俺のポケットモンスター   作:越谷さん

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【舞台】ジョウト地方・怒りの湖
【登場人物】
《ハルカ》ミシロタウン出身のポケモントレーナー。愉快なポケモン達と談笑しながら、行き当たりばったりな冒険を続ける。
《ピコタロー》がんばりやなピカチュウ。世界中のポケモンと人間と友達になるのが夢。
《ウナジュー》まじめなカイリュー。天候に興味を抱く勤勉な博識者。


【傑作選008】赤いギャラドスを追え!

 ジョウト地方の観光名所、怒りの湖。チョウジタウンの北に位置するその碧色の湖は、周囲を見守る翡翠色の森林と合わさって、美しい自然を調律していた。

 たくさんの観光客がカメラを片手に集まっており、彼らもそんな観光客の中の一人だった。

「うおっ! すっげぇー!」

「綺麗ー!」

 湖を囲む柵に手を掛けて、ハルカは感嘆を叫んだ。ピコタローもハルカの肩から柵に飛び乗って、優雅な湖に見惚れている。気分の躍るハルカとピコタローに、周囲の観光客は子供を見る目でクスクスと笑みを溢していた。

「ここが怒りの湖かー! 通行料に千円ボられた甲斐があったぜ!」

 ここに来る途中、怪しげな男に千円徴収されたのだが、そんな嫌な気分も吹き飛ぶ爽快感である。

「あっ! ハルカ! あれ見て!」

 ピコタローに名前を呼ばれ、ハルカはピコタローが指差す方向へと目を向ける。

 湖のド真ん中。水中に潜んでいた赤い鱗が、外界に現れる。その正体こそ、この場所が観光名所足る所以。『怒りの湖』と称される所以だった。

「あれが……赤いギャラドス!」

 深紅の鱗を身に纏ったギャラドスが、天高く雄叫びを轟かせる。それは今までハルカが見てきたギャラドスとは、似て非なるものだった。

「すげぇ! 本当に赤色だ!」

 本来のきょうあくポケモンであるギャラドスは、快晴を連想させるようなスカイブルーだ。しかし今目の前で雄叫びを上げるギャラドスは、昼下がりの空ではなく、帰りの時間が近くなった夕焼け空の様に真っ赤だった。

「色違い……なんだよね?」

「あぁ、そうらしいな」

 にわか知識だけは持ち合わせているが、詳しい情報はなにも知らない。しかしハルカには、ポケモンの知識に富んだ友人に心当たりがあった。

「まっ、こういうのは、その道の学者に詳しく聞いた方が良いよな!」

 するとハルカはポケットからモンスターボールを取り出すと、空中に放り投げる。中から飛び出してきたのは、大きな翼をはためかせる巨大なドラゴンポケモンだった。

「ウナジュー!」

 カントー地方を共に冒険した、カイリューのウナジューである。

「ピコタロー、ハルカ、お久し振りです」

 久々に対面した仲間に、ウナジューは礼儀正しく一瞥する。ピコタローの尻尾は、隠し切れない興奮から無邪気に踊っていた。

「ウナジュー! ポケモンの色違いについて教えてくれ!」

 ウナジューは知識の探究に熱心で、カントーを旅している際も、その知識に幾度となく救われてきた。オダマキ研究所で生活している今、その知識は更に磨きが掛かっている事だろう。

「はい、任せてください!」

 ウナジューはどこからともなくものしりメガネを装着し、解説モードに切り替わる。

「色違いというのは所謂ポケモンの特別変異です。とある一定の確率で出現し、その要因は未だ明かされていません。以前までは8192分の1の確率で変異すると言われていましたが、最近の研究では特殊な道具や方法を使う事によって、それ以上の確率で誕生する事が分かりました。この怒りの湖に生息している赤いギャラドスも、暴走した際の返り血によって赤くなったという説や、コイキングの色素が残ったまま進化してしまったという説もありますが、未だ有力な説は研究者の間でも発見されておらず」

「いやーっ! やっぱ赤いギャラドスカッコ良いなー!」

「ねぇー!」

 気付けばハルカとピコタローは色違いのギャラドスに釘付けになっており、その耳にウナジューの声が届いているかは不明だった。

「……あのぉ、聞いてます?」

「ん? あぁ、聞いてる聞いてる! やっぱギャラドスを食べるとしたら塩焼きだよな!」

「そんな話してません! てか食べるつもりなんですか!?」

 やはり聞いていなかったんだと詰め寄るウナジューに、ハルカは笑いながら謝罪する。そんな会話を耳に、ピコタローはギャラドスを見つめる。

「……ねぇ」

 口を溢したピコタローに、二人は振り向く。

 ピコタローの視線の先には、相変わらず雄叫びを轟かせる赤いギャラドス。観光客はそんなギャラドスをフィルムに映したり、目に焼き付けたりしているが、同じポケモンであるピコタローの瞳には少し違って見えていた。

