葦名廻戦   作:朝槿

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今回は戦闘二本立てです。
まだ術師との戦闘なので心情とか盛りだくさんですが、個人的には情景だけを描写する書き方の方が臨場感あって好きです。
SEKIROや狼の静かだが過酷な雰囲気を感じられるのも良いですね。
ただ、出来ない。
悲しい。


奥義・纏い斬り

焦眉之赳。

 

禪院扇の技の一つであり、刀身に炎を纏わせる。

更に、周囲に炎を巡らせ、自在に操ることが出来る。

彼が特別一級術師となった理由の一つであろう。

 

「殺してやるぞォォォ!!」

 

「……!」

 

猛烈な火炎。

弾こうにも実体を持たない炎は防げない。

 

(傘があれば……)

 

忍び義手に備わっていた忍具、仕込み傘。

炎だけでなく術や呪いも防げる万能防具であり、どんな時でも使える便利な忍具だ。

しかし、今の狼にはない。

 

(ならば……)

 

狼は術式によってある物を呼び出した。

 

 

######

 

 

(何をしているのだ……!?)

 

【赤枯れの曲がり瓢箪】

 

炎に対する耐性を齎し、傷を抑える事ができる。

ただ、炎を消す事は出来ない。

あくまで一時的な処置である。

 

四方八方から襲い来る炎を掻い潜り、前に進む。

 

「何故だ、何故逃げぬ!!」

 

(右、下、左上、正面……!)

 

基本的に弾く事を戦闘の要とする狼には、避けると言った事は慣れていないと思われるかもしれない。

しかし、熟練な忍びだからこそ、あらゆる局面に対応出来る……!

 

「死ねぇ!」

 

頭上から振り下ろされる炎の一太刀。

弾く事は出来ない、避けるのも間に合わない。

 

(なら受けて斬る……いや)

 

剣に纏われる炎を見た時、狼の脳裏に浮かんだのは一つの技。

 

牙と刃が一体となる、忍義手技の奥義である

この奥義を最後に、仏師は忍義手を捨てた

極め、殺しすぎた

怨嗟の炎が漏れ出すほどに

 

本来は火吹き筒や神隠しによってのみ、使う事が出来るが、今は持っていない。

だが……!

 

(此処で出来なければ、斬られる)

 

集中。

刀が炎に触れる一瞬。

その瞬間、刀に炎が宿った。

 

 

【奥義・纏い斬り

 

 

炎を太刀に纏わせる。

かつての愛刀と違い、すぐに焼け落ちてしまうだろう。

 

(その前に……!)

 

炎を奪い取った事により、扇の刀の芯が見える。

 

キィィインッ!!

 

弾き、返す一太刀。

刀を斬り飛ばし、腹を逆袈裟になぞる。

 

ザシュッッ!

 

「ぐ、ぐぁっ……!」

 

「……御免」

 

キィンッ

 

炎を振り払い、鞘に収める。

倒れる扇、ざわつく群衆。

それを背に、狼は屋敷の奥へと入っていった。

 

 

 

 

翌朝、少し上機嫌な直毘人が言うには、扇は腹を切り裂かれたが、同時に焼いた事で傷自体は大した事がないそうだ。

 

しかし、本人は負けた事から動く気にもなれず、部屋に篭りきりになってしまったそうな。

既に直毘人によって屋敷中に周知されてしまい、早くも陰口が叩かれ始めた扇が立ち上がる事はもう無いだろう。

 

 

さて、そんな事は特に気にせず、狼は直毘人に呼ばれ部屋に来ていた。

 

「何故呼んだ?」

 

「いや、一つ警告をな」

 

「……警告?」

 

少し真面目な顔をした直毘人は喋り出す。

 

「狼牙よ。お前のこの家での立場は中々のモノとなった。しかし、まだお前の存在を納得出来ない者もおる」

 

「気をつけよ、奴は強いぞ?」

 

「……何故そんな事を?」

 

「薄井家と言うイレギュラーがいる中で、禪院家が彼奴に渡れば確実にこの家は滅亡する」

 

