俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】シンオウ地方・鋼鉄島
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《エレナ》ハルカの幼馴染。ポケモンコーディネーターの修行の為、ハルカの旅に同行中。
《テッペー》わんぱくなビーダル。先輩呼びに憧れている。
《カエデ》なまいきなイーブイ。表は愛想良く振る舞うが裏は腹黒。
《オジョー》てれやなエネコ。ハルカを恋い慕うもツンデレで素直になれずじまい。


【傑作選006】鋼鉄島の武者修行

 鋼鉄島。ミオシティの北部に位置する無人島である。以前は有益な鉱物が多く取れる鉱山として人の往来も激しかったが、今ではその島に訪れるのは、修行に明け暮れる物好きなトレーナーしかいない。

「テッペー! みずでっぽう!」

「あいさー!」

 島の洞窟内部にて、そんな威勢の良い指示が飛ばされる。指示を受けたテッペーは、眼前に立ち塞がる野生のゴローンへと勢いよく水を放出した。岩にも等しいその荒れ肌に水の射撃は効果覿面で、命中したゴローンは再起不能に陥る。

「よっしゃー! 良くやったぞテッペー!」

「へへっ! これくらいちょちょいのちょいでげすよ!」

 テッペーの勝利に、ハルカは自分事の様に喜ぶ。対するテッペーは鼻を高くして胸を張っていた。

 ハルカが鋼鉄島に訪れた理由は、先述した通りに彼が物好きなトレーナーだからだ。先日ミオシティにジムを構えるトウガンに大敗を喫したハルカは、トウガンに再戦を申し込むべく、こうして無人島に籠って修行をしているのである。その熱量はテッペーも同じようだ。

「よし! このままガンガン強くなるぞ!」

「あいさー!」

 二人は休む暇すら惜しいと、続けて野生のポケモンとの戦闘態勢に入る。次の対戦相手であるゴルバットは、すぐに奥から姿を現した。

 そんなリベンジに燃える二人を吹き飛ばす程の溜息が、洞窟の隅から吐かれる。

「はぁ、なにをそんなに熱くなってるんだか」

 そうハルカ達を冷たい瞳で眺めているのはカエデだ。戦闘の巻き添えを食わない程度に離れた位置から、カエデはエレナとオジョーと一緒に冷えた岩肌に腰を下ろしていた。

「ふんっ、努力の意味が分かんないようじゃ、アンタもまだまだね」

「まぁ、この前はあんだけボロボロにやられちゃったからね。今度は頑張って勝ちたいんだよ」

 オジョーの嫌味を含んだ言い草を中和する様に、エレナが優しく説明する。それでもカエデには、ハルカを理解する事が出来なかった。

「そこまで汗水流して手に入れた勝利に一体なんの価値があるっていうの? あーあ、こんな薄暗いところさっさと出たいわ。早く終わんないかしら」

 ハルカが修行に夢中な事を良い事に、カエデは本性を赤裸々に晒していた。生意気な口を開くカエデに一口噛みついてやろうと牙を立てるオジョーを、エレナがなんとか捕まえて背中を擦って宥める。

 テッペーは絶好調なようで、平らな尻尾でゴルバットを叩き落していた。光源など限られているのに、自慢の前歯がキラリと光る。

 カエデの願いも届かず修行は続行。と、思われたのだが、突如鋼鉄島に割れんばかりの地響きが鳴り響いた。

「キャッ!」

「うわっ!」

「なんだ!?」

 洞窟を揺らす様な地響きに、一同は体勢を低くする。すると地響きの正体か、洞窟の奥深くから巨大なポケモンの影がこちらに駆けてきた。

「あれは!」

「イワーク!」

 高さ九メートル近くもあるいわへびポケモンのイワークだ。視覚が機能していないのか、イワークは壁に体をぶつけながら暴走機関車の如く這いずり回る。このままではこちらと衝突するのは必至だ。慌てて進路から外れるハルカ達。しかしあまりの地響きに腰を抜かしてしまったカエデだけが、車線上に取り残されてしまった。

「カエデ!」

「えっ?」

 目を合わせたら最後、こちらに迫ってくるイワークが視界を覆う。カエデに手を伸ばそうとするエレナだったが、無事では済まないだろうとハルカが止める。テッペーの水鉄砲も間に合わないだろう。轢かれるのも覚悟の下、ハルカが足を踏み出そうとしたその時、

