技術チートを使って現代世界で完全没入型VRゲーム配信者になろう! 作:VRゲームやりたい
眩い光が目に直接届く。太陽光に似た、天然物の光。
実際には、VR上で生成されている光だとしても、そこに立つものにとっては紛れもない現実の光だ。
オリジンからファンタジー世界へワープしてすぐ、僕は真っ昼間の森の中に立っていた。
辺りを見渡せば、草木が生い茂り、整備された街道とは正反対の獣道や、宙を舞う虫などの小型生物といった、田舎特有の光景が広がっている。
視線を上げると、木々の間から差し込む光線と、おおよそ地球では考えられないほどの、巨大な星、リングの付いた惑星が浮かんでいるのがわかる。
「みんな、ちゃんと見えてるかな~?」
僕は、配信画面に映像がしっかりと出力されていることを確認しながら、周りをふわふわと浮かぶ特製カメラに向かって話しかける。
『なんだこれ』『やばい』『現実と変わらない画質ってなに?』『4Kとかそういうレベルだよな』『まじかよこれ』『本当にゲームなのか?』『驚きすぎて声が出ない』『紹介動画で見た時とは違う感動がある』『実はカメラで撮ってるだけだったりしないか?』『白パン』『だったら太陽の他にあるやつはなんだ?』『ここが別世界ならあの光は太陽でもないぞ』『森の中でメイド服なのは正直ワロタ』『風に揺れるスカートで平静を保ってる節はある』『映像やばすぎてセカイちゃん見てなかったわ』
良かった。しっかりと視聴者のみんなにも見えているらしい。
思った通り反応は凄まじく、ほとんどのコメントは目で追いきれないが、その多くが驚きと感動からくるものであるようだ。パンツコメは知らない。
「すごいでしょ! これが紹介動画にも出てきたファンタジー系世界だよ。でも、僕のこともちゃんと見ないとだめだぞ~?」
『かわいい』『すまん』『やむおえないと思います!』『こんなもの見せられちゃ、ね?』『てか改めて見ると、セカイちゃんのクオリティもやばい』『それな』『そこにいるみたい』『現実でこんな美少女がいてたまるか』『世界に嫉妬するセカイ』『ファンタジー系世界は名前とかないの?』『確かに』『毎回呼ぶの大変だよね』
「許してあげるっ! この世界を創ったのも僕だし、どっちにしろ僕に心奪われてることは変わんないからね~。寛大な僕に感謝せよ~なんて。
それにしても、ファンタジー系世界の名前かぁ、そういえば決めてなかったな」
コメントに指摘されて少し考える。確かに、Another Worldの名称は決めても、それぞれの世界の名称は考えてなかった。ちらりとシステムを覗いてみても、名前のところは空欄になっており、自動で生成されているというわけでもなさそうだ。
「あ、そうだ! そしたら、視聴者の皆で決めようよ! この世界は僕が創ったものだけど、それと同時にみんなで楽しむものでもあるわけだし、一緒に世界、創っちゃお?」
『まじか!』『一緒に世界を創るとかいう』『パワーワードすぎwww』『これもう配信ってレベルじゃないぞ』『いいね』『セカイの世界とかは?』『もうそれ全部やん』『ファンタジーワールド』『天使の楽園』『エデン』『大日本帝国とか』『極右おるってw』『ア◯ンクラッド』『全然浮かばない』『セカイの庭』『世界を創ったことあるやつおる?』『いるわけなくて草』
「ふむふむ、みんな苦戦してるね~。そしたら、いくつか出てるのを拾ってアンケート形式にしようか! 今のところ良さそうなのは、ファンタジーワールドとか、エデンとか、その辺かな?」
メニューを開いて、アンケートを作成する。いくつか候補が出ているので、選択肢に挿入したあと、視聴者のみんなが選べるように設定して、投票を待つ。
ネタで入れたほぼパクリみたいな名前が一瞬上位の方に来て焦ったが、一位になることはなく、ある程度まともな名前で決まりそうだ。
しばらく雑談をしたり、周りの景色を歩きながら見せていると、アンケート結果が表示される。
「おっ、決まったみたいだよ! それでは、発表しますっ! なんと、今日からこのファンタジー系世界は、【エデン】となります! ぱちぱち~」
拍手をすると同時に、頭に直接電子音が鳴り響く。
「エデンを正式名称として承認しました」
『うお、なんだこれ!』『システム音?』『世界の名前が決まるところに立ち会ってしまった』『私の採用されたんだけど』『ま!?』『すっげ』『参加型のスケールがでかい』『やばいなんかやばい』『わかる』『めっちゃワクワクする』『俺たち世界を創ったんだな』『神様じゃん』『いつかここに行けるかもしれないんだよなぁ』『もっとこの世界のことを知りたいな』『冒険しようよ冒険!』『なんか変な音がする』『街見たいな』
「そうだね、せっかくエデンに遊びに来たんだし、もっといろいろな所にいってみようか!
