俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】イッシュ地方・タチワキシティ
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《トシャブツ》うっかりやなダストダス。三度の飯よりゴミが好き。
《ツムジ》しんちょうなアギルダー。口は禍の元がモットー。
《サトミ》ずぶといゴチルゼル。ポケウッドを夢見る演技派女優。
《エボルタ》やんちゃなシビルドン。魂のロックンロール狂。
《ユカリ》わんぱくなアーケン。化石の卵から孵化した赤ん坊。
《ワン》れいせいなキリキザン。プラズマ団幹部であるゲーチスの元側近。


【傑作選005】目指せポケウッドスター

 華やかに栄えた街並みを、目も眩む様なスポットライトが照りつける。街中に流れる陽気なミュージックは、来たる人の心を風に戦ぐ草木と同じ様に躍らせた。

 ポケウッド。タチワキシティの北部に位置する映画の都だ。ここでは数多くの映画監督やポケウッドスター達がその身を削り、日夜最高のロードショーの完成を目指している。ここから生み出された不朽の名作の数は、例えカイリキーの指でも数え切れない。

 そんな夢の舞台に、遂に彼女は足を踏み入れた。

「遂に……遂に来たわ!」

 漆黒のドレスを着飾った様な容姿の彼女は、興奮でそのドレスを震わせていた。

「映画の総本山! ポケウッド!」

 彼女――ゴチルゼルのサトミは、そう憧れの聖地の到着に万歳を上げた。

「数々の名作を世に生み出してきた、正に映画界の桃源郷! 遂に! 遂に私もその桃源郷に足を踏み入れる事が叶ったのね! 嗚呼! なんという僥倖! 今なら私、そらをとぶも使えそうな気がするわ!」

 あまりの興奮に、まるでミュージカル女優にでもなったかの様に心情を謳い上げるサトミ。そんなサトミを、彼女のトレーナーであるハルカとその仲間達は、少し離れた場所から見守っていた。

「……サトミ、テンション上がってるね」

「まぁ、出逢った時からのあいつの夢だったからなぁ」

 ポケウッドを訪れる。それがサトミがまだゴチムだった頃からの夢だった。いつしか訪れる憧れの舞台に向けて、彼女はその舞台に見合う女優になるべく切磋琢磨してきた。そんな夢にまで見た舞台に辿り着いたのだから、彼女の興奮も当然だろう。

「ここがポケウッド……。なんというか、華やかな場所だな。俺には眩し過ぎる」

 本当に眩暈を起こしているのか、ワンはそう言って右手の刃で視界を隠す。

 ずっとゲーチスの側近として暗躍してきたのだ。暗闇が棲み処だったワンにとっては、この街は眩し過ぎるのだろう。しかし、それでもその光を目に焼き付けようとするワンに、ハルカの表情はふっと緩んでいた。

「あっ! あれもしかして『ムウマの休日』の撮影スタジオ!? こうしちゃいられない! もっと近くで確認しないと!」

「あっ、ちょっとサトミ!?」

 トシャブツの声も届かぬまま、サトミは視界に捕えた撮影スタジオへと一目散に走り出してしまった。こうなっては仕方ないと、ハルカ達もサトミを追いかけてついていく事に。

「ハロー! 待っていたよ!」

 そんなハルカを、背後から軽快な声が呼び止めた。

「ウェルカムトゥーポケウッド! 君がイッシュの英雄、ハルカ君だね。僕はこのポケウッドのオーナー、ウッドウだ! よろしく!」

 紫色のスーツに金色の髪をしたウッドウと名乗る男は、ハルカに手を差し伸べた。髪色よりも眩しい頭頂部に、目の行き場に困ったハルカは、逃げる様にしてウッドウの手を握る。

「ハチク君から話は聞いている! この映画の総本山、ポケウッドで撮影体験をしに来たのだろう? あっちのスタジオに全て用意してある! 早速案内しよう!」

「あぁ、ちょっと待って! ツムジ、サトミを連れ戻してきてくれ!」

 サトミ不在のまま話が進みそうになり、ハルカは慌ててツムジに指令を下す。ツムジは無口に頷くと、サトミを強制送還するべく姿を消した。これからのイベントに本日の主役が居なくては、面白い話もつまらなくなるところだ。