「ルカリオ! はどうだん!」

 号令と共に、イワークの顔面に青く光る不思議な弾が襲い掛かった。弾をもろに食らったイワークは体勢を崩し、カエデの目前で横に倒れる。倒れた轟音と砂煙に、カエデは目を瞑った。

「カエデ!」

「!」

 そんなカエデに、エレナが勢い余って飛び掛かる。突然の抱擁に、カエデは驚いたように瞳をぱちくり開けた。

「大丈夫だった!? 怪我はない!?」

「えぇ、まぁ……」

 怒涛の質問攻めにも曖昧な返答だ。カエデの無事を確認して再度抱き締めるエレナに、オジョーは背後で息を吐いていた。その息が示す理由が安堵か呆れかは記すまでもない。

 ハルカもカエデの無事に安心するが、気になるのは先程の弾の発射地点だ。目を回して探してみると、その主は向こうから顔を出した。

「やぁ、無事だったかい?」

 振り返ると、青い鍔のある帽子を被る青年。隣には彼の服装と似た配色をしている、狼の顔立ちをした二足歩行のポケモンが立っていた。

「はい……貴方は?」

「私はゲン。いつもここで修行をする物好きなトレーナーだよ。彼は私の相棒であるルカリオだ。よろしく」

 ゲンと名乗った青年は、ハルカと近しい人種のようだ。

 隣のルカリオも、ゲンと同じように礼儀正しく一瞥する。先程の不思議な弾を撃ち込んだのは、このルカリオだろう。ここで日夜修行して身に付いたというその強さは、伊達ではないようだ。

「……さっきのイワークはなんだったんですか?」

 未だ地面に伏せるイワークを横目に、ハルカがそう問い掛ける。先程の様子を見る限り、イワークが正気でなかったのは明白だ。

「さぁ。ただ今日の鋼鉄島はなにやら騒がしい」

 日々この場所で修行に励むゲンだから気付いた異変だろう。ルカリオも感じているのか、後頭部に備わる四本の房が警戒を放っている。

「見たところ、君も相当手練れのトレーナーと見た。良かったら一緒に行かないか? ……えぇっと」

 ゲンはそう言って手を伸ばすも、名前を尋ねそびれていた事に気付く。そんな些細な隙間から、彼の人の良さが見えてくる。ハルカはクスリと表情を崩すと、伸ばされたゲンの掌をガッツリと握った。

「ハルカです。よろしく」

 その表情は、良い修行場を見つけたと書いてあるようだった。

 

 ◎

 

 行動を共にする事にしたハルカとゲンは、鋼鉄島の洞窟奥深くへと足を走らせていた。次々と飛び出してくるゴローンやゴルバット等の野生のポケモン達を、脇に控えるテッペーとルカリオが薙ぎ払っていく。

「……確かに、奥に行く程ポケモンの気が立ってるみたいだな」

 エンカウントするポケモン達の共通項として、ハルカはまるでなにかから慌てて逃げてきているような、そんな焦燥を感じていた。

「あぁ、この先になにかあると思うのだが……」

 ゲンも同じ考えのようで、真相を逸早く知るべく地面を蹴る足の力が強まる。

 ふとゲンの視線は後方へと向けられた。

「……しかし、やはり君は戻っていた方が良いんじゃないか? この先どんな危険が待っているか分からないぞ?」

 ゲンに声を掛けられたエレナは、ハルカ達の後方で懸命に足を振っている。両手で抱えられたカエデは、円らな瞳でエレナを見上げていた。

 エレナの身を案じたゲンだったが、生憎エレナの足は止まらない。

「大丈夫です! 二人の邪魔にはなりません!」

 荒い息の中、エレナは圧の掛かった言葉を吐く。

「それに、もしポケモンが困っているのなら、私もポケモンを助けたい!」

 エレナの瞳には、確固たる意思が宿っていた。流石はポケモン博士の娘だと、ハルカは歯を見せて笑う。側を四足歩行で駆けるオジョーも、踵を返すつもりはないと我武者羅に足を働かせていた。

