午前の授業が終わり昼休みに突入した。
お腹ぐーぐー。ボクは午前中、殆どハンガーノックでダウンしていた。だって昨日の朝食以降いままで何も食べてなかったからな。何故ならこの学校から提供される食材だの、料理だのを食べたが最後、そこに盛られていた睡眠薬で眠らされて、目が覚めたら…身体が縮ん・・・ん? 何か言いたいことでも?? 当ててやろうか?誰かにスイートロールを盗まれ、まあいいか。
この他にもまだコレが大規模なサクラを動員したガンダム鹵獲作戦、壮大なフラッシュモブ的演出で、いずれ時が来れば舞台裏から、ノートで人が死ぬわけ無いじゃん、ドッキリ大成功とか仕掛け人が現れたり、あるいはお前は既に捕まっている、みたいなオチの可能性をボクは捨てきれていないのだ。そんな餌でこのボクが釣られクマー。
とまあ、用心するに越したことはない。最悪、今日の食事はそこらの海洋から魚でも捕まえて串焼きでも用意しようかと妄想を膨らませていたが、ボクにそんなサバイバルスキルがあるとでも?第一、リアルに日が暮れてしまいそうな試みだしな。
釣りといえば、そういや漁業権って売ってるのかな?買わないとゲームオーバー? そしてよく考えたら仮に釣れてもドラム缶やらホオジロザメだったりあるいはエスパーでイトウなゾンビの可能性が、無いかなぁ、流石に。水に落ちたら泳ぐこともままならず問答無用でHPがゼロになるのはゲームのお約束だが、もしかして圏外に出たらスマホが爆発したり?そうでなくとも外出た瞬間ポイントが終わったわってなりそう。そして地下労働行きへ・・・ガクガクぶるぶる。やっぱり命脈たるポイントは大事だなぁ。
でももう無理、お腹ペコペコにつき、そんなのかんけーねーとゴハンいっぱい食べちゃうもんね。Ocean pacific peace! ランボさんは無敵だから死なないよ? さーて、栄養の、バランスを取らなくっちゃなぁ!
つまりメシだなメシめし。見てわからんか?メシだ。ささ、行きますよ、三名でお待ちのフリーザ様、ザーボンさん、ドドリアさん。スケさん、カクさん、まあいいや。
半ば吸い寄せられる様に、殆ど何も考えぬままパンフレットの案内に従い学生食堂へと足を運ぶ。ボクたちにとっての開店初日とあってか、食堂は次々やってくる人でごった返している。新入生は学校二日目なので、まだ自炊してる猛者はいないんだろうなぁ。あっちもこっちも目に映るのは真新しい制服に身を包んだピカピカの一年生。ボクと同じく腹を空かせた金蔓たちが欺瞞に満ちたポイントサービスに供物を捧げ、この学校では本来赦されていない食事をとるという行為を、いまから犯してしまうその罪への免罪を求めているかのような有様だ。全く、どこもかしこも、獣ばかりだ・・・キサマもどうせ、そうなるのだろう?
