葦名廻戦   作:朝槿

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朝槿です。
執筆の時間が作れず、結構な間が空いてしまいました。
オリジナルの下書きをしてたんですが、題名と1話に悩みまくって、一旦寝かせました。
中々難しい物ですね。

という事で、久しぶりの葦名廻戦をどうぞ。


先輩

歓迎会から、数日後。

 

体も完全に回復し、術式の発動も完璧。

例の重ねがけは、発動させる寸前、悟に止められた。

 

『馬鹿か!お前それで気絶しただろ!』

 

『・・・ものにする為だ』

 

『リスキー過ぎるだろ!』

 

狼が鍛錬を止められたのはこれが初めてだ。

義父(梟)や師(お蝶)には、勝手にしろと言わんばかりの対応をされていたからである。

 

(・・・そんなものか?)

 

竜胤の従者である狼にとって、一度の死など余り恐れるものでもない。

一度に十回を超えると大分焦って撤退し始めるが。

とにかく、過剰な心配はしなくて良いと悟を説得し、重ねがけの実験に入った。

 

 

◇

 

 

一時間後。

狼は出た結論を寮の部屋で纏めていた。

 

・最初に試したのは月隠と叶護、次に月隠と剛幹、最後に月隠と阿攻。

一番負担が少なく、体を蝕む痛みは少なかった。夜叉戮ぐらいだろうか。

実際に試す事は出来なかったが、全て効果がしっかりと発動している様だった。

 

・次に吽護と剛幹、吽護と阿攻。

少し負担が大きく、結構体は痛むが、効果は十全だ。

吽護と剛幹の組み合わせは少々過剰かと思うが、もしかしたら必要になるかもしれない。そんな日が来ないことを願うばかりだ。

 

・最後に剛幹と阿攻。

完(・)璧(・)に(・)発(・)動(・)出(・)来(・)た(・)も(・)の(・)の(・)中(・)で(・)は(・)一番苦痛が大きい。

効果はちゃんと発動しているが、非戦闘時の素面では動きに支障が出る。

余り多用しない方が良いだろう。

 

 

此処で一度(鉛の)筆を置き、狼は考え込む。

 

(やはりか・・・)

 

発動できなかった組み合わせ。

夜叉戮について悩んでいるのだ。

 

夜叉戮以外で一番負担が多い阿攻は勿論、一番負担が少ない月隠でさえ重ねられなかった。

 

元々、御霊降ろしとは単体でも人の身に余る御業である。

飴を噛んで堪える事によって、漸く身に降ろす事が出来るのだ。

それを、狼は直接体に降ろしている。

代価として呪力より生成した形代を捧げてはいるものの、重ねがけには代償が足りない。

 

竜胤と鍛え上げた体で何とか耐えているも、かつての狼では体が変形し、狂っていたであろう。

まるで首無しの様に。

 

首無しの恐怖を思い出した狼は、思わず体を震わせる。

強さではなく、恐ろしさという面なら、一心にも負けていない。

ある筈もない尻子玉という器官を、何(・)故(・)か(・)体(・)か(・)ら(・)引(・)っ(・)こ(・)抜(・)き(・)、何(・)故(・)か(・)自(・)分(・)は(・)死(・)ぬ(・)。

 

奇想天外どころではないのだ。

少なくとも抜かれる方からしたら、たまったものじゃない。

 

(・・・もう戦う事はないだろう)

 

ピコンッ

 

何かが立った音が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

脳内から首無し五人衆の姿を消し、再びノートに書き連ねる狼だった。

 

 

◇

 

 

今更だが、高専ほど学校らしくない学校もない。

一学年は数人で構成され、文化祭や体育祭などという行事もない。

一年生から任務に出て、最悪の場合死ぬ事もある。

これは青春を過ごせなかった上層部の陰謀と言っても過言ではない。

 

だがそんな高専にも、唯一と言ってもいい程の学校要素がある。

 

「貴方が薄井君ね。私は庵歌姫。これから宜しくね」

 

先輩である。

 

「・・・宜しく頼む、庵殿」

 

「歌姫で良いわよ。あと先輩には敬語を使いなさい?」

 

さて、今世の狼は多分に関係を持たねばならない。

前世のようにひたすら口を噤んでいるばかりではダメなのだ。

しかし、年齢が上だからと言って脳死で敬語を使う訳にも行かない。

 

真に敬意を表するべき相手だけに使わねば、言葉が薄くなってしまう。

主である九郎と透、師である梟とお蝶、そして尊敬すべき一心。

 

