ウマ娘短編   作:金糸雀^_^

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成長

 「トレーナー!」

 

 俺の担当の愛馬、ハルウララが大きく手を振って俺を呼んでいる。

 

 今日はいつものようなトレーニングではなく、散歩をしている。最近ウララの調子が落ちてきたから気分転換を兼ねて休みとした。

 

 連戦連敗。ウララといえばそういうイメージがあるだろう。けど俺が担当してダートに転向してからは負けなしのウマ娘になった。

 

 それで先週ウララの要望もあり、有馬記念に出走した。結果は惨敗だった。

 

 負けた瞬間こそいつものような笑顔で負けてもへこたれない姿を見せて、周囲を元気付けいたが、帰って人の目がなくなると以前からはイメージができないような感じで泣いていた。

 

 『悔しい』『勝ちたかった』そう言って涙を流す少女はもう前までのような子供ではないのだと感じられた。

 

 ただ楽しいだけで走ってきた彼女にとって皆んなの期待を背負って走る緊張やその期待に答えられなかった悔しさなど、初めての感情が多かったのだろう。

 

 今週に入ってもまだ練習に集中しきれていない俺は心配して、半ば強引に外に連れ出した訳だが、

 

 「わあ!みてみて!猫さんだよ!」

 

 思ってたより元気そうで安心した。俺の心配は杞憂だったかな?

 

 俺はウララの少し後ろを歩いていたが、隣まで移動して座る。猫は人懐っこい子だったみたいでウララに擦り寄ってくる。ウララも楽しそうに戯れて遊んでいる。その横顔は普段の無邪気な子供だ。

 

 担当してから約3年。アスリートとして精神的に成長したとはいえ、こういう時は幼い子供なんだな。

 

 しばらくのんびり猫と遊んでいたが、急に何処かへ走り去っていった。

 

 「あ〜、行っちゃった」

 

 「ほんと、猫って気まぐれな性格だよな」

 

 「お腹すいたのかな?」

 

 「そうかもな。俺たちもそろそろ行こうか」

 

 俺たちは立ち上がって並んで歩き出す。特に目的もなくぶらぶら散歩しているだけだが、意外といい気分転換になる。

 

 有馬記念もあって本当に忙しかったから、俺自身も久々の休日だ。ウララと一緒に来てよかった。

 

 隣を歩くウララはいつものように元気よく鼻歌を歌いながら歩いている。そして時折目があってニッコリ笑う姿は非常に癒される。

 

 「ねぇねぇ、トレーナー」

 

 「どうしたの?」

 

 「今日のデート楽しいね」

 

 「デート?」

 

 まさかウララからそんな言葉が出てくるとは驚いた。どこで知ったんだろう。同室のキングかな?

 

 「もしかして楽しくなかった?」

 

 俺は少し気になることがあると考え込む癖がある。また悪い癖がでてじったようだ。無言で考えてる俺の姿を見てウララは不安そうにしていた。

 

 慌てて質問に対して返答する。

 

 「いやいや、すごく楽しいよ。ウララとお出かけするのは好きだよ」

 

 「えへへ〜、ウララも大好き!」

 

 ウララはそう言うと頬を染めながら腕に抱きつく。まだまだ甘えん坊なんだな。

 

 頭を撫でてあげると嬉しそうに目を細める姿はもはや娘と遊んでる気持ちになってくる。

 

 「元気が出てよかったよ」

 

 「もしかして心配してくれてたの?」

 

 「そりゃあ心配するよ。俺の大事な担当だもの

 

 「そっかぁ〜。そんなに心配してくれてたんだぁ〜」

 

 えらい機嫌がいいな。今日はいつも以上にテンション高いウララに今度は逆の意味で心配になる。

 

 「ウララ?あんまりはしゃぎ過ぎると怪我するよ」

 

 「はーい」

 

 本当に分かってるのか。

 

 とりあえず離してくれそうにないと悟り、ずっと腕に抱きついたままのウララをそのままにしてゆっくり歩く。

 

 今日は天気がよく、いい散歩日和だ。ゆっくり河川敷を歩いて会話を楽しみつつ、景色に目を移せば、クリスマスも過ぎてすっかり正月を迎える準備を整えつつある街並みが見えた。

 

 そういえばもう年末だった。

 

