日本への出向準備と必要物確認が進められる中、
だがこの頃には互いが互いに向けていた警戒心が解けており、先ほども
食卓の上の食器を片付け、改めて身支度を整え直しながら、同じく出発の準備をする少年を見やる。
(精神の成長が早いのかと思ったが……どうやら見立て違いのようだ)
家族を相手取って話しかける様子を見るに、精神性と感性自体は確かに年齢相応、成人したばかりの少年と言える。数分前まで憤怒と軽蔑に満たされていた彼の目は、本当に怒りのやりどころが見つからなかったために、ただ近くにいる憎い者に感情を向ける事に他ならない。
本当にまだ子供から大人に成りきっておらず、
皇太子ゆえに教養があるとか、精神の成長が同年代の者より早いとか、あるいは特別賢いと言うよりは、周囲の大人の言葉遣いや、立ち居振る舞いを真似しながら成長していった結果、今の人格が形成されたとするべきだろう。
教養と精神性、賢さ、好奇心の強さは常人並みだが、周囲の人間の影響を受けやすく、頑固と呼ぶほどではないが柔軟とも言い
「殿下、間もなく時間です」
やがて、
しかし周りの自衛官や黎國の将たちの服装を見れば、自分たちが着る衣服とは全く異なる事がよく分かる。
対して黎國の将たちが着る服も、先日までの動きやすい戦闘服と鎧ではなく、黒を基調とした珍しい
気になったピニャはさりげなく
「レイ国の皇族たちはなぜあんな格好なのだ?」
藪から棒に問われた
向かう先も目的もバラバラだが、どうせ本質同じなのだから早め早めに伝えた方がよいと判断し、頭に帽子を被る帽子を整えながら返答する。
「
二人はこの答えに一瞬「は?」と思ったが、続けて「自分たちも着替えさせる」と言われさらに頭が真っ白になる。いくら文化が違うと言っても、正装までは変える必要はないと考えていたからだ。
これから交渉、あるいは質疑応答に向かう身としては、ただでさえ面倒な着付けを何度も手直しするのはかなり負担になる。特にピニャは左手首をまだ痛めており、余り動かし過ぎるとまた包帯で固定しなければならなくなり、万一の際は枷になってしまうかも知れない。
こんな事なら到着時点で伝えて欲しかったと心中で愚痴を吐くが、これもただの伝え忘れと言うよりは偏見から来る不信に近いものと思えば、自然に納得できてしまう。
(先が思いやられるな……)
このような調子で和平交渉などできるのだろうか、と無力に天を仰ぐピニャであった。
────門を抜けると、天を衝く柱の群れが広がっていた。日本の兵はそれらを、摩天楼と呼んだ。と、ピニャは記している。銀座一丁目の門の周辺には既にコンクリート製の壁が作られているが、現在はそれらを
と言うのも、もともと建設予定自体はあったのだが、余りにも特地と大使館への取材や外交官の入来要望、さらに妨害行為が多過ぎた事で安定して建設工事を進められなかったため、中途半端な仕上がりなのだとか。
門から離れてドームの門扉の前へと立つとよく見えるが、誰の許しを得ているのか真正面には何百人とマスコミ関係者が
上空にも何かが飛んでいるのが見え、ピニャやテュカたち帝国の人間は初めて見る光景に呆気に取られるが、自衛官や黎國の元帥らは呆れを隠さずに溜め息を吐いた。
「お父様」
いくつかあるプレハブには、全て扉に《黎國大使館》の看板がかけられており、大使館の職員たちの影が小屋の中に見えるが、よく見ればプレハブの周りを囲むように騎獣たちが休んでいる。
これは知らされている事であるため何も言わないが、
「あの……小さなプレハブ?はもしかして……」
日本での礼服に着替えるために私服でここに来た
自前の私服があるため着替えないレレイ、
「まあ、見た目だけでもって事さ」
父が言うのならまあ仕方がない、と苦笑いを浮かべ、一足先に着替え用のプレハブへと向かう。その後
そして、手伝いの自衛官たちの助けを借りながら着替え、プレハブから出て再び列に並ぶ。着替えた後の衣装は全員黒を基調としたスーツ一式であり、
またブラジャー、シャツ、パンツなどの下着と肌着も用意されていたため、こちらは大使館職員らの気遣いらしい。まだ貿易もしていない中、どのようにして日本円を取得し日本で商取引をしたのかと謎はあるものの、今回は気遣いに甘んじる事にした一行。
が、しかし、問題はまだ解決していない。
「《…………
まずはこの迷惑者たちをどうにかする必要がある。目的地である国会議事堂と、首相官邸までの道のりは遠い。事前に昼食を摂っておいてよかったと、改めてそう思った。