俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】アローラ地方・マハロ山道
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《エレナ》ハルカの幼馴染。オダマキ博士の一人娘で、預けられたハルカのポケモンの世話をしている。
《ピコタロー》がんばりやなピカチュウ。世界中のポケモンと人間と友達になるのが夢。
《ポッター》おだやかなモクロー。マイペースな紳士。


【傑作選026】電撃地帯! メレメレ島の守り神!

 海から吹いた生暖かい潮風が、南国の植物を優しく揺らす。気付けば夕焼け色に染まっていた空をツツケラが巣に帰ろうと飛び立つ中、ハルカ達は森に囲まれたマハロ山道を歩いていた。

 川のせせらぎが下から聞こえる吊り橋を渡り、山道の奥地に辿り着く。そこで待っていたのは、明らかに人の手が加わった洞窟の入口。ここがククイの言っていた、ハルカ達の目的地で間違いないだろう。

「ここが戦の遺跡か……」

 ハルカは右手に覚悟を握りながら、洞窟の中へと入っていく。エレナとポッターもハルカに続いて、静かに足と翼を動かした。

 中は謎の模様を壁面にあしらった石造りの遺跡だった。壁には石の隙間から蔦が伸びており、遺跡の築かれた時代を想像させる。松明で明かりは灯っているが、周囲に生物の気配は感じられなかった。

「なんだ、なんもねぇじゃねぇか」

 ククイの話によれば、戦の遺跡にはこの島の守り神が存在するという。その守り神からアローラの秘宝を手に入れる予定だったのだが、早くも出鼻を挫かれてしまった。

「ハルカ!」

 エレナは視界の先になにかを見つけると、指を差して声を上げる。エレナの指が差す遺跡の奥に目を向けると、確かに奇妙な物がこちらへと近付いていた。松明に照らされたそれは、まるで黄色い巨大な仮面だった。

「鶏の……頭?」

 謎の仮面にハルカが訳も分からず首を傾げると、仮面は突如真っ二つに割れ、中に隠した正体を晒した。

「カプゥーコッコ!」

 割れた仮面を翼の様に広げ、オレンジ色の鶏冠を高く生やしている。その正体は疑う余地なく、この島の守り神であるポケモンだった。

「こいつがメレメレ島の守り神……カプ・コケコ!」

 カプ・コケコはハルカに好戦的なポージングを取っている。どうやら随分と血気盛んな性格のようだ。

「よし! それじゃあ早速初陣と行こうぜ! ポッター!」

 こちらも負けていられないと、ハルカは後ろについてきている筈のポッターにそう指示を飛ばす。しかしどれだけ待っても時間が経過するだけで、ポッターがハルカの前に来る事はなかった。

 気になってハルカとエレナは揃って首を後ろに向ける。視線の先ではポッターがどこからか取り出したティーセットで、優雅に紅茶を嗜んでいた。

「……ポッター?」

 名前を呼ばれて、ようやくポッターは自分の置かれている状況を自覚する。自覚した上で、ポッターはティーカップに嘴を付けた。

「すまない、今紅茶の時間(ティータイム)なんだ」

「なにやってんだよ!」

 あまりにも優雅なポッターに、ハルカはたまらず激しめに声を荒げる。

「今の状況分かってんのか!? これからあいつとバトルすんだよ!」

「うむ、今日のダージリンもまた格別だな」

「いいから飲むのやめろ!」

 どれだけ怒鳴り声を浴びせても、ポッターがティーセットを片付ける素振りはない。マイペースは性格に、ハルカは頭を抱えるしかなかった。

 些細な幕間にも耐えられなかったのか、カプ・コケコは途端に雄叫びを上げる。すると突然カプ・コケコから電撃が迸り、一瞬にして遺跡中に駆け巡った。

「キャッ!」

 電気はハルカ達の足元にまで到達する。しかし体が痺れるといった影響はなく、若干空気がヒリついただけだった。

「なんだこれ!?」

 未曽有の事態にハルカは目も覚める程困惑する。目の前のカプ・コケコはもう我慢の限界といった様子だ。

「しょうがねぇ! ピコタロー! お前が決めろ!」

「任せて!」

 ハルカの投げたモンスターボ―ルから、ピコタローが電気の走る舞台に飛び出す。モンスターボールの中から状況を見ていたのか、ピコタローも既に戦闘態勢に入っていた。

「ピコタロー! アイアンテール!」

 ピコタローは跳び上がって、カプ・コケコに鋼鉄の如く硬めた尻尾を振り下ろす。カプ・コケコはその尻尾を、同じく鋼鉄の如く硬めた仮面の左翼で受け止めた。止めるだけに飽き足らず、カプ・コケコは仮面の右翼でピコタローに一撃をお見舞いする。