ただ、その前にもう一つやらないといけないことができたみたいだよ?」
そういって、振り返り木の奥を見つめる。そこにはイノシシ型のモンスターが、ゆっくりと目を光らせながらこちらに近づいてきていた。
特徴からなんとなく目星はついているが、敵対モブで間違いないだろう。次の所に移動する前に、まずは戦闘を見せることになりそうだ。
『モンスターきちゃ』『こっちきてるな』『やばいちょっと怖い』『獲物を見る目してる』『初戦闘シーンか』『心の準備できてないよ!』『イノシシ?』『いやデカくないか』『赤黒いしなんか禍々しい』『セカイちゃん勝てるの?』『死なないで』『逃げよう』『めっちゃ近づいてきてる』『もう目の前じゃん!』
「“ブラッドボア”だ。イノシシ型の肉食モンスターだよ。この近さじゃ、逃げるっていうのは、もう無理みたいだね。覚悟を決めるしかない」
ブラッドボアと目を合わせながら、今度は頭の中でメニューを操作する。鉄製の細いロングソードを選択して装備すると、メイド服の腰辺りに光の粒子が集まり、武器を形成する。
この剣は、通常のロングソードよりも軽く、力がなくても扱いやすいように作られた剣で、過去にエデンをプレイしていたときに手に入れたものだ。
「そういえばいってなかったけど、この世界では、人間の死が再現されているんだ。だから、僕が死んだ場合、エデンごと消去されるっ!」
話の途中で、ブラッドボアが突進してきたため、真横に飛んで避ける。どうやらもう雑談はさせてもらえないらしい。
『ええええ』『唐突な重大情報』『それってやばくね?』『俺たちのエデンが』『迫力がやばい』『突進はやすぎる!』『セカイちゃんの動きも速い』『最初から負けられない戦闘かよ』『というか、この先ずっとだよね』『ぱんちゅみえた』『イノシシって普通ザコ敵だよな!?』『この臨場感で見ると普通に猛獣』『でかいしはやい』『頑張って』
間合いをとって、呼吸を少し落ち着ける。
ブラッドボアは既に次の突進の準備を始めているが、こちらも体制を整えて迎え撃つことができそうだ。
僕はこの世界で二回殺されている。
一回目はこの世界で最初に遊んだとき。戦闘経験もない僕が浮かれていたこともあり、あっという間にモンスターに殺された。
二回目はある程度友達や顔なじみができた後。ダンジョンでの些細なミスから、負の連鎖が発生して、あっさりと殺された。
僕自身が死ぬ訳では無いが、この世界そのものが消失する。それは同時に、財産も、友達も、思い出も、何もかもが消失するということ。
人間の死の定義は、自分が消える時と、他人の中の自分が消える時という言葉があるが、この言葉を借りるならば、エデンでの死は後者であり、紛うことなき死だ。
「スラッシュっ!」
スキルを使って、自分の動きにブーストをかける。スキルは、剣術経験のない僕が、まともに剣を振るための最短ルートだ。
敵の突進をかわしながら、でかい図体の側面を剣先で切り裂いていく。
『かっこよすぎる』『リアルすぎるだろ』『血の量がやばい』『メイド服に飛んでるね』『セカイちゃんの目がガチ』『動きもプロっぽい』『よく避けれるよな』『俺なら逃げて食べられてるね』『だめじゃん』『ブラッドボアの動きが遅くなってきてるな』『結構攻撃当たってるっぽいもんな』『てかカメラが優秀すぎるだろ』『これBanされないの?』『確かに』『あれ、なんか逃げてないか?』『ほんとだ』
