あ、いくらポイント振り込まれてたか、聞くの忘れてた。せっかく敵情視察に向かったというのに、ほとんど何も得ぬまま帰ってきてしまったことになる。まあボク鉄砲玉だし、ぽぽぽぽぽぽぽ? バカだなぁ、まためくったのか・・・まあいいや。
ボクはまだ入場者数が少なそうな教室にガラッとドア開け侵入して自席についた。まだ入場券は手に入れてないからな。それはともかくとして、入って数歩で席に着席が可能な廊下側、ボクはこの最高効率ともいえる生活動線ってのは好きだな。前のほうの席っていうのもボクは好きだな。物語では窓際後方2番目の位置が主人後席として、やたらと持てはやされているが、いったいあの席のどこが良いのだろうか。キャーのび太さん西日が眩し、まあボクには特に関係ないのでべつにいいや。
席に座る前、お前そんなところにいたのかよって視線が、ユキムラと名乗った眼鏡の方角からまるでUMAを目撃したときのような、大げさ? じゃあ四葉のクローバーぐらいのあまり興味もないけど珍しいなって程度のレベルなパッションを感じたが、残念だがキミの気持ちには応えられない。代わりにボクはそれにグッジョブと中指、じゃなかった、親指を立てて応援で返した。
そうだよ?今からキミは鉄砲玉のユキムラちゃんだ。これから励むんだぞ、じゃ、そういうことで。グッドラック、幸運と健闘を祈る。
歩き疲れたボクはそのままグデーと机の上で伸びをする。上体を横たえて天板の無情な冷たさを頬に感じながらぐうたらモードだ。幸いまだ十数分ぐらいは時間があるだろう。ダラダラと考察をまとめるにはうってつけの時間だ。
先ほどうっかり聞き取り調査するのを忘れてしまったせいで大した成果が得られていないが、まあ多分ホナミとかいう朝ドラ主人公はここでも主役に抜擢されるような存在だろうな。よってBのスケの番長はアイツで決まりだな。それでAクラスに関しても、やっちゃえバーサーカー、まあこんな感じで。どこか憎めない生意気なポンコツ姫様をサポートするやれやれ執事的なサムシングを感じてるんだよなぁ。Cクラスは・・・あのメガネくんってことでいいか。ボクのサイドエフェクトがそう言って、はい。
しかしクラス別の待遇差は目に見える形では確認できなかったな。どうせならAクラスは無駄に彫金が施されてゴテゴテとした実用性に欠ける調度品とか、丸テーブルにテーブルクロスで書き取りしづらかったりとか、照明はシャンデリアで事務作業における照度基準を下回ってくれていたりとか、こぼしたら大惨事必至なモーニングコーヒーが強制的にサーブされてくるとか、見栄えを重視して制服はタキシードにドレスの組み合わせであるとか、コルセットまかなきゃとか、地味に我慢を強いられるようなハンデでもあるのかと思っていたよ。パワーバランス的に。
ちなみにクラスの位置取りは普通にABCDの順だっだ。だったらなんだという話だが、DとAを並べて、はい。
今のところこの程度かなぁ。しいて言うなら、帰りにBクラス、Cクラスと通ってきたが、ボチボチ出席してきていたな。Aクラスは時差でもあったのか、既に着席までしていたし。フレックスタイム制度とは先進的じゃないか。
Bクラスは、社交性高そうな、どいつもこいつもぽやぽやした雰囲気してたな。みんなでゴールしようね、そんなノリが感じられる。マラソン大会、最初は並走してくれてたのになぁ、いつのまにかいなくなり、最後は早々と、颯爽と、無慈悲に先にゴールしてる・・・。ガンバレー応援してるよー、そんな感じ。これがマラソン大会のバランスを狂わせてる奴らか、おもしろくない。不適切な表現だが、所謂ゆとり?円周率は3で習ったんでしょう?・・・って、舐めんなよ、3.14までなら求めることだって、出来らぁ! え!!同じ値段でステーキを?!まあいいか。
Cは座ってる生徒が多かったが、寝てるやつが多かったな。なんかピリピリした雰囲気を感じた。
Dクラスはその中間?でもまだ全然人来ないから何とも言えんな。着席率悪し。やはりポイント格差についての情報収集を怠ってしまったのが痛いが、未だ話題にもなっていないところを鑑みれば、その線も薄いかもしれないな。さすがにまだ誰もボク以外で他クラスとコミュニケーションとったことがないってことは無いだろうし、ボクの場合は唯の鉄砲玉だし、たぶんホナミならもう既に他クラスの知り合いぐらいは作って一緒に買い物とかの話題でポイントの情報共有を済ませているだろう。