「なんだかあのギャラドス……少し苦しそうじゃない」

 ギャラドスの叫ぶ口元に、なにかが集中していく。それは間違いなく大技の前兆で、ハルカの体中に危険を報せる警鐘が鳴り響いた。

「ウナジュー!」

 瞬間、ギャラドスの破壊光線がこちらに向かって解き放たれる。観光で賑わっていた陸地はパニックとなり、観光客は我先にと出口に走り出していった。

 ハルカとピコタローはウナジューの背中に飛び乗って、紙一重で破壊光線から空へと逃避していた。はためく翼の影から、ハルカは湖を見下ろす。

「どうしたんだよ急に……」

 ウナジューが様子を窺うようにギャラドスへと距離を詰める。しかしその時、猛烈な頭痛がウナジューを襲った。

「うぅっ!」

「ウナジュー!?」

 均衡感覚が崩れ、ウナジューの体が傾く。危うく湖に落とされそうになったところを、ハルカはウナジューの体にしがみついてなんとか持ち堪えた。頭痛に襲われたのは、ウナジューだけではない。

「頭が……割れる……!」

「ピコタロー! どうしたんだよお前ら!?」

「ハルカは平気なの……?」

 両耳を抱えるようにして、ピコタローが塞ぎ込む。ウナジューとピコタローが頭痛に苦しむ中、ハルカは訳も分からず疑問を募らせていた。

「……どうやら、この近くにポケモンだけに害を及ぼす怪電波が流れてるみたいですね。その影響で、ギャラドスは苦しんでいるようです」

 ウナジューがギャラドスから離れると、二匹を襲っていた頭痛が解消される。ウナジューの推理した怪電波は、どうやらギャラドスに局所的に発せられているようだ。

「だから急に……」

 ギャラドスは再び苦しそうに破壊光線を放つ。何者の仕業かは不明だが、ギャラドスも被害者に過ぎないのだ。

 しかしこのままでは未だ逃げ切れていない観光客やこの湖に被害が及ぶ。豊かな怒りの湖を守る為にも、ギャラドスの暴走を止めなければならない。

「……ウナジュー、ピコタロー、行けるか?」

「勿論!」

「あんなに苦しんでるギャラドス、放っておけないよ!」

 流石共にカントーを旅した仲間だ。その勇敢な返事に、ハルカは頼もしさを感じていた。

「ウナジュー! なんとかして隙を作ってギャラドスの側に行ってくれ!」

「了解!」

 ハルカの指示に、ウナジューは大きく翼を広げて答えた。

「まずはギャラドスの注意をこっちに引きつけないと!」

 ギャラドスは雄叫びを上げては、周囲に無差別で破壊光線を撃ち続けている。その標準をこちらに向ける事が最優先だ。

 ウナジューが翼をはためかせると、荒々しい突風が吹く。突風は渦を巻いていき、暴走するギャラドスへと突撃していった。

「たつまき!」

 竜巻はギャラドスの体を蝕んでいったが、その赤い鱗には効いていないようだ。雄叫びと共に竜巻を晴らすと、ギャラドスの威嚇の籠った瞳がこちらを睨みつける。

「よし!」

 ウナジューの目論み通り、ギャラドスはハルカを乗せたウナジューに照準を定める。口元にエネルギーを集中させると、全てを焼き尽くす破壊光線を撃ち出した。ウナジューはそれを身軽に回避し、ギャラドスの頭上に羽ばたく。

「はかいこうせんはその強大な威力故、技を出した反動により一定時間動けなくなる!」

 ウナジューの脳内に保管された情報通り、ギャラドスはこちらを睨みつけるばかりで、その牙で噛みつこうとはしてこなかった。今のギャラドスは進化前に戻った様に、正にまな板の上のコイキングだ。

「ピコタロー! 後は頼んだ!」

「うん!」

 ハルカに投げ飛ばされ、ピコタローはギャラドスに接近する。怪電波の影響の及ぶ範囲に到達し、ピコタローに再び頭痛が襲い掛かる。それでもギャラドスの気持ちを考えると、こんな痛み屁でもなかった。

