寇討の天子   作:御代川辰

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注意事項
作者の政治思想がございます
極めて不快かつ露悪敵な表現となっていますので、閲覧注意とさせて頂きます


着々と

[[20XX 8月24日]]

 

 地球時間で明朝7事30分から待たされること3時間が経過した頃。天子后広良(こうりょう)以下45名の特使たちは、警護兼監視の警察官らの案内のもとやっと軟禁を解かれ、首相官邸でも関連省の庁舎でもなく国会議事堂へと移動している。

 戦争中というこの逼迫した状況で、戦争を仕掛けて来た相手が現れた場所から使節を名乗る集団が現れれば、警戒するのは当然。元首あるいは首席宰相との直接面会は、暗殺等を招く危険性が極めて高いため、必ず厳重な監視体制のもと、持ち物検査を兼ねて軟禁する事もある。

 統一以前に実際に行われていたであろう外交を、今になって経験するのだから仕方のない事ではあるが、基本は郷に入っては郷に従え。

 無理に完璧である必要はないと、自分に言い聞かせつつ目的地へ進む自動車に揺られ、警護たちを見やる。

(……彼ら、相当気が立っているようですね……)

 元帥(せき)無然(むぜん)が看破した通り、警戒や苛立ちの心情が警察官たちのしぐさに現れており、睨み付けられるような視線も感じられる。悪感情が向けられる理由など分かり切ってはいるが、自分たちも同じ状況にあるが故にあまり(こころよ)いものではない。

(わざわざ参議の議場に連れて行くこともなかろうに……)

 なぜ特使に対する待遇とは程遠い扱いを受けなければならないのか、全くもって理解できない。未知の来客に完全に気が動転しているのか、それとも何かしらの圧力が働いているのか、大変な状況なのだからもっと日を()け、落ち着いた後に改めて交渉を始める、という手法もあったであろうに、なぜ明らかに間違った方法で交渉をしようと言うのか。

 特使たちは頭でっかち同然の知識と知恵、全く足りない経験と観察眼を駆使し、各々が考察を始める。

(しかし……黎國では開発段階の内燃機関を用いるこの車と言い、迷彩服の兵たちの銃と言い……)

 建物や舗装された道など、見えている景色の一部を切り取って見ても、世界規模で文明の水準が(いちじる)しく高い事が容易に理解できる。

 現在の大央華にも通じるものは多数あるものの、それでも現状とても追い付けるものではない。だがこれ程までに高い技術の産物である武装を持ちながら、地軍の基本装備と大差のない武装の帝国軍に遅れを取った理由が分からない。

(まあ、害を(こうむ)った理由は後でいいか)

 と、熾照(ししょう)は一度目を閉じ、軟禁されていた3時間の間、テントで経験した事を思い出す。監視の存在もあって外に出られなかったとは言え、何もせずじっとしていた訳ではない。

 今後の交渉を円滑にすると言う名目で、「監視の兵たちと積極的に言葉を交わす」という手法を用い、情報収集と言語の習得を同時に行ったのだ。

 この作戦を実行した結果、断片的な情報しか得られなかったものの、驚くべきことに使節45名全員が、わずか3時間弱で完璧に日本語を話せるようになっていたのである。

(……僕らの脳って、どうなってるんだ?)

 自分たち大央華の諸民族が話す言語に、新たな謎が生まれた瞬間であった。

 

 

 

 そして更に時間が進み、11時55分。先日の自衛隊出動に関する質疑応答と、“自称・異世界の特使”の受容に関する与党及び内閣閣僚への質疑応答、そして今後の方針の議論という重大事項の一切が終了した直後の国会議事堂に、“自称・異世界の特使”が到着したとの一報が入る。

 先ほどまでの国会衆院では、議員たちが各々の手元にあるものを投げ合い、本気で殴り合いかねないほどに議論が紛糾しており、その原因はやはり()()()()()野党政党が展開した、厚顔無恥にも程があるめちゃくちゃな質問である。

 〈銀座事件〉における自衛隊の出動に関しては「なぜ事前に察知できなかったのか」、「なぜ撤退交渉をするよう勧めたのに無視したのか」など、責任問題云々以前の内容を。

 特使受容に関しては、「拘束する理由がないのに3時間も軟禁状態に置いた理由は何か」、「特使の対応を自衛官に任せたのはなぜか」と、もはやどうして政治家として国会にいるのか分からない事を。

 しかもそれらをさも当然とばかりに、真面目な顔をして堂々と問い(ただ)そうとしてきたのだ。他の議員にとっても国会中継の撮影者にとっても迷惑(はなは)だしく、このような情けない問答を見せられる視聴者もたまったものではない。

 〈事件〉によって生じた世界的な影響、被害者やその遺族の現状には目もくれず、現政権と与党を引き摺り下ろした後どのように自分たちの勢力を広げるか。

 このような俗な事しか考えていない、愚連隊同然の曲者(くせもの)政治家が自ら政党を持ち、あまつさえ議席を保持しているという事実は、ある種投票者たちの自業自得ではある。

 だが長年見せ続けて来た常軌を逸した言動や奇行の数々は、今回の非常事態でようやく危機感を覚えた支持者たちからの失望を意味していた────

 

 

 

(……なるほど、これは護衛から剣を取り上げて当然ね)

 国家議事堂の入り口にて。自分たちの姿を映像、あるいは写真に収めようと詰めかけた記者や撮影スタッフの姿を見て、凄まじい苛立ちを覚えていた特使一同は、「問題を起こさないように」と持参した武器を預かった警察官や自衛官たちの配慮に感謝していた。

(それにしても……)

 撮影機の技術が進むとこのような弊害もあるのか、と我が身をもって思い知ると同時に、必死になって自分たちに群がるカメラマンたちの幼稚さに呆れつつ、一同はさっさと自らの目的を果たすべく議事堂に向かって動き出す。

「《太母御(お母様)議会了後数百個人(後で百人程度)誅撲来了帰(殴り飛ばして来て)是求赦可(よろしいでしょうか)》」

 フラッシュとシャッター音に耐えかねた熾照(ししょう)が不機嫌そうに広良(こうりょう)に尋ねる。

「《我同時方(私も同じこと)貴前至考(考えたわ)》」

 広良(こうりょう)も額に青筋とひきつった笑みを浮かべ、名案とばかりに手を組んだ。彼女は後に、「人生で初めて本気で兄を嫌いになった唯一無二の瞬間」と振り返ったと言う。

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