「今日はクリスマス〜、お兄ちゃんとデートの日!」
早朝。カレンは可愛らしい声で鼻歌を歌いながら、メイクをしていた。
今日は待ちに待ったクリスマスデート。3年目にしてようやく叶ったデートの日に浮かれるなという方が難しいだろう。
一昨年はお兄ちゃんから誘ってくるだろうと思って待ってたら、誘われずにアヤベさんとクリスマス。去年はカレンから誘ってデートだと楽しみにしてたらトレーナー室でプレゼント交換して終わり。
その2回の敗北を経て学んだカレンは1ヶ月前からアピールし続けてきた。そしてようやくクリスマスデートに漕ぎ着けることが出来たのだった。
「朝から騒がしいわね。もう少し静かに出来ないの?」
流石に騒ぎすぎたようで、同室のアヤベさんから苦情が入る。
「あ、ごめんなさい。ちょっとテンション上がっちゃってました〜」
「まだ7時にもなってないわよ。嬉しいのは分かるけど、ちょっと声量抑えて」
「はーい。あっ、アヤベさんはそっちの服の方が似合ってると思いますよ。アヤベさんのトレーナーさんもそういうの好きみたいですし」
「……なんでトレーナーと出掛けること知ってるの?」
「やっぱり出掛けるんですね!頑張って下さい!可愛いアヤベさんなら大丈夫ですよ!」
「……やられたわ」
(しまったとばかりに頭を抱えて唸るアヤベさん。しかし誰がどう見ても丸わかりなオーラが出ているんだけどね〜)
カレンはアヤベにアドバイスしながらも自身の準備を進めていく。意外にも準備はしっかりしていたようで、準備にはさほど時間はかからなかった。
一足先に準備ができたアヤベはいそいそと玄関で靴を履く。表情は相変わらず固いが、耳や尻尾から緊張が隠しきれないようで、パタパタと動いている。
「それじゃ、先行くわね。いろいろありがとう」
「いってらっしゃい!頑張ってくださいね♪」
カレンのアドバイスにより、普段のクールなイメージを損なわないように可愛く仕上がった姿を満足そうに眺めながら見送る。
「さて、ちょっと早いけどカレンもそろそろ行こうかな。今日こそお兄ちゃんをカレンのものにしちゃうぞ〜!」
そう意気込んでお気に入りのバックを持ち、元気よく玄関を出たのであった。
「う〜、寒いなぁ。ちょっと早く着きすぎちゃったかな?」
お兄ちゃんとの約束の時間は10時。今は9時前だから1時間ほど早く着いてしまった。いくら楽しみだったとはいえ、この寒空の下で1時間はさすがのカレンでもきつい。
「どうしようかな。近くのカフェで待ってようかな。……あっ」
待ち合わせ場所の公園。目印となるシンボルの近くにお兄ちゃんがいた。彼はコートを羽織っており、シンプルながらとてもよく似合っていた。
「お兄ちゃん!もう来てたの?」
「カレン?なんだもう来たんだね」
お兄ちゃんはカレンの姿を見つけるといつもの笑顔で歩み寄ってくる。
「楽しみでつい早く来ちゃった♪お兄ちゃんも楽しみだったんだ〜」
「いやぁ、やっぱりカレンと出掛けるのは楽しいからね。楽しみだったよ」
「そ、そうなんだ」
(やばい。ニヤけちゃう。お兄ちゃんが楽しみにしていたと言ってくれただけでもうすっごく嬉しい‼︎)
カレンはお兄ちゃんも同じ気持ちだったという事が分かり、舞い上がる。頬を染めてニヤニヤする姿は普段より子供っぽく見える。
「さて、最初はどこ行く?」
「ショッピングに行こう!クリスマス限定品なんか見てみた〜い」
「分かった。それじゃ行こうか」
(このまま一緒に行くだけでも良いけどせっかくならちょっと攻めちゃお!)
「ねぇねぇ、カレン手繋ぎたいな〜」
「え?えぇ⁉︎」
カレンの突然の提案にお兄ちゃんは驚き、キョドる。
「ダメ?」
カレンお得意のカワイイ上目遣いでトドメを刺す。
(お兄ちゃんすっごくテンパってる。そういうところも可愛いけど、そんなんじゃモテないよ〜。でも盗られる心配ないから安心だね)
カレンがお兄ちゃんの反応を楽しんでいるといきなり手を握られた。
「ふぇ?」
あまりに急な事だったため、珍しく顔も真っ赤にして、素で驚いてしまう。
「え?えぇ⁉︎」
「どうしたの?カレンから繋いでって言ったじゃん」
「……うん」
(これは予想してなかった。前までなら絶対に出来なかったはずなのに。お兄ちゃんも成長してるんだね)
「お兄ちゃん。女の子の手を繋ぐときはもっと優しくした方がいいよ?」
「あれ?痛かった?ごめんね」
「ううん。カレンは大丈夫!」
(そういうちょっと女の子慣れしてないところがカワイイからむしろオッケーだよ)
「行こうか」
「うん!」
2人は仲睦まじく歩き出す。その姿は仲のいい兄妹のようであった。
ショッピングモールに到着した。やはりクリスマスだからか、いつも以上に賑わっていた。
「クリスマスだから人が多いね」
「本当だね〜。迷子になっちゃいそう」
「そうだね。手を繋いでて正解だったね」
「……うん」
(ふーん。つまりここまで手を繋いでなかったら人が多いねって言って手を繋いでくれたってこと?)
