俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】カロス地方・シャラシティ
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《ブンタ》れいせいなゲコガシラ。命の恩人であるハルカに忠誠を誓った仁義の忍。
《スコップ》せっかちなホルード。何故かコガネ弁の守銭奴。
《ヤンヤン》がんばりやなヤンチャム。自分流の強さを求めて日々精進中。
《ロビン》まじめなルチャブル。熱血クソ真面目。
《ナゴヤ》なまいきなバシャーモ。ハルカが最初に貰ったポケモンである、俺様主義の唯一無二な相棒。


【傑作選007】都市開発! ナゴヤのメガシンカ!

 階段を鳴らす靴の音が響き渡る。高い音階で鳴るその音は妙に心地良く、まるで逸る心を落ち着かせてくれているようだった。

 無限に続くかと思われた螺旋階段も、いよいよ終着点が近い。

 最上階に辿り着き、塔の外へ出ると、そこに広がっていたのは見渡す限りの青空だった。視線を落とすと、まだ目覚めきっていないシャラシティが一望できる。それは間違いなく、絶景と賞賛するに値する景色だった。

 海風に髪を靡かせるハルカの後ろには、既にモンスターボールから解き放たれた彼のポケモン達も、自分達の足で階段を上ってきていた。

「うわぁ! 良い景色ッスね!」

「あぁ、風も心地良い」

「ケッ、そんなもん一文の得にもならへんわ」

 感想をそれぞれ口に溢すポケモン達に、ハルカが振り返る事はない。ハルカは先にこの屋上に辿り着いていた先客に、気を奪われていた。

「空を見てると心がふわっとして、ポケモンも私もなんでも出来そうな気がして……好きなんだ! ここ!」

 彼女は眼下に広がる景色を眺めながら、そう口を開く。ヘルメットから飛び出る金髪のトライテールは、風に揺られてまるで生物の様に動いていた。隣には、彼女の相棒である波導に満ちたポケモンが佇んでいる。

 彼女はくるりと振り返ると、足に装着したローラースケートで近寄ってきた。シャラシティのジムリーダーにしてメガシンカの継承者――コルニはこちらに鮮やかな笑顔を見せる。

「ごめんね、またわざわざここまで来させて」

「いや良いよ。俺もこの景色気に入ったし」

「でしょ!? ハルカならそう言ってくれると思った!」

 ハルカの肯定に、コルニは嬉しそうに目を輝かせた。その目は再び大好きな景色へと移行する。

「いついかなる時も高みを目指す気持ちを忘れないように……って事で、キーストーンはここで渡す決まりになってるんだ」

「……へぇ」

 いつもなら目の合う事のない、空を飛ぶ鳥ポケモン達と視線の合う標高。確かにこの高度は、その初心も思い出させてくれるだろう。

 すると、コルニが更にハルカへとぐっと距離を詰めた。

「はい! キーストーン!」

 コルニはそう言って、ハルカに目当ての品を手渡した。黒い片手グローブの中心に、極彩色に輝く不可思議な石。これが進化の秘宝であるキーストーンだ。

「ぐふふっ、あれを売ったら一体ナンボになるんやろなぁ」

「なっ! 妙な考えはやめたまえ!」

 スコップの邪な妄想を、ロビンが懸命に振り払う。

 ハルカは早速受け取ったグローブを装着してみた。グローブは初めて手に付けたとは思えない程馴染んでおり、最早体の一部とさえ思える様だった。

「似合ってるよ!」

「ありがと」

 ハルカはコルニの言葉を掴み取るかの様に、グッとグローブを嵌めた左手に力を入れる。

「もうメガストーンは持ってるんだよね? メガストーンをポケモンに持たせて、二人の絆がシンクロしたその時、ポケモンは進化を超えた進化『メガシンカ』をする事が出来る! 口で言う程簡単じゃないけど、ハルカならきっと出来るよ」

