俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】カロス地方・ミアレシティ
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《ブンタ》れいせいなゲコガシラ。命の恩人であるハルカに忠誠を誓った仁義の忍。
《スコップ》せっかちなホルード。何故かコガネ弁の守銭奴。
《ヤンヤン》がんばりやなヤンチャム。自分流の強さを求めて日々精進中。
《ロビン》まじめなルチャブル。熱血クソ真面目。


【傑作選025】然れど空の青さを知る

 リストランテ・ニ・リュー。ミアレシティのオトンヌアベニューに位置する高級レストランだ。カロス最大の都に構えるレストランなだけあり、内装は荘厳で足を運ぶ客層もどこか煌びやかである。

 そんな高級レストランに、ハルカ達はミアレジム勝利の祝宴として訪れていた。

「うわーっ! すごく豪華な店ッスね!」

「なんか緊張しちまうな!」

「おいアンタら、あんま大きい声出すんやないで」

「分かってるッスよ!」

 シルクの布が掛けられた円卓に、ハルカ達は円になって腰を下ろす。流石都のレストランと言うべきか、サイズの差異の激しいポケモンに合わせて、専用の椅子が多く用意されているようだ。

 世間話を楽しむハルカ達は、店の空気からは少し浮いていた。

「しかし意外だな。スコップはこういった店に入るのは反対すると思っていたのだが」

 ハルカ達に忠告するスコップに、隣のロビンは腕を組んで口にする。金銭面にうるさいスコップならと考えたロビンだったが、そんなロビンの一考を吹き飛ばす様にスコップは溜息を吐いた。

「金なんてずっと貯めまくってても意味あれへんやろ。ワイが金貯めんのは、こういう贅沢する為のもんなんや」

 スコップは給仕された水で喉を潤す。ただの飲料水の筈だが、普段飲んでいる水よりも質が違った気がした。

「それよりアンタら、ちゃんとレストランのマナー分かっとるんやろうな?」

 不意に不安が押し寄せて、スコップは一同に確認する。

「マナー?」

「勿論ッス! 料理は残さず食べるッスよね!」

「アホ! そんなもん大前提や!」

 案の定一同の頭上に浮かんだ疑問符を見て、スコップはやれやれと頭を抱えた。

「例えばテーブルに置かれとるカトラリーは端から使ってく。食べ終わったら空いた皿に使ったカトラリー置いて、また新しいカトラリー使ってくんや」

「えっ、これ好きなの選んじゃダメなんスか?」

「ダメに決まっとるやろ」

「俺箸で食べたいんだが、その場合はどうすれば良いんだ?」

「こんな店で箸なんか使うな!」

 常識知らずの一同に頭に血の上ったスコップは声を荒げる。結果的に最も声の大きくなったスコップに周囲の客からの視線が刺さり、なんとかハルカが宥めに入った。この喧騒な事態にも、ブンタは静かに流れを見守るばかりである。

「お待たせしました」

 明るい声が聞こえて、ハルカ達の前に待ちに待った料理が届いた。団子の様に髪を結んだウェイトレスが、他のウェイターと共に料理を提供する。

「こちら、『アズール湾産ヤドンのしっぽのブラショーレ、エクストラバージンオレンオイルを塗りたくったオカルト少女を不安げに見つめていたゴースのウタンの実フリッジを添え忘れて』です」

