寇討の天子   作:御代川辰

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注意事項
今回は作者の政治思想が盛り込まれています
露悪的な表現がありますので、閲覧注意


現状

[[20XX年 8月23日]]

 

 場面は変わり地球は日本、東京銀座。周辺には瓦礫が散乱しており、武装した自衛官たちが厳戒体制を取っている。

 事は六日前、突如として銀座一丁目の交差点に出現した〔門〕から、中近世程度の前時代的な武装を纏った軍勢が、ワイバーンやオーク、ゾンビと言った化け物を率いて銀座を襲撃。

 通勤中の都民や外国人旅行者を殺害し、銀座一帯を大混乱に陥れたのである。

「しかし、向こうさんがバカで助かったな」

 巡回中の若い自衛官が、隣を歩く同僚に呟いた。敵が攻勢を続けず、悠長にも自陣の確保を優先し、その間敵軍全体の動きが止まったのはまさしく幸運。

 四日という短いようで長い猶予を得られなければ、敵の排除に丸一週間はかかっていたはずだと溜め息を吐く。

「こっちのお偉いさんもバカだからどっこいどっこいなんだけどな」

 しかし、問題は政府と国会の対応の遅さである。現在〈銀座事件〉と呼ばれる攻撃の初日、都知事の指令で機動隊を出動させたのだが、いかに中世の兵隊が相手と言っても機動力に優れる騎兵の群れや、真上から火を吐いてくるワイバーンが相手では到底勝ち目などなかった。

 機銃の弾丸はワイバーンの鱗を通らず、盾は馬の蹄や騎兵の槍に粉砕され、結果殉職者ばかりを増やす一方であり、日が沈む頃には四千人とも一万人とも知れない犠牲者が出ていた。

「うん……まあ……それもそうか」

 警察組織の力で対処ができなければ、国家の武力に頼る他はない。当然ながら都知事は自衛隊出動を要請し、この件は総理大臣以下内閣閣僚たちの議決を待つのみだったのだが、ここで本当に待ったをかける大馬鹿者がいた。都議会と国会の()()()()()野党議員である。

 東京都民をやたらめったらと殺し回った侵略者が目の前にいて、国民のみならず自分たちの命も危険に曝されていると言うのに、異口同音に「まず交渉で撤退を(うなが)せ」と(のたま)い出したのだ。

 ここで聞く耳を持たずに自衛隊派遣を強行すれば、今度は団体を焚き付けて出動を(さまた)げさせに来る。かと言って馬鹿正直に対応すれば、こちらの話にはまず耳を傾けず、やれ「努力が足りなかった」だの「民意に背いている」だのと駄弁り、さらに犠牲者が増えようととにかく政権を攻撃する。

 特に某野党にとっては、国民が何人死のうと関係ない。要するに現与党の議員、あるいは与党を支持する議員に票を入れる人間が減りさえすればいい。そのチャンスがたまたま、この〈銀座事件〉のタイミングだっただけのこと。

本当(っと)に、政治ってのは面倒だよな」

 この状況を政治に利用しようとは、もはや狂気としか言えない。戦争反対を口実に防衛出動を(さまた)げ、その結果生じた責任は全て政権に押し付けた後、自分たちは心置きなく権力闘争を続けられると踏んでいるのだろう。

 国民の為真面目に政治をする者たちを差し置いて、国を混乱させようと画策するのは頂けないことである。この際最も振り回されるのは、他でもない国民と自衛隊。

「…………俺たちの身にもなってくれっての」

 哀愁を含んだ呟きに、(うなず)くしかなかった。

 

 

 

 陸自二尉伊丹(いたみ)耀司(ようじ)。国土の保全と国民の命を預かる自衛官、とりわけ自身が所属する習志野駐屯地勤務の同僚たちの間では、言わずと知れた世紀の怠け者。かの名作銀河英雄伝説の主人公が一人、ヤン・ウェンリー顔負けの怠惰っぷりは、およそ軍属や公務員には向かない領域に達しており、しかも己の人生すらも怠けるという体たらく。

