ニッポンの春、それは新生活シーズンの幕開け。
15歳を迎えたボクも華のJKデビューということで、これからの学生生活でのメインステージになる学舎に向けて足を運んで、単身バスに揺られていた。
・・・ん?まてよ、15歳?!
いや、厳密に言えばまだ14、いや13歳だったかもしれない。いいやボクは30歳、どう見てもオトナだ。このバスは人を見た目で判断するんですか?まったく、もー。で、ほんとのところどうなのかって?うーん、よし。ここは間をとって18〜22歳というとこで手を打とう。実際、ついこの間まで大学生やってたし。しかし酒が飲めるか飲めないか、差し詰めその境界線上といったところで、この差は非常に大きなものだな、どうせ飲まないけども。
関係ないけど、韓国の年齢システムはなんかややこしい気がする。いや、ある意味では合理的なんだろうけど、その韓国の友人と話してる時、たまに年齢の話題をしたが最後、そこで話が噛み合わなくて頭がこんがらがる・・・まあいいか。
つまりは世界レベルで目を向けたら、1歳も100歳も誤差みたいなものだ。気にすんなよ、地球さんの48億年の歴史に比べたら、ボクらなんかはまだまだなんだからさ。
さて、右手にご覧いただけますのはバッチリニッコリな満開の桜並木が。やれやれ、このホットな地球の温暖化真っ只中において、今年はしっかりと開花の時期を入学式シーズンに合わせてきたようだな。そんな大変律儀で好感が持てる桜の街路樹を横目に、バスは一路学校前の途につく。案内表示のロードマップを見る限り、どうやら道行はしばらく続きそうだ。
柄にもなく、少し緊張する。このソワソワとした落ち着かない時間も、もう暫く続くのじゃ・・・と考えただけで早くホッと一息つきたい面持ちでお腹いっぱい胸もいっぱい。
しかし、今日から女子高生かー。思い返せばこれまでの人生、色々あったなぁ。ここ近年の出来事だけで壮大なスペクタクル、涙あり笑いあり感動ありの、まるで全米がほにゃららな惹句を引き連れた無駄に風呂敷広げた壮大なるストーリーを紡げそうだが、まあそれはいいか。
そんな事よりも大事なことは今を生きることだと思うの、具体的にはスカート長く注文しすぎたなと、少しだけ後悔している。仕事が早いのは有難いが、仕立て屋も、もう少しだけゆっくりと仕事をしてくれていたらな。そしたらドラマの余韻から醒めて少しだけ冷静な状態に生まれ変わったボクが、その前日にノリだけでオーダーしたアホ注文を全速ダッシュで取り下げに向かったのに。まあ色々準備いていたら入学式当日に合わなくなるから、結果オーライだったんだけど。裾上げしてたら間に合わなかったし。
そう、これで良かったんだと・・・まるで自分に言い聞かせる様に、でもやっぱり暑かったので、ロングスカートのウエストを緩めて、バレない様にベルトから丸め上げる。やはり慣れないことはするものではない。
そういえば、いまの誰も見ていないよな?左右確認、ヨシ。
ついでにマスクも外すか、息苦しくなってきたし。このバッテンマークが、なんか渋くてイイよな、意味はよく分からんけど。
そう、まるで気分はスケバン。ヨーヨーは流石に持ってこれなかったけど、これだけで既に筋金入りのワルと言えるだろう。どうだ、格好良いか?
といっても、そもそも始発駅から乗車して、そう時間が経過していない為か殆ど乗客がおらず、反応は乏しくない様だが。はてさてニッポンの朝は早い。さすがはニューヨークやらボストンの13時間未来に生きる侍ニンジャのお国といったところか。ここでは我々が眠っている間に必殺技仕事人が全てを終わらせていると云ふ。ソレをボクは見届けようってんだから、まあおねむなのだ。ニンジャは本当にいるんだもの、絶対に見つけてやるんだからな!