よって今のところは各付けチェック的に見ればまだ全クラス、全員一流ポジションということでいいだろう。これからどれだけ転落するか、見ものだな。あとは不穏な教育カリキュラムの詳細が分かればそれでよしか。
さて、今日も朝から体力使ったせいで既に残りのエネルギーゲージがエンプティーゾーンに突入したためスリープモードに入るか、ほげー。
それからボクは壮大な宇宙の光景に思いをはせながら時を過ごした。新しい惑星を生み出す、その好奇心に駆られて、人類はどれだけの時間をそのサンドボックス内で費やしただろうか。今日はうんちを光の速さで地球にぶつけてみたいと思います。たったそれだけで尊い命がどれほど失われてしまったというのか。人間の好奇心というのはまるでブラックホールのようなものだな、底が知れない。びっくりするほどユートピ、まあいいや。
まるで宇宙の真理にたどり着いてしまったネコやハムスターの光景を頭に思い浮かべなながら時を過ごしていると、いつの間にか始業のチャイムが鳴り止んでいたようだった。それにも気づかずバトル開幕から既に瀕死状態なほのおワニポケモンのようなツラして口からエクトプラズムを放出していたら、後ろの席の人に背中をつんつんされ、それでようやく状況を理解し、それから長らくのアップデートを終え再起動を果たしたデスクトップPCのように緩慢な動きで立ち上がるボク。さながらver2に新しく生まれ変わったような気分だ・・・どういう気分だ?
それはさておき、気をつけー、からの礼、と号令が入った直後、ガラリとドアが開く。
― すみませーん、遅れました。
おおっと、ボクより遅いノロマを発見。よし、問答無用で死刑にはならないみたいだな。でかしたぞ、ドローン1号。
「遅いぞ、席につけ・・・よしついたな。
それではこれよりホームルームの時間だ。なお本日は入学2日目ということもあり、ショートホームルームはこのまま一限目を跨いで行いたいと思う。
それでは簡単にこれからの教育課程、年間の行事や行動計画などについてだな、ほかに時間割などの説明を行う。資料を配るから受け取った前の席の人は後ろに回してくれ。もし足りなかった場合は別途挙手などをして言ってくれ」
そうして、ボクが危惧していたような事態にはならず、何事もなくホームルームの時間が始まった。
考えすぎだったか・・・?そうであればよかったのだが、貰った資料には遠足やら野球部の応援やらマラソン大会だのの、ボク的にはテンションがダダ下がるイベントごとが一切書かれていなかった。これは、それはそれで喜んでも、果たしていいものなのだろうか?
併せて教科書なども配布されたが、世界史A?まあいいか、そのあたりの事情はよく分からんしな。選択科目とかは、ないのか?やっぱり既に科目ごとで勝手に割り振られており、とするならこのクラスは・・・まあどうでもいいか。美術とかでいいんじゃないか?でも人気がない工芸グループに行ってバランスを取りたいような気もする。
ある程度説明することが終わったのか、なんとなくお開きムードが近づいてきているのを生徒も察しているのか、だんだんと和気あいあいとした雰囲気でホームルームを終えようとしていた。
「・・・と、大体以上が今後の本校における授業方針となる。まず君たちは新しい環境に、この学校の生活環境に早いうちに慣れ親しんで、今後の中間テストに向けて各々学習に励んでくれ。また明日は部活動発表を行うため、5限目が終了したのち希望する生徒は放送に従い体育館に集合してくれ。部活動に対する説明は基本的にそこで行われるので、その時にわからないことがあった場合は以後質問を受け付ける。
よし、では部活動について以外のことで、ここまでの説明で何かわからない事があった生徒は挙手をするように。残り時間のあいだは質問を受け付けよう、無ければ自習の時間とさせてもらう」
・・・誰も質問をする気配がない、ある意味緊迫した雰囲気を感じる。
そんな中、率先してこの場の空気を制さんとしてか、一人の男子生徒が手を挙げた。
「平田か、どんな質問だ?」
「はい。学校の教科書や、例えば体操服とか予備も含めた学校指定の制服が洗濯中などで使用できなくなった場合、学校は貸し出しをしてくれているのでしょうか?ほかにも追加で一着欲しいときは、どこかで販売しているのでしょうか?」
