男、
言葉も通じぬ夷狄の兵相手に啖呵を切り、壮絶な殴り合いの末に相討ちで果てた母の
同じ苦心と憤怒を持つ人々の、その涙を流す姿を。再興を果たしつつも、失われた日々を取り戻し切れていない都を。
黎國地軍の将が一、
夷狄が名乗る帝国が、如何に醜悪な侵略者であるのかを。
「《
改めて、戦場とはやかましい場所だ。金属がぶつかる音、骨が砕ける音、地面を踏みしめる音、肉が潰れる音。何万人もの兵たちの叫び声、同じ数響く悲鳴、自分自身の声。
今こうして立ち止まっている時は耳に障るのに、いざ戦いを始めればどうでも良くなるのは本当に不思議なものである。
「《
直感に任せて腕を振るえば、今まさに棒立ちの自分に飛びかからんとしていた敵兵の顔面を、きれいに切り刻んで絶命させる。一歩
「《
怒気を込めた叫びとともに一気に駆け出し、
しかも全身に金属製の鎧を纏い、顔と喉が見えているとはいえそれもごくわずかだと言うのに、指で持てる程度の長さしかない武器を用いての事。
彼を表すのに凄まじいと言う他はなく、また彼と肩を並べる優れた将兵たちに
(そろそろ火が消える頃か……)
敵軍の後方を見れば、焼夷弾の投下で上がった炎の勢いが弱まりつつある。揺らめく炎の奥にちらほらと見える景色には、誘導弾の集中投下で五万まで減らされていた敵軍の姿はなく、一万五千程度の残兵たちが
リハルドはふと、後方へと振り返る。先程まで高く燃え上がっていた炎が落ち着き、その更に奥にはすでにごくわずかとなった味方の姿が見える。兵の大多数は分断された後、空飛ぶ鉄の槍の餌食となったのであろうが、あの猛攻の中逃げ
鎧兜を纏い、槍や剣、弓矢、あるいは盾を持って突撃する騎兵と歩兵の群れは、こちらの兵と真正面からぶつかり合い、熾烈極まる混戦の様相を成している。
(あの魔法は……さすがに使わないな)
対地砲撃は既に止まり、
帝国軍は戦う相手と自分たちの力の差を見誤り、結果大損害を
だが敵軍は違う。帝国が侵略を目論んだ二つの国の軍は、互いの不足している部分を
帝国軍と帝国が侵攻した二ヶ国では、軍の運用法から戦の進め方まで何もかもが違う上、互いに対する認識の一つ一つさえも真逆であり、
(あちらの将と思われるやつらの……生身で亜神にも劣らない強さの髄が見えた気がする)
自分はまだ最前線から程遠い位置にいるが、敵軍の将が誇る武勇はしっかりと見えている。遠目からではあるが、彼らの人間離れした強さの、その真髄を垣間見たような、悟ったような目には、やはり強い光が宿っていた。
これから死にに行くのだから、覚悟していて当然。
────さあ、目の前に敵が見えているなら恐れるな、
目に見えるは味方、
後頭部と背面を強く地面に叩き付け、意識が朦朧とする中で見たものは、馬車の車輪らしきものが馬にぶつかり、その上半身をあっさりと切断する瞬間であった。
時間は進み、深夜。昼から日の入りにかけて続いた激戦が終わり、アルヌス周辺には
「ああ、こりゃ……一週間は死体処理ですね」
30の国々の諸王侯が動かした十八万の大軍は、およそ四万と八千の兵を残して壊滅し、散り散りになった。その後の行方は分からないが、おそらく大多数は自領に戻ったと思われ、恐らく自領に戻らずならず者になる連中がいるはずである。
「戦死者は五千……俺の弟の熊も……」
自衛隊の死傷者はやはりゼロ、黎國軍の死者は2448名、戦死した騎獣や騎禽は合わせて219匹。累計戦死者は4967を数え、早くも人員が不足し始めている。
戦争経験の少なさという致命的なアドバンテージは、未だ埋まりそうにはない。