俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】アローラ地方・ロイヤルアベニュー
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《エレナ》ハルカの幼馴染。オダマキ博士の一人娘で、預けられたハルカのポケモンの世話をしている。
《オジョー》てれやなエネコ。ハルカを恋い慕うもツンデレで素直になれずじまい。
《コゴロー》のんきなネッコアラ。どんな状況でも絶対に眠っている。


【傑作選033】激突! バトルロイヤル!

 仄暗い空間を眩いスポットライトが照らす。中央には四色が交差する正方形のリング。そのリングを囲む観客席は、多くの観覧客で埋め尽くされていた。

『ここはロイヤルドーム、バトルロイヤル会場です! 満員となったスタジアムは熱気に包まれています!』

 マイクから熱意の籠った実況がスタジアムに響く。観客のボルテージも既に最高潮だった。

『それでは選手の入場です!』

 実況に合わせて、一人の選手がリングへと足を進める。

『緑コーナー! アローラに観光しに来たトレーナーがバトルロイヤルに電撃参戦! 観光客! ハルカ!』

 バンギラスの口を模したゲートから登場したハルカは、大きく腕を回してリングに足を着ける。その歩く様は自信に満ち溢れていた。

「完全に調子乗ってるわね」

「もう……」

 観客席から見守るエレナとオジョーは、堪らず溜息を吐く。

「エレナ?」

 不意に名前を呼ばれて、エレナは振り返る。そこには麦わら帽子を被った白いワンピースの少女と、鼠色のタンクトップから褐色肌を覗かせた女性が立っていた。

「リーリエ!? バーネット博士も!」

 予想外の友人との遭遇に目を見開くエレナを余所に、リーリエはリングに目を凝らす。

「あっ、ハルカさんが出場してる! って事は、ハルカさんの応援?」

「うんまぁ……そういうリーリエ達は?」

「それは」

「なにを隠そう、私がバトルロイヤルのファンなのさ!」

 リーリエの言葉も遮って、バーネットがエレナの隣の席に腰を落とした。立ち振る舞いや横顔から察して、確かに普段よりも高揚しているようだ。付き添いであるリーリエも、苦笑を浮かべながらバーネットの隣に静かに腰を下ろす。

『黄コーナー! ノーマルタイプに精通するトレーナーズスクール出身のキャプテン! トレーナーズスクールのプリンス! イリマ!』

 オノノクスの口から登場したイリマは、観客席に投げキッスを送る。イリマのファンサービスに、観客席からは黄色い歓声が上がった。

『青コーナー! ゴーストタイプのキャプテンにして古代アローラ王朝の末裔! 古代のプリンセス! アセロラ!』

 ギャラドスの口から登場したアセロラは、観客席に両手を振る。可愛らしい見た目と相まって、観客席の心を和ませた。

 すると突然スタジアムは暗転し、一瞬して闇に包まれる。

『赤コーナー! この男なくしてバトルロイヤルは語れない! バトルロイヤルを愛し、バトルロイヤルに愛された男!』

 幾重のスポットライトが、リザードンを模したゲートの前に集結する。そこに浮かび上がったのは鍛え上げられた褐色の上半身、そして鮮やかな色彩を混ぜた覆面だった。

『ロイヤルマスク!』

「ククイ博士!?」

 その上腕二頭筋にハルカは何故か見覚えがあった。

「えっ、ククイ博士ですよね!? なにやってんすかこんなところで!」

「違う! 僕の名前はロイヤルマスク!」

「いや声全く一緒だし!」

 リングの上でハルカが問い詰めるも、ロイヤルマスクはその覆面を横に振り続ける。覆面が盾に頷く事は決してなさそうだ。

「なにやってんのあの人……」

 観客席に座るエレナとオジョーもその正体に気付き、若干顔を引きつらせる。

「キャー!」

「「!」」

 突如隣から金切り声が響いて、エレナ達は驚愕した。声の発生源は衝撃のバーネットである。

「ごめんなさい。私、ロイヤルマスクの大ファンなの」

 恥ずかしそうに顔を隠しながら、バーネットはそう頭を下げる。リングに立つロイヤルマスクに向ける瞳は、正に純真無垢だった。

「……もしかして、気付いてない?」

「あれアンタの旦那よ」

 なんも知らなさそうなバーネットに全てを打ち明ける勇気を、エレナはオジョーと違って持ち合わせていなかった。

『ルールを説明しましょう! 各自使用ポケモンは一体! ポケモンが戦闘不能、もしくはリング外に出てしまった場合はその場で脱落となり、最後までリングの上に残っていた選手の勝利となります!』