 そこまでの意思を見せられれば、ゲンも無理に忠告する気はない。

「……そうか」

 そう口ずさんで、ゲンは口元を緩ませた。

 瞬間、ルカリオがなにか波導を感じ取ったのか、「ヴォウ!」と鳴き声を響かせた。

「! なにかあったか!?」

 一同は疎かになっていた前方を注視する。仄暗い洞窟の先には、薄らと人の影の様なものが二つ程視認できた。

「! あいつらは!」

 ハルカはその影の正体を知っていた。否、正確に言うならばその影自体の正体を知っていた訳ではない。彼らの身に纏う宇宙服を模したコスチュームを知っていたのだ。

「ギンガ団!」

「どうしてこんなとこに!」

 洞窟の奥深くで待っていたのはギンガ団だった。ギンガ団は巨大な鋼鉄製の網を駆使して、野生のポケモンを一斉に捕獲しようとしているようだ。ポケモンの気性が荒くなっていた原因は、彼らで間違いないだろう。

 ハルカの上げた大声に、ギンガ団員もハルカ達の到来に気が付いた。

「ギンガ団? 君達、こいつらを知っているのか?」

 余程この島に籠っているのか、ゲンはギンガ団の存在を把握していないようだ。

「この地方を根城にしている悪の組織です! なに企んでっかは知らねぇけど!」

 ハルカは大雑把にギンガ団について説明する。全く理解するには至らなかったが、今の状況では十分な説明だ。

「成程」

 ゲンの帽子の下に、ふっと影が差す。

「君達がポケモンが騒がしい原因か。この鉱山にどんな理由でも、騒ぎを持ち込んで欲しくないな」

 先程の声色とは明らかに違う、静かだが怒りを孕んだ声。

 その声に臆する事なく、ギンガ団員は自らの目的を洞窟に反響させる様に謳い上げた。

「私達ギンガ団は、この地方に棲む全てのポケモンを奪う!」

「つー訳で、この寂れた鋼鉄島のポケモン、根こそぎ奪わせてもらうぜぇ!」

 ギンガ団員は挑発的にこちらに声を投げてくる。分かっていた事だが、話し合いで解決できる道は無さそうだ。

「全ての喜び、そして悲しみを分かち合う。それがシンオウに生きる全てのトレーナー、そしてポケモンの生き方だ。それを邪魔するものは許さない」

 ゲンの鬼気迫る憤りは、周囲の空気にまで影響を及ぼしていた。背中を見つめるだけのエレナでさえ、その怒気に身を震わせる。素人知識でしか知らないが、これが『波導』というものなのだろうか。

「さぁ! 行くよハルカ!」

「はい!」

 ゲンとハルカの掛け声を合図に、ルカリオとテッペーは臨戦態勢に入る。ギンガ団員も、戦闘に向けて腰からモンスターボールを投げた。

「行け! ニャルマー!」

「やっちまえ! グレッグル!」

 それぞれ繰り出したのは灰色の毛を逆立てるニャルマーに、頬の毒袋を膨らませるグレッグル。どちらも戦闘の準備は万全といった体勢だ。

 先制を仕掛けたのはテッペーだ。

「テッペー! みずでっぽう!」

 ハルカの指示通り、テッペーは敵に目がけて水の銃弾を撃ちつける。しかし二匹とも鮮やかな身のこなしで、銃弾は軽く躱されてしまった。ニャルマーは回避の動作線上で、テッペーの懐に潜り込む。

「ねこだまし!」

 眼前で鳴らされた掌の音に、テッペーは思わず目を怯ませた。

「テッペー!」

「みだれひっかき!」

 その一瞬の隙を見逃さず、ニャルマーは美しく整えられた鋭い爪で、テッペーを幾重にも傷つけていった。

「うわぁっ!」

 止まらない連続攻撃に、テッペーの断末魔が反響する。

「不味いな……。ルカリオ、はどうだん!」

 ハルカの劣勢を目に、助太刀すべくゲンがルカリオにそう指示を飛ばす。ルカリオは指示に従順に、全神経を注いで波導の弾丸を拵えていった。しかし、敵はなにも一匹だけではない。