 

 ◎

 

 衝動に取り憑かれていたサトミをなんとか引き戻して、ハルカ達はウッドウが案内してくれた撮影スタジオに辿り着いた。

 そこは外から見れば変哲のない巨大コンテナだったが、一度中に入れば、ヒウンシティの様な近代都市が広がっていた。掌から蜘蛛の糸を飛ばすヒーロー、アリアドスマンが跳梁跋扈していそうな大都会だ。

「うわぁ、すげぇー」

 コンテナの中に潜んでいた大都会に、ハルカは素直に感動する。セットに見惚れるハルカ達に、ウッドウはどこか自慢げだ。

 ハルカ達が映画の聖地であるここポケウッドを訪れた理由は、このスタジオで映画撮影を体験する為だ。ジムリーダーでありポケウッド俳優でもあるハチクの紹介で、特別にスタジオを貸してくれる運びとなったのだ。それもこれも全て、サトミの願望を叶える為である。

「それでは僕はこれで。ハルカ君、心行くままに映画撮影を楽しんでおくれ!」

「あれ? ウッドウさんが監督するんじゃないの? 脚本は?」

 別件が待っているのか、そそくさとスタジオを後にしたウッドウに、トシャブツが首を傾げる。

 すると、「ふふっ」と隠し切れない笑い声が聞こえてきた。笑い声の正体は当然彼女だ。

「監督脚本は全てこの私! サトミが執り行うわ!」

「えぇ!?」

 サトミの張りのある宣言に、トシャブツは顎が外れる程驚く。

「監督脚本って、サトミ出来るの!?」

「当たり前でしょ? 私を誰だと思ってんのよ。ほら、既に台本も用意してあるわ。皆一通り目を通して頂戴」

「いつの間にこんなもの……」

 サトミはどこからか取り出した台本を、ハルカ達に一冊ずつ手配りした。受け取った台本はそれなりの厚みであり、ぺらりとページを捲ってみると大量の情報が目に飛び込んできた。

