったその拳を、ポルコは怒り任せに殴りつけた。

「おらぁぁぁっ!」

「「ぐはぁっ!」」

 ポルコのメガトンパンチは激しい衝撃波を生み、アーボックやゴルバットだけでなく、背後にいた下っ端達まで吹き飛ばしてしまった。

 侵入して最初のロケット団員下っ端との戦いを勝利で収めたハルカ。しかしここはロケット団アジト。息吐く暇もなく、騒ぎを聞きつけた別の下っ端達が、滝の様に溢れてくる。

 ただ今のハルカにとって、それらは恰好の的だった。

「行くぞ!」

「「「おぉっ!」」」

 ハルカはピコタロー達の気合いの帯を締め直し、下っ端達の群れに突撃する。目指すは最下層に待つ、ロケット団のボスのもとだ。

 

 ◎

 

 ロケット団アジト、最下層。

 裏社会の覇権を牛耳るロケット団。そのボスの部屋には、深紅のカーペット、ケンタロスの剥製など、裏稼業で稼いだであろう高価なインテリアが多く飾られている。地下室だからか、外の騒音は全くと言っていい程届いていなかった。ただ優雅な、膝元のペルシアンの毛並を繕うだけの時間が流れる。

 そんな優雅な部屋に、一人の団員がノックを二つして入ってきた。

「失礼します! 現在、このロケット団アジトに侵入者が現れ、こちらに向かってきております!」

 ペルシアンを撫でる手が、ピタリと止まる。

「侵入者? 国際警察か」

「いえ、それが……」

 空色の髪をした団員は、どこか言い難そうに報告した。

「侵入したのは、たった一人の子供だという事で……」

「子供?」

 ボスはペルシアンを撫でていた手を、監視モニターと繋がったリモコンに伸ばす。電源を付けると、確かにこのアジトで暴走する一人の少年が映し出されていた。その少年に、ボスは見覚えがあった。

「この少年は、御月見山の……」

 以前御月見山にて化石の採掘を命令したところ、とある少年に阻止されたという報告書が返ってきた。その時添付されていた写真に写る少年と、今モニターに映る少年は瓜二つ。

 不意にボスの口角が、クイッと歪む。

「……面白い」

 その不敵な笑みに、団員の背筋は凍り付いた。

「果たしてここまで辿り着けるかな」

 モニター越しの少年にそう期待の目を向けながら、ボスはまたペルシアンの毛を繕い始めた。

 

 ◎

 

「トランプ! みずでっぽう!」

 ハルカの指示を受け、トランプは嘴から水を噴出させる。放たれた水の弾丸は下っ端のラッタに直撃し、そのまま下っ端諸共壁に激突させた。

 警察も躊躇するような悪の権化であるロケット団アジトの中、ハルカは一介のトレーナーとは思えない程の快進撃を見せていた。行く手を阻む下っ端達を、ピコタロー、トランプ、ポルコが次から次へと戦闘不能に陥れる。もうハルカ達を止める手段など、万に一つも見つからなかった。

 ふと倒れた下っ端のポケットから、なにか光った物がぽたりと落ちる。ハルカが気付いて拾いに行くと、それはRの文字の記されたカードキーだった。

「これがエレベーターのカードキー……!」

 ロケット団アジトを縦に繋ぐエレベーター。これさえあれば、最下層に待つロケット団のボスのもとまで辿り着ける筈だ。

 しかし、行く手を阻む下っ端達は、未だ湧水の如く湧いて出てくる。全てを相手にしていては、最下層に辿り着いたところで蛻の殻だろう。確実にロケット団を殲滅するべく、ハルカは決断と共にカードキーを握り締める。