「おいおい、俺の事を忘れて貰っちゃあ困るぜ?」

 ルカリオの背後には、攻撃の構えを取るグレッグルが忍び寄っていた。

「ふいうち!」

 グレッグルの毒手がルカリオの腹部に突き刺さる。完全に気を逸らしていたところからの攻撃に、ルカリオはバランスを崩して膝を突いた。

 その隙に、グレッグルも怒涛の攻撃を魅せる。

「かわらわり!」

 大きく振りかぶられた拳は、ルカリオの背中を瓦解させる勢いで振り下ろされる。鋼タイプのルカリオに、効果は抜群だ。

「ヴァオゥ!」

「ルカリオ!」

 堪らず響いたルカリオの呻き声に、ゲンも心配の声を上げる。ルカリオは足腰だけでは耐えられず、四つん這いに姿勢を崩していた。

 ハルカとテッペーの形勢も、未だ芳しくない。

「でんこうせっか!」

 ニャルマーは自慢のスピードでテッペーを翻弄し、テッペーの体力をじわりじわりと削っていく。

「テッペー! 大丈夫か!」

 攻撃の隙間を縫って、ハルカの声が耳に届く。防御を固めるテッペーは、薄らと目を開けて戦況を確認した。こちらに突き立てる爪の連撃を止めそうにないニャルマー。ふと背後に目を向けてみると、ルカリオもグレッグルを相手に苦戦しているようだった。

「ハルカ! このままじゃ相性が悪過ぎるでげす! なんとかしてルカリオと入れ替わるげすよ!」

 戦地から判断して、テッペーがハルカに伝達する。ゲンもギンガ団員も、テッペーがハルカになにを伝えたのか解読できない。ただ一人、ハルカの口角がニヤリと不敵に吊り上がった。

「あぁ、分かった!」

 テッペーの判断を下に、ハルカが指示を下す。

「テッペー! ころがる!」

「あいさー!」

 ハルカの指示通り、テッペーはその場でグルグルと縦回転し、自らを肉の団子と化してニャルマーに突進した。

「躱せ!」

 当然、襲い掛かってきた肉団子をニャルマーはひらりと避ける。しかしテッペーは猛進を止める事なく、遂には壁から天井にまで転がり回っていった。ぐるりと一周したテッペーは、先程まで後方で戦っていたグレッグルの背後を奪う。

「!」

 そう、初めから狙いはニャルマーではなかったのだ。

 肉団子はそのままグレッグルに激突。完全なる意識の範囲外からの不意打ちに、グレッグルは為す術無く地面に伏せた。思い掛けない奇襲に呆気に取られたのは、ルカリオも同様である。

「……成程」

 予想外な味方の行動に、ゲンは口元を緩める。

「くそっ! ニャルマー! でんこうせっか!」

 グレッグルの幇助に向かうべく、ニャルマーが華奢な足で地面を蹴り上げる。しかし、その行動を予測していたかの如く、彼はニャルマーの懐に颯爽と忍び込んだ。

「どうやら選手交代のようだ」

 ゲンは息の合った呼吸で、ルカリオに指示を下す。

「はっけい!」

 ルカリオはニャルマーの胸元にそっと右手を当て、渾身の衝撃波を注ぐ。放たれた青白い衝撃波の破壊力は凄まじく、直撃したニャルマーの体は洞窟奥へと吹き飛ばされた。全身の損傷は激しく、もう戦闘に戻る事は出来ないだろう。

 気を失っていたグレッグルはようやく立ち上がり、戦線に復帰する。しかし、そんなグレッグルの眼前に飛び込んできたのは、水の鎧を纏ったテッペーだった。

「アクアジェット!」

 激流を纏ったテッペーの体当たりが、グレッグルに直撃する。グレッグルはそのまま壁に撃ちつけられ、白を剥いた目は完全に意識を失っていた。これでギンガ団の手持ちに戦えるポケモンは居なくなった。