 選手達はそれぞれ出場させるポケモンを選んで、モンスターボールを握る。

『それではバトルスタートです!』

 実況の鬨の声を合図に、ハルカ達は一斉にモンスターボールを放り投げた。

「コゴロー! お前が決めろ!」

「デカグース! よろしくお願いします!」

「頑張れ! ミミたん!」

「ガオガエン! リングイン!」

 リングの上に選手達が選出したポケモンが続々と顔を揃える。皆が戦闘に緊張感を漂わせる中、ハルカの選出したコゴローだけが暢気に目を瞑っていた。

「コゴロー! バトル始まってんぞ!」

「んー……」

 ハルカが声を掛けるも、コゴローは鼻提灯を膨らますだけ。枕木にしがみついて離れようとしなかった。

「先陣は僕が切らせてもらいますよ」

 眠り続けるコゴローを置いて、最初に勝負を仕掛けたのはイリマだ。

「デカグース! じならし!」

 イリマの指示に従って、デカグースはリングを揺らして全体攻撃を向ける。

「跳べ!」

 すぐに危険を察知したガオガエンとミミたんは跳躍して回避した。しかしリングで眠るコゴローは一匹攻撃の餌食となる。

「コゴロー!」

 空中に回避したガオガエンだが、その行動を回避だけでは終わらせない。ガオガエンは両腕を重ねて、デカグースに向かって急降下する。

「クロスチョップ!」

 反撃を狙うガオガエンに、デカグースも立ち向かう体勢だ。

「すてみタックルで迎え撃て!」

 ガオガエンの両腕とデカグースの石頭が衝突する。その衝撃力は互角で、巨体は互いに弾き合った。

 激しい攻撃がぶつかり合う中、コゴローの瞼は依然開かない。

「早く目ぇ覚ませよ!」

「目玉焼きに掛けたいからそこのソース取って……」

「なんの夢見てんだ!」

 コゴローに声を掛けても、目玉焼きにはソース派である事が発覚しただけだった。

 そんなコゴローにひっそりと影が忍び寄る。

「!」

 リングの影からコゴローの背後に回ったミミたんは、布の隙間から鋭利な鉤爪を尖らせた。

「じゃれつく!」

「コゴロー! 避けろ!」

 指示を飛ばしたものの、コゴローは夢の中だ。ハルカの声は届く事なく攻撃は直撃、かと思われたが寸前でコゴローはくるりと体を翻し、間一髪でミミたんの魔の手から逃れた。

「えっ……?」

「今のって……寝返り?」

 スタジアム全体が疑問符を浮かべる中、コゴローは更に寝返りを続ける。転がる先には呆気に取られるミミたんが待っており、そのままコゴローは体当たりした。

「当たった!」

 結果的に確かな手応えを持った攻撃となったが、ミミたんは何故か倒れない。ただぽくりと首を傾げるだけだった。

「攻撃が効いてない!?」

「ミミッキュの特性『ばけのかわ』よ。相手の攻撃を一度だけ無効化する」

 バーネットの解説にエレナは固唾を飲む。アセロラは作戦通りというように、口元を緩ませていた。

「ミミたん! なげつける!」

 ミミたんは布から爪を伸ばすとコゴローの体を鷲掴み、リングの対角線へと投げ飛ばす。空中でもコゴローは熟睡を極めて、デカグースと対峙するガオガエンの胸筋に衝突した。

「なっ!?」

 予想外のデッドボールに、ガオガエンは顔を顰める。ガオガエンはそのままコゴローを両腕で掴んで、正面のデカグースに向き直った。

「ガオガエン! デカグースにも渡してやれ!」

 ロイヤルマスクの指示にガオガエンは大きく振りかぶると、メジャーリーガー顔負けの豪速球でコゴローを投球する。コゴローは完全にキャッチボールの道具と化していた。

「コゴロー! 俺達も攻撃だ!」

 やられっぱなしではいられないとハルカがコゴローに檄を飛ばす。するとデカグースに向かって飛ぶコゴローの枕木が、巨大なハンマーへと変化した。

「ウッドハンマー!」

 スピードに乗せたままコゴローはハンマーを振るう。豪速球のハンマーにデカグースは逃げる間もなく、ハンマーに押し潰された。

 目の前で戦線離脱したデカグースに、アセロラはミミたんとケタケタ笑う。

「リング上に油断してる時間はないぞ!」

「!」

 不意に声が投げられて、ミミたんは振り返る。視線の先では両腕を広げたまま横回転するガオガエンがこちらに駆けてきていた。気付いたのが遅く、今からは避けられない。

「DDラリアット!」

 ガオガエンの右腕がミミたんを捕捉し、彼方へと弾き飛ばす。ミミたんはロープに体を預けると、跳ね返されてリングに横たわった。

『デカグース、ミミッキュ、戦闘不能!』