ボクのスタミナはとっくの昔に底をついてしまっている。故にスリープモードで電池の消耗を抑えるかのように思考回路を停止させた結果、まるでゾンビの様にぎこちない動きで券売機に注文入れて、したらば後はもうひたすら食券片手に列に並んで配膳されるメシを受け取る順番を待つばかりよ。
いつもなら周囲の非常識な方々から寄せられる不快な視線の数々にも丁寧に文句を付けてお返しているところだが、ボクは既にまな板の上の鯉のようになって、まるで階段の中腹で手摺り相手にペチペチ斧を振り回す事しか考えられなくなった神父が火炎瓶投げつけられてローストされていくかの様に、サンドバッグ状態と化していた。つまりは死体蹴りする程度の知能しか持ち合わせていないアホの相手をしている気力はないので悪いが遊んであげられないのだよ、ごめんな。
「ふむ…残念だが、どうやらここの施設には、この私を満足させ得るメニューの取り揃えはされていないようだ。いささか物足りないが、まあ今日のところはこの感情も享受するに吝かでない気分だねぇ。何せ気分がいい、はっはっはっ!」
それもこれも全部この男の仕業であることは想像に難くない。さてはキミ、フリーザ様かな?まあいいや。奇しくも新旧2台巨頭という感じで、現代版ホステスヤンキーと80年代懐かしのスケ番が二人で共演している舞台はこちらです。チケットは売ってませんが投げ銭は募集中ですのでチップ頂戴。しかしボクはせいぜい助演といった立ち位置か。まあボクは女番長スタイルではあるのだが、まだコスプレの域を飛び出せてはいないからな。何せこの道を歩み始めて数日程度、さすがにそこにいる既にベテランなホストヤンキーには劣るのであろう。しかし、傍から見れば不良の集まりであり、それはまあ鬱陶しい衆目を集めてしまうわけだ。おっとまた本音が。つまりやっぱりその原因のほとんどはこの男にあり、まあ迷惑でもある。
しかし、よもや一緒についてきて、そしてあろうことにスペシャル定食を注文だと?なにがどのようにスペシャルなのかボク、気になります。
頼んだ注文のトレーをプルプルと両手で振るわせながら持ち上げようとしたら、その横からひょいっと片手で搔っ攫って勝手に近くの席へ運んで行ってしまうベテランホスト。へー、紳士的じゃないの。別にボクは楽ができればそれはそれで、ここでムキになって取り合いになり、トレーを取り落として大惨事。そこでけんか別れをして…ってのがラブコメの相場なのだろうが、その様なセンチメンタルな繊細さは、あいにく持ち合わせていないのでね。したらば手下候補1号よ、エスコートよろしく。
といっても、まあ近くの席にトレーをおいて、あとは腰を下ろして一緒に食事をするだけなのだが。入学も二日目から大して親しくない男子生徒と一緒に食事をしている、割と奇妙な縁だなこれは。
興味本位でホストが箸でどう料理を口に運ぶのかを観察してみたが、割と普通だった。まあ高級和膳というわけでもあるまいのに、仰々しく食事をされてはそれはそれで滑稽で、だからこそセクシーさを追求してくれるかと思ったのだが、まあいいか。しかし、スペシャル定食はアンバランスだな。フライにフライにフライ、ハンバーグといった脳みそ筋肉みたいな取り揃えだな、トマトとかカボチャとか、野菜のラインナップをもう少し増やさなきゃ名前負けだろう、バランス的に。
まあいいや。さてと、ボクが本日注文したメニューはこちら、ドドンと。じゃーん、海鮮賑わい丼セット。締めて1880ポイントの、割と強気なお値段?どうだろう、割と普通。想定していたようなボッタクリでもないし、かといって取り立てサービス価格という訳でもなさそう? あとご飯少なめで頼んだから海の幸がすごくボリューミーに見えるけども、まあこの値段なら相応? まあいいや、イタダキマス。
うーん、久々の生魚って感じだな。醤油とマグロの組み合わせが犯罪的だなぁ、ボクはやっぱ魚好きだな。鯛とかハマチとかの、まあいいや。何も考えず本能の赴くまま魚を味わおう。
もぐもぐもぐ、もぐもぐ、ゴクン。
むしゃむしゃ、コクコク、ぷはぁ。
もはや言葉を重ねる意味は無なかろう、美味であった。ゴチソーサマ。ちょっと調子に乗って食べすぎちゃったかも、反省。