なにやら自分モテます、って雰囲気を醸し出しながら一人の男子生徒がそう質問する。でも押しに弱そうな、何処か頼りない雰囲気を感じるな。女装をしても奥ゆかしい薄命美人として裏方で苦労してそう。スケの番長としてはいささか以上に適正ゼロだな。
このほかにも、制服やそれ以外の服装の自由についてとか、休みの過ごし方とか、資料に書いてありそうな内容ばかり飛び交い、チャバシラ先生も一言で返答を返す。そんな空気もいったん落ち着いて、残り10分前ぐらいになった。今更自習をするのもなぁと、先生の好みだのを訪ねて生徒たちは時間稼ぎを図る始末。
さーて、ボクはどうしようか?どうやら授業を受ける権利は買わなくてもよさそうだが、今後は質問権とか、その時間自体をポイントで購入しないといけないとかありそうだしな。キャラじゃないけど、せっかくだし気になったことはこの際聞いておくべきか。
そうしてボクは手を挙げ、質問に入った。
「ん?お前は確か・・・ああ、すまない。真島だったな。質問を聞こう」
USAから来ました真島です。御校の定める年間の行事計画についてお尋ねします。先ほどの説明の中で遠足等の校外学習に関する予定については特に触れられませんでしたが、例えばインターンシップや社会科見学などの、ニッポンでは割と一般的に行われていると聞き及んでいた行事ごとについては、今後行われる予定がなく、先ほどの行動計画が今後の予定のすべてと考えて相違ないのでしょうか?
先ほどまで誰も意義のある質問を投げかけない状況だった為か、イマイチやる気を感じさせない応答をしていたチャバシラ。彼女はようやく終わるかと思われた無駄な質疑の時間において、おそらく最後の挑戦者となるであろうボクの存在をそこに認めると、発言を許可した。しかしその内容が比較的に中身のあるものと判断すると、先ほどの気だるげな表情を取り繕うかのように口を開いた。
「・・・ほう?それはつまり、オリエンテーションなどの計画について、という問い合わせだな? 申し訳ないが今はその質問に対して答えることができない。その理由についても後日、改めて説明の場が設けられるので、今しばらくは先の内容の通りに今後の授業は行われるとだけ答えておこう」
なるほど。では続けてもう一点確認させていただきたいのですが、昨日の説明では原則として校外、この学校が有する敷地の外への出入りが禁止されていると話を伺いましたが、例えば保釈金の様なシステムとして身柄を自由にする制度、差し詰め入場券ならぬ退場権のようなチケットは、一体何ポイントで購入可能なのでしょうか?また保釈請求の理由として、仮にペットのタマの出産予定とか、あるいは肉親の危篤であれば許可の為の条件を満たす要件たり得るのか、ご回答下さい。
この質問に対して、茶柱は毒気を抜かれたかの様な、意外そうな、あっけらかんとした表情を浮かべた後、何やら面白いものを見つけたかの様な喜色の笑みと、ほっこりしたかの様な、生温かい視線を向けてこう切り返して来た。
「学校の敷地外へのアクセスは、先日説明した通りだ。答えは、許可なく外出をする事が出来ない、これが先の質問に対する回答となる。流石に親族の葬儀に出席ともなれば、その時は本人の希望を学校側は最大限尊重する。が、しかし我が校へ入学する際の重要事項確認書に記載があった通り、機密保持の観点から、そうだな…この場合なら最低一名は学校関係者が葬儀の参列者として同席する。それが許可の為の条件となるだろう。
許可出来ないケースとしては、恐らく想像の通りだ。残念ながら日本の現行法上でペットについては特別休暇を認めていない。よって本校もそれに倣い、先の例で言うと猫の出産への立ち会いは外出を許可する為の要件になり得ない」
そこで茶柱は息を継ぐように言葉を切り、そして生暖かい目を向けて、ともすれば母が子供をあやすかの様な慈しみのような目でボクの方を見つめながら、言い聞かせる様にこう続けた。
「これらのケースと同様に、全ての要求を法的な見地でのみ判断するという訳ではないが、仮に長期休み期間中、例えば親戚や家族と一緒に過ごしたい。その様な要件で外出を申請したとしても、許可は降りないだろうな。この事は入学前に署名をしてもらった同意書にも太字の注記として書かれていた内容であり、また学校案内や中学の担任からも説明がされており、君たちはその事を理解した上で本校に入学を希望し、そして現在この教室にいる筈だ。