そんな浮かれポンチなボクのテンションを宥めすかす様に、バスはユラユラしながら前に進んでいく。それはさながらゆりかごの様に、ボクは段々と眠たくなってきていた。
エアサスをぷしゅぷしゅと忙しなく動かして、物言わぬ空気さんをこれでもかとコキ使っているバスさんが反旗を翻されて酢爆発を起こしている、割とワケのわからない夢の中でうつらうつらしてるボクを乗せたその乗り物は、道中のバス停で幾人かの学生や、他の乗客たちを捕まえて段々と肥え太っていった。爆発するまであと何人の生贄が必要?いやいや待て待て、そんなのはボクが許さないぞ、バスにCAN BUS通信してECUを書き換えてやるからな・・・目が覚めた。
どうやらボクが夢の世界で不毛な争いを続けている間に、随分と時間が経っていたらしい。乗り過ごしては、無いみたいだな、ふう。
いつの間にか座る席が無く、乗車している客の中には腰を曲げた爺さんがプルプルと仲間に・・・違うか、立っていたので席を譲る。今日のボクは気分が良い・・・さっき充分眠ったからな。だからってワケでは無いが、座るが良いさ、気に病む必要はないぞ。後席であるが故、車に酔ってしまうかもだが、酔い止め飲むか?なに、礼には及ばんさ。
ふん、他愛無い。スケバンは悪の美学を知っているからな。ご老人を敬おうなんて殊勝な心掛けを持っているわけでは無いが、真のツワモノは場所も構わずうんち座りでメンチを切れるメンタルを持っているものだ。つまり立っているか座ってるかなんてのは些事なことよ・・・大分寝ぼけているな、ヤンキーが捨て犬を拾う美学が、なんだって?まあつまりはそういうことだ。一体どういうことだ?
やれやれ、どうやら眠気覚ましにも立ってみて正解だった訳だ。
ボクはバスの真ん中付近の、椅子置く予算はありませんでしたと言わんばかりに広々とした空白スペースまで足を前へと運び、天井から吊り下がってはいるが届かない役立たずな吊り革を無視して優先座席付近で地に刺し天を貫く棒状の手摺りを掴んだ。したらば、おっと・・・?なんとそこには現代版のヤンキーが座っていただと?!
金髪オールバック、パリッと着こなしたブレザー、脚を組んで傲岸不遜な雰囲気を醸し出して右手側の席に荷物をかまえ、つまり堂々と優先座席のベンチタイプなロングシートを占領し、譲るつもりは一切ありませんと。ええい、周囲も憚らずにルンルン気分で音楽鑑賞中とは、随分と舐めた真似をしてくれたものだ。
いいだろう、キミがそう来るならボクにだって考えがある。何故ならこちとらスケバンスタイルだからだ。既にバックトゥーエイティーズを果たしたこのボクに、はたして現代の規制まみれなルールに縛られて育ったモヤシっ子ヤンキースが、一体どこまで対抗できるかは、見ものだな。
バッテンマスクを装着して早速ボクはそいつにメンチを切った。
ああん?とひたすらガンを飛ばし続ける。ふっ、ビビって何もできない様だな。でもそろそろ疲れてきたから、何かリプ返してくれ。
半ばヤケクソになりながら、自分で始めた物語の終止符をどこで打つべきか、決めあぐねながら毒電波を送信している内に、いつの間にやら何やら当時のディスコでモクを吸いながらパーリーしていたかもしれない老婆が我々のセッションに参加してきていた。つまり、味方?
この好機を活かすべく、婆さんとの二人体制になった基地局から80年代のムーブメントを出力増し増して一方的に送りつけていく。波の重ね合わせの効果により増幅された毒電波のゲインを目一杯あげて、ゆんゆんと圧をかけていると、コレには流石に根を上げた現代版ヤンキーが強がりながら、フッ・・・いいだろう。とか言って、席を立ちショバから離れた。
よし、勝ったな。ボクはそう思った。老婆が何故かお礼を言って、席に座ったが、礼ならむしろこちらが言うべきなのだろう。ボクひとりでは勝負は決まらなかったと思う、やはり年季が違ったか・・・。
勝負に勝って試合に負けたのに、どこか晴れやかな気持ちだな、と。反省会ムードも程々に、ボクは先程の不良生徒にさらなるアクションを仕掛ける。・・・こいつ背が高いな、ガタイも良いし。きっとここらの不良のトップとして君臨していたのかもな、ポテンシャルを感じる。まあそれは良いとして、一流のスケバンはアフターフォローも欠かさない。てなわけで、ほらよ。と声をかけて酔い止め薬を渡した。もしかしたら車酔いで気分が悪かった可能性に今更ながら思い至ったからな・・・まあ、それは無いか。
「いや、遠慮しておくよ、アストロガール。私はいつだってコンディションを万全に整えている。だがしかし、レディーの熱視線や心尽くしには誠心誠意応えさせてもらうのが私の流儀でね。近いうちにディナーへの招待をさせてもらうとするよ。遠慮せずに是非ともエスコートを受けてもらいたいものだね」
それではアデュー、と。言下にバスのドアが開き、はっはっはと上機嫌で入り口側から降りていった・・・なんだあいつ?