 今回の作品について、監督のサトミは意気揚々と説明を始める。

「タイトルは『777(ジャックポット)』! 正義のスパイが悪の組織に狙われる謎の女性を守りながら組織の秘密に迫る、怒涛のスパイアクション映画よ!」

 テーマ自体は聞いた事のあるようなありきたりなものだ。

「キャストも発表するわ! まずは悪の組織の親玉・ドンボルタ役、エボルタ!」

「うぉっしゃぁぁぁ! やってやるぜぇぇぇ!」

「次に悪の組織のエリート諜報員・ジジ役、ツムジ!」

「………」

「正義のスパイを執り仕切るボス・ユーカリ役、ユカリ!」

「よーし! 頑張るぞー!」

「スパイの抗争に巻き込まれる通りすがりの一般ポケモン役、トシャブツ!」

「なんか僕の役雑過ぎない!?」

「どんな遂行不可能なミッションも確実に遂行する天才スパイにしてこの映画の主人公! ジャック役、ワン!」

「なっ!」

 予想外の大抜擢に、ワンは狼狽した。

「ちょっ、ちょっと待て! 俺が主役なのか!?」

「そうよ」

「いやっ、俺には荷が重過ぎないか!? 第一正義のスパイなんて、俺とは真逆な!」

「言っとくけど、貴方を主役に選んだのは消去法だから。他のメンツが主人公に一切向いてないってだけよ。勘違いしないでよね」

「はぁ……」

 確かに他の演者の顔を見てみると、どれも主役に向いた顔付きは見当たらない。ワンはその浮かんでしまった納得を胸に仕舞って、サトミからの指名を引き受けた。

「そして! 悪の組織に命を狙われ、作品の秘密を握る超重要人物! この映画のメインヒロイン・ヒトミ役は、稀代のポケウッドスターであるこのサトミが演じ上げるわ!」

 まるで既にスポットライトが当たっているかの様に、サトミが謳い上げる。この調子では、真の主人公がヒロインである事は免れなさそうだ。

 全ての配役が発表されたと思われたその時、そーっと一つの手が挙がる。

「あのー……俺は?」

 台本に自分の演じる役を探していたハルカだ。自分は一体どんな役なのだろうと胸を躍らせるハルカに、サトミは冷酷に告げる。

「はぁ? なにもないけど」

「はぁ!?」

 サトミの宣告は、ハルカの期待を一瞬で打ち砕いた。

「なんでだよ! 俺にもなんかやらせろよ!」

「嫌よ。なんで私のデビュー作にアンタなんかを出演させなきゃなんないのよ。アンタは裏方よ。カメラマンとかアシスタントとか、精々地道な仕事を頑張って頂戴」

「嫌だ! 俺も映画出たいー!」

 自分もスクリーンに映りたいと必死に抗議するハルカだったが、サトミは一切聞く耳を持とうとしない。監督の判断は絶対のようだ。

「よし! それじゃあ早速撮影始めるわよ!」

 こうして遂に撮影はクランクインした。

 

 ◎

 

「それじゃあまずは悪の組織の親玉・ドンボルタが部下に対して冷酷に指令を下すシーンから! エボルタ、出番よ」

「うぉっしゃぁぁぁ!」

 トップバッターを任されたエボルタは、体に電気を帯びさせている。相当闘志が漲っているようだ。

「台本通りやってくれれば大丈夫だから。それじゃあ行くわよ。よーい……アクション!」

 サトミのアクションを合図に、カメラマンのハルカがカメラを回す。

「ぅお前らぁぁぁぁぁぁぁ! あの女をぉ! 見つけ次第ぃ! ぅぅぅぶち殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「カット!」

 エボルタの発声は、部下が耳を塞いでしまう程の爆音波だった。

「ちょっとエボルタ! うるさ過ぎよ! すぐそこに居る部下に指示出すだけでしょ!? そんな叫ばなくても良いじゃない!」

「アァァァァァァァァァァァ!」

「シャウトするな!」

 ロックンロールのスイッチが入ってしまったのか、エボルタは台本も無視して雄叫びを上げた。サトミの声も、エボルタの断末魔で掻き消されてしまう。

 こうなっては手を付けられないと、サトミは最初のシーンを断念する。出鼻を挫かれた事に幸先が不安となったが、ここで挫ける訳にはいかないとサトミは自らを強く鼓舞した。

「もういい! 次はツムジ! アンタよ!」

 サトミは次の標的をツムジに定めた。

「ドンボルタの指令を受けて、エリート諜報部員・ジジが『了解』と承諾するシーン! こんなシーン、さっさと終わらせるわよ! 準備は良いわね!? よーい……アクション!」

