俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】ガラル地方・ナックルシティ
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《ブロリー》ようきなゴリランダー。褒め上手な太鼓持ち。
《ショーン》おだやかなバイウールー。羊の執事。
《カシワ》ゆうかんなネギガナイト。誇り高き騎士。
《シイナ》がんばりやなカジッチュ。都会に憧れる田舎者。
《ゴゴティー》むじゃきなポットデス。悪戯好きなトラブルメーカー。
《アホウ》のうてんきなウッウ。阿呆。


【傑作選022】ガラルの未来の為に

 ナックルスタジアムの最深部。マクロコスモスが開発したエネルギープラントは、ガラル全土の電力を担っているという。そんなガラルの心臓とも言えるエネルギープラントは、深紅のタイルを不思議な電飾が照らしており、発電施設とは思えない不気味さを演出していた。

「……なにをする気なのかな、ジムチャレンジャー」

 エネルギープラントに一人立つローズは、駆けつけたハルカに声を掛ける。ハルカは眉間に皺を寄せ、険しい表情をローズに向けていた。

「ブラックナイトを止めます!」

「うわー、驚いたな。君はなにを言っているんだ。もう止める必要はない。既にブラックナイト……いや、最強のポケモン――ムゲンダイナは目覚めたんだよ!」

 ローズの後方には巨大な黒塗りの瓦礫が散乱していた。そこにかつてガラルに災厄をもたらした元凶――ブラックナイトことムゲンダイナが眠らされていたのだろう。

「ちょっと良いかな?」

 ムゲンダイナが壊した天井から光が落ちる中、ローズは雑談を始めた。

「君からすれば、私は酷い事をしているだろうね。微塵も理解できないのだろう」

 静かに憤るハルカを、ローズは軽く諭す。

「だがね、私にはガラル地方が永遠に安心して発展する為に、無限のエネルギーをもたらす信念と使命があるのだよ! その為、ムゲンダイナにねがいぼしを与えていたのだ! 各地で起きた赤い光の騒ぎ……あれもムゲンダイナを目覚めさせる実験の一環だった!」

 ガラル各地で起きた、ガラル粒子の暴走による突然のダイマックス。多くの人間とポケモンが傷付き、混沌を生み出していた。それもまた、彼の計画による副作用だったようだ。

「良いかね? ガラルの未来を守る計画を邪魔するなんて、以ての外なんですよ!」

 自分の絶対的正義を信じて、ローズは行動している。そんなローズを、ハルカは密かに尊敬していた。

「俺には……千年先の未来の話とか、正直よく分かんないです」

 自分が死んだ後の未来など、ハルカには想像もつかない。

「でも、その為に今生きてる人達が犠牲になるのは間違ってる!」

 それだけは譲れないと、ハルカは強くローズに叫んだ。

「……やはり君には理解できないようだね」

 ローズはネクタイを緩めると、スーツのポケットからハイパーボールを取り出す。すると濃度の高いガラル粒子がハイパーボールに集まり、瞬く間に巨大化させた。ローズはそれを両腕で力一杯投げて、巨躯なポケモンを出現させる。長方形の銅像に、ショベルの様な巨大な鼻を取り付けたポケモン。どうぞうポケモンであるダイオウドウのキョダイマックスした姿だ。

「俺達も行くぞ!」

 キョダイマックスにはキョダイマックスだと、ハルカもモンスターボールを取り出してダイマックスバンドに力を込める。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 しかしどれだけ力を込めても、モンスターボールは大きくならない。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 力が足りないのかと、ハルカは血管が破れる程の気合いをモンスターボールに注ぐ。しかしモンスターボールが大きくなる様子は、一向に見えなかった。

