カトーが張り切りのセリフを言い切った瞬間と、レレイが盛大なくしゃみをした瞬間は同時だった。テュカは突然響いたくしゃみに思わず体を震わせ、ロゥリィと
しかし彼女は全く気にする様子はなく、まず「大丈夫」とだけ言って制し、次いでアルヌスの方角に目を向けてぼそりと呟く。
「……師匠……ちょっと張り切り過ぎ……」
同乗する者たちには、カトーが何を張り切っているのか、という事に心当たりはない。だが、日本語に央華語、エルフ語、英語を数日で修得できる程に優れた才能を持ち、また未知の知識にも貪欲なレレイの師の事である。
何かしら興味深い研究対象にでも出会い、レレイが戻って来るまでにその研究をより高い段階へ進めようとでもしているのだろう。
(負けてられない……)
と、言葉に出さず奮起する。青は藍より出でて藍より青しという
一方、彼女の決意には気付く素振りも見せず、車内は再び静かになり、響くのはエンジン音のみとなった。
時間は
町民は度重なる野盗の襲来にすっかり
(……私がこの大傷では……皆にも父上にも顔向けが出来ぬ……)
イタリカ防衛側が受けた損害はこれに止まらず、ピニャ自身も左手、それも手首の腱を傷つけられる深手を負い、もはや武器を握る事も出来ない。
包帯で縛られた自分の左腕を力なく見つめ、泥のように眠る部下たちを見やり、溜め息を吐いて椅子から立ち上がって、治療室を出る。自分が何をしているのか、もはや何も分かったものではない。
門から現れた異界の蛮族に一掃され、匪賊と化した諸侯軍の残党の討伐という無謀極まる行為を遂行し、父たる皇帝への孝行とするためだけに遠路遥々親征したは良いが、実戦経験のない頭でっかちの小娘ごときが、いくら武器を持って群れたところで何の役にも立ちはしない。
実際にイタリカに着いてから日が経つ毎に焦燥感に駆られ、自己満足の善意で身勝手に動き回り、ただ周囲に迷惑を振り撒いているだけではないか、と自己嫌悪に
その上で自分と大差ない歳若い二人の少女が、同じ人間の手によってあっさりと命を散らした挙げ句、およそ死者を侮辱しているとしか思えない行為をされている
「あ……殿下……」
いくら帝国に怨みがあるとは言え、死者を
ピニャに声をかけ、すぐに顔を背けた
だが、幼少の頃から長く連れ立った友人が、
(本当に済まない……)
あの様子では、まだ立ち直る事は出来ないであろう。否、今後立ち直る事などあり得ないとさえ錯覚するほど、少女たちの絶望具合は凄まじい。
特にピニャは片腕の怪我が治るまでは、完全に無用の長物と化している。このまま野盗がイタリカに侵入すれば、ミュイを守る事もできないまま犬死にだ。これだけは御免
「あれがイタリカ。まだ俺の義妹がいるはずだ」
第三偵察小隊が見える道に沿い、東に向かってひた走っていると、石煉瓦造りの壁に囲まれた都市が見えて来た。
と、リアクションは各々異なるが、
「ザ・近世ヨーロッパの城って感じだな……」
帝国軍や諸王侯連合軍は火砲らしきものを運用していなかったが、こちらに手の内を悟られないようにするため、
「ところで
「あの
現在
本来であれば即時解雇相当の案件なのだが、これがまた両津勘吉よろしく「軍以外の職業では
それはともかく実は出動前、リハルドの言うイタリカに到着した際に備え、自衛官と黎國兵が担当する役回りを決めなければならなかったのだが、
なので、彼女に任せる務めは何にするべきか、と
「まあ口が上手そうな人だからさ、この際交渉事を押し付けちゃおうよ」
と、このだらけ小隊長はあっさりと即決し、リハルドはミュイに降りかかるであろう苦労を憂いた。