 メガシンカにはポケモンとトレーナーの強い絆が必須条件。

「あぁ」

 そこに関して言えば、ハルカは自信があった。

「俺とこいつの絆は、それはもう固く結ばれてるからな!」

 ハルカは腰元のポケットからモンスターボールを取り出し、空に放る。中から飛び出してきたのは真っ赤な体に高温の熱を宿すハルカの相棒――バシャーモのナゴヤだった。

「あれが兄貴の相棒のナゴヤ! カッコ良いッスね!」

「………」

 初めて相見えるナゴヤの後ろ姿にヤンヤンは目を爛々と輝かせ、ブンタは静かに観察していた。

 ナゴヤの左腕には、バシャーモのメガシンカに必須であるバシャーモナイトが嵌め込まれたバングルが装着されている。ミアレシティにてプラターヌ博士から頂戴した装備品だ。

「よし! 行くぞナゴヤ!」

「うるせぇなぁ。今寝起きなんだからあんまデケェ声出すんじゃねぇよ、潰すぞ」

「はぁ!?」

「ホンマに強い絆で結ばれとるんか……?」

 絆が強いとは思えない会話に、スコップが猜疑心を見せる。勿論、その会話劇はコルニの耳では解読できない。

「じゃあ私達からお手本を見せるね! 行くよルカリオ!」

 コルニの合図に、隣に並んでいたルカリオが一歩前に出る。

 コルニは一つ呼吸を深くすると、全身に集中を巡らせていった。先程までの溌剌だけだった少女はどこにも居ない。彼女は今まさに、メガシンカの継承者だった。コルニは目を見開くと、集中を解き放って型を踊る。

「命! 爆発!」

 すると、コルニのキーストーンとルカリオのメガストーンが共鳴して光り出す。その光はルカリオの身体に影響を与え、頭部の房は帯の如く長くなり、両掌は赤色に変色。纏う波導の濃度さえ変わったその体から、ルカリオは溢れんばかりの雄叫びを上げた。

「カッコ良い……」

「あれがメガシンカか……」

 離れた距離からも肌で伝わるその迫力に、ロビン達は目を奪われていた。しかしただ一人、ハルカの口角がクイッと吊り上がる。

「ふふっ、命爆発ねぇ……」

 その笑みが良からぬ事を考えている時のものだと、ナゴヤは瞬時に理解した。

「それなら俺は、都市! 開発だ!」

 ――ダッ、ダッセェー!

 高らかに謳い上げたハルカの決め台詞に、観客席に立つポケモン達は満場一致でドン引きする。それでもハルカの掲げたグローブのキーストーンは、煌々と輝き出した。

 ナゴヤのバングルも共鳴して光り出し、眩い光がナゴヤを包み込む。自慢の鶏冠は天を突き差し、両手首からは炎が迸る。ナゴヤの最大の武器と言える両脚は、全てを吸い込む様な黒色へと炭化した。これがバシャーモがメガシンカした姿、メガバシャーモである。

 ――カッ、カッケェー!

 屈強に変貌したナゴヤの勇姿に、観客席に立つポケモン達は満場一致でスタンディングオベーションを送る。先程のハルカの失言とは、正反対の反応だ。

「おい、さっきのヤツ二度と言うなよ」

「あぁ!? なんでだよ!」

「やる気失くす程ダセェからだよ」

 全員を代表して、ナゴヤがハルカにそう断言する。メガシンカによって姿は変われど、生意気な中身は変わらない。

 それでも二人の絆は、いとも簡単にナゴヤを更なる進化へと飛躍させた。その事実に、コルニは確信する。

「流石だよ、ハルカ」

 やはりこのトレーナーは、ポケモンに愛されているのだと。

「それじゃあ私が、メガシンカの戦い方を教えてあげる!」

「おぅ! かかってこい!」

 二人の宣誓が、戦いのゴングを鳴り響かせた。

「ルカリオ! グロウパンチ!」

 コルニの指示を受け、ルカリオはナゴヤを目指して虎視眈々と駆け出した。メガシンカしたその脚力はナゴヤとの距離を一瞬で詰め、悪を貫く正義の鉄拳を御見舞いする。

「跳べ!」

 寸でのところでナゴヤは空中に跳び上がり、鉄拳を回避する。空から見下ろすルカリオは、一見隙塗れだった。

「そこだ! ブレイズキック!」

 ナゴヤは炭化した脚に炎を纏わせ、更に縦回転まで加えて、ルカリオの脳天に踵を落とす。

「波導の骨でガードして!」

 ルカリオは指示通り両手に波導で錬成した二本の骨を生み出すと、それでナゴヤの炎の踵落としを受け止めた。重力も相まってかなりの破壊力だったが、ルカリオはそれを受け止めきり、彼方へと弾き返す。やはり進化を超えた進化、メガシンカ同士の対決は一筋縄ではいかないようだ。

