現れた少女は地球で言うゴシックロリータの服装で、およそ体格と釣り合わない大きさの
まるで警戒心を見せていない、むしろ興味津々という印象で、精神性は恐らく見た目通りなのであろうが、底知れない不安と不快感を掻き立てられる。
まるで、“死”が目の前にあるかのような、そのような感情が心中を満たしているのだ。
「《
無垢を
やはり自衛官の何人かは彼女の姿に見惚れたり、呆然として動きを見せなかったりと、“かもしれない”が頭から抜けている者が目立つ。
対してこちらは“子供相手に過剰”な反応である事は確かだが、急に姿を現した相手にやや動じており、すでに武器に手をかけている者もちらほらいる。
「《
兵の一人が同じく帝国語で返し、出方を
むしろより楽しげで、より子供らしい表情でこちらを見る様子から、やはり
だが、殺気は感じられない。それどころか、今度は
「あらぁ……敵意はないわよぉ」
殺気が感じられなかったのは、本当に殺意がなかったからであったと言うオチであった。
時代錯誤なゴシック調の衣装を纏って日黎連合軍の前に現れた、神官を自称する少女
ではなぜアルヌスまで向かわず、ここにとどまっているのかと聞けば、見慣れない服装と炎龍の死体、そして帝国では見られない武器に興味を持ったからだと言う。
更に冥界に向かわずファルマートから去った魂の数は3528で、ちょうど黎國軍の特地での戦死者数と同じであり、それら全てを正確に計算していた事に驚きを隠せない。
「異世界人の魂はぁ、本当に郷土愛が強いのねぇ」
けらけらと笑う彼女だが、黎國軍にしてみればとんでもない脅威である。敵兵の死体を回収して数える事なく、どれだけの損害を与えたか、母数からどれだけ減ったのか、どれだけ殺し損ねた敵が残っているのか。
これらの事が正確に分かると言うことは、どれだけ味方の負担を減らして戦えるのか、敵にどれだけの継戦能力があるのかの把握を容易にする。
敵の状況を知る事ができる能力は、この上なく戦を有利にし得るもの。そして神に仕える立場である以上、彼女自身も相当な実力者であろう。
「そこまで警戒しなくてもいいのよぉ?」
更に捕虜から得た情報によると、帝国には
これも強固な支持を確立できる指導者、武勇を誇る将兵、賢才に優れる学者などが得れば、それだけで国家を驚異的な水準に成長させる足掛かりとなる。
聖職者ともなればその神聖性に拍車がかかり、宗教国家としても危険度が高くなるはずだ。
(…………不幸な
だが、黎國の兵たちが向ける感情にもう警戒の色はなく、警戒と言うより哀れみに近いものに変化していた。不老不死と言うのは古来より人類の夢だが、神仙たちは不老不死であったが故に終わりのない不幸に苛まれ、最期は自ら滅びを選んでいった。
恐らく彼女が生きている間に失ったものも、一つや二つではなどではないと思われ、身勝手ながら同情する兵もいる。
「それにしてもぉ、炎龍の
だが、この発言に場が凍り付く。ロゥリィは“片割れ”と言ったが、炎龍は一頭だけではなかったのかと戦慄が走り、一同の心拍数が上がり始める。
そして彼女は続ける。炎龍のうち生き残っている個体は、人為的に休眠状態から目覚めさせられ、
恐らく自衛隊と黎國軍が
「……全く、次から次へと……」
戦争が始まってから、戦争とは余り関わりのない厄介事ばかりが起こるこの状況に、力なく頭を抱える
[2015年 九月下旬 26日\20XX年 9月27日]
帝国人であるリハルドの要望もあり、ロゥリィを連れて協同基地まで帰還した第3偵察隊と東方第二斥候班は、調査報告書と装備品使用記録を提出した後、謹慎と称した束の間の休息に羽を延ばしていた。
なお
「
休暇の昼下がり、
「何だ、
もちろん言われた本人は呆れているが、仕方ないと溜め息を吐いて地べたに座り込み、話を続ける。
「あのリハルド・アウルムって男なんだが、こちら側の客将として正式に解放されるそうだ」
冷静な口調ではあるが、強い疑いの念が込められた気配が
当然信用も信頼もできかねるが、リハルドに関しては意識が戻って
「そこで、
と、ここまで
「復讐と革命だな」
素振りの手をぴたりと止め、友人を見据えるように地べたに座り、はっきりと断言した。
「亡き友の敵討ちと腐りきった祖国の再興のため、と言ったところだろう」
二人の視線が交差する。どうやら意見は同じであったようだ。