俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】ヒスイ地方・黒曜の原野
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《ピコタロー》がんばりやなピカチュウ。世界中のポケモンと人間と友達になるのが夢。
《テッペー》わんぱくなビーダル。先輩呼びに憧れている。
《ネジ》おくびょうなルカリオ。波導の力が他個体よりも強いが臆病者。
《コラーゲン》わんぱくなヌメルゴン。スキンシップ大好き。


【傑作選047】鎮めろ! 荒ぶる森キング・バサギリ!

 黒曜の原野に広がる奥の森を抜けた先の巨木の戦場。中心に巨大な樹木が聳え立つその戦場は、シンジュ団が世話する森キング――バサギリのキング場である。

「バサギリ……お祭りの時期ではありませんが、お好みの食事を調えました。天と地の間にて働き給う我らのキングよ。感謝の気持ちを捧げます。お姿を現したまえ……」

 キクイはキング場の入口に用意された祭壇の前で合唱する。相棒のヒスイヌメルゴンも眠そうに瞼を垂らしながら、キクイを真似て粘液に塗れた両手を合わせていた。

 好物で作られたシズメダマの大量に入った竹籠を背負って、ハルカはキング場に足を踏み入れる。後に続くポケモン達の背中を、キクイは下睫毛の伸びた瞳で見つめていた。

「……本当にあの男に任せて良かったのかね?」

 隣に佇むカイに、キクイはそう尋ねる。

 どこからともなく現れた少年。そんな得体の知れない存在であるハルカに、自分が世話するバサギリを任せるのは今でも尚抵抗があった。それでも任せる事に決めたのは、シンジュ団団長であるカイがそれを認めたからだ。

「……どうだろうね」

「カイさん!?」

 曖昧に答えるカイに、キクイは動揺する。

「ひとまずここは、お手並み拝見といきましょう」

 カイはキング場に侵入したハルカをじっと見つめている。その瞳はハルカを値踏みしているようだった。

「デッケェ木だなー……」

「ねー」

「肝心のバサギリはどこに居るんでげす?」

「全然来ないね」

 目の前の巨木を見上げながら、ハルカ達は悠長に雑談する。このままバサギリが来なければ、ハルカの背負う竹籠がただの荷物となってしまう。

 しかしその心配は杞憂だと、ネジの波動が気配を察知した。

「……いや」

 すると突然遠くで気が斬り倒される音が響く。

「!?」

「なんだ!?」

 慌てて目を向けたところで、そこにポケモンの影は見えない。ただ根元から斜めに両断された木が視界に入っただけだ。

 次に聞こえてきたのは地面を駆け回る力強い足音。打楽器の様な激しい足音に目を向けると、ようやくその姿を瞳に捕らえる事が出来た。

 影は走るのをやめて跳び立つと、ハルカ達の目の前に着地する。屈強な戦士の握る鉞の様な両腕。コラーゲンが見上げる程のその巨体は、まるで雲間から溢れる朝日の様に黄金に輝いていた。