「トランプ! ポルコ! ここは頼んだ! 俺達は先にボスのところに行く!」

「分かった!」

 いつもは頭を抱えるばかりのトランプも、今日は好戦的だ。ハルカはトランプの頼れる勇姿に背中を託し、ピコタローと共に走り出す。

「行くぞピコタロー!」

「うん!」

 最下層を目指して小さくなるハルカとピコタローの背中を、トランプは見送った。彼らならやってくれる。幾日か寝食を共にした旅の中で、理屈や計算を超越した信頼を彼らに抱くようになっていた。ならば自分は、彼らからの信頼に応えるべく、この通路を守り切る。共に残った仲間と共に。

「よし、ポルコ! おいら達もこいつら倒して、早くハルカのとこに」

「おらぁ!」

 ポルコは傾れ込む下っ端達を、片っ端から薙ぎ払っていった。

「弱ぇ! 弱ぇ! 弱ぇぞお前ら! もっとかかってこいよ! 最強の俺様が、お前ら全員殴り倒してやるぁ!」

 そうマイクパフォーマンスを謳いながら、両の拳でロケット団を圧倒していくポルコ。その姿は、まるで爆発するんじゃないかと思う程に熱く燃え滾っていた。そんなポルコとは対照的に、トランプの体温はどんどんと冷えていく。

 ――……これ、ポルコだけで良いんじゃないかな?

 これなら通路の隅で寝そべっていても気付かれないんじゃないかと思った時、トランプの頭をゆっくりと痛みが襲ってきた。

 

 ◎

 

 エレベーターで最下層にまで下り、残っていた下っ端達を蹴散らすと、明らかに豪壮な様相をした扉が待ち構えていた。ハルカとピコタローはスピードもそのまま、その扉に体当たりする。扉の中は、どこかの貴族の様な部屋だった。

 鮮やかな血の色のしたカーペットの先には、アンティークな机と社長椅子。その椅子には、とある男がどっぷりと腰を下ろしていた。

「やぁ、よくぞここまで来た」

 男がそっと口を開く。オールバックから漂ってくる気配から、その男がこれまで相手にしてきた下っ端とは格が違うという事実が、肌に直接伝わってきた。

「私がこのロケット団のボス、サカキだ」

 サカキの膝元にはペルシアンが寝そべっている。こちらを見つめてくるその瞳は、どうもこちらを挑発しているようだった。

「君は一介のポケモントレーナーだろう。そんな君が、何故こんなところまで」

 暢気な口で宣うサカキに、ハルカの蟀谷に血管が浮かぶ。

「お前らをぶっ潰しにきた」

「おぉ、それは物騒だ。しかし、私達が君になにか危害を加える真似をしたかね?」

 サカキはハルカの気を逆撫でするかのように口を開く。

「私達の目的はこの世界の全ての権限を手中に収める事。その為に必要なのがまず資金だ。ポケモンの化石や死骸というのは、そこらの悪行よりも金になる。それらで合理的に資金を集める事のなにが悪いという? この世は弱肉強食。私はこの世の理念に従って、自分より弱い者を資金源にしているだけだ。弱者の都合など、強者には一切関係ない。何故なら、己が弱いのが全ての原因なのだからな」

 瞬間、ハルカとピコタローの憤りが限界点に達する。

 思い出すのはポケモンタワーの惨劇。ロケット団との死闘により荒らされた血塗れの墓場。嗚咽交じりに泣きじゃくる一匹のカラカラ。思い出すだけで胸が苦しくなって、腸が煮えくり返った。

 先に痺れを切らしたのはピコタローだった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ピコタロー!」

 名前を呼ぶハルカの声も聞こえない程、ピコタローは電光石火にサカキに向かって走り出した。頬の電気袋からは感情と共に稲妻が溢れ出す。

 真正面から空気が痺れる程の殺気が襲ってくるにも関わらず、サカキは余裕の笑みを浮かべていた。ふとスーツのポケットを弄り、中から一つモンスターボールを取り出す。サカキがそれを軽く放ると、ピコタローとの間に紙一重で紫色の壁が聳え立った。ドリルポケモンのニドキングだ。