「うっ!」

 一撃を受けたピコタローは華麗に着地し、早急に体勢を立て直した。カプ・コケコは追撃の準備にと、両翼に電気を蓄える。

「10まんボルト!」

 追撃を迎え撃つべく、ピコタローも電気袋に電気を溜めて、カプ・コケコと合わせて放出する。互いの電撃は視界を点滅させる程に激しく、衝突すると大きく爆発した。

「……なんか、いつもよりピコタローの電気強くなかった?」

 普段目にするピコタローの電圧よりも強力な気がして、エレナは違和感を覚える。視界の隅で激戦が繰り広げられる中、ポッターは依然紅茶の風味に舌鼓を打っていた。

「でんこうせっかで相手を撹乱しろ!」

 ピコタローは四本足で駆け出し、電光石火にカプ・コケコへと迫る。自慢のスピードでカプ・コケコの周囲を駆け回り、指示通りに相手を撹乱した。

 攻撃の隙を窺うピコタローを、カプ・コケコも負けじと目で追う。その一瞬の隙を突き、ピコタローがカプ・コケコの背後を奪った。

「アイアンテール!」

 しかしその攻撃はカプ・コケコに読まれていた。

 奇襲を狙ったピコタローの鋼鉄の尻尾を、カプ・コケコの仮面の翼が防ぐ。反動で空中に弾かれたが、ダメージは入っていないようだ。

 翼の盾を解いたカプ・コケコは、そのまま空中に漂いながら様子を覗く。その時、対戦相手は眼前にまで迫っていた。

「!」

「とりゃあ!」

 ピコタローの尻尾がカプ・コケコの首筋を捕らえて地面に叩き落とす。初めて手応えのある一撃を与えられたピコタローは、頬袋を緩ませて着地した。

「良いぞピコタロー!」

「えへへっ」

 ただこれで決着がついたとは夢にも思わない。衝撃で崩れた瓦礫を退かしながら、カプ・コケコが戦場に舞い戻る。ピコタローに向ける目の色は、対戦相手の評価と比例して変わっていた。

 カプ・コケコは徐に翼を上げると、翼の下部に付いた棘を勢いよく地面に突き刺す。瞬間、目に優しい色をした衝撃波がピコタローに襲い掛かった。

「避けろ!」

 類を見ない正体不明の攻撃に危機感を覚えて、ピコタローは空中に退避する。しかしその衝撃波は空中にも逃げ場を用意していなかった。

「うわっ!」

 衝撃波を受けて、ピコタローは地面に倒れる。未だかつて感じた事のない痛みが、ピコタローの全身を蝕んでいった。

「大丈夫か!?」

「大丈……夫!」

 ハルカの声に、ピコタローはよろけた足を立ち直らせる。強気に答えたピコタローだったが、その表情は歪に引きつっていた。

 カプ・コケコは雄叫びを上げると、全身に電撃の鎧を装備する。どうやら次の攻撃で勝負を決定づけるつもりのようだ。

「ピコタロー! ボルテッカー!」

 カプ・コケコに合わせて、ピコタローも電気袋から大量の電撃をその身に纏わせる。激しい睨み合いの末、両者は同時に駆け出して中央で衝突した。

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 残る最後の力を振り絞って、ピコタローはカプ・コケコと対峙する。両者の電撃は遺跡にまで影響を及ぼし、壁やら装飾やらを破壊していった。その一縷の電撃が、離れた場所から観戦していたエレナに牙を剥く。

「キャッ!」

 戦闘の真っ只中であるハルカ達がエレナの窮地に察する事はない。ただエレナは襲い掛かる電撃に目を瞑る事しか出来なかった。

 その時、ティータイムを過ごしていたポッターの瞳が光る。ポッターは徐に左翼を広げると、一枚の木の葉を飛ばしてエレナに迫る電撃を撃墜させた。

「……え?」

 電撃を浴びなかったエレナは、不思議に思って目を開ける。不意にポッターに目を向けても、先程通りに優雅に右翼で紅茶を啜るだけだった。

「……もしかして」

 カプ・コケコと正面衝突するピコタロー。両者一歩も譲らない激突だったが、遂には爆発して互いに彼方へと吹き飛ばされた。

「うわぁっ!」

「ピコタロー!」

 こちらに飛んできたピコタローを、ハルカは優しく受け止める。腕の中のピコタローの体は傷だらけで、戦闘に持て余す力など欠片も残っていないといった様子だった。

「大丈夫か?」

「うん……ごめん、もうなにも出来ないかも」

「お疲れ様」

 力の限り戦ってくれたピコタローに、ハルカは微笑んで労う。遺跡を包囲していた電気は知らない間に解除されていた。

 先程までピコタローと死闘を演じていたカプ・コケコは、静かにハルカ達の側にまで接近する。

「!」

 カプ・コケコも体に幾重もの傷を負っているものの、その表情は平然としていた。そこに戦闘欲はもう感じられない。

 カプ・コケコは仮面の翼を弄ると、中からとある石を取り出した。仄暗い遺跡の中で異様な輝きを魅せる石だ。カプ・コケコはその石をハルカにと差し出した。

「……これは」

 ハルカが石を受け取ると、カプ・コケコは高らかに雄叫びを上げる。そして勝負に満足したのか、また遺跡の奥へと姿を晦ませた。

「なに貰ったの?」

 見守っていたエレナがハルカの側へと歩み寄る。輝く石の美しさに、エレナもピコタローも目を奪われていた。

「……アローラの秘宝、かな」

 アローラの守り神から直接受け取った秘宝を手に、ハルカの口角は吊り上がる。現在地点から更に高みを目指せるような、そんな予感が掌からひしひしと感じられた。

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