「こいつが……バサギリ!?」

「デカいでげす!」

「なんかめっちゃ光ってない!?」

 初めて相見えるバサギリの迫力に、思わず一同は口をあんぐりと開ける。バサギリはそんな一同に、高々と右腕の斧を振り上げていた。

「マズい!」

 振り下ろされた斧からハルカ、ピコタロー、テッペーは右側、ネジとコラーゲンは左側に回避する。地面に亀裂を斬れた斧の斬れ味は、言うまでもなく仕上げられていた。

 回避したハルカ達に、バサギリはもう片方の左腕の斧を振り翳す。その攻撃モーションに逸早く反応したのはピコタローだ。

「アイアンテール!」

 跳び上がったピコタローは、鋼鉄の如く硬化した尻尾で斧を受け止める。しばらく鍔迫り合う二匹だったが、勝負はバサギリに軍配が上がった。

「うわっ!」

「ピコタロー!」

 斧に弾き返され、ピコタローは後方に飛ばされる。砂煙の立ち上がる先から、ピコタローの返事は聞こえなかった。

「くっ! よくもピコタローを!」

 目の前で弾かれたピコタローに、テッペーは仇討ちだと水の鎧を身に纏う。

「アクアジェッ」

 しかし攻撃の直前、なにか尖ったものがテッペーを襲った。

「ぐはっ!」

「テッペー!?」

 水の鎧を解除したテッペーはその場に倒れ、ハルカが急いで駆けつける。テッペーの付近を注視すると、そこにはなにやら透明な岩石が浮いているのが分かった。

「これは……ステルスロック!?」

「いつの間にこんなもの……」

 先程までのバサギリを見る限り、ステルスロックを仕掛ける余地はなかった筈だ。荒ぶるバサギリは両腕の鉞を研ぎながら、こちらに警戒を続けている。

 次にバサギリが標的にしたのはコラーゲンだ。ネジと左側に回避していたコラーゲンに、バサギリは右腕を振り上げた。

「ネジ!」

「分かってる!」

 振り下ろされた斧を、コラーゲンが体を張って受け止める。一歩間違えれば大ダメージだったが、コラーゲンの自慢の体力がそれを可能にしていた。

「今だ!」

 コラーゲンの合図に、ネジが駆け出す。コラーゲンに右腕を掴まれたバサギリの懐には、容易に侵入できた。

「はっけい!」

 波導を込めた左手でバサギリを突く。右腕を解放されたバサギリは、その衝撃で体をよろめかせていた。

「もー! なにするんだよー!」

 後方に飛ばされていたピコタローが、砂煙の中から元気良く跳び出す。照準はバサギリ。頭に血を上らせたピコタローは、頬袋から溢れんばかりの電撃を放出した。

「10まんボルト!」

 ピコタローの電撃がバサギリを襲う。再度雷に打たれた様な衝撃に見舞われ、バサギリの黄金に光る体はじっくりと焦がされていた。

「よくやったピコタロー!」

「ハルカ! 見てないでちゃんとシズメダマ投げて!」

「あっ! そうだった!」

 ピコタローに指摘され、ハルカは自分の役目を思い出す。今回の目的は荒ぶるバサギリを鎮める事だ。その為に用意されたシズメダマを、ハルカは竹籠から取り出してバサギリに投げつけた。

「オラオラオラァ!」

 投げられたシズメダマは命中し、その場に好物の匂いを振り撒く。この行為に効果があるのかは不明だが、それでもハルカは投げ続けるしかなかった。

 その時、両腕を地面に突いたバサギリが雄叫びを上げた。

「うわっ!」

「なんだ!?」

 劈く様な雄叫びに、ハルカは思わず耳を塞ぐ。バサギリは一同に狙いを定めると、その場で斧を振り翳し、こちらに斬撃を飛ばしてきた。空を斬る技――エアスラッシュである。

「避けろ!」

 こちらに接近する数多の斬撃に、一同はそれぞれ対応する。テッペーは広場を転がって逃げ回り、ピコタローはアイアンテールで斬撃をいなしていた。

 弾幕の様に襲い掛かる斬撃があっては、バサギリに近付く事さえ叶わない。

「テッペー! 僕達も遠距離でいくよ!」

「あいさー!」

 斬撃の合間に、ネジとテッペーが両手に波導を集約させる。二匹の直線上にバサギリが立っており、挟み込みの陣形だ。

「はどうだん!」

「みずのはどう!」

 二匹から放たれたそれぞれの遠距離攻撃がバサギリに襲い掛かる。しかしバサギリが斧を構えてその場を一周すると、生まれた衝撃波によって波導を相殺させてしまった。

「なっ!?」

「なんでげすって!?」

 バサギリに届く事のなかった波導に、ネジとテッペーは面食らう。

「これならどうだ!」

 次は自分の番だとコラーゲンが声を上げる。両手を繋いで強く念じると、コラーゲンの背後から濁った水流が溢れ出してきた。

「だくりゅう!」

 濁流は波となってバサギリに押し寄せる。この水量であれば、先程の波動の様に簡単には対処できないだろう。

 するとバサギリは押し寄せる波へと真っ向から駆け出した。波がバサギリを吞み込もうとした瞬間、右腕の斧が波を一刀両断に斬り拓く。それはさながら神話に出てくる神様の様だった。

