「本日はマーチャン神社にやってきました!ここは最近建てられた神社でして若者を中心に大人気のスポットなんです!」
今回の取材はマーチャン神社。ぽっと出の謎の神社なのに何故か爆発的に人気が出ており、ディレクターがその人気の理由に目をつけて取材して来いと言われた。
正直前回のトレーナー養成学校で一緒に行った同僚が引き抜かれたこともあってウマ娘に関することに関わりたくないのが本音だ。
「だりぃな」
「そんなこと言わないでくださいよ。先方も宣伝の為ならと言って快諾してくれてるんですからこういう仕事は積極的にやらないと」
こいつは最近俺の取材についてきてる後輩だ。人当たりも良くやる気もあって非常に優秀だ。
「分かってるけどさ、でもなんで俺なん?他の奴でも良くない?」
「トレセン関連で取材すると収録に行ったメンバーのほとんどが帰ってこないとか、有名な財閥から圧力掛けられる場合が多いのに、うちのチームは前回の収録で犠牲者が1人で抑えてかつ評価も結構良かったみたいなのでウマ娘関連担当になったのかと」
こいつは前回も一緒に収録したアナウンサーの女性だ。真面目で努力家な人で今回の収録にもしっかり準備をしてきたみたいで服装もバッチリ決まっていた。
「マジかよ。っと神主が来たな。………は?????」
神主が来るまで休憩していた一同の前に謎の着ぐるみを着用した人物?が現れた。
「アストンマーチャンをよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします?えっと神主さんですか?」
「はい、神主のマートレです。アストンマーチャンをよろしくお願いします」
「……うす」
(やばいもう帰りたい)
「この度は取材に来てくださりありがとうございます。マーチャンの為にも出来ることをと一生懸命にやってきてようやく建立することが出来た次第でして、まだまだ全国いや世界の人々に知って為にも一生懸命この神社の良さを紹介しようと思っております。アストンマーチャンをよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします。我々もマーチャン神社の良さをしっかりと配信させて頂きます。それではさっそく収録再開しますね」
「はい」
カメラマンとアナウンサーに合図を送り、収録を再開する。
再開されると同時にアナウンサーのスイッチが入り、可愛らしい笑顔で不気味な神主にぴょこぴょこしながら会話を始める。
「わぁーアストンマーチャンの着ぐるみですか?完成度凄いですね」
「ありがとうございます」
「でもどうして着ぐるみ着てるんですか?」
「え?」
「え?」
(おいおいなんで当たり前のこと聞かれたら人みたいな反応してんだよ)
表情こそ見えない声と動きで容易に表情が想像出来る。アナウンサーもまさか深い理由が無いと気づいて若干引いていた。
「うーん、着ぐるみ着てる理由ですか。マーチャンを宣伝する為ですね。それ以上の理由はありませんね」
「そ、そうなんですね!」
「はい、マーチャンの為ならこのくらい当然ですよ。新人の頃は辛い時もありましたが、街を練り歩いたり、何かやる時もこれを着てたら身体の一部になってしまいまして今ではこの姿じゃないと落ち着かないんですよ」
「そ、そうなんですね〜……」
(化け物かよ」
「先輩声出てますよ」
思わず声が出ていた。後輩に窘められて自らの失態に気づき軽く咳払いして誤魔化した。
「アストンマーチャンさんはどんな反応してるんですか?」
「喜んでますよ」
「担当共々イか……同じ感性してるんですね。お似合いです」
「ありがとうございます。アストンマーチャンをよろしくお願いしますね」
「は、はい」
取り繕うのが難しくなったのかアナウンサーは視線を外して返事をする。
流石に印象が悪いと思い、笑顔で目を合わせるように指示を出すが、首を振って拒否られた。
「つ、次は境内の案内をしてもらいましょう!お願いします!」
「はい、それではこちらへどうぞ」
強引に軌道修正をし始めたアナウンサーに気を悪くする様子もなく、淡々と本堂に案内をする。
「これは?」
道中に狛犬のようなアストンマーチャンの石像があった。
「これはマーチャン石像です」
「よくこんなの作ってくれましたね」
「3日は掛かりましたが、人々の目に付くところに置くので気合い入れて作りました」
「え?マートレさんが作ったんですか?」
