俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】ホウエン地方・トウカの森
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《ナゴヤ》なまいきなアチャモ。ハルカが最初に貰ったポケモンだが、俺様主義で指示を聞かない問題児。


【傑作選037】トウカの森でゲットだぜ

 トウカシティでセンリとユウリに別れを告げたハルカとナゴヤは、ポケモンジムに挑戦するべくカナズミシティに向けて足を進めていた。現在地はトウカシティのすぐ側にある森――トウカの森である。

「んー……こんな薄暗い森の中だとよく分かんねぇな。えーっと、今の場所がここで……?」

 太陽も隠れた森の中で、ハルカは地図で現在地を確認する。こうも同じような景色ばかり続くと、頼みの綱である地図もあまり当てにならなかった。

 地図に穴が空きそうな程凝視するハルカに、ナゴヤは後方から視線を送る。ナゴヤにはかねてからハルカに抱いていた謎があった。

「……なぁ」

「ん?」

 不意に掛けられたナゴヤの声に、ハルカは振り返る。

「お前、他にポケモンとか捕まえないのか?」

「え?」

 ナゴヤの質問に、ハルカはきょとんとしていた。

「いや普通ポケモントレーナーなら色んなポケモン捕まえるもんだろ。あの短パン博士からなに貰ったんだ。これから戦うジムリーダー、全部俺一人に相手させるつもりか?」

 オダマキ博士から授かったポケモン図鑑。ハルカの旅の目的の一つは、そのポケモン図鑑に様々なポケモンの情報を記録する事だ。捕まえずとも簡易な情報は得られるものの、ハルカのポケモン図鑑には未だナゴヤの情報しか記録されていなかった。

 ナゴヤの言葉に、ハルカは地図を握ったまま動かない。それ程ハルカにとって、その言葉は目からハートのウロコだった。

「それだー!」

 突然声を上げたハルカに、ナゴヤは不覚にも体をビクつかせる。

「確かに! ポケモントレーナーといえばバトル&ゲット! 折角トレーナーになったのに、なーんか物足りない感じしてたんだよなー!」

「なんで俺がトレーナーにアドバイスしてんだよ……」

 ポケモンに助言を貰うトレーナーなど聞いた事がないと、ナゴヤは嘴から溜息を吐いた。

「よーし! そうと決まれば早速ポケモンゲットだ!」

 ハルカはそう言って地図を片付けると、右手にモンスターボールを用意する。そして薄暗い森を映す瞳に、全神経を研ぎ澄ませた。

 ふと視界の隅で、茂みがこっそりと蠢く。

「そこだ!」

 その一瞬の蠢きを、ハルカは見逃さなかった。

「行け! モンスターボール!」

 蠢いた茂みに向かって、ハルカはモンスターボールを全力投球する。

「おい待て!」

「え?」

 華麗な投球だったと自己満足していたハルカだったが、そんなハルカにナゴヤが浴びせたのは罵声だった。

「なんでお前は考えなしに捕まえようとする! こういうのはまずどんなポケモンか確認して、相手を弱らせてから捕まえるのが定石だろ! こんな適当に投げたモンスターボールで捕まえられる奴が居るか!」