「なんて?」

 長々と告げられた料理名に、ハルカは思わず聞き返した。

「ヤドンのしっぽしか聞き取れなかったんですけど……今なんて言いました?」

「ではごゆっくりどうぞ」

「ちょっと!」

 ハルカの質問には耳も傾けず、ウェイトレス達は他の仕事に戻ってしまう。円卓からはウェイトレスが給仕した謎の料理の香りが漂っていた。

「おー! 美味そうッスねー!」

「めっちゃええ匂いするで!」

「これは腹が鳴るな!」

 一同は目の前の料理に早くも無我夢中だ。そんな一同に、ハルカも考えるのをやめた。

「……まっ、なんでも良っか」

 カトラリーに触れる前に、一同は掌を合わせる。

「それじゃあ早速!」

「「「「いっただっきまー」」」」

 瞬間、一同の声を遮るようにレストランに発砲音が響いた。

「「「「「!?」」」」」

 混乱に包まれる中、一同は音の響いた方向に目を向ける。レストランの入口には場違いに武装した男が複数匹のウデッポウを従えて仁王立ちしていた。

「全員動くな! 命が惜しけりゃこの店の金全部用意しろ!」

 男の荒んだ叫び声に呼応して、ウデッポウが右の鋏から水の弾丸を飛ばす。弾丸はワインの入ったグラスを割り、合わせて女性客の甲高い悲鳴が店内に劈いた。

「なんだいきなり!」

「強盗ッスか!?」

「折角御馳走食べるとこやっちゅーのに!」

 店内の混乱に一同も同調する。ただハルカは体を向き直して、じっと強盗犯の様子を窺っていた。

「おい店員! 客を一ヶ所に集めろ! ホロキャスターの様な通信機器も全部取り上げろ!」

 強盗犯は銃を握って、ウェイター達にそう命令する。ウデッポウが周囲を取り囲む中、ウェイター達は人命優先の為、命令通りに動く事しか出来なかった。

 その時、二人の足音が駆け上がる。

「ブンタ、みずでっぽう!」

 ブンタは指先に水の弾丸を圧縮させ、狙いを定めて発射する。放たれた弾丸はウデッポウの甲殻を見事撃ち抜いた。

「!?」

 狙われたウデッポウは一匹だけではない。静かに影分身を増やしていたブンタは、反撃を許さないようにと、ほぼ同時に他のウデッポウ達も水の弾丸で撃ち抜いていた。

「なっ、なんだ貴様!」

 予想外の奇襲に狼狽える強盗犯。そんな強盗犯にハルカは尖った瞳を向けた。

「ただの腹の減った客人だよ」

 ハルカの隣に立つ本物のブンタは、右手に水の刀を錬成する。

「いあいぎり!」

 ハルカの指示に合わせて、ブンタは刀を構えて強盗犯のもとへと走り出した。確実にこちらの喉元を狙うブンタの瞳に、強盗犯は委縮する。

「くっ! ギルガルド!」

 ブンタの刀が強盗犯に迫る寸前、強盗犯の投げたモンスターボールからギルガルドの盾が立ち塞がった。金属の擦れる音が耳に張り付く中、二匹は険しい視線を送り合う。

「お前らは皆の避難に回ってくれ!」

「了解ッス!」

 強盗犯の対処はブンタに一任して、スコップ達は怯える客や従業員の避難に向かった。

 ブンタの刀とギルガルドの剣が激しく交差する。一歩でも間合いに入ればバラバラに斬り刻まれてしまいそうな殺意が周囲に漂っていた。

「動くな!」

 不意に強盗犯が声を叫び、ブンタは振り向く。強盗犯は恐怖に震えるウェイトレスを無理矢理捕まえ、その蟀谷に銃を突き付けていた。団子の様な髪型は、ハルカ達に料理を給仕してくれたウェイトレスだ。

「動いたらこいつの頭弾け飛ぶぞ!」

「助けて……!」

 ウェイトレスは涙で顔を濡らしながら、ブンタに助けを乞う。ブンタも助けに向かおうと踵を強盗犯に向けた。

「良いのか? 大事なトレーナーがどうなっても知らないぞ?」

 その時、自分が今まで交戦していた相手から目を離してしまった事に気が付いた。

 ブンタは慌てて背後に目を向ける。そこには命を賭して守るべき主人と、その主人に刃を向けるギルガルドが居た。

「ハルカ……!」

「悪ぃブンタ……」

 謝罪するハルカだが、ブンタは主人を危機に瀕しさせた自分を強く恥じる。善戦していたブンタの足は、ぴたりと動きを止めてしまった。

「分かったらその場から動くんじゃねぇ!」

 形勢逆転した戦況に、強盗犯の口角が下品に吊り上がる。

 どちらか片方を助ける事は、ブンタにとって造作もない。ただその場合、もう片方は確実に助からないだろう。今から影分身を出そうにも、出している間にどちらも失ってしまうのが関の山だ。

