俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】パルデア地方・ハッコウシティ
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《カクニ》やんちゃなグルトン。漢に生きる熱い大食漢。
《パワー》おっとりしたナカヌチャン。戦闘が苦手な平和主義。


【傑作選035】街角ジェントルさんを探せ!

 ここはオダマキ研究所。ホウエン地方のミシロタウンに位置するその研究所には、ハルカが今まで共に冒険した仲間達が、今日ものんびり生活していた。

「らんららんらん♪ らんららんらん♪」

 鼻歌を歌っているのはヌメルゴンのコラーゲン。コラーゲンは体から分泌される粘液を撒き散らしながら、星空の下を散歩していた。

 ふと視界の隅に、共に冒険した仲間の影を見つける。クレッフィのアルソック。アルソックは愛用のスマートフォンに夢中で、コラーゲンの存在に気付かない。コラーゲンはアルソックの背後にそっと忍び寄り、勢いよく抱き着いた。

「あーるん!」

「キャッ!」

 アルソックの鋼鉄の肌に、コラーゲンの粘液がねっとりと絡む。

「ちょっと! なにすんのよ! 急に抱き着かないでっていつも言ってんでしょ!?」

「ごめんなさい……」

 憤怒するアルソックに、コラーゲンは頭を下げた。スキンシップの大好きなコラーゲンを相手にするなら避けられぬ宿命で、アルソックは鍵穴から溜息を吐く。

「なにしてるの?」

「なにって、これから動画配信観るところよ」

「動画配信?」

「知らない? ナンジャモのドンナモンジャTV」

 そう尋ねるアルソックに、コラーゲンは首を横に振った。

「今世界中で鬼バズリしてる人気ストリーマーよ。彼女の動画配信は奇抜な企画が多くって、最大同時視聴者数は驚きの一千万人。彼女独特の言語――ナンジャモ語は、世界中の人達に真似されてるのよ」

 マンキーでも分かるような分かりやすい解説を、アルソックは饒舌に語り上げる。

「へぇ……とにかくスッゴい人なんだね!」

「アンタ、本当に分かってんの?」

「多分!」

 暢気な笑顔を見せるコラーゲンに、アルソックは顔を顰める。そうこう話している間に、配信の時間がやってきたようだ。

「あっ、始まった」

 アルソックの持つスマホの画面を、コラーゲンも覗き込む。画面には大きなコイルを二匹頭に付けたギザ歯の少女が映っていた。

『アナタの目玉をエレキネット! 何者なんじゃ? ナンジャモです! 皆の者ー! おはこんハロチャオー!』

 ネオンの光が眩しく輝く夜の街で、ナンジャモがオーバーサイズの黄色いコートで腕を振っている。ナンジャモが登場した瞬間、多くのコメントが彼女の配信を盛り上げた。

「この人がナンジャモ?」

「そうよ」

 よく分かっていないコラーゲンに、アルソックが頷く。二匹は既に、彼女の配信に釘付けだった。

『それじゃあ早速だけど、今回の配信を一緒に盛り上げてくれるゲストを紹介しちゃうよ!』

「ゲスト?」

 今回はコラボ配信だったようで、気になるコラボ相手に胸が高鳴る。

『じゃじゃーん! ホウエン地方からお越しのハルカ氏でーす!』

「「ぶーっ!」」

 突如画面に映った見覚えのあり過ぎる顔に、アルソックとコラーゲンは堪らず唾を吹き出した。

 

 ◎

 

 ハッコウシティのジムにて、ハルカは顔を引きつらせている。ハルカの視線の先では、ハッコウジムのジムリーダーであるナンジャモが、磁石デザインのスマホロトムに向かって一人で躍動していた。

