最後の参考人として演壇に立つ
鼓膜を破りそうな程静かな議場を見つめつつ、
心なしか質問者席の議員は、少し笑みを浮かべているようにさえ見え、逆に
思えばレレイが異常なだけで、ただでさえ多感な年齢の少年が、このようなストレスに曝される事は、はっきり言って精神的に危険であり、いつ感情が爆発するのか分からない。
本当に間の悪い時期に、大変な事が起こったものだと思う。彼の背中を固唾を呑んで見守るうち、遂に質問者席の野党議員から第一声が放たれる。
「
要するにこの議員は、少年兵の運用はジュネーヴ条約違反であるが、黎國の軍部はこの事実を認識しているのか、と問うているのだ。もちろん黎國は日本との国交開設に併せ、地球側から国際条約、国際法などの文書を取り寄せて翻訳し、内容を朝廷内の機関で共有しており、特に軍事に関わりがあるものは軍の関係者もきちんと把握している。
まだ数え年の慣習が残る黎國と、満年齢が普及している現代の日本とでは、年齢に纏わるあらゆる部分の認識に大きな差異があるのは事実であるし、
だが黎國軍が軍事組織である以上、当然
そのため、実際に戦闘に参加した
「……はい。
言葉にしたくはないが、人を殺した子供を目の前にしていながら、なぜこうも嬉々とした態度を見せる事ができるのか、本当に理解に苦しむ。古傷を
職業軍人を平気で非難する
少年兵の運用に問題がないとは言わないし、責任ある立場、身分の人間が戦場に立ち、武器を取る事を否定するのもそちらの勝手であり、反論する理由もない。
しかし「世界的にほぼ共通の価値観である」というのは地球、それも先進国と呼ばれる国々での話であり、ジュネーヴ条約とやらを批准していないどころか存在する世界そのものが違う黎國に、日本人の価値観で非難されても困るというのが実情だ。
「でも僕は黎國の人間であって、日本国民ではありません。日本の領域外で日本法、ひいては地球の国際法を遵守する義務はないはずです」
この返答に、議員は少し絶句する。16歳という若齢ながら、周囲をよく見ている事が分かる。戦場という逃げなければ死ぬ、戦わなければ殺される状況下で、迷いなく敵を殺す選択ができる判断力も、この周囲の状況を把握する能力の高さゆえ。
最適解や模範解答とまではいかないものの、分かり易く説得力のある例えにはロゥリィらも納得したように
対して、またも出鼻を
「では、こちらをご覧下さい」
字が小さくやや見え
いくらコミュニケーションを円滑にするために日本語の学習をしているとはいえ、前線の将兵の語学学習は話し言葉が中心であり、書き言葉は後方の朝廷の官僚が重点的に学習している。
日本語の文章を読めない可能性をまるで考慮しておらず、言質取りに躍起になっているとしか思えない。いい加減に諦めてくれと思い、また力を込めていた握り拳から力を抜き、手を下げて溜め息を吐く。
しかし、次に吐き出された言葉を聞いた瞬間、カッと両目を見開いた。
(今……あの男、なんて言った?)
全身から滝のように水っぽい汗が
呼吸は更に荒く深くなって口を閉じる事が出来なくなり、また全身を刺すような悪寒とは裏腹に、喉と肺は焼けるような熱さに
ここまでも醜悪な側面ばかりが目立ち、まるで善性や親切心の認められない参議の姿を見てきたが、ここに来ておよそ
プラカードに書かれていた三十以上の文字列は、〈銀座事件〉で帝国軍の兵に殺された被害者のうち、
そして、肝心要の質問の内容は、「少年兵、皇族という立場から、若くして
(こいつふざけてるのか!?)
これは明らかにマスメディアの関係者がするような質問であり、奥の撮影スタッフらの様子を見ればディレクターからアシスタントまで、この議員の理解外の行動によって混乱している事が
(何故……こんな……)
冒涜という言葉以外で、どう表現せよと言うのかと、少年は思考するが直ぐにやめてしまう。自覚できるものだけでも発汗、動悸、頭痛、悪寒、散瞳、過呼吸、胸焼け、そして憤怒。
これら全てが同時に全身を襲ってただでさえ狂いそうなのに、自分の目の前に原因が突っ立っている状況下で、平常心を保てと言われてもまずできる訳がない。