「……何をしろと?」

 

「好きな様にやれい。変わらなければ死ぬだけよ」

 

 

 

 

夜。

自室に帰ろうとした狼を後ろから呼びかける声。

 

「扇に勝ったらしいなぁ?子犬ちゃん♡」

 

「……直哉殿か。何用で?」

 

「簡単な話。……お前、身の程弁えろや。雑魚がデカい顔してのさばってんのとちゃうぞ」

 

「………」

 

狼は無言で刀を袋から取り出す。

ただ固く、頑丈な一振り。

 

銘は黒刀。

 

昨日の刀は燃え尽きてしまった為、忌庫から一本拝借した。

どうやって?

甚壱の後をつけて盗み出した。

勿論直毘人の許可は貰っているが。

 

「雑魚なりに構えた所で、俺に敵うと思ってんの?ま、ええけど」

 

そう言って、直哉は構える。

 

「最速で殺したるわ」

 

 

 

 

突然始まった殺し合い。

一瞬にして直哉の姿は消えた。

 

(何処だ……ッ!)

 

後ろからの殺気。

反射的に腕を振るい、刀で防いだ。

ほぼ直感で受けた拳はとてつもない威力で、吹き飛ばされる事はなかったものの、体幹は大きく削られる。

 

(速い……速度を術式で?)

 

何度か斬りかかるが、全て残像を捉えるのみ。

目を閉じ、脱力する。

 

瞬間右からの殺気。

体勢を低くし拳を避けたが、足を避ける事は叶わず、思いっきり蹴り飛ばされた。

 

「ぐっ……!」

 

まだだ。

まだ攻めない。

攻撃を見切るまでは。

 

 

######

 

 

いつもの事だ。

格下のカスを分からせ、良い気分でゆっくりと休むだけ。

至って楽な仕事。

その筈だった。

 

(何で当たらへんねん!)

 

最初の五分はほぼ当てていたが、時間が経つにつれ、大半を避けられてしまっている。

それも偶に攻撃が掠りそうになる程適応されている。

 

(ホンマに見えてへんのけ!?)

 

目の前の弱者は目を閉じ、体の力の一切を抜いている。

 

(こんな雑魚に!もうええ、殺したる……!)

 

一度距離を話し、奴の背後からジグザグに動きながら足を狙う。

目を瞑っている人間が足を狙われて正確に防げるはずがない。

とても的確な判断である。

 

もし、狼が常人ならばの話だが。

 

懐に隠し持っていた小刀。

それで足を斬り落とす。

投射呪法によって速度は限界まで上昇している。

この一撃なら刀で防いだところで、勢いで押し通せる……!

 

(……は?なんやあいつ、何しとんのや……?)

 

そんな直哉を前に、狼が取ったのは……

 

左足を上げ、両手を力強く張る。

体が一瞬、金色に輝いた。

 

 

【御霊降ろし】

剛幹

 

 

恐らく何らかの術式だ。

だがそんな事はどうでも良い。

 

(殺す!)

 

 

######

 

 

今までにない速さで動いている直哉。

狼はそれを肉眼で捉えてはいなかった。

 

【真眼】

 

影より一時借り受けた力。

それにより、()()()()()()()()を追っていた。

 

「死に晒せぇ!!」

 

だが、捉えなければ意味はない。

タイミングを失敗すれば、どっちみち損傷する。

しかし、狼は冷静だった。

 

(……先に決めているのか)

 

あらかじめ道筋は決められていた。

真眼に未来予知は出来ない。

ならばそう言う事だろう。

 

目前に迫る直哉。

その数秒は、不思議とゆっくりと感じられた。

 

 

ギャィィインッッ!!

 

 

直哉の最速。

それをいつも通りに、狼は弾いて見せた。

 

 

(……は?)