 今年もいろいろあったけど契約期間最終年の結果は上々。無勝利ウマ娘だったこの子もいまやダートでは負けなし。契約が切れて独り立ちしても大丈夫だろう。

 

 「もうすぐお正月だねー」

 

 ウララも同じ事を考えていたのか、タイミングよく話題を振られる。

 

 「そうだな。来年の目標は考えてるの?」

 

 「うーん、まだ決めてない。あ、でもトレーナーと一緒にレースいっぱい勝ちたいな」

 

 「おいおい、来年は契約切れちゃうぞ?また再契約する気か?」

 

 「え?再契約しないの?」

 

 「え?」

 

 やばいちょっと感動した。まさかウララが再契約を望んでいるとは。

 

 他のトレーナーと担当を見てると教育者と生徒って枠を超えていて再契約っていうのはたまにあるけど、ウララはいい意味で教育者と生徒って感じだから再契約せずに俺の元から旅立っていくものだと思ってた。

 

 「もしかして有馬記念負けちゃったからもうトレーナーやってくれないの?」

 

 ウララは今まで見たことないくらい悲しそうな顔をしていた。

 

 「違う違う!負けたくらいでトレーナー辞めたりしないよ」

 

 「じゃあどうして?」

 

 「確かに再契約は無い話じゃないけど、ウララは来年から高等部でしょ?大抵の子はそれを節目に他のトレーナーに代わったりするみたいだよ?」

 

 「やだ!トレーナーがいい!トレーナーじゃなかったらここまで勝てなかったもん!」

 

 こんなにはっきり言うウララは初めてみた。それほどウララにとって俺は良いトレーナーであれたんだな。

 

 「分かった。来年からも再契約出来るようにしとくよ。でもほんとにいいの?俺ってまだ経験浅いんだよ?」

 

 「でも誰も見向きもしなかったウララを見つけてここまで育ててくれたのはトレーナーだよ?経験とか関係ないよ!他の子にとってはダメかもしれないけど、ウララにとっては最高のトレーナーだよ!」

 

 「そうか……」

 

 本当に成長してたんだな。まさか俺がウララに諭されるとは。いつまでも子供だと思って心配してたけど、もう余計なお世話だったな。

 

 「やっぱりトレーナーはウララのことまだ子供だって思ってるんだね」

 

 「え?」

 

 ウララの腕に力が入る。ダートウマ娘は比較的力が強い子が多い。俺の腕が悲鳴を上げる。

 

 「痛いよ⁉︎どうしたの?」

 

 「トレーナーってウララの事どう思ってるの?」

 

 「え?いい子だと思ってるよ。レースで走るのが大好きで頑張り屋な子だと思ってるよ」

 

 「じゃあウララとの関係性は?」

 

 「俺の担当している生徒だろ?ほんとにどうしたんだ?腕痛いから離してくれない?」

 

 「やっぱりそうだよね」

 

 一体どうしたんだ?いつもと雰囲気が違う。やっぱりまだ立ち直れてなかったのか⁉︎

 

 「トレーナーがウララのこと一生懸命考えてくれてるのは分かるよ。でも今のウララの気持ちわかる?」

 

 ウララはそう言って頭を腕にくっつける。その一連の動きはあの天真爛漫なウララとは別人に感じる。

 

 ウララは少しだけ顔を上げた。そのおかげで視線が合わさる。その目はいつも知ってる子どものものではなく、1人の恋する女の子の目だった。

 

 思わず胸がが高鳴る。

 

 「ねぇトレーナー。私ももう子どもじゃないんだよ?」

 

 さっきまで意識してなかったウララの身体の柔らかさを鮮明に感じてしまう。

 

 「私はトレーナーが好きだよ?トレーナーからしたら子どもって思ってるかもしれないけど、私本気だよ?」

 

 ウララの告白。顔を真っ赤にして想いを告げるウララは俺の知ってるウララとはまた違った可愛らしさがあった。

 

 俺はこの告白を聞いて鼓動が早くなる。口が渇く。どうする?どうするのが正解だ?

 

 「トレーナーまた考え込んでる。考えても言い訳しか出てこないよ?ありのままの気持ちが知りたいな」

 

 ありのままか。俺はウララが好き。この気持ちに嘘はない。でもそれは生徒としてだ。でも本当にそうなのか?ウララの気持ちを受け入れて付き合えるのか?