申し訳ないがたとえホームシックを患って駄々を捏ねられたとしても学校はその生徒を家に帰すような、甘やかすような対応は一切しない。
だが安心しろ、既に昨日見て回った生徒も大勢いることだろうが、我が校には充実した施設が併設されており、例えばカラオケやシアタールーム、カフェ、ブティックなどの多種多様なアクティビティが用意されている。これらの施設があれば諸君ら生徒のおおよそ殆どの欲求は十分に満たされる筈だ。テーマパークに来たつもりで休み間も思いのまま存分に過ごすといいだろう」
そんな茶柱の発言に同意の意を示すかの様に、あるいは教員の醸し出す軽やかな態度に当てられたか。気がつけば教室内の弛緩し切った空気を受けた生徒たちは銘銘、思い思いに発言を繰り出していた。
― ゴールデンウィーク中に全部まわり切れるかな? 10万ポイントなんてすぐ使い切っちゃいそう。
― 休み前は節約して貯めとけば余裕でしょ。
― そもそも別に、誰が家に帰りたいかよ。俺らもう高校生だぜ、門限とか煩い親もいないし、夜も遊び放題とか最高だよな。
― だよねー。
― ぷっ、おうち帰れますか?とか、おこちゃまかよ。
ざわざわと和やかな雰囲気で軽口を叩き合う、そんな中から、明らかにボクの方に向けて発言したであろう男子の声がハッキリと聞こえた。まるでその人がこの場の代表で代議人であったかの様に、この時だけはその発言がスッと遠くまで届く様に、誰もが彼の発言を遮らない様静かにしていた。
― ちょっとぉ、止めなよー。他にも帰りたいって人、いるかもしんないじゃん。
― はぁ、むしろ帰れない方が良くね?俺ら大人なんで、ちゃんとルール守って家には帰らずに仕方なく夜遊んでまーす。なんか背伸びして紛れ込んでる小学生と違って。うぇーい。
カチーン、ボクは怒った。ソレが入ったばかりで、まだろくすっぽ顔も名前も席の場所すら覚えてない教室の中であったとしても、随分と悪目立ちをして存在感を放っていた生徒の顔ぐらいは嫌でも覚えている。そして案の定、そのうちの誰かの声だったよなって認識ぐらいはあるんだよなぁ。
― でも正直、今年の夏は絶対盛り上がっちゃうだろこんなの。アレだけお店があって、遊ばないヤツおる?いねぇよなぁー。
― うぇーい、今日誰か一緒にカラオケ行かね?
― さんせー!
そう、こんな秩序が失われた教室の中であっても特定は容易なのだ。ボクは耳がいいのでね、目を向けるまでもなく方向と声質から後から幾らでも座席を見て同定・・・これを見なさい、石ころポイってあっち向いてホイ、耳がいいね、斧でザックリ、19時7分、12th平坂黄泉は死亡する・・・昇天、合掌、まあよくない。明日は我が身か、気を付けよう、でも聴いちゃう。さてさて、へー。ヤマウチくんって言うんだ、態々自己を紹介どうも。わざわざ調べる手間が省けたよ。後でポイントバトルしような、丁度カートリッジを用意しておきたかったんだよ。お前は白笛になる素質が・・・プルシュカぁ、まあそれはいいか。
くどい様だが、ぼくはおこった。ハーウィンオラム作ときたむらさとし絵の学童書の様に、えも言われぬ怒りに身をやつしたボクは、怒髪天を衝きそうな苛立ちを隠せぬまま、この場ではするつもりのなかった踏み込んだ質問まで思いっきりブン投げ飛ばしてしまった。
「やいやい、チャバシラサエよ。先ほどからあなたは質問に答える気があるのかないのか、痒いところにもう少しで手が届きそうだと思ったらいつも答えをはぐらかしてくれる。まともに応対するつもりはないのか?よもや0が1かの二元論であっても、でもギリシャやイタリアでは首を縦に振るジェスチャーは否定を意味しているから…みたいな論調で説明逃れをするつもりではないだろうな?しっかりしてくれよ。
では最後の質問だ。今後の進路の優先交渉権を賭けて、「― ちょっと待ってくれ」・・・なんだ?話はまだ終わっていないぞ」
サエは何やらうっかり手が滑ったかのような、まるで毛先の手入れをしていたら想定していなかった長さまでうっかり前髪を切り落としてしまったかのような、そんな焦りを僅かに浮かばせながらボクの質問に割り込んできた。
「すまない。少し質問の意味するところが伝わらなかった。
それは進路に対する相談のようなものか?