ここにくるまでにお兄ちゃんは車道側を歩いてあげたり、カレンのバックを持ってあげたりと何かと紳士的に対応してくれていた。
(女の子慣れしてないのにふしぎだよねぇ〜。これもあの緑の泥棒猫とお兄ちゃんの同期のフィジカルモンスターのおかげだと思うとちょっと頭が痛いなぁ)
カレンは知らないところで女性の対応の仕方を身につけていくお兄ちゃんに不安で仕方がない様子だ。
「どうしたの?体調悪くなった?」
「ううん、大丈夫だよ」
「本当に大丈夫?」
「心配しすぎたよ〜。カレンはいつも元気だよ」
「それなら良いけど」
(え?もしかしてカレンが不安になってたのを察したの?なんで?今まではそんなこと無かったのに)
このお兄ちゃんの変化は見逃してはならないと本能で察知して、思考を巡らせる。そして一つの可能性が浮上した。
「お兄ちゃん」
「どうしたの?」
「お兄ちゃん最近女の人と会ったよね?」
「え?……い、いや会ってないよ」
「カレンと“お話”する?」
「先週、桐生院さんと一緒に食事に行きました」
「ふーん」
(やっぱり行ってた。桐生院さんかぁ。何かしらの相談を受けて解決しようと協力してそのお礼ってところだね。その時に相手の感情の機微を察する技術も教えてもらった感じだね)
カレンは無表情で分析する。その間無言の時間が流れてており、お兄ちゃんは冷や汗をかいていた。
「まあいいや、お兄ちゃんがもっとカッコよくなるのは歓迎するべきことだよね!」
「う、うん?たぶんそうだね」
お兄ちゃんは状況がイマイチ飲み込めてないみたいだったけど、とりあえず頷いていた。
「気を取り直して行こ!お兄ちゃん」
カレンはお兄ちゃんの手を引いて元気よく歩きだすのであった。
その日はカレンにとっては最高の一日だった。
一緒に服やアクセサリーを見たあと、話題の映画を見て、カフェで感想を語り合いながら限定パフェを食べた。
シンプルだけど、お互い楽しめる最高のデートだった。
しかしカレンはそのデートの余韻も浸るのも程々にして次のことを考えていた。
(3年目でようやく叶ったデート。お互い楽しむことができて大成功!あとは一気に刈り取るだけ!)
「ねぇ、お兄ちゃん。このあと行きたいところがあるんだけど〜」
(この完璧な顔の角度とボディタッチ。これでお兄ちゃんはカレンのお願いを断れない!)
お兄ちゃんは少したじろいでカレンを見つめる。
勝った!カレンはそう確信した時、
「え?もう門限でしょ?そろそろ帰んないと」
(………………はぁ?)
会心の一撃だったはずだ。完全に落とした気でいたカレンは予想外の一言で戸惑う。
(いやいや、草食系か?そういえばお兄ちゃんはそうだった。ここはカレンが押してあげないと)
「外泊届け出したから大丈夫だよ?それより、カレンもっとお兄ちゃんと一緒にいたいな〜」
(門限を気にしなくてもいい。そうアピールする事で縛りを無くす。これでどうだ)
おおよそ学生のうちから身につけるべきでない技術を存分に発揮して獲物を追い詰める。
しかし、
「そうなの?うーん、どうしよう。このあと予定あるんだよね」
これでもダメだった。むしろ不穏な発言をするお兄ちゃんに頬が引き攣る。
(あ、聞いたらダメなやつ。嫌な予感がするもん。)
ウマ娘ではなく、女性なら誰もが持ち合わせる勘。その勘が聞いてはいけないと主張する。しかしここで聞かないのは悪手だとも思う。
「え〜っと、……誰と?」
結局聞くことにした。
「桐生院さんとたづなさん」
悪い予感が的中した。むしろその人達以外だったらどれほど良かっただろうか。カレンは聞いたことを後悔しながら頭を抱えてしまった。
「なんで?」
「ん?桐生院さんは同期だから久々に一緒にどう?って誘ったら今日が空いてるって言われて、それを聞いてたたづなさんが一緒に行くって言ってね」
(はあ?なんでわざわざクリスマスを選択するの?明らかに狙ってるよね?)
「お兄ちゃんニブすぎない?」
「え?なんで?」
「もういいよ」
(でもこのままだとお兄ちゃんと泥棒猫2人と一緒にさせるのはマズい)
「カレンも行く!」
「え?別に良いけどあんまり楽しくないかもよ?ウマスタに投稿出来るようなこともないだろうし」
「いい!」
「それじゃ、行こうか。……あとちょっと離れてくれない?」
「いや!」
そうしてカレン達は腕を組んだまま予約してるというお店に向かった。
余談ではあるが、その日の夜は解散後、無事に部屋に送り届けられてしまった。
翌朝。
「ただいま……どうしたの?」
アヤベさんが朝帰りをしてきたようで静かに部屋に入ってきた。けれど彼女の予想に反してか、すでに起きていたカレンに怪訝な表情を見せる。
「あっ、おかえりなさい!昨日は楽しかったですか?」
「え、えぇ。カレンどうしたのその格好」
「え?道着だよ?」
「え?」
「ちょっとカレン最近鈍ってたみたいだからまた鍛え直さないとなぁ〜って思って」
「そう、気をつけてね」
アヤベは自身に見せる初めてのカワイイ以外の姿。それを目の当たりにして感動よりもこれに触れてはいけないという本能の警告に従い、質問を放棄して合わせることにした。
「絶対に許さない?あのフィジカルモンスターめ!」
めちゃくちゃ遅れたクリスマスの話です。途中まで書いてたんですが。忙しくて進んでいませんでした。せっかく書いたから完成させました。