「当たり前じゃないですか」
「?????」
「宇宙作っちゃダメです!現実を受け入れましょう」
「現実を受け止めきれないからそうなってるのでは?」
白目剥くアナウンサーを引きずりなんとか本堂に到着した。
辺りには若い観光客が想像よりたくさんお参りしており、賑わっていた。
「起きて!インタビューしてきて」
「はっ!す、すいません。行ってきます」
頬をぺちぺち叩いて意識を取り戻してすぐに一組のカップルのもとに向かった。
「こんにちはー!お話よろしいですか?」
「え?は、はい!」
「……」
突然美人のアナウンサーが声をかけて来たことに男の方は緊張してしまい、彼女さんから冷たい視線を浴びていた。
アナウンサーはその彼女を見なかったことにして質問した。
「今日はどこから来ましたか?」
「トレセン学園から来ました。この子は担当のダイワスカーレットです」
「トレーナーさんとダイワスカーレットさんですか⁉︎」
「そうなんです。今日は友人のマーチャンが神社建てたって言うからちょっと来てみたの」
「そうなんですね!マーチャンさんとは仲が良いのですか?」
「昔からの幼馴染ですね」
「そうだったんですね!お友達は大切になさって下さいね!それではお邪魔でしょうから失礼しますね」
ダスカとそのトレーナーは我々にお辞儀をして帰っていった。インタビュー中や帰り際しきりにダストレさんが片手で4とグーを交互に作っていたが、あえて見なかった事にした。
「次はあちらの方々にインタビューしてみましょう!こんにちは!」
「こんにちは〜」
「どうも」
次は2人の女の子にインタビューをすることにした。どちらも美人で可愛らしい。
「今日はどうしてこちらに参拝しにしたんですか?」
「うーん、目的はあんまり無いんですけど、なんか人気だったので来てまたした」
「私は写真を撮ると御神体が写ると聞いて来ました」
「御神体?」
「はい、ここの御神体つまりアストンマーチャンですが、境内の写真を撮ると必ず写ると言われていまして、実際撮ってみたんですが、しっかり写ってました」
そう言って見せて貰えたら写真にはあのアストンマーチャンが写真の端っこにピースをして微笑んでいるのが写ってた。
「凄いですよね。誰がどのタイミングで撮っても写っているので、一時期は心霊写真とか言われていましたが、実際は生きてるのでもはや超常現象かと」
「帰りましょう。私怖いの苦手なので」
「ダメに決まってるでしょ」
「先輩ためしに撮ってみますか?」
「やってみるか」
ポケットから小型のカメラを取り出して適当にシャッターを切ってみる。
「さてどうかな」
撮った写真を確認すると画面の端っこに小さくピースをしているマーチャンが写っていた。
すぐさま視線をマーチャンがいた方に向けてみるもそこには誰も居なかった。
「意味わからん」
「マジで写ってるじゃないですか」
「早く帰りましょう。無理です」
「もう一枚撮るぞ」
今度はマートレを撮ることにして許可を貰いシャッターを切った。
「うそやん」
またもマートレの隣に優しく微笑んだマーチャンが写っていた。
「こんにちは〜。アストンマーチャンです」
今度は消えることなくマートレの近くにまるで先程からずっとそこにいたように立っていた。
「ひぃ!帰ります〜!」
「ダメ!後輩抑えてて」
「了解です」
突然の登場に泡を喰って逃げ出そうとするアナウンサーを後輩が羽交締めして抑える。
「ほら、彼女は幽霊じゃないから仕事して」
「は、はい。取り乱してすいません」
抑えられたことで冷静さを取り戻したアナウンサーはバツが悪そうな表紙をしていた。
「失礼しました」
「ありがとうございます!」
「サイン貰えてよかったね。私は写真お願いします」
「はーい。マーチャン人形もサービスですよ」
「やったー!」
マーチャンは先程までインタビューしてた参拝客2人にファンサービスをしていた。
一頻りマーチャンと会話して満足した2人はお礼を言い帰って行った。
「お待たせしました」
「いえ、大丈夫です」
「本日は取材に来てくださりありがとうございます。マーチャンの魅力しっかり伝わりましたか?」
「まだ途中だよ。これから本堂に行ってマーチャンに会うところだったんだよ」
「あら?そうなんですか。それならここでお話しましょう」
「よろしくお願いします。それではさっそく質問なんですが、何故この神社の御神体になろうと思ったんですか?」