「はぁ!? なんでダイマックスできないんだ!?」

 今までに例を見ない未曽有の事態に、ハルカは困惑する。その様子に、ローズはどこか面白そうに鼻を鳴らした。

「ダイオウドウ、彼を帰してあげなさい」

 ローズの指示に、ダイオウドウは巨大な鼻で強く息を吸い込む。そしてそれを噴出し、まるで嵐の様な風をハルカに送りつけた。

「うっ!」

 平衡感覚を保つのもやっとな強風に、ハルカの足が少しずつ後退する。するとハルカのポケットのモンスターボールが人知れず開き、ハルカの前に青緑の盾を置いた。

「カシワ!」

 主人を守るべく飛び出したカシワは、吹き荒れる強風を一身に受け止める。

「どうした! 何故ダイマックスしない!」

「それが、どういう訳かダイマックスできねぇんだよ!」

「なに!?」

 ダイマックスを一向に使用しないハルカを、カシワも不思議に感じていた。凛々しい瞳を正面に向けると、ローズがどこか不敵に微笑んでいる。

 カシワは強風を左の盾で抑えながら、右の槍に力を溜める。そのまま風を裂くように走り出し、巨大化したダイオウドウの眼前まで跳び上がった。カシワはダイオウドウの眉間に目掛けて、力の溜まった槍を突き刺す。

「スターアサルト!」

 しかしダイオウドウの鋼鉄の肌に刺さった瞬間、槍はピクリとも動かなかった。

 ――硬い!

 飛べない鳥である空中のカシワは、正に格好の標的だ。

「キョダイコウジン」

 息の噴出を止めたダイオウドウが鼻を鳴らすと、赤のタイルから青く錆びた銅が溢れてくる。青銅は先端を尖らせると、空中のカシワを無数の針で串刺しにした。

「ぐはぁ!」

「カシワ!」

 傷を負ったカシワは、着地も儘ならずに床に倒れる。ハルカが心配で駆け寄るも、カシワは自力で立ち上がった。

「……恐らくブラックナイトの影響で、周辺のダイマックスパワーに異変が生じている」

「えっ!?」

「故にハルカはダイマックスが使えず、奴らのダイマックスは格段にパワーアップしている」

 先程のダイオウドウの硬度は恐ろしい程に異常だった。ハルカがダイマックスを使用できないのも、ブラックナイトが原因と言われれば納得する他ない。

「成程……だったら!」

 カシワの推論を聞いて、作戦変更だとハルカは全てのモンスターボールを開く。

「総力戦でローズのおっさんに勝つぞ!」

「おっしゃー!」

「おらも頑張る!」

「クァ――――!」

 一斉に解放されたガラルのパーティは、皆立ち塞がる巨大な壁に体を奮わせていた。

 その時、一同の足場に青い影が忍び寄る。

「ん?」

 瞬間、床から無数の青銅の針が一同の体を突き刺していった。

「うわっ!」

「お前ら!?」

 突然の奇襲に反応も出来ず、一同は早くも出来てしまった傷に苦しむ。

「畜生! 一体いつの間に攻撃を!?」

「今の攻撃……まさか先程の攻撃と同時に!?」

 単独で突撃した時に返り討ちにされた技と既視感を覚え、カシワはその時に仕組まれた罠であると悟った。

「ちょっと! いきなりウチになにすんだよ!」

 怒りで沸騰しかけたゴゴティーは、両手でシャドーボールを生み出して勢いそのままに撃ち放つ。一歩も動かないダイオウドウに弾は直撃したが、その体には傷一つついていなかった。

