昔、遊園地で迷子になった。迷子の経験は多くの人にあると思う。けどそこで運命の出会いを果たした。
「一緒に探してあげようか?」
優しいお兄ちゃん。一緒に探してる間たくさんお話をした。そのうちお母さんと逸れて不安だった気持ちが無くなり、もっと一緒にいたいと思った。
宇宙一カワイイ私。この夢を語った時もお兄ちゃんは笑わなかった。他のみんなは笑うか、その場のノリに合わせて返答する人しかいなかったけど、お兄ちゃんだけは真剣に聞いてくれて、いい夢だって言ってくれた。
この出会いを境にこの日の事を思い出さなかった日はない。
思い出すたび虚無感が押し寄せる。
「会いたいな」
部屋でポツリと呟く。でも次会えることは無いことはなんとなく分かっていた。
もういっそ忘れてしまえたらどれだけ楽だろうか。
でもそんなことできるわけもない。「今何してるのかな」って考えちゃう。ダメだ。今までどうやって生きてきてたっけ?思い出せないや。
ある日ふと思った。このままの私だと可愛くないと。
しかし努力しようとしても身に入らなかった。
どうしよう。……そうだ。お兄ちゃんの為に努力しよう。お兄ちゃんに見合うカワイイ私になれるように努力しよう。
この日、私の目標の「宇宙一カワイイ」は自分のためではなく、お兄ちゃんために目指すようになった。
効果は覿面だった。お兄ちゃんの為だと思うとやる気が溢れてくる。
完璧なコミュニケーション。完璧な笑顔。完璧な仕草。日常のどの場面を切り取っても可愛く見えるように。どんな私を見てもお兄ちゃんの視線を奪えるように。
それだけじゃなく、勉強や運動などにも手を抜かない。だって外側だけ可愛くても意味がない。中身も可愛くなくちゃ。
必死に努力した。
今思えば、狂気に囚われてるとしか思えなかった。それほど執着していた。
そんな時お兄ちゃんを見つけた。ウマスタのファンの対応してたらたまたま見つけた。そしてトレーナーだと言う。
運命だと思った。見つけたその瞬間から今まで抑えつけてきた感情が溢れてしまって、気がついたら行動してた。
「今日からあなたが……私のトレーナーさんね」
お兄ちゃんはすぐには決まらないって言ってたけどこの衆人環視の前で断れるかな?
「分かった」
やった!言質をとった!
少々ズルい気もするけど手段は選んでられない。
絶対にカレンに振り向かせてみせるために。
お兄ちゃんがトレーナーになって1年後。
「お兄ちゃんデートしない?」
「いいよ、行こうか」
お兄ちゃんとは仲良くなれて普段からデートもするようになった。お兄ちゃんも私を意識してくれてらみたいで、私の事を知ろうとしてくれたり、私のことを第一に考えてくれる。
カレンもちゃんと完璧なアピールできてる。
でもなぜか関係のの進展はなかった。
「おかしい……」
「どうした?カレン」
「ううん、何でもないよ。それでお兄ちゃん、今日はどこ行く?」
「カレンの行きたいところでいいよ」
優しいお兄ちゃんはそう言うって分かってた。
「今日はお兄ちゃんの行きたいところでいいよ。いつも付き合わせちゃってるし」
「特にないよ。カレンの行きたいところが僕の行きたいところだから」
「……そうなんだ。それじゃ、いつもの喫茶店行こ!」
最近お兄ちゃんの事が分からなくてなってきた。お兄ちゃんは多分だけど私の事好きだと思う。
でもお兄ちゃんは私に対して何もしてこない。
確かにトレーナーと担当って立場があるから躊躇するとは思うけど、それでもこんだけアピールしてたらちょっとは何があっても良くない?