人心地ついたところでまったり休憩タイムに入るか。ちなみにいつの間にか不良ホストは姿を消していた。互いにポイントシステムや学校教育方針に対する懸念を浮かばせたが、あれだけ喧嘩売って、えっじゃあ節約生活はどうしたんだって、なんて。この光景をチャバシラあたりが見たらそう思うかもしれないよな。でもそれはソレ、これはコレなのだ。というか、ぶっちゃけポイントはもう別に気にしなくてもいいかなって。身代わりの贄となるカートリッジを用意しとけば何とかなりそうなので。思ったよりもあくどいトラップの類は設けられていないものと推察している。あとケチケチ作戦は正直しんどかった。やはり断食はするものではない、全く無意味な行いだ。それに物質主義なとこがあるボクとしては窮屈さを感じていたとこだったし。やっぱバランスが悪いからなぁ、適度な消費は大事だ。
さてと、多少はやる気と元気を取り戻した頭の中でホームルームのおさらいでもしてみるか。
今朝の質疑応答結果を踏まえると、どうやら一番外れていて欲しかった様な、ある意味で当たっていて欲しかった、今のところ最も高そうな可能性を探ってみたが、どうにも違いそうだったしな。
しかし依然として謎な、実質的な監禁とも呼べる身柄の扱いや、寮の鍵の件も踏まえると、したらば少なくともここでは一般社会の常識は当てはまらない、むしろ当て嵌めたくない様な、そんな強い恣意性を感じている。
ボクの勘違いで無ければ、あの時の教室内の雰囲気、あの感じは何処か覚えがあったな。肉親への執着が希薄な、無関心な。それはまるで愛情を知らずに育ったような、漂白された、除菌された、真っ白で無機質なクリーンルームみたいな不自然さ。
あるいは憎悪感、嫌悪感すら覗かせている生徒の存在も見受けられた。さーて、ユキムラちゃんは一体どんな闇を抱えてここに来たんだい?センセーとちょっとオハナシしてみよっか。ふむふむ、なるほどねぇ、したらば鉄砲玉つながりでひとついいことを教えてあげよう、引き金を引く前にはこう唱えるんだ、アジン・ドゥヴァ・トゥリー。そうだよー、そう唱えるだけでキミは強い子に、まあいいや。
恐らくは親元を離れることに前向きで肯定的な、むしろ望んで積極的に離縁を望む様な生徒ばかりだった風に感じた。家庭環境に問題のある生徒。ごめんねー、ボクのパパがキミを車で轢いちゃって。たとえばそんな事件や事故が発生したとしても、果たして親は我が子の身を案じて不法侵入してでも駆けつけてくれるのだろうか? え、ジュラル星人? そうと分かっていればあの時・・・。
恐らく気にも留めない様な薄情な親御さんから預かった、何か起きてもそんなに揉めなさそうな、大きな問題にならない様な、ネグレクト気味の子供ばかり。もしかして、退学者はそのまま失踪コース?捜索願も出されず、故に行方不明者リストにも載らない。全滅した…その後、彼らの行方を知る者は誰もいなかった・・・ゲームオーバー、ちーん。
ここでトラップ発動、リバースカードオープン、BR法! 目が覚めたら効果発動。睡眠薬が切れてボヤボヤしながら起きたと思ったら、するとそこにいたのは何とまさか、一年の時に担任だった北野です。今日は皆さんに、ちょっと殺し合いを・・・まあいいか。いいやよくない。
したらば次点で最も高い可能性は、やっぱりこの学校はアランないしはDAそのものに近い何かだった、てことか? DAはニッポンの治安維持の為に作られたある種の治外法権みたいな扱いだったよな。法では裁けない悪というか事件を未然に防ぐための、超法規的措置を行うための組織として、あらゆる活動で事実の隠蔽は当たり前、情報の改竄も何のその。子供に銃火器を持たせて同じホモサピエンスの仲間を殺す事を肯定させる様な、残忍な洗脳的教育が当然の如く施され、必要とあらばその手塩にかけて育てた子達を一切躊躇なく始末する。コスパ悪そうな脳筋組織運営のなんともお粗末で非道なことよの。アホしか居ないのか? ボクたちの知力を奪って済世か・・・ふっ、まるで将棋だな・・・? つまりどういう事だ?? あっ、わがった!(分かってない)
それ即ち駒に余計な考える脳みそは不要といふ判断。与えられた情報だけが全ての、非合法組織にとって都合の良いソルジャー。先入観、前提条件、常識的思考、既存の戦術戦法、社会的通念、倫理観、ありとあらゆる無用な自我を殺して生み出した、自分たちが求める理想的な、使い勝手の良い便利道具。ここはそれを生み出す為の工場だった?
