ある日の土曜日。ハルウララは1人で商店街を元気よく歩いていた。
「あや?ウララちゃん今日も元気ねぇ〜。飴ちゃん食べる?」
「え⁉︎いいの?ありがとう〜!」
トレセンに入学してはや1年。もうすっかり街のアイドルになった彼女はいつものようにすれ違う人から声を掛けられていた。これも彼女の明るさやレースに対するひたむきな姿勢の賜物であった。
「うーんそろそろお腹空いたな」
時間は12時前。空腹感を感じたウララはどこかで食事を摂ろうと店を探しに歩き出す。
ふといい匂いのした食堂が目に入る。昼時ためそれなりに人はいたが、空席があるのを確認できる。
「ここにしよう!」
「いらっしゃいませー。こちらへどうぞ」
中に入るとカウンター席へ案内されてそこに座り、メニューにあった天丼を注文をした。
しばらく待っていると美味しそうな天丼が来た。
「いただきまーす!」
行儀良く手を合わせてからまずはエビの天ぷらを食べる。サクサクの食感で甘いタレが絡み箸が進む。
幸せそうに食べていると突然
「ナスは嫌いなのです!」
隣から怒号が響いた。
「ひっ」
なんの前触れもなく大声が隣から響き、食べかけのエビを落とした。それを拾うことも忘れて隣を見ると同い年くらいの女の子が机をバシバシ叩いて怒っていた。
「クソが、ナス入れんじゃねーのです」
「あ、あの迷惑になるんじゃあ」
ウララは必死に宥めようと声をかける。それでも止まらない。
しかし何故か周囲の客は驚いたように一瞬少女に視線をやるも、声の主が少女だと気づくと興味を無くしたかのように食事を再開していた。
少女はウララを無視してさらに店員に捲し立てる。
あまりの怖さに逃げようかとも考えたが、ウララは諦めずに宥めることにした。
必死に声を掛けるウララにようやく気づいた隣の少女はウララにじろっと視線を向けて睨みつけるとドスの効いた声で威嚇する。
「何見てるんです?潰すぞ」
「ご、ごめんなさい」
咄嗟に謝ってしまった。
しかしせっかく話が成立したので会話を続けることにする。
「ナス嫌いなの?」
ビクビクしながらも話しかけてくるウララに少女は訝しげな視線を送るが、彼女に大した害は無いと判断したのか話に応じた。
「グニュグニュしてて嫌いなのです」
「で、でも美味しいよ?」
「ならあげるのです」
「え?」
少女は躊躇いなくウララのお皿にナスを押し付ける。
少女の行動にウララは固まってしまう。
すると厨房から店長らしき中年のおじさん出てきた。
「ははは、お嬢ちゃんまた癇癪起こしてるのか!好き嫌いはいけないよ!」
「うっせーのです!あんまり調子に乗ってるとまた炎上させてやるのです!」
「残念ながらウチは地元の人に愛されて繁盛してるからな、お嬢ちゃんがネットで酷評したってあんまり売り上げ変わんねーんだわー。残念だったな!」
「てめーバカにしてるのです⁉︎はわわ!戦争なのです!」
「まーた癇癪起こしてるよ」
少女は常連なのか店の店長らしき人と仲良さげに喧嘩を始めた。
「まあ弱い犬ほどよく吠えるしな〜。許してやるからさっさと食いな」
「はわはわはわ⁉︎まさかこの私を犬畜生と同じ扱いをする⁉︎屈辱なのです!蜂の巣にしてやるのです!」
「ちょ⁉︎お前のその発言は洒落にならねーから止めろ!」
「愚民如きが逆らうんじゃねーのです」
「おめぇ俺たちを愚民呼ばわりしていいのか?」
「あん?」
「これ見てみろよ」
「なんですか?0468……はわわ、これは鎮守府の電話番号なのです⁉︎」
「わかったか?おめぇが悪さしたらすぐ通報するからな?これでもう悪さすんじゃねーぞ?それと口も慎め」
「はわわ、だからなんなのです?提督なんかを恐れる私じゃねーのですよ!」
「こいつ無敵か?」
「くたばるのdeath!」
「あ、暴れないで危ないよ!」
再度暴れ出した少女に全力で止めにかかる。
「邪魔なのです!」
強力なウマ娘パワーに抑えつけられた少女はまず先に邪魔するウララを引き剥がそうとする。するとウララの被っていた帽子が取れウマ娘特有の耳が現れた。
「テメェはさっきからなんなのです⁉︎邪魔なするなら……ってその耳、ウマ娘ですか?」
「えっ?う、うんそうだよ」
目の前の女の子が人間ではなくウマ娘だと知った少女は驚いて動きを止める。
「こんな近くで初めて見たのです。それにぷらずまをある程度抑えられるパワーなんてやるのです。気に入ったのです」
「おい!その子だけはダメだ!悪影響だから!」
今日1番の慌てた店主の叫びに耳を貸すことなく、少女はカウンターに食べた分のお金を叩きつけてから
「ちょっとツラ貸すのです」
そう言ってウララの手を引っ張って店を出たのであった。
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「お前名前はなんです?」
「ハルウララだよ。あなたの名前は?」
「ぷらずまなのです」
「ぷらずまちゃん?よろしくね!」
商店街を少し歩いて目的の店の前に着く。
「ここは?」
「ゲーセンなのです」
「ゲームセンター⁉︎行ったことないから楽しみ!何するの?」
するとぷらずまはいかにも悪人がするような笑顔で
「雑魚狩り」
と答えた。
「ざこ?え?」
これまでの人生で一度も聞いたことないような言葉を告げられたウララは理解出来なかった。
それを察したぷらずまは再度理解できるように答えた。
「ゲーム下手なやつをボコボコにするのです」
「え?虐めるのは良くないよ?」
「ゲームで勝負するのは悪いことじゃねーのです。勝ち負けが決まる以上必ず不幸な人は産まれるのです」