「全然効いてない!」

 表情すら変えないダイオウドウは、まるで本物の銅像の様だった。

「今ブラックナイトの影響で、奴の体は難攻不落の要塞と化している。生半可な攻撃では、奴を攻め落とすなど不可能だ」

 相手の様子を説明したカシワに、シイナの顔色が青林檎の様に真っ青になる。

「そんな……そしたらどうすれば!?」

「……我が倒す」

「えっ!?」

 カシワの宣言に、一同は目を向けた。

「倒すって、アンタたった今攻め落とすのは不可能って!」

「我の全身全霊の力を、このネギスカリバーに込める。その一撃で、必ずや奴を打ち倒してみせる……!」

 純白の刃が光るカシワの愛剣――ネギスカリバー。幾度となく困難を斬り開いてきたこの武器なら、目の前の壁もきっと乗り越えていけるだろう。カシワはそう信じていた。

 覚悟と共にネギスカリバーを握るカシワに、ハルカも決心する。

「……お前ら! カシワを全力で援護しろ!」

「「「「了解!」」」」

 ハルカの号令に、一同の気合いの入った声が揃って響いた。

「ドカーンと一発、やってみせましょうかね」

 団結力を高めるハルカ達を眺めて、ローズは淡々と指示を送る。ダイオウドウの巨大な鼻が、一同を圧壊させようと上から押し寄せてきた。

「くっ、来るよ!」

「退がってください」

 迫り来る危機に肝を冷やしていると、ショーンが一同の前に立って自慢の羊毛を増殖させる。

「コットンガード!」

 柔らかく上質な羊毛はダイオウドウの鼻を優しく包み、与えられるダメージを最小限に抑え込んだ。

「よくやったショーン!」

「流石の包容力だな!」

 通常営業のブロリーの太鼓持ちに、ショーンは澄ました態度で羊毛を元に戻す。

 ショーンの影から急に飛び出したのはゴゴティーだ。

「あったまきた! さっきから痛そうな攻撃ばっかしやがって!」

 ゴゴティーは怒りを露わにすると、両手をダイオウドウに向けて伸ばす。繰り出す技は攻撃技ではない。次の仲間に繋げる為の補助技だ。

「ちからをすいとる!」

 ダイオウドウから攻撃力を奪い取り、ゴゴティーの茶瓶が修復する。体の異変に気付いたのか、ダイオウドウの目が足元のゴゴティーを睨んだ。瞬間、ダイオウドウの鼻が振り子の様にゴゴティーに襲い掛かる。

「うわっ!」

 襲撃を受けたゴゴティーは、遥か後方へと弾き飛ばされる。そんなゴゴティーを優しく受け止めたのは、颯爽と駆けつけたショーンの羊毛だった。

「大丈夫ですか」

「まだ痛いんだけど!」

 ショーンの羊毛の中で不満を叫ぶゴゴティーは、まだ元気そうだ。

 ――おらも……おらも皆と一緒に戦うったい!

 仲間の活躍を目に焼き付けて、シイナも奮い立つ。瞼を閉じ、自分達の勝利を強く星に願った。

「りゅうせいぐん!」

 その願いに応えるように、ムゲンダイナが空けた天井の穴から隕石が降り注ぐ。

「!」

 巨大な体では隠れる事も出来ず、ダイオウドウは流星群をその身に受ける。強化された鋼の肉体も、宇宙からの衝撃には流石に微かなダメージを負っているようだ。

 仲間の健闘を見守りながら、カシワは仁王立ちする。

 ――まだだ……もっと力を集中しろ!