そういえばボクが転生したのがリコリス・リコイルの原作開始前の可能性だって、当然あるんだよなぁ。したらばこの学校はDAやアランの前身?DはDirectAttackでAはALANの頭文字? だとすればAクラスにいた、あのいけ好かないジト目の流し目銀髪少女に見出された才能とは? まさかの理解らされ適正を買われたギフテッド??やはり疑問は尽きないな。
しかしやっぱり、そういう事だったのか。したらば、まんまと罠にでも嵌められて、僅か1、2年で元鞘に収まったという事になる。DAの、あの場所に戻りたいです(虚な目)。 そんな事、毛ほども思っていないのに、現にこうして此処にいると言う事実だけを切り取れば、ボクも案外手遅れなレベルにまでリコリス色に染められてしまっているのかもしれない。差し詰め鳥の帰巣本能を利用したかの様な、当人には及びもつかない理外の理に囚われてしまっている…あるいは、自分の金で買った好きな洋服をdisられている。SNS上ではクソダサいだのみんな好き放題に言いやがる! あいつら、なんなんだ!! 何も知らないくせに!!! 帰って来るんじゃなかった・・・違う? まあでもボク鉄砲玉の鳥頭なのは確かだし・・・クルッポー?
このようなある意味危機的な状況であっても、とりあえず今のところ授業説明を聞いてる限りだと、配られた授業進度表に無茶苦茶やってんなって破綻は見られなかったから、まぁ。したらば学校における実力とはつまりスケープゴート的な表現で、少しずつモラルを忘れさせるためのカモフラージュ。ポイントがゼロになり退学となった生徒はリリベルやリコリスとして、あるいは使い捨ての鉄砲玉として。なるほど、少しは期待できそうじゃないか。
謎もある程度解けてきたし、歯を磨いて昼寝でもするか。てなわけで、うっかり教室に忘れてきた歯磨きセットを取りに帰る。戻るの面倒くさい、来る時はおなかがすいて力が出ないよって感じで忘れてきてしまったのだ。食事後ある程度時間をおいてから歯を磨いたのほうが良いとは聞いているが、今日みたいに忘れて取りに行くとか時間つぶしで教室まで歩いてもう一往復するのは効率が悪い気がする、まあ明日からのルーティンでは忘れないよう注意しておこう。
さて、自分のクラスに再度侵入、そういえば入場券のこと聞くの忘れた、まあいいか。自席のテーブル横に吊り下げていたカバンの中から、これもセキュリティ的に、なんか嫌だなぁ。ロッカールームとかないのか?やれやれ。また質問が増えてしまったな。
―あ、あのっ!
―ちょっと、キキョウちゃん、止めときなって!
・・・うん?
一瞬声を掛けられそうになったので、気になりそっちのほうへ顔を向けると、そこでは何やら3人組ぐらいの女生徒がもめ事、ではないが友人を引き留めるかのように前を塞ぎ、やいのやいのと乳繰り合っていた。何やら冷ややかな雰囲気?
