俺はヒシミラクルのトレーナーだ。
新米トレーナーだが、担当ウマ娘を受け持ってそろそろ2年経とうかという日、俺は割と切実な悩みを抱えている。
「……ホワイトデーのお返しどうしよう」
先月、ミラ子からチョコを貰った。当時の俺はあの子の事だからどうせ適当にチロルチョコの詰め合わせだろうと思っていたが、予想に反してド本命の物を貰ったしまい、不覚にも舞い上がってしまった。
『えへへ〜、一生懸命用意したんです。お返し期待しますね』
しかしこの一言を聞いた時、俺は震えた。忘れていたのだ。そう、バレンタインにはホワイトデーというお返しする日があることを。
別にそう深く考えなくても良いだろって?確かにそうなんだが、実は俺はミラ子と付き合っている。
教職に就く者が学生に手を出すという大罪を犯しているのは重々承知だが、彼女のことが好きだったし、彼女の方から攻めてきたから合法だと思い込んでる。……たづなさんにバレて無いことを祈る。
「えーっと、ホワイトデーのお返しランキング……、1位ブランドチョコ、2位ハンドクリーム、3位マカロン……、こんなんでいいのか?」
ネットでとりあえず調べてみると、お菓子や女性がよく使う日用品が多かった。
「うーん、ブランドチョコかな、ハンドクリームとかマカロンは俺のイメージじゃないだろうし」
そう、今回の最大の難関な部分はコレだった。
俺は普段ミラ子に対してぞんざいな扱いをしている。よくミラ子に女心理解してないって怒られることも良くある。
そんな俺が女子力発揮したり、女性に理解があるものを渡すのはかなり恥ずかしい。
くだらないプライドだが、皆んなも経験無いだろうか?
初めて会った人に対して普段やらないようなキャラで接してしまってそれ以降そのキャラを続けていたり、好きな子にカッコつけて普段の自分を出すのが怖くなった事、多分あるはず。
俺は良い年してるのに、ミラ子に対して仕方なく付き合ってやるかっていう態度を取ってしまっている。
本当はめっちゃイチャイチャしたい。ホワイトデーにはミラ子が喜ぶ物あげたい。
でもプライドが邪魔する。でも無難な物を選ぼうとしても、それを貰った彼女が心の底から喜んでない姿を見るのは許容出来ない。
「やべぇ、決まらない」
ホワイトデーまで残り1週間。
6日後の2月13日。
「もうプライドは捨てよう。ミラ子の友達にいい物聞いてくるか」
ホワイトデーまでのリミットが迫ってようやくプライドを捨てる決心が出来た俺はミラ子の友達であるいつもの2人にプレゼントのアドバイスを貰いに行くことにした。
「ちょっといいか?」
「あれ?ミラ子のトレーナー?どうしたんですか?」
「ミラ子の事ですか?」
「話が早くて助かる。ホワイトデーのお返しの事なんだが、何がいいか迷っていてな」
俺が質問すると2人は驚いたように顔を見合わせていた。
「どうした?」
俺が不思議に思っていると、2人は少し申し訳なさそうにしながら
「いえ、なんか意外だなって」
「ミラ子から聞いてた話だと、こういうイベントはあんまり気にしない人って印象だったんで」
と言った。
「やっぱりそう思ってたよな。ミラ子お返し諦めてたのかな。少し可哀想な事をしたな」
「いえいえ、楽しみにはしてましたよ?プレゼントの内容は期待してなかっただけで」
「むしろトレーナーさんからなら何を貰ったとしても一生大切にするって言ってたくらい楽しみにしてました!まあ、どうせその辺で適当に間に合わせた物だろうとは言ってましたけど」
フォローしようとはしてくれているんだろうけど、その気遣いが逆に苦しい。一応楽しみにしてくれているのは本当みたいだけど。
しかしこれについては自業自得なので、明日挽回することにしよう。
「何がいいと思う?やっぱりお菓子とかかな?」
「それがいいかもしれませんね。チョコのお返しなんですから普通のお菓子でいいと思いますよ」
「そ、そうなのか?」
「むしろ、高級な物とかだと、自称普通のミラ子は遠慮しちゃうんじゃないですかね?」
「確かにそうか。うーん悩むな。食べ物じゃなくて物とかは?」
「物とかもいいとは思いますけど、ミラ子は色気より食い気だからなぁ」