「えっ!?」

 バサギリは足を止めないまま、コラーゲンへと突撃する。両腕の斧を振り上げて、交差するようにコラーゲンを斬り裂く。流石に両腕の斧は、コラーゲンの自慢の体力を持ってしても受け止める事が出来なかった。

「ぐあっ!」

「コラーゲン!」

 大ダメージを一身に受け、コラーゲンは膝を突く。そんなコラーゲンの側にピコタローが駆け寄った。

「てりゃあ!」

 コラーゲンを庇うようにして、ピコタローはアイアンテールをバサギリに振るう。バサギリは斧で軽くいなすも、またすぐ次の刃がバサギリに迫っていた。

 金属の衝突する音がこだまする。正に戦場の音といったところか。しかし一本の剣で挑むピコタローに対し、二本の斧で待ち受けるバサギリは手数に有利があった。

「わっ!」

 不意にバランスを崩して、ピコタローが地面に倒れる。その隙をバサギリが見逃す筈なく、左腕の斧を高く振り上げた。

 思わず目を塞いだ刹那、斧が振り下ろされる前にピコタローの体が誰かに攫われる。

「!?」

 ピコタローが目を開けると、そこは温かなハルカの腕の中だった。

「ハルカ!」

「大丈夫か!?」

 ギンガ団の任務で備わったローリングの技術が役に立ったようだ。離れていくハルカの背中を、バサギリが目で追っている。

 故に気付かなかった。ピコタローの戦闘の最中、人知れず背後を取っていた立派な前歯に。

「ひっさつまえば!」

 密かに前歯を光らせていたテッペーが、バサギリの頭部に噛みつく。正しく脳天に突き刺さった痛みにバサギリは暴れるが、鉞に進化した両腕ではテッペーを引き剥がせない。なんとか首を強く振って、テッペーを引き離していた。

「うげー!」

 未だに頭に残った痛みに、バサギリは眉を顰める。そんな歪んだ視界の先に、じっとこちらに向けて力を溜めているネジの姿が映った。

「これでどうだ……!」

 一同がバサギリの木を逸らし続けた事により、ネジの準備はもう万全だ。今更気付いたところでもう遅い。

「ラスターカノン!」

 一点に集中された光が、ネジの掌から発射される。避ける間もなく全身で受けたバサギリは、その衝撃にくらくらと脳震盪を起こしていた。

「今だよハルカ!」

「任せとけ!」

 今が好機だと、ハルカは竹籠を抱えて走り出す。ハルカが目指すのはコラーゲン。コラーゲンの組んだ両手に右足を掛けると、即席のジャンプ台となってハルカを空高くに飛び立たせた。

「食らえー!」

 着地目標点はバサギリだ。ハルカは竹籠を両手に携えると、ダンクシュートの要領でバサギリにシズメダマを浴びせ掛けた。

 シズメダマの甘い香りが溢れる中、バサギリからまるで花火の様な光が解き放たれる。空になった竹籠と共に尻餅をついたハルカが見上げると、先程までの黄金を体から脱いだバサギリが両斧を地面に突いていた。この薄茶色の皮膚こそが、バサギリの真の姿なのだろう。