あー、どうも腫物扱いされているな、別にいいけども。でなけりゃこんな時代遅れの装いに身を包んでいないし。時代に合わせて生きていく、そんなバランス感覚も大事だよなぁ。
こりゃ暫くはぼっちちゃんルートかな?そうして真島クルミは灰となり、もう二度とギターを持つことはなかったのでした・・・完。違う? まあ別にいっか。
そう思い、何やら物言いたげな雰囲気の少女から視線をそらすと、さーてプラークコントロールの、口腔環境のバランスを整えないとなぁって意気込みでボクは化粧室へと足を運ぶことにした。
シャカシャカシャカ。
がらがらがら、ぺっ。
そんで、帰着。
グデー、そんですやすや。
くかー・・・。
それから放課後になる間の授業時間の記憶はほとんどない。途中途中、背中をつんつんされながら起きて板書を追っかけてはみたものの、思いのほか眠気はすさまじく、集中力が長続きしなかったのだ。
しまったこのボクとしたことが。食べてすぐ寝てウシになったのもそうだし、コレ完全に生活リズムのバランスが取れてないよなぁ。でも時差ボケからまだ立ち直れてないんだよ。
あと授業も眠気を誘う。今日とかなんて聞いても聞かなくてもあまり問題なさそうな中身スカスカな授業内容で、そもそも入学直後ということで殆ど担任の自己紹介から始まる授業計画の説明ばかり。同じフレームワークの見慣れたルーティンで話を水増ししてお送りするストーリー・・・へくしっ、なんだ風邪ひいたか?まあいいや。
そんな状況であるほかにチャバシラの時と同じ質問を投げかけるような熱量は、結果の見え透いた単純作業に興じるだけのテンションも既に失われていたからなぁ。ボクにとってはもしかしたらこの先、もう既に消化試合なのかもと。きっと今後はこの学校がDAやALANをどのようにして世に生み出していくのかを、この人生かけて追い続けていくような、そんな先の長い話になりそうだったしな。
まったく、今まで調べてもさっぱり情報が見つからず、手がかりがなさ過ぎた理由はこれだったのかと、ボクの中で腹落ちする部分があったのだ。
ある種の読了感にも似た、あるいは休日の予定が急遽なくなり手持無沙汰になったかのような、物足りなさでもない、うまく言葉にできない感情を飲み込み切れない中、一日の終わりのショートホームルームの時間を終えようとしていた。
「― で、明日からは本格的な授業の開始と、放課後に部活動説明会を実施する。以上だ、本日はこれまで。チャイムが鳴ったら帰宅して構わないぞ。それから真島はこのあと進路指導室に来るように」
厨二病的ワードセンスとしては終わりの会とかのほうがいいよなぁ、終わりの会を始めよう…なんかかっこいいって現実逃避していたら、どうやら名前を呼ばれた気がする。なぜに? 律儀にも今朝のやり取りを覚えていて、あの時の質問に答えるため・・・って感じでもなさそうだが。
チャバシラが教室を出て十数秒後ぐらいの。大して時間を置かずに今日の学生生活を終えるチャイムが鳴り響いた。放課後といってもまだ二日目とあってか短縮授業期間中な為、窓の外の太陽はまだ高い。ほかの生徒たちは今日も何処かへ遊びに出かける予定があるのか、ペアやグループでそそくさと教室から去っていく。それがある程度落ち着くのを待ってから、ボクはパンフレットを片手に進路指導室へと向かう。
道中では2学年や3学年と思われる生徒ともすれ違い、彼らはまだ授業でもあるのか纏まった集団で教室を移動しているかのようだった。その横をすれ違う時に向けられた、ジロジロとした観察するような目線が不愉快だった。それも特定の群れに属していそうな連中ばかりが余裕綽々でニヤつきながら。しかしそれ以外のグループは、心なしかどうも表情が暗い様だが、さて?
春休みが終わったからかな?と益体もないことを考えながら5分ぐらい廊下を歩いたら、ようやくパンフレットの導きで進路指導室にたどり着くことができた。さて、鬼が出るか蛇が出るか。まあ特に気負う話でもないよな?