何合か打ち合っていると、だんだんブラッドボアが弱ってきているのがわかる。
足を引きずりながら僕とは反対方向に逃げ始めたため、コメントを見る余裕も出てきた。
「確かに、血でBanされるとかもあるのか。まぁ、多分大丈夫だと思うけど。でも、苦手な人はあまり見ないようにしてね。
それと、ここまで戦って逃がすかっての!」
ゆっくりながらも、確実に僕から離れていくブラッドボアに向けて、魔法を詠唱する。
森の中なので、火属性の魔法は避けたい。
一度剣を鞘にしまって、両手を前に差し出す。
「アイスアロー」
ブオンという猛烈な音とともに、手の先から氷の塊が発射される。
大きな質量を伴ったそれは、正確にブラッドボアの後頭部めがけて飛んでいき、当たると同時に、頭全体を氷で覆い尽くした。
「よしっ! 戦闘終了~! みんなどうだった~?」
『……』『なんか、なめてた』『リアルすぎてちょい怖かった』『でもおもしろかった』『現実すぎる』『ゲームと違うね』『魔法かっこいい』『セカイちゃんの口が悪くて好こだった』『わかる』『かっこいい』『頭が氷で包まれてるの最高にファンタジーだな』『アイテムになるとかじゃないんだね』『魔法なのにリアルで訳わかんない』『現実世界で魔法があったらこんな感じなんだろうな』
動かなくなったブラッドボアに近づきながら、自分自身に生活魔法をかける。
一瞬光に包まれた後、返り血や土がきれいに落とされて、元のかわいいメイド服姿に戻った僕をみて、またコメントが速くなる。
モンスターの足元まで到着して、完全に動かなくなっていることを確認した後、再び魔法を詠唱する。
今度は、光の粒子がモンスターの周りに集まって、死体そのものを消し去った。
収納魔法、いわゆるアイテムボックスだ。
これで、本当に戦闘が終了した。
「いやー、なかなか白熱した戦いだったね。みんなの応援ちゃんと届いてたよ?
予定より早くなっちゃったけど、戦闘シーンを見せられてよかった!」
『アイテムボックスあるんや』『急にこの世界でも死ぬとか言われて焦ったわ』『現実ファンタジーとかいう新ジャンル』『セカイちゃんは魔法剣士だったんだね』『VRゲームやりたかったけど、ちょっと不安になってきた』『わかる』『俺は無双するから大丈夫』『多分動けなくなるもんな』『身体能力とかどうなってんの?』『ビュンビュン動いてたよね』『リアルすぎて現実に影響しそう』
「身体能力は、魔法とかである程度底上げされるし、スキルのアシストもつくよ! ただ、基本的には運動センス? VRセンスみたいなものがかなり影響すると思う」
『ってことはセカイちゃん化け物か』『明日からダイエットします』『ランニングしよ』『お前らちゃんと続けろよ?』『VRゲームで人類が健康になるのか』『でも、実際発売されたら間違いなく流行るよね』『規制もすごそうだけどな』『ハーレム作りたい』『こういうやつがいるから』『なんでや! 男の夢やろ!』『まあゲームでくらい好きにしたい気持ちもわかる』『いいなぁ、俺もエデンに行きたい』
「んー、みんなができるのはしばらく先になるとは思うけど、せっかくこんな技術があるんだし、規制は最小限にしたいよね。そこはいろいろ考えておくよ!