 結婚後もその自堕落極まる性格や生活実態が原因で、三十路になるまで連れ添った妻に夜逃げされた、と言う噂まで流されているほどだ。

 そして(くだん)の人物は今、国会での質疑応答からやっと解放された所である。

「いやー骨折れるわぁ……」

 世間では〈事件〉当時の行動から“二重橋の英雄”などと持て囃され、某野党の党員連中からは目の敵にされている立場の彼は、ストレスで心身が限界寸前まで追い込まれている。

 人生最大の楽しみである即売会が突然始まった戦争でぶち壊しにされ、おまけに従軍という誰もが絶対に嫌がるであろう危険なお仕事に就かされた事が原因である。

「お勤めお疲れ様です、耀司(ようじ)さん」

 この度の勤務先である銀座一丁目、(ゲート)近くの仮設駐屯地に戻ると、彼に声をかけたのは糸崎(いとさき)知夏(かずな)二尉。彼もまた自衛官として政治家に振り回され、そして伊丹(いたみ)と言う同僚の面倒を見なければならない、余りよろしくない立場の男。

 しかも防衛大学校では同期生で寮でも同室、挙げ句卒業して入隊した後の所属も同じ習志野と、何かと伊丹(いたみ)とは縁が離れない苦労人である。

「聞いてくれよ知夏(かずな)ぁ~」

 伊丹(いたみ)は休憩用の布団に身を放り出すと、淡々と書類を片付ける糸崎(いとさき)に愚痴を喚き始めた。ちなみになぜ制服組の糸崎(いとさき)が、本来背広組の業務である書類仕事に手を着けているのかと言うと、単純に書類の処理作業をするにあたって、現在東京都にいる三佐以上の幹部たちでは人手が足りず、二尉以上の自衛官たちにも白羽の矢が立ったからである。

 当然他人の愚痴など聞いている(いとま)などありはしないのだが、憂さ晴らしに付き合う程度には心的余裕を持って接するのが、彼なりの思いやりである。

「はいはい、ちょうど作業用BGMが欲しかったところなんですよ」

 しかし、彼には暢気(のんき)者の伊丹(いたみ)すら恐れる、とてつもなく危険な一面がある。柔和な童顔を持つこの優男の風貌の裏には、およそ普通の人間とは思えない化け物の姿が隠れているのだ。

 二人が防衛大学校に入学して間もない頃、同期の一人が射撃訓練中に()()()()()()()()の小銃を落としてしまい暴発、その銃弾が糸崎(いとさき)の太ももに命中してしまった、という大事故があった。

 もちろんこの事故を起こした生徒は退学し、糸崎(いとさき)も入学早々長期入院するはめになったわけだが、それ以上に糸崎(いとさき)が取った常識外れの行動は、今でも度々思い出すほどインパクトが強かった。

(……お前……それでいいのか?)

 泣きながら謝る同期には目もくれず、なんと自分で体内に残った銃弾を(えぐ)り出すという凶行に及んだのである。本人は眉一つ動かさなかったが、治療を担当した医師からはかなりきつく絞られたと言う。

 その後も大怪我をしては入退院を繰り返し、防衛大学校を卒業したのは留年ギリギリになってからという有り様。さすがに入隊後しばらくは特に事故に巻き込まれる事なく、普通に訓練をこなしていたが、今回の〈銀座事件〉で再びその能力を目の当たりにする事になるとは夢にも思わなかった。

「まず総理大臣がさ……」

 伊丹(いたみ)の休憩が終わるまで愚痴を聞き流しつつ、自分が任された仕事を進める。地上の惨状など気にしないかのように、ゆっくりと夕日が沈んで行く。

 だが、翌日やってくる未知の客への備えは一切ない。

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