「わっ、分かんねぇだろそんなの!」

 嘴から発せられるナゴヤの説教にハルカも言い返す。二人の口喧嘩の間にも、ポケモンを中に閉じ込めたモンスターボールは茂みの上で揺れていた。

 その時、ピコンッとモンスターボールから音が鳴る。

「「えっ?」」

 それは閉じ込めたポケモンの捕獲の成功を報せるアナウンスだった。

「やったー! 初めてのポケモンゲットだー!」

「マジか」

 初のポケモンゲットにハルカはガッツポーズを掲げ、ナゴヤは顔を歪ませた。ハルカは足元の茂みを掻き分けて、モンスターボールを拾い上げる。

「さて、俺の新しい仲間は一体どんな奴だ!?」

 意気揚々とモンスターボールを投げ、中から飛び出した新たな仲間と初対面した。

「……んっ」

 腐葉土に擬態しそうな本体に緑色の水玉模様を拵えた傘。その頭頂部は火山の噴火口の様に盛り上がっている。

「……きのこだ」

「きのこだな」

 紛れもないきのこポケモンに、ハルカとナゴヤは声を揃えた。

「えっと、僕は一体……」

 独り言を呟くきのこは、自分の身に起こった出来事に周囲を見回す。その際に目の前のハルカと目を合わせた。

「きのこが喋ったー!」

「うわぁー!」

 突然大声を上げたハルカに、きのこもつられて悲鳴を上げる。

「なんですかいきなり! というか、貴方僕の言葉が分かるんですか!?」

「あぁ! それはもうハッキリと!」

 きのこの発する言葉が、一言一句全て聞き取れる。まさかきのこと会話する日が来るなど予想していなかった。

「どうしてだ? 今までナゴヤ以外のポケモンの言葉なんて全然分かんなかったのに……もしかして、ゲットしたポケモンの言葉が分かるようになんのか?」

 自分の特異な能力についてハルカは考察する。どれも結論づけるには、参考資料が足りなかった。

「ナゴヤはこいつの言葉分かるか?」

「あぁ、何故かな」

「という事は、この能力はゲットしたポケモン同士にも適応されるのか……」

 本来ならナゴヤも全くの別種族であるきのこポケモンの言葉は理解できない筈だが、どういう訳か理解できている。能力の謎は深まるばかりだ。

「というか、やっぱ人間がポケモンの言葉理解できたらポケモンもびっくりするよな。なんであいつは普通だったんだ」

「あっ、あの!」

 ハルカが考察にかまけていると、目の前のきのこが痺れを切らして声を掛ける。

「貴方は一体……」

「あぁ、そうだな」

 自己紹介がまだだったと、ハルカは大きく胸を張った。

「俺はハルカ! 駆け出しのポケモントレーナーだ!」

「ハルカ……」

「新しいポケモンを捕まえようと茂みにモンスターボールを投げたところ、お前をゲットしたって訳!」

「えぇ!? 僕ゲットされたんですか!?」

「気付いてすらなかったのかよ」

 ゲットされた事も自覚していなかったきのこに、ナゴヤの視線は呆れる。ハルカはポケモン図鑑を取り出して、新たに記録されたページに目を通していた。

「えーっと……キノココっていうのか」

「はい……」

 キノココは深い森に生息し、普段は湿った地面でじっとしている事が多いと記されている。こうして人間と接する事自体、あまりないのかもしれない。

「こいつは仲間のナゴヤ」

「勝手に紹介すんな」

「そうだ! お前にも名前付けてやんないとな!」

 ナゴヤの言葉も無視して、ハルカは手を鳴らす。

「名前、ですか?」

「そう! その方がぐっと仲良くなれそうな気がするだろ?」

 目まぐるしい急展開に実感が追いついていないのか、キノココはろくに言葉も話せないでいた。そんなキノココも置いて、ハルカは真剣に頭を悩ませる。

「んー……どうしような。きのこだからな……」

 悩みに悩んだ末、とある名案がハルカの頭上で閃いた。

「そうだ! お前の名前はエノキだ!」

「エノキ!?」

 衝撃の命名に、キノココは耳を疑う。

「えっ!? 今エノキって言った!?」

「そうだ」

「ただきのこってだけで適当に考えただろ! 見た目とか全然違うし!」

「失礼な。ちゃんと思いを込めて名付けたぞ。エノキの様に『どんな時でもしつこく生きろ』ってな」

「奥歯に挟まったエノキみたいにしつこく生きろってか!? やかましいわ! そんな名前断固お断りだ! もっと違う名前にしてくれ!」

「こいつめちゃくちゃツッコむな」

 まるでコガネのお笑い芸人の様なツッコミ捌きに、ナゴヤは呆然とする。ただこちらの言葉が分かったところで、ハルカがその言葉を聞き入れてはくれない事を、ナゴヤは身を持って知っていた。

「これからよろしくな! エノキ!」

「嫌だぁー!」

 エノキの絶叫は、トウカの森全域に響き渡った。

 

 ◎

 