とりあえず今は配信を楽しんでくれるとうれしいなっ!」
ブラッドボアを回収した後は、この森で特にやらないといけないこともないので、街の方に向かって歩きだす。
VRゲームは今まで、叶うはずがない夢であった。
しかし、実際に現実世界にそれが実現したとなれば、色々な問題が出てくる。
創造主として、そういった問題と折り合いをつけながら、市場に広めていくのが正解なんだろうけど、あいにく僕も棚ぼたでゲームができるようになった身だ。
ある程度の倫理観は守りつつも、利権みたいな煩わしいものは一切無視して、皆が楽しめるような枠組みづくりをしていくつもりである。どう転がるかは実際にやってみないと分からないけどね。
そんな話をしながら、森をかき分けて歩き続けていると、街の外壁が見えてきた。
あれが僕が拠点にしている街、視聴者の皆にとっては初めて見るエデンの街だ。
門の前まで来ると、顔見知りの衛兵さんが門番をしているのがわかる。
一度コメント欄から視線を外してあいさつする。
「やっ! 帰ってきたよ、暇してた?」
「おお、独り言喋ってる変なやつかと思えば、セカイかよ。こっちは仕事中だっつーの。お前はまた狩りでもしてたのか?」
「あはは。うん、ブラッドボアとちょっとね、これからギルドで換金しようと思って」
「ブラッドボアをソロとはなかなかやるじゃねえか。せいぜいしくじって死んじまわないようにな」
一言二言交わしてから街の中に入る。それにしても、褒められるのはなかなかに嬉しいもんだ。今度お酒でももっていってあげようかな。
『第一村人だ』『セカイちゃんの知り合いか?』『NPCじゃないの?』『いい人っぽいね』『スムーズな会話』『セカイちゃんコミュ障じゃないんだ……』『やっってとこ好き』『わかるかわいい』『ここがエデンの最初の街か』『やべぇ、わかってたけどリアルだな』『露店がある』『串焼きうまそう』『建物が日本とぜんぜん違うな』『てか普通に街だね』『みんなここで生きてるみたい』『ギルド行くって言ってたよね』『ギルドで絡まれてからが本番』
「どう? きれいな街並みでしょ~。これから、さっきのモンスターを換金しに行くよ!
戦闘して少し疲れたし、それが終わったら宿に行こうかな。
あと、残念だけど君たちと違ってコミュ障じゃありません~」
『は?』『言っていいことと悪いことがあるよなぁ』『効いてて草』『わからせたい』『まぁ、普通に会話だったしね、僕たちじゃできないよね、うん』『かなしい』『もう宿に行くんだ』『セカイちゃん体力なくね?』『あの戦闘は疲れるだろ』『ギルドたのしみ』『獣人がいる』『ケモミミきたこれ』『っていうかメイド服なの忘れてた』『意外に浮いてないな』
入り口からギルドまではそんなに長い距離じゃないけど、周りの誘惑が多すぎてついつい寄り道したくなってしまう。配信中だからグッと堪えて、ギルドに向かって早足で進む。
コメント欄が少し騒がしくなっているが気の所為だろう。うん。
しばらくすると、ギルドの前まで到着する。一際大きい建物は、日本人の感覚からすると立派なお城みたいだ。多くの人が出入りしており、武装して殺気立った怖い人も多い。
冒険者は荒くれ者が多いと聞くけど、生活のために命をかけて戦っているんだ、そうなるのも納得できる。
「ついた~! それじゃあ少しの間みんなと話せなくなると思うけど、ちゃんと待ってるんだよ?」
『はーい』『おけ』『べ、別に寂しくなんか、な』『わん!』『コメ欄きもくなってきた』『どいつもこいつも調教されやがって』『ギルドの迫力やばいな』『流石にここで独り言はきついもんね』『奥の男の剣でかすぎだろww』『ちびっちゃいそう』『ギルドはガキの来るところじゃねぇぞってマジだったんだな……』『おれらが見たかったギルドがここにある』