 

狼に弾かれ、直哉は体勢を崩した状態で()()()()

 

 

投射呪法のデメリット。

それは、最初に定めた道筋から大きく外れてしまうと、直ちに一秒フリーズしてしまう事だ。

一秒、それは常人にとっては短くとも、直哉には決して短くない。

そしてそれは、狼にとっても十分な時間だった。

 

 

右手を直哉の背後に回し、そのまま地面に倒す。

フリーズが解け、体を上に向けた直哉が見たのは、振り下ろされる剣先だった。

 

(……死ぬんか、俺)

 

訪れる死を予感し、目を閉じる。

 

ザクッ!

 

もう、何も聞こえなかった。

 

 

 

 

(なんや……眩しい)

 

閉じた視界を埋め尽くす白い光。

その余りの眩しさに、直哉はゆっくりと目を覚ました。

 

「……生きとる……?」

 

其処は知らない天井……だが、自分の屋敷であることは分かった。

それより、何故自分は生きているのか。

あの時確かに貫かれた筈……

 

「……目が覚めたか」

 

声のした方には、先程自分を倒した男が座っていた。

 

「……何してんの?」

 

「何も……?」

 

「何で殺さんかってん!」

 

直哉は声を荒げる。

殺す気で放った一撃を防がれ、負けたのに狼は殺さなかった。

それが自分を何処までもコケにしているようで、怒りを抑えきれない。

 

「こんな生き恥晒すぐらいなら、死ぬ方がマシやわ!」

 

その言葉に、狼は反応した。

 

「……一時の敗北はよい。だが手段を選ばず、必ず復讐せよ……」

 

「な、何や……」

 

「忍びの……いや、俺の掟だ。……出来るか?俺に復讐を」

 

 

そう言って狼は立ち上がり、部屋の外に出る。

直哉には、その後ろ姿が憧れ(甚爾)と重なって見えた。

 

 

 

 

その日からと言うものの、直哉の様子は一変した。

他人に暴力を振るったり、見下したりする事はなく、愚直にひたすら鍛錬を続ける様になった。

だんだん言動からも嘲りの色が消えていき、周りは大いに困惑した。

 

「最近の直哉様、なんか変じゃね?」

「何と言うか、変わったよな」

「なんかあったんだろ。ま、俺たちには関係ないがな」

 

 

一つ不思議な事があるとすれば、狼と話す様になった事だ。

 

「狼クン、いつも鍛錬は何してんの?」

 

「……基礎体力をつけ、後はひたすらに実戦」

 

「何で?整った環境でやる方がええんちゃうの?」

 

「……我が家の特色上、常に強敵と殺し合う事が多い。ならばこそ、型を極め、其処から解釈する事が大事だ」

 

「ほーん。術式はどうしてんの?」

 

「……俺には、自らの素を極める方が良い。術式は高専でやるべきだろう」

 

「高専行くん?隠しとった方がええやろ」

 

「……父上の方針だ」

 

仲がいいのか悪いのか分からないが、少しは打ち解けている様だ。

その様子を見て、直毘人は人知れず笑みを漏らすのだった。

 




《color:#d5b926》《font:520》
剛幹の色とフォント

《color:#ff0000》《font:520》
纏い斬りの色とフォント


はい、という事で直哉くん改心ルートです?
彼は弱者は思いっきり下に見ますが、強者は尊敬しています。
原作の真希さんみたいに長い間格下と認知していたわけではないので、懐柔が楽でした。
あとまだ中2ですからね、其処まで凝り固まっていなかったのも幸いでしょう。
直毘人からしたら、実力はあるものの精神はクズ。
今までの環境ならいけるけど、薄井家がいるなら最悪禪院家潰されるな、と思ったからです。

何で改心したのかと言うと、直哉くんは狼さんに勝つ為に強くなろうとしてます。
その過程で下を嘲ることの無駄に気付かされ、無視するぐらいになりました。
その後狼さんと話してたら、『たとえ弱者でも、成長する。直哉も、彼らから学ぶ事があるかも知れぬ』と言われ、まあそう言うんやったら、って言う感じになりました。
改心直哉くんは結構好きなキャラです。
原作では見られませんでしたがね。
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