だから今回はお兄ちゃんの事をもっと知って効率よくカワイイをアピールしようと思ってたのに……。
「このケーキカワイイ!お兄ちゃんも見て!」
「確かにカワイイな。カレンと一緒だと一際カワイイな」
「……」
やっぱりおかしい。昔は赤面しながら初々しく褒めてくれたのに、今は笑顔で褒めてくれはするけどどこか物足りない。
「お兄ちゃん、本当にカワイイって思ってる?」
「もちろんだよ。日々の努力を欠かさず、どんな時でも可愛くあれるカレンは今まで見た誰よりもカワイイよ」
「そんなに褒められると恥ずかしいよ。でもありがとう」
その日の夜、自室で今日の昼間のデートを振り返っていた。
「お兄ちゃんってあんなにスムーズに女の子を褒めること出来たっけ?」
小さな違和感だった。でも気づいてしまえば決して見過ごす事ができない違和感だった。
お兄ちゃんはなにかきっかけがあって変わったんだと思った。確証はないけど女の勘がそういう。
「次のお休みちょっと尾行してみよう。前にお兄ちゃんもやってたからおあいこだよ」
この尾行で絶対に何かを掴んでやる。そう意気込んでベッドに入った。
次の土曜日。お兄ちゃんは1人で街へ出掛けていた。私は事前に用事があるって言っておいた。
「お兄ちゃん今日は何するんだろう?そういえばお兄ちゃんの私生活ってあんまり知らないかも」
しばらくバレないように尾行しているとショッピングモールに到着していた。
お兄ちゃんはショッピングモールの入り口で立ち止まり辺りを見回す。そして目的の人を見つけたようで小走りで向かっていく。その先にいたのは緑の服を着た人物がいた。
「たづなさん、今日はありがとうございます」
「いえいえ、気にしないで下さい。それでは行きましょう」
「はい」
2人は並んでショッピングモールへ入っていった。
残された私は意外にも冷静にこの状況を整理する事が出来た。
「…………お兄ちゃんとは後でお話しないとね。あとあの緑色の泥棒猫はどうしようかな?」
冷静にお兄ちゃんの再教育とたづなさんをヤることに決めた私はゆっくりと追いかけて行った。
モールに入って本当に冷静になった私は改めて観察する。よくある私にプレゼントするために女性の意見が欲しかったから誘った可能性がある。
「桐生院トレーナーじゃないだけマシだった」
昔自己防衛の為に空手を習ってた私でも桐生院トレーナーには勝てない。それならたづなさんの方で良かった。
「これとかどうです?」
「良いかもしれません」
やっぱりこの買い物はデートではなく、たづなさんに意見を求めて一緒にいるだけだ。そう確信した矢先たづなさんがさりげなくお兄ちゃんにボディタッチをした。
「は?」
「カレン?」
「どうしました?」
「いや、カレンの声が聞こえた気がしたんですが、気のせいですね」
「以外と近くにいるかもしれませんよ?」
「いえ、つい30分前に上げてたウマスタの投稿だとここにはいないみたいです」
「そうなんですね」
あっぶない。思わず声出ちゃった。咄嗟に隠れられて良かった。それにウマスタで偽の投稿していたのもいい感じに働いたみたい。
それにしてもあの泥棒猫、私のお兄ちゃんにボディタッチとか何のつもりだろう?
いっそ引き剥がそうかな?
「いや、そんなカレンはカワイくない。いくら変装してるとはいえ、もっとカワイく尾行しなきゃ」
本当は今すぐあの2人の間に入ってお兄ちゃんから引き剥がしたいけど、まだ早い。落ち着かなきゃ。
「たづなさん、お腹空きません?そろそろお昼にしましょう」
「そうですね」
この後もまだ予定があるようで、2人は一緒にフードコートに向かって行った。
2人は食事を購入して空いてる席を見つけて向かい合って座る。その姿は熟年夫婦のような雰囲気が出ていてさらに私のSAN値を削っていく。
「席空いていてよかったですね」
「そうですね。お昼時ですけど、運が良かったです」
「ふふっ。日頃の行いがいいからですね」
「いえいえ、たづなさんとこうして食事できるだけで日頃の運使い果たしてるので、たづなさんのおかげですよ」
なんか話が弾んでるみたいだね。そしてお兄ちゃんそんな笑顔私以外にも見せてたんだね。知らなかったな〜。
チラッ
っ⁉︎たづなさんこっち見た⁉︎バレてる?
「トレーナーさん。はい、あーん」
「え⁉︎どうしたんですか⁉︎」
「……」
あれ〜?お兄ちゃん私にあーんされてもあんな反応しないよね?なんでたづなさんにはそんな初々しい反応するのかな?っていうかなにしてるの?