「それはですね。マーチャンには夢があります」
「夢ですか?それはどんな夢ですか?」
「マスコットになることです。その為に一家に一体のマーチャン人形だったりトレーナーさんにも協力してもらってますがまだ足りません。それならといっそ私が神になってしまおうとこうしてトレーナーさんにお願いして神社を作ってもらいました」
「は?」
奇人トレーナーの担当はやはり奇人であった。もはや常人の理解を拒む説明にアナウンサーはまたも宇宙を創造していたが、誰も止めることは出来なかった。
「もう帰ろう」
「僕もこれ以上踏み込んではいけない気がします」
カメラマンを含め3人の意見が一致したことでさっさと撤収すべくアナウンサーに合図を送る。
アナウンサーはその合図に気づくとすぐに収録を終えようと動き出した。
「それではそろそろ」
「もうそんな時間なんですねー。それでは最後に売店に寄って行ってください」
しかしマーチャンはまだ神社の紹介をし切れていないらしくアナウンサーを引っ張っていった。
参道から少し離れたところに建物が建っており中には大量のマーチャン人形や小物を入れるのに丁度良さそうな袋、写真集などがあった。
「ここではマーチャンのグッズが売っています」
「こ、こんなに沢山あるんですね。これは銅像⁉︎なんでこんなものまで」
「全てトレーナーさんの自作ですよ。あっ、4コマ漫画最新刊がありますね。どうですか?」
「漫画まで⁉︎マートレさん何者?」
「マーチャンの最高のトレーナーです」
「それだけじゃ説明つきませんよね⁈」
「強いて言うなら愛です」
「あっ、常識通用しない人達でしたね」
狂人達との会話に理解は不要と言うことに遅まきながら気づいたアナウンサーは思考を放棄してしまった。
「でもこのお人形は可愛いですね。一体買います。いくらですか?」
「無料です。好きなだけ持って帰ってあげてください」
「一体で充分です。ではこの子にします」
「皆さんもどうぞ」
「あっはい」
「ありがとうございます」
取材陣全員にマーチャン人形をプレゼントされた。非常に高い完成度にこれをあのイかれたトレーナー1人が作ったと言う事実にドン引きしながらも受け取った。
「動き出したらしねーよな?」
「僕に聞かれても分かりませんよ」
正直持って帰りたくないが、受け取らなかったり捨てたらしたら呪われそうなので事務所に置いておこうと内心思いながら鞄にしまう。
「それでは本日はありがとうございました」
「いえいえこちらこそ。今後ともアストンマーチャンをよろしくお願いします」
「マーチャンに会いたくなったらいつでも来てくださいね」
「あはは、それでは失礼します」
別れの挨拶をして境内を後にする。立派な鳥居(マーチャンの顔が彫ってある)をくぐり、我々の世界に帰って来たという実感を得ることができた。
「はあぁ〜もうやだ」
「正直舐めてました。出来れば今後は遠慮したいです」
「お前来る時言ってだろ?今回も評価されたらもうウマ娘関連の仕事担当だよ」
「私はリポーターでは無いので今後はお断りさせて頂きます」
「実際に現場に行って感じることが大切とか言ってた人はどこにいったんだろうねぇ」
「目が覚めました。今後はアナウンサーとしてしっかりとスタジオから応援してますね」
「人手不足なのでまた現場に駆り出されますよ」
「うるさい」
「どうせ次の収録ではリポーターになってるだろうよ」
「ちょっと想像しちゃったんでやめてもらえます?そうなったら責任取ってもらいますからね!」
「あれ?先輩なんでカメラ持ってるんですか?」
「あ?なんでって他に誰が持つんだよ」
「カメラマンさんが持ちますよね?」
「……そういえばそうだな。カメラマンは?」
「何言ってるんですか?最初から3人でカメラマン居なかったじゃないですか」
「……そうだっけ?」
「……そうだったような気がします」
後日談としてあの後収録した内容を確認していたら俺と後輩、アナウンサーの3人が同時に映ってた所があった。この事からこの現場には少なくとも3人以上いたことになって社内が大騒ぎになっていた。
そしてあのマーチャン人形は家に持って帰りたくなかったから会社に置いて帰ったはずなのに翌朝枕元にあって驚いた。
これを2人にも話したら同じ現象が起きていたようで今では3体まとめて人形用の家を買ってあげた。その日から家に来ることは無くなった。
一応トレーナー養成学校の続きです