「さて、これからどうするんだ?」

 ゲンが二人に問い質す。ハルカ、ルカリオ、おまけにテッペーの威圧感に、ギンガ団の残された道は逃げ道しかなかった。

「くっ! 帰るぞ!」

「おぉ!」

 疲弊したポケモンをモンスターボールに避難させ、直ちに撤退の音頭を取る。出口に向かって去っていく二人の背中に、ゲンは仕事終わりの息を吐いた。

「ありがとう、君のおかげで助かったよ」

「えっ? いや、俺は別に」

 突然の感謝に、ハルカは困惑する。そんなハルカに、ゲンは魅惑的な興味を抱いていた。

「君は不思議な人だ。先の戦いも、君はビーダルと会話しているようだった。まるでポケモンの言葉でも分かるかの様に」

「!?」

 真実を言い当てた比喩表現に、ハルカは驚愕する。

「いっ! いやっ! そんな訳ないじゃないっすか! ポケモンの言葉が分かるなんて、そんな馬鹿みたいな話!」

「そうでげす! そんなの有り得る訳ないでげすよ!」

「アンタが誤魔化しても意味ないでしょ」

 ハルカと一緒に慌てて取り繕おうとするテッペーに、オジョーが冷静に指摘する。

 この特殊な才能は、本当に信頼できる人間にのみ打ち明ける事にしている。真実を霧の中に隠したハルカだったが、それを見透かしたかのようにゲンが笑った。

「そうだ。君達、ちょっと着いてきてくれないかな?」

「?」

 ゲンからの誘いに、一同は揃って首を横に傾げた。

 

 ◎

 

 ゲンに案内されてやってきたのは、鋼鉄島の洞窟の入口に建てられていた小さな一軒家だった。常に開錠されているのか、鍵を開けた素振りもなく中に入ると、冷蔵庫やベッドなど、必要最低限の生活用品が揃えられていた。

「へぇ、ここってゲンさんの家だったんですね」

「あぁ、修行の合間はここで体を癒してるんだ」

 羽織っていた群青色のスーツをハンガーに掛けながら、ゲンはそう答える。エレナは男の一人暮らしに興味があるのか食器類の棚に目を向かわせ、カエデとオジョーはフローリングで寛いでいた。

 部屋のあちこちを物色していたハルカは、ふと部屋の隅に目を止めた。こそこそと物音が聞こえるところ、どうやらなにか隠れているようだ。目を凝らせば、ベッドから水色の耳らしきものがぴょこんと飛び跳ねている。ハルカが覗いてみると、そこには幼さの残るポケモンが三角座りでゴンベドールを抱き締めていた。

「お前は……?」

 ハルカと目の合ったそのポケモンは、異常なまでに体を震えさせる。触れれば壊れてしまいそうな程に繊細なようだ。

「彼はリオル。ルカリオの進化前だよ」

 ダイニングからコーヒーを用意してくれたゲンが、ハルカにそう紹介する。確かにその容姿はゲンの相棒であるルカリオに瓜二つだ。しかし、ギンガ団との戦闘時に見せてくれたあの勇ましさは、部屋の隅で蹲るこのポケモンからは感じない。

「ルカリオやリオルは波導を感じ取るという特殊能力を持っていてね。このリオルは、他の個体よりもその感じ取る能力が一際高いみたいなんだ。しかし、見ての通り彼は臆病な性格でね。常に無意識で流れてくる波導の渦に怯えながら過ごしているんだよ」

 ゲンの話を耳にしながら、ハルカはリオルを見つめる。聞きたくもない声が無条件で聞こえてしまうというのは、一体どれだけの苦行なのだろうか。このポケモンはその小さな体に、はち切れる程の情報を溜め込んでいるのだ。そう考えれば、リオルのこちらに向ける警戒心も理解できそうな気がした。

「……ハルカ、良ければこのリオルを君の旅に連れて行ってくれないか?」

「!」

 ゲンからの提案に、ハルカは仰天する。しかしそれよりも仰天していたのはリオルの方だった。

「リオルに色んな世界を見せてあげて欲しい。君と一緒なら、リオルも変われるんじゃないかと思ってね」

 ハルカはリオルに目を向ける。リオルはここを出たくないらしく、ゲンに必死に首を振って抵抗の意を示している。それでもゲンの心中は既に固まっているようだ。

「……俺と一緒に来てくれるか?」

 膝を屈ませて、ハルカはリオルと目線を合わせる。リオルは全身を強張らせて、ゴンベドールを抱く両腕に力を入れた。このままではゴンベドールが失神してしまいそうだ。

 そんなリオルに、ハルカは落ち着かせるよう笑みを浮かべた。

「俺はハルカ! よろしくな!」

 ハルカはリオルにそう言って手を伸ばす。その笑顔は太陽の様に眩しくって、リオルはまるで日に当てられる様に瞳を奪われていた。彼の波導が、頭の中に流れてくる。その波導の感触にリオルは悪い気分はしなくて、気付けばリオルはハルカの伸ばした手をそっと握り返していた。

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