甚爾side
その日は屋敷がやけに騒がしかった。他者より優れた自分の耳を澄ませると、理由がわかった。どうやら例の天才の術式がわかったようだ。
赤子の頃から将来を期待されていた天才『禪院誠』。そいつは赤子の頃から自身の呪力を操作し、循環させていたそうだ。具体的に何をしていたのかというと、呪力を左腕から右腕に、右腕から右足に、そして右足から左足へと流す。ただそれだけ。
呪術師としては基礎中の基礎だが、それを最近寝返りができるようになった赤ん坊がやったのなら話は別だ。何でも赤ん坊がいた部屋の横を通りがかった女中がたまたま見つけたらしい。そのまま話は広がり、その赤子、禪院誠は将来有望と言われた。
それからそいつはすくすくと育ち、兄たちの言いつけをよく守り、かと言って女どもに横暴な態度を取らない、よく可愛がられる子供だった。
そして今日、その術式が判明した。術式は当たりも当たり、大当たり。相伝術式、十種影法術だったらしい。
うらやましい限りだ。呪力を持たない猿の俺と違って、そいつは生まれたころから恵まれ、愛されていた。このままいけばそいつは禪院家次期当主となるだろう。俺とは産まれるときから住む世界が違うらしい。
だがその日の夜、俺は当主の禪院直毘人に呼ばれた。面倒だったが断ったら後が面倒だと思い、渋々当主様がいる部屋に足を運んだ。
「来たか」
部屋にはあぐらをかきながら髭をいじっている当主と、今日の話題に持ち切りだった禪院誠が正座をしながら待っていた。
ガキを見やるとその視線に違和感を覚えたが、それを無視して視線を直毘人に移して要件を聞く
「で?俺に何の用だ。こいつがいるってことは、俺が呼ばれた理由と何か関係があるのか?」
「ああ。そやつ直々の頼みでな、お前の弟子にして欲しいらしいぞ?」
「は?」
にやにやしているが遂にもうろくし出したのかと思いながらもガキの方を見る。するとガキは立ち上がり、トテトテと俺に近寄ってきた。
違和感
俺を見上げる目は真剣そのもの。禪院家の人間は術式主義。術式を持たない者はゴミも同然に扱われる。そしてこいつはそんな奴らの下で育てられた。
違和感
ここにきてようやく違和感の正体がわかった。
そんな奴らに育てられたのになぜ、こいつは俺を見下さない?
禪院誠は俺の前で再び正座をする。そしてゆっくりと頭を下げた。つまり、土下座をしたのだ。天才が、猿に。
俺は動揺したが、喋り出そうと息を吸った音が聞こえた。そして声を発するその瞬間、緊張はピークに達した。
「とうじさん。俺を強くしてください。足舐めます」
「・・・頭おかしいのか、こいつ」
あまりにも小物臭いセリフに、思わず直毘人に尋ねた。だが直毘人の表情は驚きと困惑の混ぜたようなものになっていた。
成程ね。どうやらご当主様にとっても想定外だったらしい。
・・・余計に意味がわからないが、取り敢えずガキに尋ねることにした。
「ガキ、なんでよりにもよって俺なんだ?」
「とうじさんが禪院家の中で一番強いと思ったからです」
俺の質問に何のためらいもなく即答してきやがった。何とも言えない不気味さを感じながらもさらに質問を重ねる。
「一番強い、ね。だが俺は見ての通り呪力が全くない。呪術師としてはゴミ同然だぞ」
「でもその気になれば禪院家皆殺しに出来ますよね?それを考えたらあなたがゴミなら禪院家は全員クソ以下です」
その目には噓偽りを感じない。どこか確信を持ったものだった。
「ほう、誠よ。どうしてそう断言できる?それも、儂の前で」
ここで直毘人が会話に入ってきた。その様子は不快感を露にしている、風を装っているが、実際は品定めをしているのだろう。
ガキが直毘人の方へと向き直る。
「ではお言葉ですが、当主様はとうじさんと戦って勝つ自信がおありですか?」
「いや、無理だな」
思ったより素直に答えた。というかどこか嬉しそうでもある。
「はい、そうなんです。禪院家が弱いとは言いません。ですが、それとは比較にならない程にとうじさんが強すぎるんです。一番強い人に稽古をつけてもらう。これが一番早く強くなれるんです。ということなので甚爾さん、明日からよろしくお願いします」