「鎮めた……?」

「やった!」

 正気を取り戻した様子のバサギリに、一同は歓喜の声を上げた。

 地面に倒れるハルカに、バサギリはじっと視線を落とす。なにか鳴き声を上げる訳でもなく、バサギリはその場を離れて森の奥深くへと立ち去ってしまった。

「ハルカ!」

 四足走行のピコタローを先頭にして、一同はハルカの側に駆け寄る。尻に付いた土埃を払いながら、ハルカも立ち上がった。

「お疲れ様」

 不意に後ろから足音とそんな労いの言葉が聞こえてきて、テッペーが真っ先に振り返る。

「カイちゃん!」

 離れた場所から見守っていたカイとキクイ、ヌメルゴンもハルカ達に歩み寄っていた。コラーゲンは同胞のヌメルゴンと抱き合い、粘液を纏わり合わせている。

「なんだったのだ今のは! バサギリは鎮まったと考えていいのかね!?」

「……多分な」

 バサギリの安否に、キクイは声を荒げる。近くで見ていたハルカも初めての経験だったが、鎮める事に成功したと断言していいだろう。

「先日時空の裂け目から雷が落ちた……。やはりバサギリは、あの雷に打たれて荒ぶったのではないだろうか」

 今もヒスイの空に見える時空の裂け目。まだ推測の域を出ないが、あの怪奇な空模様を見ているとカイの考察も馬鹿にはできなかった。

「時空の裂け目? やはり時空の裂け目にはシンオウ様がいらっしゃって、不思議な雷はその御力なのかね!?」

 カイの考察にキクイが反応する。

「では鎮めたのは誤りでは? 喜んでシズメダマを作った俺が物分かりがいいようで、とんだ間抜けではないかね! ぷんぷん!」

「ぷんぷん……?」

 随分とご立腹な様子のキクイに、ハルカは首を傾げる。

 シンジュ団が信仰するシンオウ様。もしこの現象がシンオウ様の導きなのだとしたら、その導きに従うのがシンジュ団の思想だ。

「キクイ、落ち着いて」

 しかしそんなキクイをカイは制止する。

「バサギリはシンジュ団を襲うポケモンを退けてくれる有り難い存在。本物のシンオウ様の加護を得たなら、意味なくポケモンや人を襲う訳ないでしょう? だからハルカさんが成した事は、大事な事なんだよ」

 確かにキング場で鉞を振り回すバサギリは、どこか苦しんでいるように見えた。そして光から解放され、安堵しているようにも。

「成程……合点。少しばかり取り乱していたけれど、君には感謝するとしますかね」

 カイに諭され、キクイも平静を取り戻した。

「ハルカさん。今まで失礼な物言いをしてごめんなさい。そして……ありがとう、バサギリを鎮めてくれて」

「いや俺は別に……」

 真正面から感謝を告げられて、ハルカは照れ臭くて顔を逸らす。

「カイちゃん! あっしも頑張ったでげすよ!」

 自分も褒めてと、テッペーはカイの前で猛烈にアピールする。テッペーの言葉は届かなかったが、カイはクスッと笑って右手でテッペーの頭を撫でた。

「ポケモン達も、難事に挑んでくれてありがとね」

「んぴゃー!」

「良かったなお前……」

 瞳をハートマークにして失神したテッペーに、ハルカは引きつった笑いを浮かべる。恋するカイに頭を撫でられたのなら、テッペーも本望だろう。

「一件落着だけどね。ここだけの話……また荒ぶるバサギリを見たいよね」

 独り言のように吐いたキクイに、一同は振り返る。

「だってあの強さ、憧れるからね」

 キクイの視線の先は、バサギリの帰った森の奥。確かに荒ぶるバサギリの力は驚異的だった。ハルカ達のチームワークがなければ、バサギリを鎮める事は叶わなかっただろう。

 任務を終えたハルカ達は、キング場から奥の森へと戻っていく。コトブキムラに帰ったら、まずは任務達成をデンボクに報告しなけれなならない。ハルカ達の安息は、まだ当分先の話だった。

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