 共に戦いたくなる気持ちをぐっと堪えて、たった一度の攻撃の為に集中力を研ぎ澄ませていた。

 そんなカシワに虚ろな視線を送っていたのはアホウだ。

「………」

 アホウは戦況などなにも理解できないといった顔で、カシワに嘴を向ける。

「は?」

 集中していたカシワが気付いたのは、既にアホウに丸呑みにされた後だった。

「おい貴様! なにをする! 状況が分かってないのか!? 今すぐ吐き出せ!」

「クァ――――!」

「吐き出せと言っているのだ!」

 脱出しようと足掻くカシワだが、アホウはカシワを吐き出そうとはしない。それどころか抵抗されればされる程、喉の奥に落としているようだった。

「ハルカ! お前も黙ってないでなんとかしろ!」

 この状況下で沈黙するハルカに、カシワは憤りを覚える。しかしハルカの脳内では、思考が駆け巡っていた。

「……いや、そのままだ」

「なに!?」

 言い渡されたハルカからの指示に、カシワは耳を疑う。

「そのまま攻撃に備えて集中しろ」

 ハルカの表情は、決して冗談を口にしているものではなかった。

 作戦を伝達するハルカを、ローズはまるで他人事の様に眺めている。ダイオウドウは主人の力になろうと、また鼻を振るおうとした。

 その時、ダイオウドウの真下から太い植物の根が生える。

「ドラムアタック!」

 ブロリーが太鼓を叩くと植物は生物の如く伸びていき、ダイオウドウの鼻を捕縛した。自然の力は強大で、鍛え抜かれた屈強な鼻も一筋縄では動かない。

「今だカシワ!」

 相手の動きを封じた今が好機だと、ブロリーが合図する。

「行けるか!?」

「準備は万全だ!」

 アホウの嘴の中で力強く頷いたカシワに、ハルカは作戦の決行を下した。

「アホウ! ハイドロポンプ!」

 ハルカの指示に、アホウは喉奥からハイドロポンプをカシワと共に発射する。凄まじい勢いで撃ち出されたカシワは、巨大に立ち塞がるダイオウドウへと一直線に飛び上がった。

「響け! たたかいのドラム!」

 カシワにエールを送ろうと、ブロリーが行け行けドンドンと太鼓を鳴らす。その太鼓の音色が、更にカシワの力を活性化させた。

 白く光るネギスカリバーを右翼に構える。皆の想いを刃に込めて、カシワは統一させた精神を一気に解き放った。

「スターアサルト・ミサイル!」

 ネギスカリバーがダイオウドウに突き刺さる。一片の傷も許さなかった鋼鉄の鎧は、弾丸と化したカシワに貫かれて、遂にその体にヒビを入れた。山の様な巨体は横に倒れ、災害の様な大爆発を起こす。ダイマックスの終了を報せるその現象は、つまりハルカ達の勝利を意味していた。

「カシワァー!」

「すごいよカシワ!」

「やっぱりお前は本物の騎士だ!」

 鮮やかに着地を決めたカシワに、一同は熱い賞賛の言葉を送る。通常のスターアサルトより強い反動に苦しむカシワだったが、その横顔はどこか嬉しそうだった。

「良いねぇポケモン勝負は! 久し振りに戦って満足だ!」

 ダイオウドウをハイパーボールに戻したローズは、敗北したにも関わらず何故か満面の笑みを見せていた。

「流石ですね、愛しのガラルが誇る無敵のチャンピオンが選んだチャレンジャー。君のポケモンリーグでの活躍、実に見たかったよ」

 心中を読み解く事が出来ず、一同はローズを警戒する。

「だけど仕方ないよね……。エネルギー問題を一刻も早く解決するべく、ムゲンダイナを目覚めさせたが制御できなかった私を助ける為に、彼はリーグを捨ててやってきたんだ」

 ガラルの窮地に駆けつけたダンデの姿が、今もローズの瞼の裏に焼き付いていた。

「それこそ、お姫様をドラゴンから守るナイトの様にね」

「はぁ?」

「お姫様? 髭面のおっさんがなに言ってんの」

「騎士は我だ」

「まぁ今は多様性の時代だからな!」

 ローズの発言に一同が苦言を呈するも、ローズは一切気にしない。言葉も届かないので気にしようもないのだが。

「さて、私は演説が大好きだからね。話がとても長いけれど、そろそろ終わらせますよ。だって上ではチャンピオンがムゲンダイナを捕らえたところでしょう。気になるのなら、チャンピオンの様子を見てくるといいですよ」

 結局ローズの目的は、ハルカをダンデのもとへ行かせない為の時間稼ぎだった。まんまとその策略に踊らされたと思うと、居心地の悪い感覚に苛まれる。

 不意に天井に空いた穴から曇天を覗く。このナックルスタジアムの屋上では、ダンデとシナノがムゲンダイナの捕獲に挑んでいる筈だ。彼らの成功を祈りながら、ハルカは変わらない空の色に固唾を飲んだ。

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