前回書いた様に、影の持つ情報には抜けが多いです。
術式が発現した時に流れ込んできた現代日本の情報は、『副次的な要因です』。
簡単に言うと、副作用。
あれは本来の役割の時に一緒に流れ込んできたもの。
では、本来の術式の効果は何か?
此処でヒントを一つ。
本来得る情報は、弥生から平安中期までの源の宮の情報です。
さあ、聡明なみなさんは正体が分かったかも知れないですね。
黒の不死斬り。
仏師殿が手に入れ、一心様が扱った妖刀。
その本来の役割は銘にも刻まれた、『開門』。
竜胤を供物にし、
記憶に新しい、一心様の蘇り。
此処からは推測を交えて話すよ。
開門の歴史を。
◇
不思議に思わなかったかい?
これは記録に残ってないけど、恐らく源の宮の人物、それも外部から来た鍛治の一族だろう。
強力な神力が宿った隕鉄を使い、祭祀用に造られた二振りの刀は、竜胤を断てる刀となった。
時は過ぎ、平安末期。
源の宮を這いずり回っていた貴族達。
彼らの時は平安で終わってしまっている。
この時代に何か大きな出来事があったんだろうね。
それこそ、桜竜が暴走する様な。
全ての情報を出そう。
・仙郷の桜(常桜)は蟲に憑かれていた。
・桜竜は大きな傷を負っていた。
・不死斬りの名前。
・京の水の異変。
◇
「仙郷の桜は、如実に桜竜の状態を表す。何故だか分かるかい?」
「・・・竜胤の御子の様な、繋がりを持っている?」
「ああ、一方的だけどね。そしてさっき言った大きな出来事とは・・・」
「戦争だよ」
「戦争・・・?」
「不思議に思わなかった?貴族の大半はあんな風体になって精気を求めてたのに、淤加美一族は元気に蹴鞠してた。この違いは何?」
「・・・敗者か、勝者か」
「その通り。封鎖された内裏には貴族が、其処以外には淤加美が。この戦争は勢力争いが発端になって起こったものなんだ」
「・・・桜竜と鯉か?」
「よくわかったね。負けたのは桜竜派。勝った淤加美は喜んで源の宮を支配した。だけど此処で問題が起こった。戦ったのは都人と淤加美だけじゃない。彼らが仕る、竜と鯉も戦った」
「・・・勝ったのは?」
「勿論竜。鯉と竜じゃ圧倒的な違いがありすぎる。だけど、鯉も一矢報いた。いや、報いてしまった」
「・・・傷つけたせいで、水質が狂った」
「そう。そのせいで、水に取り憑かれた都人はああなってしまったのさ」
「いくつか覚えている」
「インパクト凄かったもんね。流石の淤加美も焦ったのか、竜を奉る様になった。竜に捧げる舞はここから来たんだろう」
「不死斬りは?」
「今から話すよ。竜が狂った事によって、様々な弊害が生じた。京の水の異変、竜咳、そして、竜胤」
「竜胤・・・」
「そして始まったのが、拝涙の儀。竜胤の御子と、その従者による、桜竜を鎮める儀式。それに不死斬りは使われた。拝涙は儀式に、開門は御子と従者の処理に」
「・・・処理、だと?」
「一度儀式を終わらせた御子は用済み。開門の供物として斬り殺し、従者の命を捧げる事で、新たな竜胤の御子を産み出す。・・・正直言って、胸糞悪い」
「拝涙によって得た桜竜の涙は、都人の為。竜胤は手段でしかないのさ」
◇
此処で作者から纏めを。
・平安末期、桜竜派の都人と、色鯉派の淤加美の戦争が巻き起こった。
・都人対淤加美は、都人の敗北と追放によって幕を下ろし、桜竜と色鯉の争いは、桜竜が大きな傷を、色鯉が命を失うことで決着した。
・その後、傷を負った桜竜は暴走し、水質が大きく変化。飲んだ者の精気を奪う様に。
・京の水に依存した都人はその影響を大きく受け、淤加美は色鯉の為にも竜を鎮めようとした。
・竜咳が発生。葦名にて猛威をふるう。
・竜胤の御子が誕生。契りを結んだ従者と共に、拝涙の儀を始める。
竜咳、京の水は同様に、桜竜による精気の奪取によって起こった異常。
それを防ぐ為に拝涙の儀を始め、桜竜が奪った精気を返還した。
拝涙の儀
・竜胤の御子が誕生。
・従者を選び、不死の契りを結ぶ。
・不死斬り・拝涙を得る。
・仙郷に乗り込み、桜竜及び白木の翁と戦う。戦闘と言うより、竜に捧げる舞。(儀式的意味を多分に含む)
・涙を得て、源の宮に戻る。
・涙の力を貴族に返還。
・不死斬り・開門によって、御子が殺される。
・その血を浴びた刀で従者を斬り殺す。
・新たな竜胤の御子が産まれる。
新たな御子は、同時に前世の御子でもあります。
一度殺され黄泉に行った御子を、再び呼び戻す。
その繰り返し。
これが本当なら、腐ってます。
◇
「それが続く事数百年。平安、鎌倉、室町と過ぎようと、それは変わらなかった。しかし室町時代末期、恐らく応仁の乱より少し前、不死斬りが下界へと落ちる。誰かが捨てたのか、それとも間違えたのか。それは分からない。ただ、その刀は仙峯寺に回収され、拝涙は本堂、そして奥の院に、開門は五重塔の不動明王像に収められた。そ片方は秘匿され、もう片方は怨嗟をその刀身に纏う様になったとさ」
「おしまい。・・・これが葦名の歴史。どうだった?」
「・・・九郎様の行いは、俺の今の目標は、どうなのだ?」
「正しい行いだと思う。少なくとも、葦名の人達と竜胤の御子にとっては」
「・・・そうか」
数日後、葦名城に戻った狼は、出立の準備をしていた。
「行くのか」
話しかけてきたのは弦一郎。
鎧も弓もつけず、ひたすら太刀を振っていたのを狼は覚えている。
「ああ」
「・・・為すべき事は、見つかったか?」
「・・・分からぬ」
「そうか」
静かな二人。
片方は為すべき事見失い、片方は為すべきことを為せないでいる。
そんな二人の背後から、声が掛かった。
「隻狼よ。儂らを外に連れて行けるか?」
「!?何故ご存知で・・・」
まだ誰にも現代日本の存在を伝えていない筈。
「御子からの言伝じゃよ」
隻狼、お主も何かが分かるやもしれぬぞ。
そう一心は告げる。
「・・・御意」
どうなるかは分からない。
ただ、変化が欲しい。
その一心で、狼は頷いた。
葦名編はこれにて一時終了です。
此処から高専編、懐玉編を入れ、再び葦名編に戻る予定です。
今回の章の目的は、葦名の設定を固めたかったのと、影の異変と真実、狼さんの迷いのきっかけです。
不死断ち及び人返りは、明らかに別ルートです。
本来のものが正しいかはさておき、それを歪めてしまいました。
そして今も実行しようとしています。
この歪みは、竜胤を断つことは本当に正しいのか。
狼さんは迷い始めました。
それが伝わっていれば、幸いです。