「確かに」
やっぱりお菓子にするか。
「お菓子となると何がいいかな?ホワイトデーだから白いお菓子……、ホワイトチョコやマシュマロとか?」
「絶対ダメです」
「ミラ子を泣かす気ですか?」
「え?」
俺は突然2人に怒られてしまい困惑した。
「ダメなの?」
「プレゼントお菓子一つ一つに意味があるんですよ。女の子は意外と気にするんですよ?」
「え?意味とかあるの⁉︎」
今まで気にしたこと無かったから知らなかった。
「マシュマロだと、〈貴方に興味ない〉って意味があるんですよ」
「……そうなんだ」
あっぶね。彼女にそんなの送ったら泣かせてしまう。
「ホワイトチョコだと〈現状の関係を望む〉や〈嫌いでは無いけど友達のままでいたい〉っていう意味です。贈り物の意味としては少し寂しいのでおすすめしません」
「そ、そう。それにしてもなんでお返しに悪い意味があるんだ?罠だろ。お返しする時点で好意あるじゃん」
「それはそうですけど、なんでかそういう意味が定着しちゃってるんですよね」
「諦めて覚えてください」
理不尽すぎる。
「ちなみミラ子からはどんなの貰ったんですか?」
「貰った物の意味の返答にするのも面白いかもしれませんね」
「それは名案だな!バレンタインはミラ子からはスノーボールクッキー貰ったよ」
「スノーボールクッキー?……この場合だとクッキーか。それだと」
「……」
友人Bが考えてる中、友人Aは気まずそうに視線を逸らすのが見えた。
「どしたの?」
その友人Aの挙動にいやな予感がした。……もしかして
「……あんまり良い意味じゃない?」
「えっと……」
「あっ!思い出した!
俺の問いかけに友人Aが答えるよりも先に、クッキーに込められた意味を思い出した友人Bが教えてくれた。
「クッキーの意味は〈友達でいよう〉です。主に友人や仕事関係で関わる人に贈るものですね」
「ごふっ!」
割と致命傷だった。
あれ?もしかして俺付き合ってる気になってるだけで、ミラ子にその気は無いのか?むしろ相手にその気は無いのに無理矢理付き合ってもらってる痛い人だった⁉︎
「あれ?どうしたんですか?」
友人Bは俺が落ち込んでいる理由が分からないようで優しく肩を叩く。
「ちょっと!」
友人Aは友人Bを肩を揺すりながら何やら小声で話し始めた。
(バカ!ミラ子とトレーナーさんの関係忘れたの⁉︎)
(え?……あっ)
友人Bはまるで己のやってしまった事の重大さに気づいたように慌てて弁明し始めた。
「き、気にしないで下さい!所詮贈り物意味なんて考えながら贈る人ほとんどいないですよ!」
「でも、さっき女の子は結構気にするって」
「1番大事なのは気持ちですよ!いくら良い意味でも気持ちが籠って無かったらダメですよね?」
「うん」
分かってはいるが、やはり落ち込んでしまう。ホワイトデーに限らず、今度からプレゼント買うときは意味もしっかり調べよう。
「飴玉とかいいんじゃないですか?」
「それはいい意味なの?」
「意味は〈貴方のことが好きです〉になります」
「いいなそれ」
「他にもいろいろあるので調べてみたらいいですよ!」
「ありがとう。助かった」
「いえいえ、お互い様ですよ」
「また今度トレーニング見てくださいね!」
「それでいいならいつでも言ってくれ」
俺はさっそくスマホを取り出して〈ホワイトデーのお返しの意味〉で検索をかけた。
次の日、俺は昨夜購入しておいたお菓子を持ってトレーナー室でミラ子を待っていた。
「あいつは物より食べ物。えーっと、キャンディーとマカロン、バームクーヘンっと。……好意丸わかりだな。いや、普段ミラ子にそっけなくしてるからホワイトデーくらいはいいかな?」
彼女に対するお返しとか初めてだからこれでいいのか不安だ。友人A、Bが言ってたように何あげても喜んでくれそうだけど、どうせなら誰よりも喜ばせたい。
「トレーナーさ〜ん。入りますよ〜」
年甲斐もなくソワソワしているといつものようにゆるい声でドアがノックされた。
「お、おう」
「どうしたんですか?なんか挙動不審ですよ」
「そ、そうか?」
(やべえ、めちゃくちゃ緊張する。バレンタインの時ミラ子もこんな気持ちだったのかな?)