ギルドの中に入ると、奥にたくさんのカウンターが並んでいるのが見える。その横には、併設された酒場で昼真からお酒を飲んでいる人もいて、イメージ通りのギルドって感じだ。
まぁ僕のイメージをもとに作られた世界だから当たり前なんだけど。
ガヤガヤした酒場を横目に、まっすぐにカウンターに進む。受付嬢のお姉さんの前に行くと、いつものように話しかけられる。
「こんにちは、今日は何を換金しますか?」
「ブラッドボアを狩ったんだ。解体してないから、それも込みでお願い。あとは、肉を少し取っておいてくれると助かるよ」
「かしこまりました。では、できましたら魔導通信でお呼びしますので、お好きに待っていてください。大体30分~1時間程かかると思います」
「わかった、そしたら一回宿に戻っていようかな」
必要事項を素早く確認してから、カウンターから離れて、解体場へ向かう。
ブラッドボアの死体を近くにいたおっちゃんに預けて、ギルドを後にする。
ここまでくれば、後は待っているだけだ。
視聴者のみんなも待っているし、宿に戻ろう。
ギルドを抜けて、普段泊まっている宿に到着すると、女将さんに出迎えられて鍵を渡される。しばらく部屋を開けていたから、他の部屋になるらしい。まぁ必要なものはほとんどアイテムボックスに入っているし、問題ないだろう。
部屋に入ると、早速ベッドへダイブする。僕は、この時間がたまらなく好きだ。
「はあぁあ~。づがれだぁ。現実でもVRでもベッドに居るときが一番落ち着くねぇ~」
『わかる』『だらけすぎだろ』『おなかえっっ』『そうだこの子可愛いんだった』『なんか、ギルドも宿も、すごかったね』『お疲れ様』『見てただけなのに、旅してた気分』『それな、宿に帰ってきて俺も落ち着いてる』『リアルすぎるよなぁ』『ブラッドボアみて解体屋ひいてたなw』『誇らしい気分になったわ』『みんなちゃんと仕事してたな』『な』『別世界を覗いてる気分』『ただのNPCなのにな』
コメントを眺めながら、そういえばしておきたい話があったことを思い出す。この世界をみんなと共有する上で、僕なりに大切にしたいルールのお話だ。
「んんっ。みんな楽しんでくれてるようでなによりだよぉ。
そんな君達に、僕から大事なお話が一つあります!」
『おっ』『なんだ?』『大事な話?』『ぱんちゅの色か?』『R指定についてとか?』『お前ら脳内ピンクすぎ』『改まって珍しいね』『ちゃんと聞いたほうがいい予感』『俺たちもこの世界に行くかもしれないしな』『聞かせて?』『いいよ』『ちょっとズボンはいてくる』『脱いでたのかよwww』
「R指定の話も大事だけどねぇ、それは今度。今はちゃんと履いてください。
話っていうのは、この世界で暮らしている人たちのこと。普通のゲームだったらNPCに当たる部分のお話」
そうNPC。ゲームに欠かせない、プログラムされたとおりに動くモブたちのこと。
普通のゲームなら、NPCは感情も持たないし、生きているって考えるようなものではない。
だけど、エデンでは、いや、AWにいるすべてのNPCは生きている。
僕たちと同じように、感情があり、感覚があり、人格がある。誰かを好きになって、結婚して、子供だってできる。一回死んだら、元には戻らない。
これはそうプログラムされているから。人間と同じように、自ら考えることができる自立型プログラムであるこの世界のNPCは、長い年月をかけて子孫を繁栄させて、この世界を創ってきた。
僕たちとNPCたちの間には、生きている場所が、現実世界なのか、それとも仮想現実世界なのかという違いくらいしかない。
だからこそ、僕は自分の死を、世界の消失に設定した。この世界で一度しかない生を生きるみんなに不公平だと思ったからだ。