立場上使わねばならない相手には少し軽く調整して話す。

優秀な人間はこの調整で人間性を判断する。

この技術は忍びに不可欠なのだ。

 

長々と話したが、ここで分かるように、先輩というのは難しい間柄なのである。

年齢は上、しかし立場は殆ど同じ。

礼儀、又は個人的には敬語を使うべきだと思っているが、かと言って距離を離し過ぎるのも良くない。

 

それを懇切丁寧に歌姫に説明する狼。

この行為こそが結構失礼な事なのだが、狼はそれでも語る。

失礼に思われるのは避けたい。

 

「・・・あ〜もう!分かったわ。アンタが私の事をちゃんと敬っているのは分かったし」

 

「・・・忝い」

 

「はいはい。にしても、難儀な境遇ね」

 

歌姫は疲れた表情だ。

流石の狼も申し訳なく思い、とある物を取り出す。

 

「酒だ」

 

「・・・私未成年だけど?」

 

「飲むと聞いたが・・・」

 

「誰から?」

 

「硝子殿から」

 

「・・・貰うわ」

 

何処か諦めた表情の歌姫は、酒を受け取り観察する。

 

「これ何処の奴?日本酒?」

 

 

【葦名の酒】

 

『葦名の酒が入った徳利

酒とは、振る舞うものである

源から流れ出ずる清らかな水で作られた酒は、葦名の民に広く愛されている』

 

 

「今まで見た事ないわね」

 

物理的に数百年間隔絶された地域だ。

酒だけが流出するはずが無い。

 

「そうね・・・貴方も一緒に飲む?」

 

「・・・酒は余り得意ではない」

 

実は狼、酒に弱い。

葦名の酒ぐらいならば大丈夫だが、猿酒なぞ飲めばすぐに顔は赤くなり、たちまち眠ってしまう。

 

すぐに寝る分だけ梟よりマシだが、やはり親子と言うべきか。

毒には耐性があるのに、酒にはない。

更に、二人とも戦闘時には酒に耐性が出来るのだ。

何故だろうか?

甚だ疑問である。

 

 

それはさておき(閑話休題)。

 

遠慮(逃亡)しようとした狼だが、酒を手に入れ上機嫌の歌姫はそれを許さなかった。

 

「良いじゃない。試してみるのも良いと思うけど。それに、先輩からの誘いは貴重よ?」

 

誘い方が完全に会社の上司である。

 

「・・・承知した」

 

今世なら大丈夫と願いながら、狼は渋々頷くのだった。

 

 

◇

 

酒の席に半ば強引に誘われた後、互いに自己紹介兼世間話をしていた狼と歌姫。

突然背後から誰かの声が聞こえた。

 

「おっ、歌姫じゃーん」

 

「先輩と呼びなさい!」

 

すかさずツッコむ歌姫。

それを無視して、悟はこちらに手を振った。

 

「やっほー狼牙。歌姫に変な事吹き込まれてない?」

 

「ああ」

 

「そんな事する訳ないでしょうが!」

 

「いや、歌姫弱いし?何か言われてたらと思うとね〜」

 

「私の、方が、先輩なんだよ!」

 

怒り心頭の歌姫を前にしても悟は態度を変えず、そのまま去っていった。

 

「歌姫殿、落ち着け」

 

「でもね!」

 

「無駄だ」

 

止めに入った狼の一言に、歌姫は一瞬詰まる。

 

「・・・はぁ。そうね、こんなの無駄だわ」

 

「すまぬ」

 

「謝らないで。ほんと、貴方が普通で良かったわ」

 

よっぽど疲れたのか、壁にもたれ掛かる歌姫。

それを前に、狼は少し考え込んで話し出した。

 

「・・・悟は歌姫殿を嫌っていない。ただ面白いから、という理由で接しているのだと思う」

 

「私は結構、アイツのこと嫌いよ」

 

「・・・向こうはそう思っていなさそうだが」

 

「だから困ってんのよ。まあアンタに言っても仕方が無いだろうし」

 

「・・・」

 

流石に歌姫が哀れだ。

後で悟に言っておこう、そう決意する狼だった。




歌姫さんは呪術廻戦の中で好きなキャラトップ五に入ります。
しかし、ストーリーを通して不憫なのは可哀想なので、少しは悟に痛い目を見せる機会をあげる予定です。

にしても久しぶりすぎて書き方が・・・
少し文体変えるかもしれませんが、気にしないで下さいね。
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