 早口に出された合図に、カメラは慌てて回り出す。

「………」

 しかしツムジが口を開く事は一切なかった。

「喋れよ!」

 堪らずサトミが、静止画の様なツムジに激昂する。

「なにずっと黙ってんのよ! 『了解』の一言言えば良いだけでしょ!? それくらいとっとと言いなさいよ!」

「俺は誰かに用意された台詞など口にしたくない」

「アンタいっつも喋んないじゃないの!」

 ツムジは根本的に俳優業に向いていないようだ。両手で口を開けてでも二文字を捻り出したいサトミだったが、ツムジは頑なに声を発さなかった。

 無駄な体力を消費したと悟りながら、サトミは更にシーンを後回しにする。

「あーもう! じゃあ次! ユカリ!」

「わーい!」

 ようやく自分の番が回ってきた事に、ユカリは嬉しそうに万歳する。サトミは現世に下りて間もないユカリにも理解し易いように、今まで以上にシーンを噛み砕いて説明した。

「良い? ユカリ、貴方は正義のスパイのボスなの。たくさん居る人の中で一番偉い人。そんな貴方が、どうやって悪の組織を倒そうか考えてるシーンが欲しいの。出来る?」

「うん!」

 ユカリはサトミの説明に大きく頷く。恐らく気分は、幼稚園児がお遊戯会を披露する時のものと同じだろう。

 サトミはユカリを信じて、監督の必需品であるメガホンを取る。

「それじゃあ行くわよ! よーい……アクション!」

「うーむ……、このままではこのくにの全てのニンゲンがきけんな目にあう。なにかいいホーホーはないだろうか……」

 子供特有のあどけなさが残るものの、ユカリは確かに映画の中で躍動していた。サトミも手応えを感じているようで、じっとユカリを見守っている。

 しかしその時、ユカリの視界の隅を一羽の鳥が羽ばたいた。

「あっ、ホーホーだ!」

「カット!」

 演技もそっちのけでスタジオに迷い込んだホーホーを追いかけるユカリを、サトミが捕獲する。

「ちょっとユカリ! 今は撮影中でしょ!?」

「でもホーホーが……」

「ホーホーは後でも追いかけられるから! ほら、今は撮影に集中して!」

「でも……」

「良いから! 言う事聞いて!」

 サトミの声には熱が入り、怒気も籠る。その鬼気迫る迫力が、ユカリの崩れ易い涙腺を刺激した。

「あっ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」

 ユカリの両目から、滝登りでも出来そうな程の涙が溢れ出る。サトミは慌てて、ユカリの涙の塞き止め作業に取り掛かった。

「ごめんなさい! ユカリ! ほら泣き止んで!?」

「うわぁぁぁん!」

「もう! ツムジ! ちょっとユカリお願い!」

 どれだけあやしても、ユカリの涙はやみそうにない。やむを得ずサトミはユカリをツムジに預け、中断していた撮影を再開した。

「はい次! トッシャン!」

「はっ、はい!」

 緊張しているのか、トシャブツはどこか強張っていた。

「トッシャンは抗争に巻き込まれるモブポケモンだから、適当に悲鳴上げながらそこらへん逃げ回って頂戴」

「んー、なんか指示が雑なような……」

「それじゃあ行くわよ。よーいアクション!」

 トシャブツのつっかえにも待ってはくれず、カメラはそのまま回り出した。

「うっ、うわぁー! 助けてー! 死んじゃうよー!」

 トシャブツは目の前の惨劇から逃げ惑う一般ポケモンに成りすます。先のシーンと比較すれば、十分及第点だろう。

 ただ、サトミの審美眼は厳しかった。

「……なんか、くさい」

「あれ、そんなに芝居くさかった? 頑張って自然に演じたつもりだったんだけど……」

 演技の奥深さを痛感するトシャブツだったが、サトミの着目点はそこではなかった。

「いやっ……体臭が」

「体臭!?」

 予想外の指摘に、トシャブツは脱帽する。

「そんなのいつもの事じゃん! 今更言わないでよ!」

「いやまぁそうなんだけど……、ちょっと気になっちゃって……」

「頑張って演技したんだからそっちにコメントしてよ!」

「あぁ、演技は普通に下手だったわよ」

「酷い!」

 サトミの口から平然と吐かれた言弾が、トシャブツの心臓を射抜く。言弾にもエスパーの力が宿っているのか、効果は抜群だ。

 戦闘不能に陥ったトシャブツを置いて、サトミは撮影を続ける。