残念ながらこの学校に来る生徒は事前に学校からバス会社に始発からの運賃が支払われており、つまりヤツが無賃乗車でしょっ引かれるダサい末路を拝むことは出来なかったのだが。・・・まあいいか。
もちろんボクはバスの乗車マナーを存知している文明人なので、普通に運転席横の降車口から出た。降りた途端に海風が前髪を撫でて、新たなる環境に足を踏み入れたボクたち新入生を熱烈に歓迎してくれている。やっぱり普通にスカート暑いな、コレ。
気付かぬ間に割と体力を使っていたらしく、げっそりとしながらもボクはもう一踏ん張りだと気合を入れて学舎へ足を運ぶのであった。
真島クルミ
本作の主人公。
リコリスリコイルの世界にTS転生したと思い込んでいるアニメ勢。
名前の通りクルミ科クルミ属は広葉樹の名を冠する美少女ロリハッカーこと某ウォールナットの見た目でありながら、ボクはバランサーだとかDAのあの場所に帰りたいです(虚な目)とか嘘ですDA許すまじ‼︎だとか実は電波塔の救世主に救済されたい吉松かもしれないとか、中の人はなんかいろいろ勘違いして日々逞しく生きている。
愉快な思い込みの元凶は幼少の頃からぶち込まれていたホワイトルームにあり、そこでの洗脳的なあれこれで知識がグジャグジャになってしまっている。
え?ウォールナットちゃん実は30歳で絶賛婚活中なのマジ?結婚しよ・・・。
して件の白い部屋についてはその余りに厳し過ぎる教育環境というところで、いち被害者としてはサードリコリスすら難易度高過ぎて死ねると、勘違いと絶望を深めている間になんやかんや悟りを開いてバランス教へ入信し結果テロルに目覚めた。
失敗作として危うく部屋から存在を抹消されようかという瀬戸際に、都合よく施設が故障して外部へとリジェクト。運良く落ち延びることが出来たが、尚トラウマは乗り越えられんかった模様。しろいへやこわい・・・。
出奔後は戸籍の偽造も兼ねて密かに磨いていたハッキング技術やら何やらを駆使したロールプレイに励んだりしている。例えば暗い場所でも自由に動けるように鍛えた聴覚を使ったエコロケーション活用して、犯人の犯沢さんスーツ着込んで施設に潜入してバックドアを仕込んでみたり、兼ねてより妄想を膨らませていた、手塩かけて育てた愛弟子の教育姿勢についてプラトニックな関係の親友と語りあいながらすれ違いになってみたり・・・したかったが、あいにく当時あの場に弟子とも親友とも言えるような存在や暗闇や気軽にアクセスできる情報端末やら諸々足りなかったので上記一切全て妥協した結果、間をとったら何故かロボ太くんみたいな立ち位置になってしまった可哀想な経歴を持つ。
だがしかし其処までしてなお「ちさたき」はおろか他のリコリスはまだしもDAやラジアータすら見つけられず虚無なひと時を過ごしていたら、これどう見てもアラン機関絡みなのでは? とダークウェブ上の書き込みから怪しげな高等学校を発見したので喜び勇んでノリで入校。そこで当時のトラウマの権化みたいな存在、某ホワイトルームの最高傑作君と出会ってしまったのだが・・・。