黎國より派遣された特使45名のうち、10名が最初に議事堂に入る。先頭から泰皇天帝后
警護の警察官が盾となって通り道を作り、記者をなんとか制止しているが、やはりカメラを止める様子はなく、喚く声もうるさい事この上ない。
(規定の一つや二つはあるだろうに……我々は遊びに来たんじゃないんだぞ)
喚く言葉の語彙を一つ一つ拾っても問いかけしか聞こえず、しかも今ここで質問する間でもないものばかりであり、ここまで来ると交渉妨害の意思さえ感じられる。
だが、言葉には出さない。場違いな状況で不用意な発言をすれば、今後日本国も関係を持つ事ができたとしても、相対的にこちらが不利になり得るからだ。
少数対多数の交渉を可能な限り相手側に譲歩させる形で、できれば対等な立場で進めるためにも、今はあくまでも冷静を装い、
…………と、判断したからと言うのもあるが。
(さて……正念場だな)
深呼吸をするのは国土右省官僚、
ここで人事を尽くして祖国同胞を守り、天命に従い天子への忠義を尽くさんと言う意気込みが、彼の歩みから感じられる。他の使節たちがうんざりとした足取りの中、彼だけは記者の姿には目もくれず、堂々としているようにも見えた。
日本時間正午前。
〈銀座事件〉以降停滞している行政の対応に進展ありと見るか、それとも新たなる脅威の出現と見るかは個人各々で異なるが、やはり日本国民からすれば「異世界から来た異世界人」という印象は拭えず、後者を警戒している者が多数派であるのが現状。
対して各国首脳からすれば、日本に揺さぶりをかける格好の道具に過ぎない。が、問題が一つ。
「《
アメリカ時間、23時手前。真夜中のホワイトハウスにて大統領補佐官が冷や汗を流し、スマートフォンに写る黒服の一団の画像を指差す。衣装は
「《
アジアにおける勢力と影響力の拡大を狙う中国政府にとって、異世界にも中華的文化を持つ勢力が存在するという事実は、願ってもなく喜ばしい事だろう。
しかも日本政府は野党の圧力に押され気味であり、特使と首脳による会談の場を
おそらくこのまま交渉に進めば確実に決裂、何とか関係を構築できたとしても中国の干渉がさらに強まる。どう転んでも日本にとって不利になる事が予想できる。
(だが……ゲートの権益は必ず、この合衆国が独占する)
野心に火を点ける
場面は再び国会に変わり、特別使節団の面々は衆議院議場に召集され臨席しており、半円状に並べられた席に座る議員たちの視線は、45人の中でも特に目立つ二人に注がれている。
一人は紅一点、特使団の代表者にして責任者、全権特使
(原因はこやつらか……)
演壇に最も近い席に座る
これらは全て、参議が属する各々の勢力が、権力争いをより有利に進めるための策略であったのだと。
(なれば、天子后主上の勅辞の後の、私の牽制が
無論形は違えどここは外交の場であり、
譲歩を見込む必要すらなく状況、条件ともにほぼ対等に持ち込めているため、後はここでどこまで牽制し、協力関係を結ぶための条件を知ることができるかを把握するのみ。
静寂に包まれた空間の中で待つこと五分、ついに声がかかる。
『特使団代表
声が聞こえた瞬間即座に席を離れ、耳を隠す長い髪を鬱陶しげに耳にかけ、迷いなく演壇へと向かう。この行動の速さは、自分を見つめる人間たちに対する不快感ゆえか。あるいはこの現状を楽観視する人間たちに対する苛立ちゆえか。
その本意を知り得るのは、今ここにいない彼女の兄、
「通訳は不要です。発言は全て我々自身の口から、嘘偽りなくお伝えします」
演壇の
この発言に続き、一呼吸おいて今度は柔和な言葉遣いで短く呟く。
「……まず、
空気が震え、揺れる。穏やかな声色とは裏腹に、先ほどより遥かに強い力が籠められている。麗しい髪、整った眉、艶やかな睫毛、柔らかな頬、冷徹な眼差し、透き通った声は、世が世なら天下に轟く美女。
「侵略者に国土を荒らされ、多忙極まるこの大事に、一つの承諾と連絡もなくお訪ねし、皆様にご迷惑をおかけしてしまいました事、誠に申し訳ありません」
ここで、頭を下げる。黒色の布地に白と銀の刺繍が施された衣服は、彼女のきめ細やかな肌と相まってより繊細な艶を醸し出している。
「しかし我々もまた、皆様が〈門〉と呼ぶものから現れた軍勢により、多大な損害を
立て板に水を流すが如くはきはきと言葉を
「そして、未だに脅威が去っておらず、復興の
閉じる
この日本という国の、名も知らぬ人々にはもう、このような無益な戦で涙を流して欲しくはない。傲慢だが、これは本心だ。
「……最後にこの度の“侵略”に際し、
もう一度目を開ける時には、これから敵になるであろう人間たちの現影が一瞬、ほんの一瞬だけ視界を
「《
締めくくる