できれば個人的な内容は改めて進路指導室で個別に対応したいのだが」
「いいや、違うが? なぜか途中で話の腰を折られてしまったので、今のでもう一つ質問が増えてしまったが、まあいい。都合が悪いということであれば、質問を変えようか。今後確実に行われるものと既に断定しているポイントバトルについて・・・なんだ、これもダメなのか? やはり目は口ほどにものを言うものだな。質問に対する満足な回答が得られない、そんな結果の見え透いた問答にボクは興じるつもりはないのだが。まさか出題者も答えを知らないので正答を返せない、そんな馬鹿げたナゾナゾに我々は挑戦させられているわけではないだろうな?」
おい、何とか言ったらどうなんだ?まさかその物調面ともとれる真顔がキミなりの閉心術というわけではないだろう?悪いがボクは魔法使いではないので開心術は使えないんだ。あれだけ先ほどまで面白そうなオモチャを見つけたかのような純真無垢な子供のような好奇心をのぞかせていたのに、都合が悪くなったらそれか。これはキミが始めた物語だろう?その隠そうともしない加虐心は、なるほどまるでスリザリン生のようだが、ボクごときに色々と内心を見透かされているようではかの偉大なスネイプ先生のような、まあいいや。
言っておくがボクも好きでこんな質問攻めをしているわけではないんだ。今後の身の振りを考えても他の生徒が大勢いるような場の中で、この学校のシステムを詳らかにしていったところで、仮にそれがこの場だけの話に留まれば、まだフォローが効くものであろうが、今この段階でこの話がクラス外部まで広がったのであれば、もう絶対に今後の予定に差し支えるではないか、そちらとしても困るだろう?つまりこれはそういう話だ。
・・・? なんの話だっけ??
もういい次の質問だ、学内であればポイントで買えないものはない、学外活動をするためには許可が必要。やや強引な解釈ではあるがつまり外界の事情、この校内に無い外の環境そのものを買う様な判定になり、よって外出する権利はポイントシステムで販売していないものという理解をした。であるならば、先ほど公開されなかった教育カリキュラムの中に、例えば必修として遠足が設定されていた場合、我々生徒はどのような口八丁手八丁を並べ立ててでも学外に足を運ぶ権利を学校側からだまし取らなければならない、そのようなダブルスタンダードがまかり通っていないかを非常に危惧しているのだが、それはないものと考えて大丈夫なのか? うむ・・・またダンマリか。
遠足のオヤツは300ポイント迄なのか、バナナはおやつに入るのか、入らないのか。今後の予定次第では大量のバナナを主食扱いで持ち込んで足りないデザートを食い繋ぐ様な過酷な遠足が、果たして待ち構えているのかいないのか、この可能性を学校は否定してくれないのかよ。
チャバシラは黙して語らず、か。沈黙は金なりとはよく言うが、やはり公明正大を信条としていると思っている奴らに限って後ろ暗い所を隠しているのは、もはや世の中の定めなのかもな。
だからこそ、バランスを取らなくっちゃなぁ!
もはや水を打ったような静けさ漂う教室の中で、一人べらべら口を回す。
やれ先ほど後回しにされてしまった行事ごとの教育課程、その説明や資料を、これらを購入するために必要なポイント額はお幾らなのだとか。
やれ今すぐ卒業するために必要なポイントがお幾らかかるのかとか、逆に留年には幾ら必要なのかとか。
授業を受けるのに必要なポイントは幾らで、逆に望まぬ授業を受けないために必要となるポイント額は幾らなのか。今すぐ退学になって自由を手にする権利は幾らで、逆に退学を取り消して居座り続けるのに必要な額は幾らなのか。答える気がないのか?ふむふむ、そういやクラス替えをする権利も買えるという可能性を見落としていたな、で幾らだ?逆にクラスを変えないために必要な額は幾らだ。お、少しはいい顔をしてくれるようになったじゃないか。では担任をクビにするチケットはポイント販売されているのかいないのか、幾らで購入出来るのか逆に担任になる為に必要なポイントは幾ら必要なのか、修学旅行へ出かける為に必要なポイントは幾らで、行かせないためのポイントは幾らなのか。ポイントをポイントで買う権利は幾らで買わないと言うか支給させないというか振り込ませない為の権利は幾らかかるのか、借りるには幾らで借りないようにさせるは幾らなのか、そろそろ幾らがゲシュタルト崩壊を起こして鮭漁のシーズンまでいくらちゃんの名前を連呼するだけのロボットと化してしまいそうだ、昨晩のご飯は何を作ったんだ? ちゃんと日本の和食ということでサケの切り身を食べてきたのだろうな。今朝は何を食べて家を出たのか、まさか昨日の残り物じゃないだろうなぁ? それなら栄養バランスを取らなくっちゃなぁ! あとペットのタマは猫じゃなくてリスなんですけど、どーしてそんなに軽率に決めつけたんですか!?
