(俺は……何を見せられているんだ?)
玉京の防衛のために参陣していた将軍
方や天子、方や高家、要するに貴人と呼ばれる血筋の生まれという共通点はあるものの、天賦の才がある上に毎日毎晩好きな時に鍛練ができる自分とは違い、
ならば、これはなんなのか。
(よもや、
並々ならぬ殺意を剣に纏わせ、素人目で見ても有り余る覇気を全身から放ち、獅子奮迅に敵を蹴散らす様は、まさしく戦乱の世で活躍した武将たちの姿そのもの。
中でも泰皇天帝、ひいてはその末裔である天子一家の生まれである
成年してわずか半年しか歳を重ねていない若者が、暴れに暴れ夷狄を薙ぎ倒す様に、確かに一度は茫然自失となった。だが、今しがた改めて勇猛な姿を見れば、開戦前の熱意が再び血肉を沸き立たせるのが分かる。
(……今は関係ない)
隙ありと見て突撃して来た騎兵が乗る馬の顎を叩き潰し、勢いを殺さず足を一歩前に出し、今度は人間の脳天へと振り下ろす。戦に馴れているのであろう敵兵を、今日初陣したばかりの兵が蹂躙するという荒唐無稽な状況は、もうしばらく続くだろうという自嘲が
「天嗣に続け!夷狄どもを追い返し、力を見せつけてやれ!」
威勢良く
その時、
敵は恐らく陸軍国だが、いかに地上戦に優れていようとも、空から攻撃を受ければひとたまりもないであろう。制空権を奪えば戦況はこちらに傾く、と考えた司令官の判断である。
更に数十騎の竜騎士に続き、多数の兵や怪異が続々と
地上の様相には目もくれず、竜騎士たちは
「《
竜騎士の一人が先行して黎國軍の頭上を越え、本陣の天幕に向けて火炎放射を浴びせかけようとしたその時、天幕と
その直後、天幕とその周囲に
前足には赤黒く染まった肉塊の残り
「《
隊長格の兵が一言呟くと、背に騎兵を乗せた巨大な飛行生物たちは、未知の敵に混乱する竜騎士の群れへ向けて突撃を仕掛け、空中での格闘戦が始まった。
見上げた兵の一人が叫ぶ。「もっと離れろ、建物が壊れる」と。市街地での空中戦は、地上で戦う兵たちにしてみればたまったものではない。翼竜一匹が落ちてくるだけで人間などあっさり潰れる。
建物に落ちれば当然崩れる。何より兵を殺さずとも、建物に火を
敵地の中心部に本陣と前線を繋ぐ通路を設置し、退路の確保と攻城の効率化という重要な戦略を同時に完成させる、極めて効果的な侵攻手段である。
この方法は形こそ違えど発想は同じであり、大央華全土で戦乱が渦巻いていた時代に、[敵地の背後と自陣を地下坑道で繋ぎ、前後から挟撃する]という戦術が用いられたという記録もあるほどだ。
とは言いつつも、今は悠長に戦局を眺め、戦術を練っている場合ではない。うかつに翼竜を墜とせばその死体は味方に降り注ぐ。だが制空権を奪われるわけにはいかない。ならばどうするべきか、しかし敵はそれを考える猶予など与えてはくれない。
戦局が傾くのは時間の問題だった。
(ん?しかし……)
この時、
味方の損害は少なく、
何より、味方の被害を最小限に抑え、憎き夷狄どもに大打撃を与える作戦の元となる挙動は、つい先程味方の龍が見せてくれたのだ。
(賭けてみよう、この老害の浅知恵にな!)
老将軍は一羽の鷹に合図を送るよう幕僚に命じ、自らも大槍を持って陣へと姿を現す。自信満々のその笑みは、かつて守るべきものを奪われた愚鈍な老将のものではなく、天子と仰ぐ真の友を叱咤する忠臣のものであった。
帝国軍による前線構築は失敗し、本陣の兵員も減少しつつある。時間が過ぎるとともに増える敗走報告、開戦から七日足らずで悪化した戦況、何より膨大な人数の戦死者。帝国側の幕僚たちは、己をこのような死地に追いやった皇帝を呪う。
ある伝令から聞けば「翼のないドラゴンが
また別の伝令から聞けば、「火を吹いて追いかけて来る鉄の槍に
もはや、ここアルヌスで戦線を維持できるような兵力は、帝国側には残されていない。最初に開いた
更に幸運な事に現地の蛮族は驚くほど平和ボケしていたらしく、最前線に陣を敷く作業に四日もの猶予ができたのも手伝い、更なる攻撃体勢を整えるのも手間はかからず、第二の
これが今日この日の大損害を、帝国史上最悪の大失態を許す油断を生んだのである。第二の
もはや敵の剣先が本陣に届くのも時間の問題。
「《
ならば、逃げる他に手段はない。一人の幕僚の呟きを耳にした司令官は保身も兼ねて撤退を決断し、直ちに伝令を放つ。
両