「いややるとは言ってねえよ」
「そこをなんとか!今はまだ下手ですが、いつかはつるっつるのピッカピカになるくらい綺麗に舐めとってみせますから!」
「足舐めりゃいいってもんじゃねえからな?」
なんで足舐めりゃいけると思ったんだよこいつ。足舐めにどんだけ信頼を置いてるんだよ。
直毘人の顔見ろよ、嬉しそうにお前の話を聞いてたのに、途中から天井を見上げ始めたぞ。こんなのが次期当主候補とか流石に気の毒なこった。
「勿論ただでとは言いません。僕が16歳になるまで、格闘技の修行と護衛をして頂ければ、前払いで1億、完遂後に2億、合計3億を報酬でお渡しします。ですよね当主様!」
「あ、ああ・・・」
頭を抱えながらガキに同意する。3億か・・・11年ガキのお守りをするって聞くだけならまあまあだが、サラッと護衛を混ぜているうえに、これの相手をすることを考えるなら・・・
「6だ。3じゃ割に合わねえ」
「いいだろう。交渉成立じゃな」
チッ、あっさりと通したあたり想定内か。もっと吹っ掛けておけばよかったぜ。
「それでは師匠、これからお世話になります!」
そういうとガキ、禪院誠は深く頭を下げた。
部屋まで誠を送ると、俺はまた当主の部屋に向かった。理由は後でまた来るように言われたからだ。
「甚爾。念のために聞くがお主、誠に何かしたか?」
「今日が初対面だ」
「そうか・・・」
そういって直毘人は酒を飲んだ。
「今日、いい加減術式がわかってもいいと思って手印を結ばせ、玉犬がでた。そこまではよかった。だがあやつは、その時目が死んでいた。今まで相伝の術式が現れることを期待され続けていたのにだ」
そしてまた酒を仰ぐ。
「そして先ほど会話。儂は誠のあんな姿を一度も見たことがない」
長ったらしいのでさっさと本題に入らせることにした。
「何が言いたい」
「いやなに。依頼したのは儂だが、忠告しておこうと思ってな」
「は?」
「これは儂の勘だが・・・恐らく誠と関わると飽きない日々を過ごすことになりそうだと思ってな」
先程とは打って変わって楽しみができたような顔をしていた。
体術は俺が、呪術は直毘人本人が教えるらしく、何とも贅沢な英才教育を受けていた誠は、凄まじいスピードで成長していた。
俺の場合は教えるというよりただボコしているだけだが、誠曰く「死の間際に呪力の核心を得られるかもしれないので死なない程度にお願いします!」と言われているのでこれでいいらしい。
「今日はここまでだ」
「あ、ありがどウ゛ォ゛ェ゛ェ゛ェ゛」
道場で誠が腹を抑えながら胃液を吐き出していると、女中が道場に入ってきた。
「誠様、ご当主様がお呼びです。」
「うぅ、爺さんが俺を・・・?」
吐き気を抑えながらも誠が立ち上がる。
「わかりました。すみません、申し訳ないのですが掃除をお願いしてもいいですか?」
「わかりました」
「それでは師匠、僕はこれで・・・」
「ああ」
そうして誠は直毘人の下へと向かった。取り敢えず俺は昼飯を食いに行くことにした。誠の計らいで、俺の飯は誠と同等の飯が出るようになっている。もし変なものが混ざっていた場合は誠直々に罰を与えている。何やってんだアイツ。まあ、俺としてはありがたい限りだが。
その後、しばらく俺は誠の姿を見なかった。
日が落ちて玄関近くを通り過ぎようとすると、扉が開く音がした。振り向くとそこには上機嫌な直毘人と、何故かぐったりとした表情で直毘人に背負われた誠がいた。
女中達の会話が本当なら、五条家から帰ってきたんだろうが、何をどうしたら直毘人が上機嫌で、誠が死にかけなんだ?
「どうしたんだお前ら」
「ふ、何があったと思う?」
にやにやして気持ち悪かったのでさっさと続きを促す。
「それがな・・・五条悟を殴り倒したんじゃよ、誠が」
俺は目を見開き、誠を見る。今もゾンビのような顔をしていて、「ああ、おわった。俺の人生おわった・・・」と呟いている。
もう一度直毘人の顔見るとにやけ面がやめられないらしい。
俺は笑った。
1話と文章違い過ぎる・・・ちょっと同じ人物が書いたものとは思えませんねえ・・・