 相次ぐ脱落者に、観客席の興奮は一気に昂る。選手の数も残り半数。タイマンとなったコゴローとガオガエンは、リングの上で向き合っていた。

「やはり最後に残るのは君だったか! ハルカ!」

「俺の事知ってんじゃねぇか!」

「違う! 初対面だ!」

 口を開けば粗の漏れ出る覆面に、最早ハルカは付き合いきれなかった。

「君になら遠慮は要らないな! 僕も全力で行くぞ!」

 ロイヤルマスクはそう言うと、剥き出しの右腕を前に見せる。右腕の手首には光り輝くアクセサリーが飾られていた。

「ちょっ、マジかよ!?」

 次の一手を予測したハルカは、焦燥から気を動転させる。そんなハルカを余所に、ロイヤルマスクはZリングを光らせて全力のポーズを構えた。ロイヤルマスクの全力がガオガエンに伝達して、ガオガエンはリングのポストに跳び乗る。

「ハイパーダーククラッシャー!」

 ロイヤルマスクの掛け声に合わせて、ガオガエンは天井高く跳び上がった。ここからリングで待つコゴローに突撃すれば、コゴローの敗北は必至だ。

「コゴローやべぇぞ! なんとかしねぇと!」

「今日は良い天気……」

「言うてる場合か!」

 狼狽するハルカに、当の本人であるコゴローは寝言を呟くだけ。上から迫り来る恐怖に一切反応を見せなかった。

 急降下するガオガエンとの距離は縮まる一方。繰り出されたZ技の命中は確実で、ハルカは耐え切れずリングを直視できなかった。

「コゴロー!」

 その時、コゴローの右腕が突如光を放つ。枕木から離れた右腕は、まるで寝返りを打つかのようにリングに落とされる。瞬間、巨大な亀裂が走り、音を立ててリングを崩壊させた。

「!?」

「ガオガエン! 回避しろ!」

 砂煙により目標が確認できなくなり、ガオガエンは技を中断してポストに逃げる。スポットライトに照らされて、徐々に明らかになるリング。木っ端微塵に破壊されたリングの下で、暢気に寝息を立てるコゴローの姿が見つかった。

「コゴロー……」

「寝てるわね……」

 先程の崩壊が嘘の様な通常営業に、ハルカは声を失う。

『ネッコアラ、リング外により脱落! よって勝者、ロイヤルマスク!』

 勝者を報せた実況に、スタジアムは割れんばかりの歓声で溢れた。見る影もなくなったリングの上でも勝利をアピールするロイヤルマスクとガオガエンは、流石プロのパフォーマンスといったところだろうか。

「キャー! カッコ良いー!」

 応援するロイヤルマスクの勝利に、バーネットは手を叩いて祝福する。それは自分の夫を褒め讃えているのと同義で、エレナ達は少し苦笑を浮かべていた。

 敗北したハルカだが、胸中は悔しさよりも訝しさの方が強くなっていた。

「お前……なにやったんだよ」

 瓦礫の合間でコゴローは心地良さそうに眠る。恐らくコゴローは勝負の行方など全く知らないままなのだろう。

 

 ◎

 

 試合を終えたハルカは、案内されるままロイヤルドームのエントランスに居た。

「実に良いバトルだった! 流石はハルカといったところだな!」

 栄冠を勝ち取ったロイヤルマスクも、覆面を外さないでハルカの前に現れる。鍛えられた上半身に向けるハルカの視線は、冷凍ビームの様に冷ややかだった。

「……やっぱククイ博士ですよね? 俺の事知ってるし」

「違う! 僕の名前はロイヤルマスク!」

 どれだけ問い詰めてもロイヤルマスクの回答は変わらない。ハルカの左腕ではコゴローが、興味ないとでも言うようにぐっすり眠っていた。

「そんな熱いバトルをしてくれたハルカに良い事を教えよう!」

「良い事?」

 ロイヤルマスクが口にした気になる言葉に、ハルカは耳を傾ぐ。

「この先のヴェラ火山公園に、君と同じように熱いバトルをするトレーナーが居るんだ。良かったらそこでバトルしてみるのは如何かな?」

 共に熱い勝負を好む同志への招待状。そんな招待状を受け取って、ハルカが無視できる訳なかった。

「……それは面白そうですね」

 口角を吊り上げて、ハルカは次の目的地を静かに決める。

「あー! サイン貰ってきても良いかなー!」

「良いと思いますよ?」

「別に家でも貰えるけど」

 エントランスの隅でバーネットが無地の色紙とサインペンを握ってそう悶えていたのだが、結局バーネットが二人の会話に割って入る事はなかった。

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