善人でも悪人でもなくて、優先すべき事を優先しているだけ。
基本は優しいですが、どんなに親しい友人、家族でも、道を違えば容赦なく殺しにかかる。
自分がすべきだと思う事に覚悟を決めれる人。
ブレない。
私個人としては好きな人間です。
利己的でもなく感情的でもなく、出来るならやるし、出来なければやらない。
そして容赦がないが、慈悲を持つ。
現代社会では生きづらい部類かもですね。
「…………」
翌朝、いつも通り目覚めた狼は、眉間に皺を寄せて薄井家の廊下を歩いていた。
「狼殿、おはよう御座います」
「……ああ。良い朝だな」
廊下で掃除をしている家人に言葉を返す。
もう慣れたものだが、最初はあまり上手く喋れなかった。
葦名の忍びは基本実地任務が多く、懐柔や脅迫、密談などをする必要はほぼ無かった。
優秀で賢い忍び、例えば梟やお蝶はそう言った任務もこなして来たが、残念ながら狼は不得手だ。
基本一言二言の寡黙な人間が、朝の挨拶を返すと言うのは難しいだろう。
さて、狼は当主である父、透の書斎に向かっていた。
屋敷の中でも中央の方にある部屋は、狼の自室からも少し遠い。
余談だが、薄井家では基本自室や表向きの鍛錬場でも外からは見えない奥まった所にある。
万が一の時、逃げる時間を稼ぐ為だ。
それ以外にも、忍びの家系ならではの細かい仕掛けが屋敷中に張り巡らされており、年々増え続けていると言う。
もちろん家人は全て覚えなくてはならないが、それ故に長期間の任務は嫌われている。
さて、何故透の部屋へ向かっているのか。
昨夜夢の中で影に説教されたからである。
曰く……
『少し忙しすぎ。幾ら優秀な脳と肉体があるとは言え、やり過ぎだよ。第一……』
体感一時間は休むべきだと言う理由をひたすらに捲し立てられ、正論の波に流石の狼も素直に影の言葉に従った。
『……と言うわけで夏休みなんだし、一週間休暇をとって下さい』
そういう訳で、狼は透の書斎に着いた。
「おはよう、狼牙。どうしたんだい?」
「おはようございます。……父上、実は休暇を……」
「良いよ、何処行きたい?」
”取ろうと思いまして……“と続けようとした狼に、透は食い気味に答える。
透の目は光っており、何処か喜んでいる。
透の心情を鑑みれば、それも当然とも言えるだろう。
仕事の所為で全く話せず、尚且つ息子が鬼気迫る様子だと言う事を聞いていたので、どうにかしたかった。
まさにベストタイミングだ。
さて、父親の勢いに面食らっている狼の背後から今度はこんな声が。
「今日はゆっくり休んだらどう?」
母である桜は朝食に透を呼びに来たらしく、片手にはしゃもじを持っている。
「おはよう、狼ちゃん。いい朝ね」
「おはようございます、母上。……もうその様に呼ばれる年ではないですが……」
「いやよ。貴方は何歳になっても可愛い私の息子よ。そうでしょ?あなた」
「ああ。……さあ、久しぶりの家族での朝食さ。ゆっくりと話そう」
前世では少なかった、家族との安らぎの時間。
梟やお蝶との時間や、九郎との日常とも違うし不思議な感覚だが、それが狼には心地よかった。
◇
両親との朝食を終えた狼は、屋敷の縁側に腰掛けていた。
さて何をしよう、と思いたったはいいが、何をすれば良いか分からない。
前世では鍛錬か食事、睡眠、任務のどれかしかなかった為である。
(……義父上やお蝶殿は……)
彼らの前世での息抜きと言えば。
エマ曰く、彼らは良く宴を開いていたと言う。
『竜泉を一心様が手に入れると…葦名の城に、人がわらわらと集ってきて騒がしい、酒宴が始まるのです』
しかし、狼は酒を飲んだ事はない。
更に、現代では未成年飲酒は法律で禁じられている。
狼も進んで破る気にもなれないので、却下。
「……何をしよう」
両親は仕事、義父は任務で離れている。
彼らに聞くのは些か手間がかかる。
では、屋敷内ならどうだろう。
「……鍛錬場」
結局行き着く場所は其処であった。
◇
さて、薄井家には鍛錬場と呼ばれる場所は二つある。
明確にはもっとあるが、屋敷内には2ヶ所だ。
一つは地下の領域、もう一つは……
「……初めてか」
薄井家地上に位置し、外様にも公開されている鍛錬場。
基本対人のための訓練をする場所だ。
地下では忍びとしての訓練を、地上では呪術師としての訓練をする。
狼は全てを地下でこなしてきた為、此処に来るのは初めてだ。
「あれは……ご子息様……!?」
「珍しい……普段は地下にいらっしゃるのに」
周りの家人は驚愕の目を向けている。
「…………」
狼はそんな周りの目を介さず、端に座っている男の方へ向かった。
「……水無月殿」
「おっと、これは狼殿。ようこそ、薄井道場へ。初めてでしたかな」
「……ああ。休暇を取れと父上に言われた故」
「休暇に道場へ……全く、狼殿には敵いませんな!」
水無月。
道場を管理している老人であり、月名を持つ薄井家でもトップクラスの実力者。
月名持ちなら誰もであるが、本名は明かされていない。
そんな彼だが、無類の鍛錬好き。
本人は引退を表明しているが、まだまだ実力は現役であり、毎日後任の育成と銘打って、ひたすら道場で戦い続けている。
さて、そんな彼は最近少し飽きていた。
戦う相手は全て格下。
磨けば光る物を持ってはいるが、彼にとってはいまいちだ。
「狼殿」
そんな彼の目の間に、狼が現れた。
水無月は狼の明確な戦闘を見た事は無いが、鍛錬時の身のこなしから只者では無いと思っている。
さて、彼はどうするだろうか?
「一戦、やりましょうや」
勿論、狼を誘った。
「……承知」
そして当然の如く狼も承諾する。
「え?あの水無月様と模擬戦?」
「ご子息様は大丈夫なんだろうか……」
「まだ中学生でしょ?流石に水無月様も手加減するんじゃないかしら」
水無月の強さを身をもって理解している弟子達は、向かい合う水無月と狼をハラハラと見つめている。
彼らからしてみれば、ベテランの師匠相手に自分より幼い子供が挑んでいるのだ。
「……強さを見抜けないとは、まだまだじゃのう」
そんな彼らを見て、水無月は残念そうに、そして面白そうに呟くのだった。
久しぶりの投稿です。
リアルが結構忙しかったのと、単純にネタ切れ気味でした。
次回は初の戦闘回です。
今の狼さんの強さ。
2週目の弦ちゃんとバトルする寸前(左手あり)
技は完璧ですが、身体面の差異から思う様な動きがしにくい感じ。
あと義手じゃないので戦闘は大幅に弱体化してます。
それでも二級なら簡単に狩れるんですが。
一級はまだ無理でしょう。
単純に体力不足です。
まあ、此処から8周目まで2年で持って行くんですけどね。
因みに水無月さん含め、月名持ってる人全員一級相当です。
薄井家と上層部の密約(脅し)によって、明確な実力付けはされていません。
月名持ちは全員術式を持っているのですが、基本サブなので御三家当主にも割れていません。
薄井家最強の人達です。
え?狼さんや梟は?
まだ秘密です。
強いて言うなら……裏、でしょうかね。