「あれ?電話だ。カレン?」
「どうしたのでしょうか?」
無意識に電話かけちゃった。
「もしもし?どうしたの?」
「あっ、もしもしお兄ちゃん?今何してるの?」
いきなり電話が来て、若干圧を感じる質問にお兄ちゃんは困惑してる。
「今は知り合いと買い物してるんだよ。急にどうしたの?」
「そうなんだ!急にごめんね?なんか声聞きたくなっちゃって」
「そうなんだ。そっちは楽しんでる?」
「うん」
「そ、そうなんだ。それじゃしっかりリフレッシュしてね」
「うん、それじゃまたね」
「またね」
ふーん。知り合いか〜。なんでたづなさんって言わずに隠したんだろうな〜。これは週明け本格的にお話しないといけないみたい。
「……」
「たづなさん?どうしましたか?」
「いえ。何でもないです」
あの泥棒猫気づいてる。でもお兄ちゃんに言わないってことは、もしかして見せつけようってわけかな?……ふーん。
これで分かった。少なくとも関係は友人以上恋人未満だ。そしてあの泥棒猫はお兄ちゃんに気がある。そして私に宣戦布告をした。
「上等。お兄ちゃんと恋人になるのは私。絶対に負けない!」
負けず嫌いな私を挑発した事を後悔させてやる。
夜。買い物が終わって夕食を食べた2人(と1人)は暗い帰り道を並んで歩いていた。
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「私もいっぱい楽しませてくれてありがとうございました。あっ、ここまでで大丈夫です」
「そうですか?それじゃあ、これで失礼します」
「はい、ありがとうございました」
お兄ちゃんはたづなさんと別れて1人帰路についた。
この時を待っていた。
「お兄ちゃん!」
「カレン?偶然だね。今帰り?」
「うん、そうだよ。お兄ちゃん一緒に帰ろ?」
「いいよ。送っていく」
お兄ちゃんと並んで歩き出す。私は今日のことを聞こうと思って口を開く前にお兄ちゃんから袋を渡された。
「はい。これプレゼント」
「え?」
手渡された袋を両手に抱えて困惑する。でもどうして?
「この前この前G 1勝利したからそのご褒美」
確かにご褒美をねだったけどまさか本当にくれるとは思っていなかった。いや、お兄ちゃんはこういう人だったな。
「ありがとうお兄ちゃん!大事にするね」
中身はシンプルなネックレスだった。
「わあ、うれしい〜!」
「喜んでくれて良かったよ」
ネックレス。確かプレゼントとしての意味は『独占』や『繋ぎ止めたい』って意味だったはず。
これはお兄ちゃんは間違いなく私に気があるってことかな?
「ありがとう!お兄ちゃん大好き!」
「いや〜、そんな喜んでくれるとは。たづなさんには感謝だよ」
「ん?」
「ああ、今日たづなさんにアドバイス貰ってプレゼント探してたんだ。絶対に失敗したくなくてね」
そういえばそうだった。つまりお兄ちゃん自身はこの意味を知らないだろう。
嫌な予感がしてきた。
「お兄ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「たづなさんから何貰ったの?」
「え?」
お兄ちゃんは不思議そうな顔で見つめてくる。
「たづなさんから何か貰ってない?お礼とか」
「ああ、確かネクタイピンを貰ったよ」
ネクタイピン。『あなたを支えたい』『見守ります』って意味だったね。
「お兄ちゃんカレンのこと好き?」
「好きだよ」
間髪入れずに答えてくれる。でも分かっちゃった。その感情は好きな人に見せる感情じゃない。妹とか、家族に見せる感情だね。
「たづなさんは好き?」
「っ、急にどうしたんだ?」
「ううん、何でもない。忘れて?」
一瞬だけど言葉に詰まった。つまりそういうことなんだね。
いつの間にかたづなさんに差されていたみたい。
「……お兄ちゃん。カレンを見捨てないでね?」
「本当にどうしたの?当たり前じゃん。見捨てないよ」
やっぱりそう言ってくれるよね。でも卒業したら?
いや、ポジティブに行こう。まだ卒業まで時間はある。それまでに絶対に振り向かせてやる。今までのようなアピールじゃダメだ。
お兄ちゃん。私絶対諦めないよ。
数年越しの初恋。ようやく叶えられるってところで邪魔なんかさせない。
その為だったらなんでもする。
私をお兄ちゃん好みに作り変えて貰って構わない。未来永劫見捨てないでね。
もうこんな運命の出会いは次なんて絶対無いって分かる。そう言いきれる。お兄ちゃんだってそうなんだと思ってる。
だから逃すわけにはいかない。
「お兄ちゃん、絶対に夢を叶えるからね」
私は貰ったネックレスを首にかけて宣言する。
「うん、僕も全力でサポートする。レースでも勝って、究極のカワイイを極めような!2人で行こう!」
お兄ちゃんも真面目な顔で一緒に目標に向かって歩いてくれることを宣言してくれる。
絶対に2人で行こうね。最後まで、天国に行くまで。
「絶対に逃さないからね」