割と虚無な心持ちでドアを開けた先には、知らない人に頭を下げている茶柱紗枝がいた。
いやいや、いきなりなんだ? この謎な状況・・・。
「― 先生のお考えは理解しました。でも謝罪する相手が違いますよね?」
「…ええ、心得ております。きちんと説明をし、誠意ある対応を行う所存です」
「それでは今すぐに対処していただきますよう、お願いします。
・・・ああ、真島さん。急なお呼出しとなり大変申し訳ありません。
少々伝達ミスがあり、このような対応になってしまったことを含め、これからその説明と面談をさせていただきたく、ご理解ご協力いただけますと幸いです。
え?ああ、そうですね。申し遅れましたが、私はこの学校で理事長を務めております坂柳です」
ボクの、お前誰だよって考えは、どうやら顔に出ていたらしく、その男は自らを坂柳と名乗った。人好きしそうな柔和な笑みをボクに向けたと思ったら、隣にいる茶柱には不機嫌そうな、怒ってますって態度をとり、何やら情緒のバランスが狂ってるご様子。沈まりたまへよ。
「真島クルミさん。私は今朝のホームルームの場において、他の生徒の問題行動を煽るかのような不適切発言を、また貴方を侮蔑するような意図を含んだような不適格な対応を行ってしまいました。この度は大変申し訳ございませんでした。深く謝罪します」
そしてそれを受けた茶柱においては謹んで陳謝しますって素振りを見せながらこちらに頭を下げてきているではないか。いや、何がどうなってこうなったかの経緯が分らんではないが、でもこの謎な状況はなんぞ?
「今朝の問題行動は、貴方は既にお気づきの事だろうが、あの一件も教室のカメラの映像で確認させてもらっていてね。
その処罰と今後の処理についても改めてこの場で相談させていただければと考えている。
それから、まあこれから先は座って面談を行おうか。せっかくなのでお茶でも用意しようかな?」
「理事長、ここは私が」
「・・・そうだね。では入れてもらうとしようかな。
さて、今日ここまで足を運んでもらったのは、そもそも予定していた本当の目的というのがだね、母国を離れて日本で初めての学校生活を行うことになった真島さんへのカウンセリングの場を設けさせて貰いたかったからなんだ。できれば今日の放課後に先生を通じて段取りをきめて・・・どうにもそれどころではなくなってしまったが」
それから坂柳は語る。
曰く本来であれば留学生という形で、もっと言えば臨時講師として招きたかったらしいのが、この特殊な学校では受け入れ態勢が整っておらずまた当時絶賛システム障害発生中につき事務手続きでも度重なる不備が生じ、もはや合わせる顔もない、面目次第もなく、オジサンはなんと謝罪すればいいかもう分からない…くすん(意訳)。 といった暗澹たる思いをぶちまけて下さりボクを困惑させてくだすった。
いやいや、そんなん知らんがな。そう思ったがその原因の殆どがボクの突飛な行動に端を発したものであるとしたらば、まあ、ドンマイ、彼らは知らないだろうから、なおさら、なんて。
ボクがここに来た理由というのも、まぁ面白そうだからってノリで急遽決まった部分が大きく、したらばいろいろ受け入れ準備が整わなかったことも想像に難くない。まさか入試前日に願書もないのに一人追加なんて思わんだろうしな。しかも聞けば日本の総務省から直接通達があったらしい、そいつらも総理の口利きでこっちまで話が回ってきてるんだなんとかしろと上から散々・・・ドンマイ。
この坂柳と名乗るオッサンはボクが一般生徒扱いとなってしまったことに対してまず平身低頭などといったご様子だが、別に大した人間じゃないよ、ボクは。だってただのハッカー、げふんげふん。まあ寛大な心で謝罪は受け止めようじゃないか。こういう話は突っぱねるほうが却って話がややこしくなっていくんだ、矛が収まらないと不毛な諍いは終らせられないからな。それに特に興味もないし、どうでもいい。
まあ日本の生活は…悪くないんじゃないか?まだ時差ボケが治らないのだが授業中寝ても許してくれよ?医師の診断書でもあれば何かのペナルティはチャラになるのか? そもそも病院ってどうするの、学校内にあったとしても診療経験がほぼゼロなのでは?
「・・・そのことなのですが、この場を借りて改めて相談させていただきたい話がございまして」
坂柳は茶をチビチビ啜っているうちにある程度心が落ち着いたのか、ようやく緊張が解けたなって思っていたら、また襟を正して新たな話題を切り出してくる。いったい何だってんだよもう。・・・まさか実験台として切らせろと?
