寇討の天子   作:御代川辰

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 〈事件〉の被害者遺族らの心境は、後悔と恥の二つに尽きる。帝国に対する報復論を掲げ、私兵集団となる一歩手前まで規模を広げていた者たちでさえ、(ゆう)熾照(ししょう)の言葉を聴きよく吟味した上で、自らの浅慮な行動を恥じて行動を取り止めている。

 某議員に向けて熾照(ししょう)が言い放った「死んだ人間の名前を()()()()()のために使うな」という言葉は、彼らにはどのように聞こえたのだろうか。ある人物は“こんなこと”という発言を“政治”の事であると考え、別の人物は“同情”を誘う世論誘導を指しているのではないかと考えた。

 さらにまた違う人物は率直に“無意味な事”と(とら)え、各々全く違う解釈のもとに自問する。そして考え抜いた末に、「その人物の名誉を毀損する行為全て」という共通の認識を得るに至るのは、今からもう少し後の事。

 

 東京視察を隠れ蓑にした漫遊に(いそ)しむ黎國軍元帥の一人、(れん)龍煌(りゅうこう)の同行者は三曹倉田(くらた)武雄(たけお)であり、二人の向かった先は帝国軍による略奪の被害に遭い半壊し、復興作業の最中にある国会議事堂付近の博物館だ。

 事件当時は日本中の学校が夏休みで稼ぎ時であり、また同時期にアメリカでの新しい恐竜の化石発見にあやかって恐竜展が開催される予定だったらしいが、運悪く帝国軍の標的になり恐竜の化石等の標本とその資料が(ことごと)く奪われたと言う。

「……むなしいな」

 あらゆる重機が重苦しい音とともに再建している途中の建物を見上げ、龍煌(りゅうこう)はぽつりと呟く。子供たちを楽しませるために準備を進めていた企画をぶち壊しにするのみならず、さらにその企画の目玉である展示品まで盗み出す不敬極まる軍隊が、よりにもよって日本という平和な国に出現するなど誰が予想できるだろうか。

 千歩譲って自分達が享受している平和が壊れる可能性を微塵も考えない人間たちに運命付けられた天誅だとしても、自国の利益ためだけに裏切る同盟国や混乱に追い討ちをかけようとする身内など、この国は過ぎた不条理でがんじがらめな状態であり少し間違えただけで地獄に様変わりしかねない。

 何よりも恐ろしいのは〈事件〉により甚大な被害を受けていながら、いつまた襲い来るとも知れない帝国軍に怯えつつ復興作業を続けなければならない事だろう。

「ああ……悔やまれるよ」

 誰が、と明言しないのは倉田なりの配慮であるに違いない。二人は力無げに少し視線を地面に落として博物館に敬礼すると、ゆっくりと重い足取りでその場を後にした。

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