「それじゃあ次! ワン!」

「なっ!?」

 とうとう自分の番が訪れ、ワンは動揺を表に出す。鋼の心の準備は、依然整っていないようだ。それでもサトミはお構いなしにメガホンを握る。

「正義のスパイである主人公・ジャックが、悪の組織からヒロインを守るシーン! 映画の見せ場なんだから、ばっちり決めてよね!」

「わっ、分かった……」

 サトミの眼力が、ワンにプレッシャーを与える。

「行くわよ! よーい……アクション!」

 問答無用に回されたカメラを前に、ワンは主人公を演じ始めた。

「ヒッ、ヒトミッ! だっ、大丈夫、かっ? ここは俺にまっ、任せてっ、先に逃げろっ! 君には指いっぴょん……ぽんっ! 触れさせ、ないっ!」

 その完成度は実に低レベルのものだった。三文芝居と人は言うが、三文でもぼったくりだと訴訟されるレベル。ヤナップでももっと上手く演じられるレベルだ。

 そんな大根な演技にサトミはまたも憤ると思われたが、それどころか胸を高鳴らせていた。

「……可愛い」

「えっ?」

 我に返ったワンが、監督の異変に声を漏らす。

「いやその……演技としては全然なんだけど、直向きに頑張って演じようとしてくれてるワンがなんだか無性に可愛くって。こう、疲れた心を癒してくれるような」

「おっ、おい! 俺は真剣にやってるんだぞ!」

 心外だとワンは頬を薄紅色に染めながら抗議する。それも所詮照れ隠しにしか見えず、サトミの胸をきゅーっと締めていった。

 気を取り直して、撮影も大詰めに差し掛かった。

「さて! それじゃあいよいよ私の出番ね!」

 お待たせしましたと言わんばかりに、遂にサトミがカメラの前に推参する。

「ヒロインのヒトミが、ジャックと離れ離れになって悪の組織から一人逃げ惑うシーン! 私がプロの女優の演技ってのを見せてあげるから、皆その目に焼き付けなさい!」

 自らの首を絞めるかの如く、サトミはハードルを上げていく。ハードルの高さは、サトミの身長を遥かに超えていた。

「それじゃあ行くわよ! よーい……アクション!」

 自ら合図を出し、サトミはヒロインを憑依させる。

「あぁ! ジャック! どうしよう、心配だわ。でも私が今こいつらに捕まったら全てが水の泡……。……うん、ジャックなら大丈夫よね。彼最強だもの。私が信じてあげなくちゃ、生きられるものも死んでしまうわ。今の私に出来る事は、ジャックを信じて生き残る事……!」

 自賛するだけあって、その演技力は目を瞠るものだった。自分で高くしたハードルも、棒高跳びの要領で軽く飛び越えている。流石長年ポケウッドの舞台を追い求めていた女優志望といったところだろう。女優業に没頭するサトミは、どの瞬間よりも輝いて見えた。

 テイクは完璧だと思われたが、それでもカメラは止まらない。

「そこのお嬢さん、ちょいと待ちな!」

「!」

 台本には用意されていない唐突な台詞。サトミは一体誰の台詞かと、その首を台詞の聞こえた方向に回した。

 その瞳に映されたのは、役の無い筈の人型の影だった。

「そっちは危ない。ここは真の最強スパイと呼ばれた俺様、ハレルヤ様についてきな!」

「なに勝手に出てきてんのよ!」

 突如舞台に上がり込んできたハルカは、知らぬ間にそれらしき衣装を身に纏っていた。カメラマンもしれっとトシャブツに入れ替わっている。

 自身の名演技を台無しにされたサトミは、たちまちおつむを大噴火させた。

「ちょっと! 今良いところだったでしょ!? 裏方が映画の世界にしゃしゃり出てんじゃないわよ!」

「うるせぇ! 俺だって映画に出たいんだよ! なんでも良いから出演させろ!」

 互いに一歩も譲らない言い争いに、口喧嘩は白熱する。その熱に影響され、周囲もあれよあれよと騒ぎ出した。

「イェェェェェェェイ! 主題歌は俺に歌わせろぉぉぉ!」

「ちょっと皆! 落ち着いて!」

「ねぇねぇワン! 一緒に遊ぼ!」

「えっ!? そっ、そうだな……、それじゃあ人形遊びでもするか」

 それぞれがそれぞれで暴走を起こし、スタジオは渾沌状態となってしまった。こうなってしまっては映画撮影など以ての外。サトミの長年の夢であったポケウッドデビューは、なんとも不服なバッドエンドでクランクアップを迎えた。

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