「本日、真島さんがホームルームで話された内容に関しまして、少々内密にしていただきたく、重ねてご迷惑をおかけして大変恐縮ですが、これでどうかご協力のほどを」
したらば言下にタブレットを差し出してきた坂柳。あんだよ?
「その話は担任である私の方からも、改めて謝罪も含めて説明を行いたく、まだお時間頂けないでしょうか?」
そして茶柱はやけにしおらしい態度で、横から失礼して、疲れたような面持ちを浮かべながらこう語った。
曰くこの学校には特殊なポイントシステムでの評価制度を設定しており、その詳細は5月以降に説明を行うのがこの学校の通例で計画となっているらしい。よって詳細はまだ語れないが、先般ボクが語った内容は入学2日目にして殆ど確信に近い部分にまで触れられており、そしてその情報が広く流布されてしまうと入学時から既に着手し進行している教育計画と今後のマイルストーンやらロードマップだとかが土台からひっくり返ってしまうため、早い話がごめんなさい、口止め料を払う代わりに黙っていてほしいとのことだった。
だとすれば、なぜあの時ボクをダシにしてまで不特定の誰かの発言を煽るような行いをしたのかと問うたら、このシステム自体が二律背反のような側面を持ち、要するに分かってるなんて簡単に言わないでよ、でも理解してほしい…みたいな面倒くさい恋人のような対応を迫るダルい教育カリキュラムなのだと。だからまだ多くは語れないけど、今朝の茶柱の発言はいわば生徒を叱咤激励する熱血教師の愛のムチであり、また詳しくは言えないけどそれとなく生徒たちには気が付いていってもらいたい、したらば茶柱のボーナス査定額も増えるから、だからみんなも自発的に理解ってほしいの、といった趣旨の話だった。
・・・あの、ネタバレするの止めてもらって、いいすか? 何のためにオマエらを泳がせてると思ってるんだい? それは誘い受けか何かなのか、当身擦りたいなら一生シューティングぶっぱして相手になるぞ、ボクの飛鳥=R#が火を噴くぜ、マナが切れた?!シッショー、そしてさらば。はいはい、つよいつよい。 あと話の所々で嘘を織り交ぜるのも。キミら実はこの状況楽しんでない?
まったく、これがボクだったから気にも留めない話だけれどもさ、普通に考えたらどう見てもコレ謝るふりをして人をおちょくってるよね? 最低限のロジックさえ組んどけばええやろみたいな浅慮な人なんか? それとも馬鹿は煽てておけばおサルのようにすぐ木に登るとでも思っているのかなぁ。登るけど。
ただボクは唯の鳥頭な鉄砲玉なのでね、したらば風見鶏のように風の吹くまま気の向くままテキトーに明後日の方向目指して飛んじゃうけど、いいのかなぁ?
まあ担任の、下手すりゃいじめを助長しかねない問題発言にも目をつむる代わりに示談で納めてやるけどさ、と水を向けてやると、ようやくこの無意味に長く、とてもくだらない体面の問題にも一応の着地点が見えて、やっと解放される兆しが見えてきた。
と、思っていた矢先、したらば、なんと・・・!
「さて、そろそろ私の出番かな? ティーチャー、君はどうせこのあと私に取引の真似事を提案してくるのだろう?
はっきり言ってそれに付き合ってあげる義理はないのだがねぇ、故にこの場で回答してあげるのが端的かつ最もスマートな解決方法かと思い、わざわざ此処までやって来てあげたのさ。私がこの場に居るということに、これ以上の説明は不要だろう?」
ノックもせずにドアをあけ放ったのは例のホステスヤンキーが、やっぱりオマエかよ。
「―ッ?! 高円寺!?
・・・いや、色々言いたいことはあるが、はぁ…もうそれでいいか」
「実に結構だ、拙速は巧遅に勝る。時間は大切にするものだよ。
よって私の希望を単刀直入に述べると、この私への口止め料とやらも全てそこの真島レディに振り込んでくれたまえ」
はぁ?!ちょっと待ってくださいよ大家さん オンドゥルルラギッタンディスカー!!