「ごめんね……ちょっとビリッてするけど我慢して!」

 頬袋に溜めていた電気が、外の空気に溢れ出す。電撃は大量に放出され、怒りの湖は電光に覆われた。

「10まんボルト!」

 ギャラドスの体を電撃が駆け抜ける。その威力はちょっとどころの騒ぎではなく、ギャラドスの赤い鱗は少し焦げて黒ずんでいた。

 重力に従ったまま湖に落ちていくピコタローを、ウナジューの背中からハルカがキャッチする。怪電波の頭痛からか、ピコタローはどこか疲弊しているようだった。

「よくやったピコタロー!」

「へへっ……」

 ハルカに頭を撫でられたピコタローは、嬉しそうに頬ずりした。

「ギャラドスはみず・ひこうタイプ。ピコタローのでんきタイプの技は効果抜群ですから、これで暴走も収まる事で」

 安堵したウナジューが眼鏡の隅で振り返ると、意識を覚醒させたギャラドスと視線がぶつかった。

「!? そんな! 四倍弱点ですよ!?」

 しかもギャラドスは既に次の破壊光線まで、発射秒読みといったところだ。ここからの回避は流石に間に合わない。

「やべぇっ!」

「これは避けられません!」

 驚きに囚われたままのハルカ達に向けて、ギャラドスの破壊光線は撃ち出された。

「カイリュー! はかいこうせん!」

 瞬間、射線上にとある影が入り込む。影はギャラドスに向けて同等の破壊光線を撃ち出し、見事に相殺させてみせた。

「大丈夫か、少年」

 瞼を開けると、そこにはウナジューとは別のカイリューに乗った男が一人。褪せた緋色の髪は逆立っており、漆黒のマントが風に靡いている。

「ここまで良くギャラドスを抑えてくれた。後は俺達に任せろ」

 男がそう言うと、カイリューの翼が大きく羽ばたき、ギャラドスへと深く接近する。ギャラドスは未だ破壊光線の反動が抜けないのか、カイリューに手を出せないでいた。ギャラドスに元々手が無いというツッコミは、今は無しである。

 全身隙だらけのギャラドスに、カイリューは拳に電気の力を蓄積する。男の指示と共に、カイリューはその拳をギャラドスの懐に叩きつけた。

「かみなりパンチ!」

 ギャラドスの体に、再び電撃が襲い掛かる。二度の電撃に流石のギャラドスも耐えられなかったようで、ギャラドスは雄叫びを上げながら湖に沈んでいった。

 そんなギャラドスに、男はモンスターボールを投げる。モンスターボールは深紅の体を吸い込んでいき、湖の中に不時着する。浮かび上がったモンスターボールの中には、疲れ果てたギャラドスが眠っていた。

 男は低空飛行するカイリューの背中から、モンスターボールを拾い上げる。陸地に足を下ろすと、同時にウナジューの背中から降りたハルカと目を合わせた。

「あのぉ……貴方は?」

 突然現れた謎の男に、ハルカが声を掛ける。そういえば自己紹介がまだだったと、男は名前を名乗った。

「俺はワタル、カントー・ジョウトに跨るセキエイリーグのチャンピオンだ」

「「「!」」」

 その自己紹介に、ハルカ達は目から赤い鱗が落ちたかの様な衝撃を覚えた。

「チャッ、チャンピオン!?」

「そっ、そうだ! この人どっかで見た事あると思ったら、この前テレビに出てた本物のチャンピオンですよ!」

「って事は、この人が今世界で一番強いトレーナーって事!?」

 興奮の隠し切れない一同に、ワタルは思わず笑みを浮かべた。

「でっ、でも、チャンピオンがなんでこんなところに……?」

 ハルカの質問に、ワタルの顔付きが一変する。

「ここの噂を聞きつけ、真相を調べにきたんだ」

「噂?」

「色違いのギャラドスというのは、何者かによって強制的に進化させられたコイキングである、という噂だよ」

「!?」

 そんな事が可能なのかと、ハルカの身の毛が弥立つ。

「先程の赤いギャラドス、どう考えても様子が普通じゃなかった。やはりあの噂は正しいという事だろう」

 モンスターボールに眠るギャラドスを見て、ワタルが口を溢す。ボールを握り締めるその手から、静かな怒りの感情が感じ取れた。

「君は感じたか? チョウジタウンから発せられた謎の怪電波」

「あっ、はい!」

 正確にはハルカがではなく、怪電波に苦しんだピコタローとウナジューがだが。

「恐らくあの電波が、コイキング達に進化を促している。早く止めなければ、また新たな被害が生まれるだろう」

 発信源を止めなければ、また同じ悲劇を繰り返すだけである。

「……君も来るか?」

「えっ?」

 突然声を掛けられ、ハルカから惚けた声が出る。

「先程のギャラドスを抑えてくれた勇気と実力を見れば、君のトレーナーとしての資質も分かる。電波の発信源も、目星は付いてるんだ。良ければ俺に力を貸して欲しい」

 天下のチャンピオンから助太刀を頼まれるなど、これ程光栄な事はない。

 試しにピコタローとウナジューに目を向けてみると、二匹共心は決まっているようで、こちらに強く頷くだけだった。その眼差しが、ハルカの背中を後押しする。

「はい! 俺に出来る事であれば!」

 ハルカの力強い返事に、ワタルは若さを感じて笑みを溢した。

「……助かるよ」

 ワタルはそう口にすると、くるりと身を翻す。風に靡いたマントは、チャンピオンの背中を大きく表現していた。

「では行こう! 俺についてこい!」

 カイリューの背中に跨ったワタルは、チョウジタウンへと空を飛ぶ。少し遅れれば見失ってしまいそうで、ハルカも慌ててウナジューの背中に乗った。

「俺達も行こう!」

「はい!」

 大きく翼をはためかせたウナジューは、ワタルの跨るカイリューを追いかける。

 目指すはチョウジタウン。コイキングに進化を強制させるという、怪電波の発信源だ。

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