「さぁさハルカ氏! 今回の配信に向けての意気込みをドーゾ!」

「……これ、マジで生配信してんの?」

「マジのマジだよ!」

 ハルカの緊張で上ずった肉声も、カクニとパワーのきょとんとした表情も、全てナンジャモのスマホロトムで世界に配信されていた。

「ニッシッシ! 世界中のポケモンリーグで活躍してるハルカ氏とコラボすれば、今日の配信大バズリ間違いなし……!」

 カメラに聞こえないように背中を向けて、ナンジャモは汚い笑みを浮かべる。世界で人気のストリーマーの背景には、抜け目のない計算が隠されているようだ。

「配信が終わったら、ちゃんとバトルしてくれるんですよね?」

 ハルカがナンジャモの配信に出演する事になったきっかけは、ジムリーダーである彼女にバトルを挑む為だ。

「勿論! でもそれはハルカ氏の頑張り次第だよ?」

「え?」

 ナンジャモの意味深な発言に、ハルカは首を傾げる。

「これから始まる企画にハルカ氏がクリアできたら、お望み通りバトルしてあげる! もしクリアできなかったら、そん時は残念賞! また次の機会にー!」

「おいふざけんな!」

 勝負への条件を聞いて、ハルカはナンジャモに顰め面を近寄せた。

「配信出たらバトルするって言ったよな!? こんなの聞いてないんですけど!」

「まっ、まぁまぁ! ハルカ氏がクリアすればなにも問題ないから!」

 なんだかナンジャモに良いように踊らされているような気がして、ハルカは不機嫌を募らせる。そんなハルカはお構いなしに、ナンジャモは配信の進行を進めた。

「んじゃ、企画の説明始めちゃうよ! 街角ジェントルさんいらっしゃーい!」

「街角ジェントル?」

 他にもゲストが居るのかと、ハルカは目を向ける。

 そこに居たのはオレンジ色のスーツに、白縁の眼鏡。ポケットに無数のプレミアボールを揃えたジェントルマンは、とても見覚えがあった。

「校長ー!?」

 紛う事なきオレンジアカデミーの校長――クラベルの登場に、ハルカは驚愕のあまり顎を外した。

「えっ!? 校長ですよね!? なにしてんすかこんなところで!」

「おや、ハルカさん。奇遇ですね」

「えー! なにナニ? もしかして知り合い?」

 ナンジャモはクラベルの正体を知らないのか、慣れた口振りで会話するハルカとクラベルの顔を交互に見比べている。

「この人オーラバリバリあるから、街歩いてるとこスカウトしたんだけど!」

「なんで校長がこんな街中歩いてんだよ!」

「このおっさん、どこにでも現れんなー……」

 神出鬼没なクラベルに、ハルカの語調も荒くなる。そんなハルカに、クラベルは「いえいえハハハ……」と笑うだけだった。

「ハルカ氏には今から、こちらのジェントルさんとかくれんぼをしてもらいます!」

「かくれんぼ!?」

「そう! ハルカ氏が鬼ね!」

 随分と突飛な企画に、ハルカは耳を疑う。

「んじゃもージェントルさん、手筈通りにスタンバイよろしくね!」

「かしこまりました」

「校長従順過ぎねぇか!?」

「走るフォーム綺麗!」

 まるで陸上選手の様な美しいフォームで夜の街に駆け出したクラベルに、パワーは思わず見惚れていた。

「ジェントルさんが隠れてるうちに、ハルカ氏に詳しいルールを説明するね!」

 ナンジャモはそう前置いて、企画の全貌を語り出す。

「舞台はハッコウシティ全体! 制限時間は六十分! 街のどこかに隠れてるジェントルさんを制限時間内に見つけ出せたら見事クリア! このかくれんぼ、名付けて……クイズ! 街角ジェントルさんを探せ! ……企画名大丈夫これ? なんらかのそれに反してないよね?」

 企画名を口にしたナンジャモは、急に不安気に体を震わせている。明るい配信者の顔は偽物で、本物はこちらの顔なのだろうか。

「さて! それじゃあ準備は良いかな!?」

「……やるからには全力だ」

 後戻りはできないと察して、ハルカも腹を括る。こうなったら意地でも校長を見つける他道はない。

「おー! やる気満々じゃん! んじゃー目をコイルにして探してくれたまえー! クイズ! 街角ジェントルさんを探せ! よーいスタート!」

 ナンジャモの開始宣言と同時に、配信画面に用意された六十分のタイマーが動き出す。ハルカに確認する術はないが、取り敢えず動き出さねばと街に一歩を踏み出した。

「くそっ! 乗ったはいいものの、街から人ひとりを探し出すなんてかなりの大仕事だぞ!」

 ハッコウシティはシティと呼ばれるだけあって、その敷地は他のパルデアの街に比べても一回り大きい。いくらクラベルのオーラがバリバリといっても、一度見失ったクラベルを探すのは一苦労だろう。