「!」

 ピコタローは突如サカキの前に現れたニドキングに突撃する。怒りに任せた無鉄砲な突撃も、ニドキングの前では蚊に刺された程度の如く無力に終わった。

「ニドキング、弾き返せ」

 サカキの命令に従って、ニドキングはその屈強な腕をピコタローに振るう。ピコタローは為す術無く腹にその腕を食らい、来た方向へと弾き飛ばされた。

「うわぁっ!」

「ピコタロー!」

 こちらに飛んできたピコタローを、ハルカがタイミングを計ってキャッチする。腕の中で眠るピコタローは、どうもこれから戦線に復帰するのは不可能そうだ。

「私は私の野望を実現する」

 サカキは徐に椅子から立ち上がり、こちらに語り掛けてくる。その声は温厚だったが、喉の奥には大人の嫌な威圧感が確かにあった。サカキの前にはニドキング、ペルシアンが立ちはだかり、鉄壁の防御陣形を敷く。

「その邪魔立てをするというのであれば、例え子供だろうと容赦はしない」

 忠告を超えた大人の脅迫。このままサカキに歯向かい続ければ、恐らく只では済まないだろう。

 しかし、元より只で済むつもりはない。ここに乗り込んだ時から、ハルカ達の覚悟は決まっていた。

「……ふざけんな」

 ハルカはピコタローを腕に抱えたまま、腰に巻いたウエストポーチから二つのモンスターボールを取り出した。

「そんなクソみてぇな野望の為に、ポケモン達の人生狂わせて堪るか!」

 怒りをぐしゃぐしゃに丸めて投げる様に、ハルカはモンスターボールを投げつける。宙でモンスターボールは封を開き、二匹のポケモンがカーペットの上に着地した。その姿に、サカキの目は見開く。現れたそのポケモンは、サカキが初めて肉眼で確認するポケモンだった。

 遡る事一時間前。

『俺、どうしても許せない奴らがいるんだ』

 タマムシシティのポケモンセンター。誰でも利用可能なパソコンの前で、ハルカは神妙な面を見せていた。

『そいつらは自分の私利私欲の為にポケモンを虐殺して、今も平気な顔して笑ってる。俺はそいつらをぶっ潰さねぇと気が済まねぇんだ!』

 パソコンの画面には一人の少女と幾匹のポケモンが映っている。現在ビデオ通話で、画面の向こうと通信中。こちらの震えるような声も、軋むような顔も、全て向こう側に映されていた。

『頼む! 俺達に力を貸してくれ!』

 そう画面越しに頭を下げるハルカ。深々と下げた頭では、画面を確認する事は出来ない。

 不意に画面の奥に映っていた山が、ハルカの想いに共鳴したかの様に動き出す。滅多に動く事の無いその山に、少女も振り向いて驚いていた。

『馬鹿言ってんじゃねぇ』

 画面から聞こえた声に、ハルカは顔を上げる。声の主であるそのもうかポケモンは、珍しく暗雲の立ち込めた表情の相棒に言葉を吐いた。

『俺達の力は、最初からテメェのもんだ』

 その嘴から吐かれた言葉に、ハルカの表情に光が射す。そうだ、俺にはこんなにも頼もしい仲間がいる。そう強く思えた瞬間、ハルカを立ち込めていた暗雲など、綺麗さっぱり消え去っていた。

 サカキの前に現れたのはバシャーモのナゴヤ、そしてケッキングのニートだった。

「そうか。ホウエンの出身だったか」

 初めて目にするバシャーモとケッキングだったが、その姿は別地方のポケモンも収録した図鑑で把握済みだった。

 強いオーラを発する二匹のポケモンを前に、サカキは依然飄々としていた。

「だがしかし、果たしてそいつらに私のポケモンの相手が務まるか?」

 サカキが振り上げた右腕を合図に、ペルシアンはナゴヤに、ニドキングはニートに襲い掛かる。

「ナゴヤ! ニート!」

 ペルシアンはナゴヤに切り裂く先制攻撃。しかしナゴヤはその鋭利な爪を難なく躱し、ペルシアンに体を返す。ペルシアンも今のは挨拶代わりだと言わんばかりに主人に似た笑みを見せ、今度は十数匹もの影分身でナゴヤを取り囲ってみせた。