「そのままボーンラッシュ!」

 盾で活用した波導の骨を今度は矛にして、一気に攻めに転じる。幾重に振り下ろされる骨の乱舞を、ナゴヤは華麗に避け続ける。しかしこのままでは防戦一方になる事は一目瞭然だった。

「ナゴヤ! 一旦距離を取れ!」

 撤退の合図に、ナゴヤは後方へと跳び下がる。後ろのハルカの声が近くなった事がすぐに分かった。

「とびひざげり!」

 ナゴヤは床を蹴って駆け出すと、その助走の勢いにルカリオへ膝を突きつけた。直撃すれば致命傷は免れないであろう一蹴。しかしルカリオは、一切退こうとしなかった。

「きんぞくおん!」

 ルカリオは両手を合わせると、前方に耳を劈く金属音を響かせた。その音波は絶大なもので、ルカリオに向かって跳び出したナゴヤの足が鈍る。その一瞬の隙を、コルニは見逃さなかった。

「今よ! グロウパンチ!」

 ルカリオの正義の鉄槌が、ナゴヤの腹部に撃ち込まれる。

「もう一発!」

 攻撃は止まる事を知らず、今度は左の拳でナゴヤの脇腹を抉った。一発目よりも二発目の方が拳の重量が増していた。

「グロウパンチは撃てば撃つ程、こちらの攻撃力が上がっていく! さぁ、もう一発」

 三発目を入れようとしたその時、コルニは気付いた。先程まで拳を受けているだけだったナゴヤが、ルカリオの眼前から姿を消した事に。

「!?」

 ルカリオも視界から消えたナゴヤを、目を回して探し出す。しかしナゴヤは、ルカリオの完全な死角に立っていた。

「ブレイズキック!」

 突如左側から襲ってきた炎の右脚に、ルカリオは右へと吹き飛ばされる。寸前で防御は間に合ったが、盾となった左腕が焼け焦げているのが分かった。ルカリオの知らぬ間に、ナゴヤはルカリオの背後を奪っていたのだ。

「悪ぃなコルニ。こいつも上がってんだよ」

 ルカリオは続く攻撃に備えるべく、体勢を整える。

「攻撃力じゃなくて、スピードが」

 しかし、その暇を与える間もなく、ナゴヤは一瞬で攻撃の間合いに入ってきた。

 ――速い!

「フレアドライブ!」

 両脚に燃え滾っていた炎はナゴヤの全身を覆い、熱を更に上昇させてルカリオに渾身の一蹴を振り下ろす。ルカリオの防御も間に合わず、為す術無しに全身で攻撃を受ける。肉体が焼けていく感覚を覚えながら、ルカリオは意識を失いその場に倒れた。

「よっしゃー!」

 勝利を確信したハルカは、喜びを露わにガッツポーズを掲げる。戦いを終えた事により、ナゴヤもメガシンカから元の姿へと戻っていた。

「やったな! ナゴヤ!」

「ふんっ」

「すごい! カッコ良かったッスよ! 兄貴もナゴヤも!」

「あぁ! 見てるこちらも熱くなる様な戦いだった!」

「こらあんさん相当強いんやなぁ」

 観客席に居たポケモン達も一緒になって、今回の勝利に酔い痴れている。コルニはそんな和気藹々としたハルカ達を、ルカリオの側に寄って眺めていた。

「……やっぱすごいなぁ、ハルカは」

 ハルカに届かない声で、コルニは呟く。

「ハルカなら絆の力で、きっとメガシンカを使いこなせるよ」

 まるで言葉が通じているかの如く愉快に話すハルカとその仲間達。その光景を見ていると不思議と笑みが溢れて、コルニはルカリオをモンスターボールに休ませると、輪に入ろうとローラースケートを滑らせた。

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