ガチガチに緊張している俺をよそにいつも通りのミラ子は靴を脱いでソファに寝転がり、スマホを弄り出す。
よし、今なら渡せるな。
「ミラ子」
「何ですか〜?」
「今日ホワイトデーだろ?ほら、これあげる」
「え?」
ミラ子は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「どうした?」
「てっきり忘れてるもんだと……。あぁ、だからさっきソワソワしてたんですね」
「そこまで酷い人だと思ってたのか?」
「そういう記念日とか気にしない人だと思ってました」
俺はもっとミラ子に優しくしようと思った。
「では、さっそく開けますね」
「おう」
ミラ子は紙袋からお菓子を詰め合わせセットを出して一つ一つ見ていく。
ミラ子はどんな反応してくれるだろうか。喜ぶか?それともこのラインナップを見て驚くかな?
俺はミラ子の反応を予想しながら、またソワソワし始めてしまった。
「美味しそうですね。キャンディーとマカロンとバームクーヘンですか。なかなかセンスのいい物を買ってきたんですね」
ミラ子は袋に入ってたお菓子を見て、嬉しそうにしている。
あれ?予想と反応が違うな。
俺は期待しすぎただけだと思い、とりあえず会話を繋げる。
「ショッピングモールで美味しそうな物選んで買ってきたんだ」
「ありがとうございます。夜に食べますね」
「おう」
……喜んではいるんだろうけど、やっぱり思ってた反応と違うな。
「それにしてもどうしてこのお菓子選んだんですか?」
「ま、まあ今更隠したところでだよな。ミラ子への気持ちをしっかり表したお菓子を選んでみたんだ」
「もぉ〜!私はそんなに食い意地はってないですよ!」
「おん?」
おや?こいつもしかしてプレゼントの意味を知らないのか?
「ミラ子ってさ、バレンタインの時のお菓子なんでクッキーだったの?」
「え?私の毛色って白っぽいじゃないですか〜。だから白いクッキーだったら私みたいだな〜って」
「あーそういうことね」
確信したわ。こいつ意味知らねーな。
「緊張するだけ無駄だったか」
「え?なんで緊張してたんですか?」
「気にするな」
「えー、気になりますよ〜」
ミラ子は俺の腕にしがみついて頭を擦り付けてくる。
「だぁー!鬱陶しい!この話は終わりだ!トレーニングやるぞ!今日はプールだ!」
「あ。今日はなんか調子悪いので帰ります」
「嘘つけ!ほら行くぞ」カンカンカン
「鬼!悪魔!英語の先生!」
今回は伝わらなかったけど、いつかちゃんと伝えてあげようか。
その日の夜
「ねぇねぇ、聞いてよ」
「何?」
「また惚気?もう飽きた」
「2人とも酷くない?」
私は友達2人を捕まえてさっきの事を話しました。
「いや〜、てっきり忘れてると思ってたけど、やっぱり可愛い彼女のためならあのトレーナーでもちゃんと覚えてくれてるんですねぇ」
「……」
「……」
「どうしたの?」
2人がドン引きした顔で私を見てた。
「ミラ子ってホワイトデーのお返しで貰えるお菓子の意味知ってる?」
「え?知らない。そんなのあるの?」
「調べてみなよ」
「えーっと、………………ふぁ⁉︎」
スマホで意味を理解した上で改めて貰ったお菓子を見る。
「え?え?トレーナーさん私のこと大好きじゃん」
「今更?」
「むしろ好意丸出しのお返しを意味も分からず受け取るって割と大罪では?」
「今からトレーナーさん押し倒してきてもいいかな?」
「トレーナーさんがクビになってもいいならやれば?」
「あ〜あ、ミラ子が愛情の供給過多でバグっちゃった」