 

 考え込む俺は依然として答えが出せない。

 

 その時そっと頬に手が触れる。

 

 思考を放棄して正面を見ると、ウララの顔がくっつきそうな距離にあった。

 

 顔が近づいてくる。俺は避けることが出来ずに固まってしまう。

 

 あと数cmてキスしてしまうってところでウララが離れた。

 

 「続きはトレーナーの答えを出してからだよ?」

 

 答えか……。そうだな。ウララがこんだけ頑張ったのに俺だけ答えを出さずに曖昧なままなのは違うよな。……答えはもう決まった。

 

 「ウララ」

 

 「な〜に?」

 

 ウララはまだ顔が赤い。それでも落ち着いていつものような態度で答えを待っている。内心気が気じゃないだろうに。

 

 「残念だけど、ウララと付き合うことは出来ない」

 

 はっきりと言った。

 

 「……そっかぁ」

 

 ウララは顔を伏せてしまう。表情は見えないが、声が震えているから見ていなくてもわかる。

 

 この悲しみはあの時の敗北以上だろう。

 

 「今はな」

 

 「え?」

 

 ウララはパッと顔を上げる。その顔は予想してたように今にも泣き出しそうな顔だった。

 

 「今は付き合うことは出来ない。さすがに中学生に手を出したらまずい。だからもう少し待って欲しい」

 

 「え〜、そんなの気にしなくていいじゃん?」

 

 「いや、トレーナー辞めたくないし」

 

 「うー、分かった。トレーナー辞めなくちゃいけないのは嫌だから諦める」

 

 今度はものすごく悔しそうな顔をしてる。本当に表情豊かだよな。

 

 「あと来年からのトレーナー契約はまた結んで欲しい。むしろ俺以外と契約結ばないで欲しい」

 

 「う、うん?急にどうしたの?ウララそのつもりだよ」

 

 あまりに唐突になんの脈略もない話に戸惑っている。しかも若干引いてる。

 

 「絶対おれの元から離れるなよ?トレセン卒業するまで、いや卒業してからも契約してくれ」

 

 「それって……」

 

 「いや、結婚してって意味じゃないぞ?」

 

 「違うの⁉︎もうその意味にしか聞こえないよ⁉︎」

 

 まあそうだよな。

 

 「そっちの方は卒業後ウララの気持ちが変わってなかったらな?」

 

 「ふ〜ん、それなら大丈夫だね!だってまだあと3年間も一緒にいれるからね!」

 

 「お互いに3年間で変わらないでいるのは難しいぞ?」

 

 「トレーナーが常に近くにいれば大丈夫だよ!トレーナーともう一回契約したら他の人目に入らないし、トレーナーも他の子見ないでしょ?あっ、もしかして他のトレーナーと契約ダメって言ったのそういうこと?」

 

 「さあね〜」

 

 「えー!教えてよ〜」

 

 すっかり元気になったウララは飛び跳ねて喜んでいる。

 

 実は顔が近づいた時このままキスしてもいいかなって思った。いやむしろしたいとまで思った。今もまだ鼓動が落ち着かない。ウララの一挙手一投足が愛おしく感じる。

 

 ちょっと悔しいことに今まで子どもだと思ってた子が成長してああやって迫られてコロっと落ちてしまいました。

 

 「トレーナーと結婚だ〜」

 

 「気が早いだろ。せめて付き合ってからだよ」

 

 「卒業までに付き合ってるから大丈夫」

 

 「いや、生徒に手は出さんよ」

 

 くっそ可愛いな。卒業まで待てる自信もうねーや。

 

 「キングちゃんに後でお礼言っとかないと」

 

 「やっぱりあいつの差し金かよ」

 

 俺もいつかお礼言っとこ。

 

 ウララはひとしきりはしゃいで疲れたみたいで、膝に手を当てて息を切らしていた。

 

 「大丈夫か?」

 

 少し心配になって近寄ろうとしたが、バッと顔をあげたため驚いて立ち止まった。

 

 「トレーナー大好きだよ」

 

 ウララは満面の笑みでそう言った。

 

 「俺も好きだぞ」

 

 「それはどういう意味で?」

 

 「さあね〜」

 

 卒業後に教えてやるよ。

 

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