「おっさんの匂いなら覚えてるぞ」

 そんなハルカの窮地を救うように、カクニが口を開く。

「あのおっさん、妙にフローラルな加齢臭がするからな。その匂いから、おっさんのある程度の位置は辿れるぞ」

 カクニはそう言って大きな鼻を鳴らす。流石は優れた嗅覚を持つとされるグルトンだ。

「でかしたカクニ! 校長の加齢臭は知りたくなかったけど、すぐにその匂いを辿ってくれ!」

「任せろ!」

 ハルカの指示に、カクニは鼻に神経を研ぎ澄ませて街を奔走する。ハルカ達の活躍は、離れた位置から追い掛けるスマホロトムによって世界中に配信されていた。

 

 ◎

 

 日の落ちたハッコウシティでは、まだ多くの住人が空の下を練り歩いている。カクニに導かれてハルカ達がやってきたのは、人の集まる繁華街だった。

「ここに居るのか!?」

 頼れるのはカクニの鼻だけで、ハルカがカクニに尋ねる。

「あぁ! 食べ物の匂いが充満してて詳しい場所は分かんないが……この辺りに隠れてるのは間違いねぇ!」

 繁華街にはチュロスやクレープの屋台が営業しており、複数の匂いが入り混じっている。この中からクラベルのフローラルな加齢臭を嗅ぎ分けるのは至難の業だ。

「くっ! あとは自力で探すしかねぇか!」

 捜索範囲が狭まったといっても、この人だかりの中の人探しはかなり骨の折れる作業だろう。制限時間に不安を覚えながら、ハルカは捜索に走る。

「あー!」

 そんなハルカの足を止めたのはパワーの声だ。

「どうしたパワー!」

「ほらあそこ!」

 振り返るハルカに、パワーは視線の先にハンマーを突き差す。その先にあったものに、ハルカは目をコイルにした。

 繁華街に生える街路樹。その葉の隙間に、太い幹にがっしりとしがみつくオレンジ色のスーツが見えたのだ。

「校長ー!」

 まるでヘラクロスの様に木を抱く校長など見たくなかった。

「おや? 見つかってしまいましたか」

「しまいましたかじゃねぇよ! アンタなにしてんだ! 学校の責任者としての威厳とか捨ててきたのか!?」

 敬意も忘れて言葉遣いの荒くなるハルカに対し、クラベルは木の上で平然としている。それどころか「木も良いですね」と独り言を呟く始末だ。

「えー!? ジェントルさんもう見つかっちゃったの!? まだ二十分も経ってないよ! ハルカ氏張り切り過ぎー!」

 早くも企画に決着がつき、こっそりとついてきていたナンジャモが姿を現す。こんな時でも、スマホロトムへのカメラ目線は欠かさない。

「それじゃあジェントルさんはここまで! ジェントルさん、協力ありがとねん!」

「ハルカさん、校長だけでなく宝探しも頑張って見つけてくださいね」

「やかましいわ!」

 木から降りたクラベルはハルカにそう言い残し、綺麗なフォームで繁華街を走り去っていった。

「フヒ……! ハルカ氏のおかげでチャンネル登録数はシビルドン登り……!」

 配信中に増えた自身のチャンネル登録者数を確認して、ナンジャモは配信に映せないような下卑た笑みを浮かべる。

「おい」

「ひっ!」

 不意に声を掛けられ、ナンジャモのオーバーサイズのコートが揺れる。

「これで俺とバトルしてくれるんですよね?」

 もう虚仮にされるのはウンザリだと圧を掛けるハルカに、ナンジャモの瞳は頭上のコイル同様ぐるぐると回された。

「もっ、もも勿論だよ! ただこれからバトル配信の準備するから、もちょーっと待っててね!」

「はぁ!? バトルも配信すんのかよ!」

「当たり前でしょ!? ポケモンバトルは人気のコンテンツなんだぞ!」

 バズリに一切の妥協を許さないナンジャモに、ハルカは顔を歪める。ハルカのドンナモンジャTVへのゲスト出演はまだまだ続きそうだ。

「んじゃー皆の者! 次は挑戦者のハルカ氏とのジムバトル配信だー! でんこうせっかで準備するから、チャンネルはそのままだぞ!」

 画面越しの視聴者に向かって、ナンジャモは100万ボルトの決め顔を披露する。念願のジム戦の筈なのだが、ハルカの脳内は不安で埋め尽くされていた。

 次回! ナンジャモとのハッコウジム戦!

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