傷痕
およそ六時間後。街を襲う脅威が去り、何とか平穏を取り戻したイタリカの街は、人の往来こそないが大きく動きを見せている。
その帝国兵は死体に慣れている者が多いらしく、黙々と死体を仮設の火葬場に運ぶが、今回参加した自衛官の多くは死体を扱う事に慣れている者が少ないためか、中には嘔吐を
また、テント内で傷の治療を受けている兵たちに交じり、一人だけ全身に包帯を巻き、無線機越しに聞こえる
『分かっているのか
見た事のない道具から聞き慣れない言語で聞こえる説教が耳障りだが、全身刀傷だらけの体を包帯に巻かれたまま何かしらの書類をまとめ、同時に道具に向けて受け答えしているのを見ると余り強い言葉をかけられない。
むしろ邪魔をするのはまずいと直感し、仕方がなく耳をふさいでやり過ごす者もいるようで、
「ねえ、
ふと、やはり帯を緩め戦衣をはだけただらしない格好で、四人の同僚を目の前にして堂々と任務をサボっている
この上なくうざったい声かけに、
「…………何ですか
ドスの利いた一声を耳にしても全く態度を改める様子を見せず、むしろ反応を楽しんでいるかのような表情で彼女を見やると、持っている本で顔を隠し、小馬鹿にした言葉使いで更に問いかける。
「
確かに、今回のイタリカ防衛戦に際し、自衛官三十人中唯一の白兵戦をやってのけた
むしろあれだけの大傷を受けていながら出血量が異常に少なく、さも何もなかったかのように重体の防衛兵二人を抱えて戻って来た時には、余りの衝撃にこちらが失神しかけた程である。
しかも脇腹に刺さったまま折れた槍の穂先を、特に痛がる様子もなく抜き取った時にはもう驚愕を通り越して恐怖さえ覚え、慌てて応急処置をしたのも記憶に新しい。
「詳細なら
ここで本人に聞きに行け、とは言わないのが彼女流である。詳細を知っているとは言え、本当に自分に振られるとは思いもしなかった
方やストレス解消のために上司を生け贄にする自衛官、方や常時怠慢状態で酒浸りのずぼら軍人。
「参議場への出頭命令ですか……また面倒な事を……」
夜間の基地内見回りの途中、自衛隊側の
与野党協議で半ば強引に可決された〈銀座事件〉、及び〈辛丑夷寇〉に端を発する一連の参考人の国会招致。その白羽の矢が立つのは避難民の代表者二名、捕虜の代表者二名、その他現地の代表者一名。
自衛隊からは旧第3偵察隊隊長、現第三偵察小隊隊長補佐である
発狂させるどころか廃人にでもするつもりだろうか。
「
地球では米中露を中心とした大国が、
与党の支持率が下がっている今、政権奪取による方針転換も容易であるため、全くもって頭が痛い。
(
その頃のイタリカでも国会への参考人招致の命令が、他でもない
だが同じ世界に門が開いた事例は一度だけで、その世界こそが大央華の玉京であり、ファルマートの暦で27年前の事だと言う。黎國は実に二度に渡り実害を受けているのに、日本のように参考人招致を為さないのは、自国のみならず世界にまで甚大な損害を与えた日本側、そして帝国側の政治が
「《……
だが、まだ心身が落ち着いていないのに、まるで馬車馬を働かせるかの如く、精神的に不安定な人間たちを自国に呼びつけると言うのは、迷惑千万
また自衛隊側に不利な発言をさせるためなのか、自国内にも大勢いるはずの捕虜まで参考人と呼びだそうとしているのも、目的からもって明け透け極まる。
黎國の将兵は皆、
(どうやら一度、目にもの見せる必要がありそうだ)