 手持ちに新たな仲間であるエノキを加えたハルカは、気を取り直してトウカの森を歩き出した。

「さて、そんじゃあとっととこの森抜けようぜ」

「森ならこっちの方ずっと歩いてればすぐに抜けられるよ」

「ほんとか? いやー頼りになるなーエノキは」

 躊躇なく名前を呼んでくるハルカに、エノキは眉間に皺を寄せる。先程の直訴から、エノキの敬語は綺麗さっぱり見当たらなくなっていた。

 しばらく歩いていると、森の奥に人影が映る。眼鏡を掛けた知的な中年男性。男は茂みを掻き分けて、なにかを探しているようだ。

「ん?」

 男もこちらに気付いて、くるりと首を回す。眼鏡の奥の瞳が捉えたのは、ハルカの隣のエノキ。瞬間男は地面にヘッドスライディングして、エノキに急接近した。

「うわぁ!」

 突然間近に迫った男の顔面に、エノキは驚愕する。

「キッ、キノココだ! おじさん、このポケモン好きなのよね!」

「そっ、そうですか」

「これ君のキノココ!? 良かったら少し観察しても良いかい!?」

「観察!?」

「どうぞ」

「勝手に許すな!」

 ハルカから許可を得ると、男は眼鏡が割れてしまいそうな程の熱視線をエノキに向ける。時折生温かい息が傘に当たり、エノキは恥辱を受けていた。

「待ち伏せしていたのに、いつまでもトウカの森でうろうろと……待ちくたびれたから来てやったぞ!」

 エノキの貞操の危機を救うようにして聞こえた声に、一同は振り返る。

 真っ赤なパーカーを被った謎の男。その人相や声色は、ドラマに出てくる様な分かり易い悪役だった。

「なんだこの人……」

「やいデボンの研究員! 持ってる書類をこっちに寄越しやがれ!」

「ひやー!」

 謎の男は眼鏡の男に用があるらしい。研究員と呼ばれた男は、身の危険を感じてハルカの背中に隠れる。

「君ポケモントレーナーだよね!? おじさんを助けてよ!」

「え?」

「ん? なんだお前? そいつを庇おうってのか?」

 板挟みとなったハルカに、謎の男が詰め寄った。男の手にはモンスターボール。

「マグマ団の邪魔をする奴は子供でも容赦しねぇ! 勝負しやがれ!」

 男がモンスターボールを投げると、中から飛び出したポチエナがこちらに威嚇する。どうやら謎の男に、ポケモンバトルを挑まれたようだ。

「へっ! なにがなんだか分かんねぇが丁度良い! エノキ! お前の力を見せてくれ!」

「えっ!? わっ、分かった!」

 ハルカに指名されて、エノキは一歩前に出る。この勝負が記念すべきエノキの初陣だ。

「ポチエナ、たいあたり!」

 男の掛け声に、ポチエナは一直線にエノキへと突撃した。

「躱せ!」

「わっ!」

 迫るポチエナの突撃に、エノキは紙一重で回避する。エノキの足取りは、あまり戦闘に慣れているようには見えなかった。

「すいとるだ!」

 ポケモン図鑑でエノキの覚えている技を確認しながら、ハルカは指示を出す。エノキは指示に従って、ポチエナから体力を吸収した。遠隔で体力を吸われるポチエナは、苦悶の表情を滲ませる。

「すなかけ!」

 ポチエナは体力を吸われながら、尖った鼻を使ってエノキに砂を掛けた。

「うっ!」

 砂はエノキの瞳に命中し、視界が塞がれる。それに合わせて体力の吸収は中断されてしまった。

「今だ! かみつく!」

 好機は今だとポチエナがエノキに駆け寄る。ポチエナの鋭い牙が、エノキの傘にがぶりと噛みついた。

「痛い痛い痛い痛い!」

「エノキ!」

 脳天を突き刺す様な激痛に、エノキは悶絶する。どれだけ泣いて暴れようと、ポチエナがその牙を離そうとはしなかった。

「ちょっ、無理! ハルカ助けて! 死ぬ!」

 未体験の激痛に、エノキの限界が迫る。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 その時、エノキの頭頂部から黄金色の粉が一斉に噴き上がった。

「!?」

 謎の黄金色の粉は、風に乗って戦場を覆い尽くす。ポチエナがその粉を吸った瞬間、体が痺れて牙はエノキから離れた。

「なんだ一体!」

「胞子だよ」

 状況を理解できずにいるハルカに、背後に居た研究員が眼鏡を調整する。

「キノココは身の危険を感じたり、感情が昂ったりすると、頭頂部から毒性の胞子を噴出する。その胞子には様々な効果があり、時にはああやってポケモンを麻痺状態にさせる事もあるんだ」

 エノキから離れたポチエナは、体の痺れに耐えながら苦しそうに立っている。胞子の効果はかなりのものと言えるだろう。なにはともあれ、千載一遇のチャンスだ。

「エノキ! たいあたり!」

「とりゃあっ!」

 ハルカの指示に、エノキは痺れるポチエナに容赦なく体当たりする。立っているのもやっとだったポチエナに立ち上がる体力はなく、そのまま草むらに力尽きた。

「むむむ……マグマ団の邪魔をするとはなんて奴!」

 ポチエナをモンスターボールに戻した男が口を開く。

「しょうがねぇ! カナズミシティにもマグマ団が狙っている物があるからな! 今日はこれぐらいにしといてやらぁ!」

 そう言い捨てると、男はそそくさと森の奥に走り去ってしまった。悪目立ちする真っ赤なパーカーも、薄暗い森の中では一瞬で行方を晦ませる。

「マグマ団……」

 男が口にしていた単語が、どこかエノキは気になっていた。

「やったなエノキ!」

 背後からの声に振り返ると、ハルカがこちらに駆け足で寄ってくる。その表情は随分とご機嫌だった。

「初めてのバトルであんなに活躍して! 俺、生まれて初めてポケモンバトルした実感湧いたよ!」

 ろくに指示も聞かずに執り行われる勝負を思い出し、ハルカは涙ながらに声を漏らす。当のナゴヤは無関心にそっぽを向いていたが。

「次のバトルでも頼りにしてるぜ!」

「ハルカ……」

 ハルカはエノキを抱き上げて、眩しい笑顔を送る。あまりに嬉しそうな笑顔に、見ているこちらまで感動が込み上げてきた。

「そっ、そんなに褒められたら照れちゃうだろー!」

 エノキの感情が昂った瞬間、頭頂部から胞子が噴き上がる。

「あっ」

 胞子は瞬く間に周囲を包み込み、ハルカの体内に侵入する。途端に体の節々に軋むような痛みが走り、ハルカはエノキから手を放して草むらに倒れた。ハルカだけではない。側に居たナゴヤと研究員も、同じように麻痺に襲われていた。

「えーっと……ごめんなさい」

 面目なさそうに、エノキが照れ笑いを浮かべる。新たに加わった旅の仲間も、どうやら一筋縄ではいかないようだ。

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