教室はしーんと静まり返っている。ここまで言っても誰も何も返してはくれなかった。
ボクは内心さめざめと涙をちょちょぎらせていた。最後のほうは笑うところだったろ、なんか滑ったみたいじゃないか。やっぱり柄にもないことはするものじゃないなぁ。でもバランスの追求からは逃れられなかったよ・・・。
ちょっと寂しい。そんな内心を取り繕いながらも、ふむ・・・と顎に手を当て考えるジェスチャーで場をつないでいたら、そしたらなんと教室の中央付近から静かにクツクツとした笑い声が聞こえてきたではないか。
なーんだ、やっぱりウケてたんじゃないか。そう思い、ここで初めて振り返るように回れ左して教室の中央付近、笑いのするほうへ体ごと向きを変えると、したらばなんと!そこには昨日バスで見た金髪オールバックの例の不良が。ブルータスお前もか・・・ちがう?まあいいや。
うーん、今日もホステスのように制服をパリッと着こなしている。なにかの美学を、趣のようなものを感じる。
「ふふっ、なるほどそう考えたのか。君が何を言わんとしているのか、私は概ね理解したよ、アストロガール。
私は先ほどまで、この学校が仕掛けてきた謎解きの答えが、たとえそれがどのような内容であったとしても、いずれにしても考慮するに値しない瑣末な代物であると、一顧だにしないものと判断していた。だが、しかしそれはそれで、可能性は置くにしてもなかなか興味深い話ではないか。よもや子供騙しの知恵比べかと思いきや、その実本当に…まあここから先は口にするだけナンセンスな話だがねぇ。
なぜならこの私に対してもそのようなふざけた対応で事に当たるというなら、それはあまりにも命知らずで向こう見ずな、ともすれば身の破滅を招きかねない非常に危険で愚かな選択であると言わざるを得ないからねぇ。だが現状、その反証に必要な材料をあいにく私は持ち合わせていないようだ。あまり美しくないロジックだが、可能性の一つとして今後の参考とさせてもらうとするよ」
そういったきり、何を思ったか知らないが徐にポケットの中から爪やすりを取り出したらしく、手の甲とにらめっこしながら自分の世界に入っていったようだ。
やはり現代ホストヤンキーは見た目がよっぽど大事なのか、常日頃から己の身だしなみが気になって仕方がないらしい。そしてその様子を唖然と見つめる一同。わかるよ、なんとなくだけど。ボクが思うに彼はどちらかといえば異性に向けてアピールをするよりも同性に対してアプローチを仕掛けたほうが映える気がする、なんか違うんだよな。今度一緒にネイルアート行ってみない? 大丈夫、不安なのは最初のうちだけさ。そのうち自分からサロンに通いたくなるほど、ハマるって絶対。
ちょうど切りよく、キンコーンとチャイムがなり、ホームルームはお開きとなった。
結果としてボクの質問の一切はうやむやとなり結局謎は解けなかったわけだが、まあ今度個別に進路相談という形で問い詰めてみるか。
幸いほかの生徒は、変な人が変なこと言って変な空気で終わった、みたいな感じの総括を述べて先ほどの謎な空気を払拭するかのように、各々が既に見つけた気の合う生徒同士で歓談を広げていた。
あそこまで言っておいてなんだが、別にボクも自分の考察に確信をもって述べているわけではないので、ただそうだったら面白いなって、言うだけならタダだしな。実行性に乏しい内容ではあるので、実際のところ正答率は30%ぐらいの内容なのだろうなと思いながら、そこで思考を打ち切り、次の授業の準備を始めた。どうやら授業は普通に受けさせてもらえるらしいからね、ハンター試験みたいに崖から飛び降りさせられる必修科目の可能性が今度は捨てられないけども。
とりあえず、後はお昼休みまで適当に気張っていこうか。
ボクは先ほど配られた教科書をパラパラめくりながら、次の授業に備えるのであった。