嫌だよこの学校から押し付けられる約束手形を抱え持つのは。
大体ボクは当座預金なんぞ持ってないので、手形を受け取るのはそこのいかにもなお坊ちゃまで、どうぞ。
「そもそもの話なのだがねぇ、事の発端は全て彼女の発言がきっかけであるからして、この私にまで余計な干渉をされるのは、ハッキリ言ってごめん被るねぇ。私は無意味にその辺のスチューデントにまでくだらない謎解きの考察を述べるほど、魚の釣り方を覚えようとする市民から学ぶ機会を奪うような野暮な人種ではないのだよ。もう分かってくれただろう? ならこれで失礼させてもらうよ」
コツンコツン、と陽気なステップ刻みながら、その男は嵐のように現れて、嵐のように去っていった・・・一体何だったんだ。
はぁ、とため息をついた茶柱がタブレットを操作して、ボクの端末にポイントを、この間隙を突かんといつの間にやらねじ込んできていた。どいつもこいつも・・・いいさ、キミたちがなんだって思い通りにできると勘違いしてるなら、まずはそのふざけた幻想をぶち転がす。
理事長と茶柱とボク、三者三様に疲れた表情を浮かばせながら、とりあえず煎茶を啜るのであった。
以下部外秘資料
氏名:真島クルミ(本名:山葵のりこ)
生年月日:12月16日 いて座
学力:A
知性:A
判断力:A
身体能力:C−
協調性:C−
【備考欄】
以下にリファレンスチェックの結果を記載します。
アメリカ合衆国在住。宇宙工学界期待の新星として業界から注目を浴びている才媛。
幼少期から高いIQとEQを認められ英才教育が施され、9歳でコミュニティカレッジに入学。その後11歳でMITに編入し14歳で学士課程を修了し、現在は修士課程を履修中。
発表した学士論文が、目下世間を騒がせているケスラーシンドローム解決への光明を齎したため、卒業前から既に航空宇宙産業から多数のオファーを得ている。
このほか改良型の誘導性ダイラタンシー流体開発などで人工衛星システムの救世主として名高く、その実力は既に世界レベル。
現在は情操教育を兼ねた国際交流の一環として日本へ留学中。
以上の評価を踏まえAクラス配属が妥当と判断します。
手書きの追記事項 3月31日
予期せぬシステムの不具合からようやく一時復旧したと思ったら、何故かDクラスに配属となっていました。修正がもう間に合いませんので各クラスの担任は至急掲示物や席順変更などの対応をお願いします。
(職員会伝達事項議事録)
彼女の開発した軌道予測アルゴリズムはミサイル迎撃システム等の脆弱性攻撃に有効的手段と断定され、現在も第三国から誘拐や暗殺計画などが持ち上がり身柄を狙われています。
よってアメリカ国防総省は身柄保護の為、影武者の替え玉による囮作戦を刊行する為に、本人には国外の何処かで秘密裏に隠遁生活してもらう事を決定しました。その結果、なんと我が校が選ばれました! おめでとうございます、ありがとうございます、パチパチパチ!
これは内閣総理大臣の選任により総務省の所轄プロジェクトである高度育成高等学校に発令された極秘政令である為、彼女の処遇に関して我々に権限はありません。万一にも退学にしてしまわないよう、細心の注意を払って本校の通常業務をこなしてください。以上。
あ、あとAクラス配属予定だったところがうっかりDクラス配属になってしまいました。システムが勝手に僕らの言う事無視して振り分けちゃったんだから、仕方ないよね?文句ならSシステムに直接どうぞ。え?うちに留学とか転入とかを可能にする、そんな高度な人事管理システムがあるわけないだろ、いい加減にしろ、クビにする…嗚呼いかんいかん、チャイムが。さてと朝礼の時間ですね、それでは皆さまご唱和下さい。教育教育教育教育教育、指導指導指導指導指導。今日も一日元気に授業しようね。