「あれやばいんじゃないッスか!?」

「アホ! ワイらが出たところで、どっちもやられてまうのがオチやろ!」

 焦るヤンヤンをスコップがそう宥める。悔しいが今は草を咥えて見る事しかできないのが現実だった。

「………」

 前までのブンタなら、この問題に悩む事なく決断していただろう。しかしブンタの心境は変化していた。

「……俺は大丈夫だ」

「!」

 聞こえてきた主人の声に、ブンタは顔を上げる。

「だからブンタ、あの子を助けてくれ」

 ギルガルドの剣の体を首先に感じながら、ハルカは声を振り絞っていた。

「……これが俺の願いだ」

 ハルカの言葉をブンタは深く噛み締める。ハルカを主人と崇める従者のブンタにとって、なにに代えても守らなければならないのはハルカの命だ。

『お前があいつの盾になれ。お前が盾で、俺があいつの矛になる』

 いつか聞いたナゴヤの言葉を思い出す。あの時ブンタは、主人の命と同等に守らなければならないものがある事を知った。

 今ここに矛は居ない。ならば自分が矛となり、盾となるべきだ。

「……拙者は、ハルカに仕える忍でござる」

 瞬間、ブンタの体が眩く光る。

「なっ!?」

「この光は……!」

「もしかして!」

 ブンタの光に強盗犯が目を眩ませる中、ヤンヤン達は胸を躍らせる。すると光の中から、強盗犯に向かって水の弾丸が唐突に飛び出してきた。

「!」

 先程よりも速度の上がったそれは目を凝らすと弾丸ではなく、四方に刃を尖らせた手裏剣の様だった。

「ぐっ!」

 手裏剣は強盗犯の腕に直撃し、銃は強盗犯の手元から離れる。痛みに苦しむ隙にウェイトレスは強盗犯から離れ、一心不乱に逃げ走った。

「ギルガルド!」

 強盗犯の声に、ギルガルドはハルカを叩き斬ろうと刃を振り上げる。自分の旅の終わりを案じてハルカが瞼を強く閉じたその時、ハルカの盾が瞬時に駆けつけた。

「時に主人の命に忠実に動く矛となり……」

 ブンタを覆っていた光が放たれる。

「時に主人の命を堅実に守る盾となる……!」

 天高く跳べそうな強靭な紺色の脚に、首にぐるりと巻かれた桃色のマフラー。ブンタは新たな姿へと進化していた。

「進化だー!」

「ゲコガシラの進化、ゲッコウガやな」

 生まれ変わった頼もしい背中に、ハルカは目を奪われる。

「ブンタ……!」

 ブンタは水の刀でギルガルドを突き放して牽制する。体制を立て直そうと盾を構えるギルガルドだったが、一気に距離を詰めたブンタは即座に盾の内側へと刀を忍ばせた。

「つじぎり!」

 ギルガルドの剣がブンタの刀を一刀両断する。その斬れ味は効果抜群で、ギルガルドは堪らず店のフローリングに力尽きた。

「そんな……まさか……!」

 連れてきた戦力を全て失った強盗犯は、あまりの展開に腰を抜かす。間抜けに倒れた強盗犯を、ハルカ達が見逃す筈がなかった。

「さて、ジュンサーさんが来るまで大人しくしてもらおうか」

 反抗する手段も持っておらず、強盗犯は深く息を吐いて項垂れる。

 ハルカ達の活躍にレストランは拍手喝采。満足気に胸を張るハルカの横で、ブンタはつられて滲み出た表情をマフラーの下に隠した。

 

 ◎

 

 間もなくジュンサーを乗せたパトカーが到着し、強盗犯とそのポケモン達は無事逮捕された。レストランに居た客も帰路を辿り、リストランテ・ニ・リューに平和が戻ってきた。

「本当にありがとうございました!」

 レストランのオーナーを名乗る男は、夜空の下でそうハルカに深く頭を下げる。隣には団子の髪型のウェイトレスも一緒に並んでいた。

「事件が無事解決したのは、全て貴方様のおかげです!」

「助けていただき、ありがとうございます!」

「いやー別に、たまたまお店にお邪魔してただけですから」

 そこまで感謝される程の事ではないと、ハルカは照れ笑いながら後頭部に手を当てる。すると平和の象徴とも言える音が、ハルカの腹から高らかに鳴り出した。

「……そういや料理食いそびれてたな」

「そうッスね」

 事件の最中は忘れていたが、一同の空腹は限界に近かった。

「それでしたら、是非今からゆっくりと私達の料理を味わってください。勿論お代はいただきません」

「ほんまか!?」

 オーナーからの提案に、スコップの瞳が輝く。

「金なんて貯めまくっても意味ないんじゃなかったのか?」

「アホ、タダで食えるんやったら食えるに越した事ないやろ」

 ロビンからの冷ややかな視線を、スコップはそう突っ撥ねた。結局は金が一番な筋金入りの守銭奴に、ロビンは溜息を吐く。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 完全にそのつもりになった一同を代弁して、ハルカはそう頭を下げた。

「それでは早速中に」

「やったー!」

 促されるままに、一同は店の中に入っていく。先程寸前で食べられなかった反動で、その期待は最初よりも倍増していた。

「……ありがとなブンタ」

 店に入る前に、ハルカは振り返ってブンタに礼を言う。進化したブンタの姿は、出逢った当初から見違える程頼もしくなっていた。

「これからもよろしくな!」

 静寂のブンタに、ハルカは笑い掛ける。

「……はい。拙者、最期までこの命、ハルカに捧げる所存でござる」

「だから重いんだよお前は」

 そう笑い合いながら、二人は店の中へと足を運んだ。

 空には満天の星模様。幼い頃は見上げる事しか出来なかったこの空も、今なら少し手が届きそうな気がした。

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