それに、終わりがあったほうが、何事も楽しめる。
死んでもアイテムを失うだけよりも、死が死であることで、僕たちはその生の輝きをより強く感じるのだ。
まぁ、こんな綺麗事を言ってはいるが、この世界で死んでも僕自身が死ぬことはないし、仮に皆がこの世界に来ても同様だ。
そこは、ゲームをデスゲームにしないために、やむをえない配慮だと思っている。
だけど、少しでもゲームを現実にしたほうが僕の好みに合う。
僕はこの世界の創造主として、自分の考えた最高のVRゲームがしたい。そして、それを応援してくれる人に共有したい。
究極的には一番自分勝手で、一番魅力的な仮想現実世界を作りたいのだ。
「っと、そんな風に思ってる。僕の考えに共感できない人ももちろんいると思う。だけど、僕が創るAnother Worldは、こういう世界なんだ。どうかな。みんなそれでも、ついてきてくれるかな……?」
少し怖くなって目を瞑ってしまう。自分が始めた物語とはいえ、やっぱりみんなから否定されるのは怖い。それでも、僕はそれを受け入れなければならない。
ゆっくり目を開けて、コメント欄を見る。
『セカイちゃんがしたいようにするのがいいよ』『セカイちゃんが創った世界なんだから、セカイちゃんがルールを決めるのは当たり前』『俺はゲームはゲームとしてやりたい。でも、嫌なら見なければいいだけ。この配信は面白いからこれからも見るよ』『応援してるよ』『嫌なら自分で作れって話だしね』『そりゃそう』『まぁアンチは湧くと思うけどな、他の配信と同じように』『それはそういうものって思えばええんちゃう?』『話してくれてありがとう』『こうやって自分の考えを伝えてくれるのはすごくいいと思う!』『こんな超クオリティの配信できるやつ他におらんしな。まぁ飽きるまではみたるわ』『私はもうセカイちゃんのファンだよ! 自分が好きなものは応援する! それだけ!』『目瞑って震えてるの可愛くて好き』『わかる』『これからも、自分のしたいことを続けてくださいな』
色々なコメントを覚悟していただけに、固まってしまう。否定的な人がいないわけではないが、多くの人が、自分のことを優しく受け入れて応援してくれる。
自然と視界が滲んでくる。
みんなからの温かいコメントに、優しい言葉に、心がほぐされて、どんどん涙がベッドに堕ちていく。
そうか、自分にはこんなにも、応援してくれる人がいたんだなぁ。
「うれしいなぁ」
言葉が勝手に口をついて出る。それ同時に、心が優しい気持ちで満たされていくのがわかる。
突然手に入れた力で始めた配信。この世界で異質なことをやっている自覚はあったが、それすらも楽しんでいた。
だけど、心の何処かで感じていた重荷が少しずつ軽くなっていくのがわかる。
この恩は、これからの配信で、行動で、皆に返していければいいな。
「ありがとうっ! みんなっ!」
配信画面に映る、今日一番の笑顔をカメラに向けた自分は、今まで見たどの自分よりも可愛かった。
その後は、ギルドで換金したお金でお酒と美味しいご飯を買って、宿に帰り、視聴者のみんなとお祭り騒ぎをした。
現実世界と同様にふわふわと酔ってしまう頭で、これからの配信のプランを考えながら、意識が落ちるギリギリまでみんなとおしゃべりをして、楽しい時間を過ごせた。
今日の初配信は、きっと大成功だろう。
そんな確かな予感を抱きながら、眠って自動ログアウトをすると同時に配信が終了した。
宿屋の女将さんに独り言の心配をされているのは、ご愛嬌だろう。
セカイの配信は、この世界に確かな爪痕を残していっている。
感想や評価、お気に入り登録をしてくれた方、ありがとうございます。
励みになります。