「難しいことよく分からないよ」
「例えばレースが圧倒的に強いウマ娘がいて、そのウマ娘がどんなレースに勝っても卑怯とか弱い者イジメとか言われることはないのです。むしろ弱い方が悪いって世間は言うのです。それは何故か?ルールの中で戦っている限りバッシングされることは無いのです。つまり今からやるのはルール内で強いのが弱いのを蹂躙するだけなのです。悪いことでは無いのです」
「うん、……うん?」
全く理解出来きなかった。
「うーん、まあいいや!行こ!」
いくら考えても分からなかったから深く考えることをやめたウララは元気よく中に入った。
「うわぁ〜すごい賑やかだね!」
初めてくるゲーセンにウララは目を輝かせて辺りをキョロキョロ見回す。
「こっち来るのです」
ぷらずまはそんなウララの手を取って奥に向かって引っ張っていき、格闘ゲームの前に来た。
「ちっ、誰もいないのですか。つまらないのです。まあいいのです。今日はこれで遊ぶのです」
「これどうやるの?」
もちろん見たことのないウララは興味津々に筐体のボタンをポチポチ押し始める。
「見たことないのです?それなら口で説明するより実際に見た方が早いのです。操作方法教えるので最初は見てるのです」
「うん!」
ぷらずまは早速筐体に100円を投入してゲームを始める。
「キャラとかは使いやすいこれが良いのです。あとはこれでキャラを動かしてこのボタンで攻撃とかするのです」
「うわぁ〜!なんかすごい!」
鮮やかな手捌きで操作をしだす。その動きに初心者ながらも凄みを感じたのかキャラに動きに目を釘付けなっている。
「さすがにCOMだと雑魚すぎるのです」
「次やってみたい!」
ある程度やっている様子を見ていると次第に操作方法が分かってきたようだ。
「分かったのです」
ウララは待ちきれないとばかりにいそいそと座り100円入れてゲームを始める。
「えーっとこれだったよね?」
「ぶっちゃけなんでもいいですが、それが一番癖が少ないのです」
「そうなんだ。あっ、始まった」
しかし初心者とあってぎこちない単調な動きしか出来ないウララは的確にカウンターを決められて負けてしまった。
「ありゃりゃ、負けちゃった〜」
「ダメダメなのです。単調な攻撃ばかりじゃいくらCOMとはいえ対処されるのです。もっと搦め手とか使って駆け引きするのです」
「うん!頑張ってみる!」
負けるたびにアドバイスを貰いつつ繰り返し挑戦をしていくと次第にどうしたら良いのか分かってきたようだった。
そしてついに
「やったあ!勝てたよ!」
「勝って当然なのです。そろそろCOMだと物足りなくなってきたみたいなので遊んでやるのです」
そう言ってぷらずまは正面の筐体の前に座った。
「ぷらずまちゃん?なんか変な画面が出てきたよ」
「乱入なのです。こうやって正面の台でプレイすると乱入することが出来て対戦出来るのです」
「へぇーそうなんだ!それじゃぷらずまちゃんと勝負だね!」
「勝負?勝負なんかしないのです」
「え?」
「今から始まるのはハメ技の指導とそれを使った一方的な蹂躙なのです」
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「うう〜負けちゃった。一回も勝てなかったよ」
「当然なのです。年季が違うのですよ」
「でもハメ技?っていうのは出来るようになったよ!」
「さっきも言ったけどそれはあまりやりすぎると喧嘩になるからお勧めしないのです」
「うん、気をつけるね」
「それじゃそろそろ帰るのです」
「また遊ぼうね」
「分かったのです」
「ばいばーい!」
ウララは元気よく手を振って走り去っていった。
「ウマ娘って本当に足速いのですね」
「ようやく見つけたぞ!」
ぷらずまの背後から怒気を孕んだ聞き覚えのある声が聞こえてくる。か振り返るとぷらずまの所属する鎮守府の提督が立っていた。
「司令官じゃないですか。なんか用です?」
「お前また通報があったぞ!頼むから大人しくしろとは言わないから人様に迷惑かけないでくれ」
「それ実質大人しくしろって言ってるのと同じなのです。断るのです」
頭痛を堪えるようにこめかみ辺りを抑えて深くため息をつく。
「はぁ、取り敢えず帰ろう」
「なのです」
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「ねぇねぇキングちゃん聞いて!」
「なぁに?ウララさん」
ウララは寮の自室で同居人のキングヘイローに今日あったことを話そうと話しかけた。
キングは読んでいた本を閉じてウララの話を聞くために机からベッドに移動した。
「今日ね!商店街でお友達が出来て一緒に遊んだの!とっても楽しかったんだ」
「あら良かったわね。どんな子?」
「うーんとね、お店で嫌いな食べ物が出てきて怒って店長さんと喧嘩してたり、ゲームセンターでざこがり?ってのをする子だよ!」
「はい?」
予想もしてなかった不穏なワードに理解が追いつかないキング。そんな彼女の様子に気がつかないウララは構わずに話を続ける。
「でね、その子と一緒にゲームしてボコボコにされちゃったんだぁ〜」
「大丈夫なの⁉︎その子本当に大丈夫な子⁉︎」
「うん!とっても優しかったよ!」
「とてもそんな風には聞こえなかったけど」
「楽しかった〜また遊びたいなぁ」
「ほ、ほどほどにね?」
キングは注意喚起しようかとも思ったが、ウララの笑顔を見てもう少し様子を見ることにしたのであった。