 ニドキングもニートに突進し、その重量級なパンチを右腹部へとお見舞いする。ニートは両腕でガードを固め、二撃、三撃とニドキングの猛攻を凌ぎ続けるが、ニドキングの腕に備わった毒の棘が、ニートの体内に毒を蝕ませた。

 分身したペルシアンは一斉に跳び掛かり、ナイフの様に尖った爪でナゴヤの喉元を狙う。

 ニドキングは渾身の右ストレートを、猛毒に侵されるニートの鳩尾目がけて叩きつけた。

 しかし、二匹は知らなかった。今相手にするこの二匹が、以前ホウエンの舞台でジムを制覇し、ポケモンリーグの本選に出場した経歴を持つポケモンだという事を。

 今際の際の中、ナゴヤは冷静沈着に両脚に高火力の炎を燃やす。

 ニドキングの右ストレートは、ニートの左手によって容易に止められていた。

 ナゴヤは見切りをつけていたペルシアンの本体に向かって右脚を、ニートは最大限まで力を溜めていた右腕を、相棒の憤怒と一体化する様にぶつけてみせた。

「ブレイズキック!」

「からげんき!」

 ペルシアンは分身を塵にしながら本棚に直撃し、崩れた本の下敷きに。ニドキングは鳩尾に受けた衝撃に耐え切れず、そのまま深紅色のカーペットに伏せてしまった。

 瀕死に倒れた二匹を前に、サカキは驚きを露わにしていた。

「まさかここまでとは……」

 ナゴヤとニートの先に立つハルカと目が合う。ピコタローを腕に眠らせるその瞳は、こちらが火傷する程に熱く燃え滾っていた。

 後は敵の頭を叩くだけ。そう思った矢先、サカキの口角が吊り上がる。

「しかし、君達とはここでお別れだ」

「なに?」

 すると、ハルカの耳にどこからか奇妙な音が聞こえてくる。目の前のサカキからでも、背後から来る敵の増援の音でもない。音の発生源は最下層のこの部屋の更に下、地下だった。

 ボコッとサカキのすぐ側の床から、とあるポケモンが顔を出す。地面と同じ色をした三位一体の顔を。

「ダグトリオ……」

 サカキはニドキング、ペルシアンを手中のモンスターボールに収めると、ダグトリオの掘ってきた穴へとゆっくり歩を進める。その穴がこの閉ざされた地下室の唯一の逃走経路である事に、ハルカは気付くのが遅かった。

「逃がすな!」

 ハルカの指示を受け、ナゴヤは床を蹴って自身を加速させる。しかし、その右脚がサカキに届く事は無かった。

「ではな少年。君とはまた、どこかで戦いたいものだ」

 そう言い残し、サカキはダグトリオの穴へと姿を晦ました。一歩遅く辿り着いたナゴヤは、深い穴を覗いて鋭く舌を打つ。どうやら後を追うのは困難のようだ。

「ハルカ!」

 背後の扉の奥から、ペタペタとこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてくる。エレベーターを下りてやってきたトランプとポルコだ。上層の下っ端は、恐らくポルコが全て片付けたのだろう。

 慌てて駆けつけたトランプだったが、ハルカの側に行くまでにピタリと足を止める。ハルカの周囲に、とても近寄り難い匂いを感じ取ったからだ。

 ハルカはピコタローを腕に抱えたまま、膝から崩れ落ちる。歯をギリギリと軋ませ、喉の奥から魂を振り絞る。

「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!」

 こちらに襲い掛かる敵はもう居ない。声とは逸脱した絶叫が、蛻の殻となったロケット団アジトに空しくこだました。

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