幻想入りしたジェダイの騎士と河城にとりと時々妖夢 作:古井論理
「も、椛。いったん落ち着こう、まだ切り捨てると判断するのは早いよ」
憔悴しているにとりから離れて、ヤイトは口を開いた。
「私はこの星の外から来た人間で、外来人どころの騒ぎじゃない。どうやってここに来たのかは知らない。戦わなければ気が済まないなら受けて立とうか、ライトセーバーを使うまでもない生身の格闘で片が付く」
「何を……!」
椛と呼ばれた大剣を持つ女は剣を構え、大剣を使っているとは思えない動きで素早く間合いを詰めてくる。ヤイトは初撃をかわして椛の背後に回り込むと、首元に手刀をたたき込んだ。椛は踵を返しつつ大剣をヤイトに突きつけようとするが、その動きを読んだヤイトは宙返りをして避ける。
「早い……!」
にとりが感服したまなざしを見せると、椛は明らかに不機嫌そうな顔になった。剣を振り上げ、先ほどの三倍ほど素早い動きでヤイトの懐に切り込んでくる。ヤイトはまだ身に着けていた胸の装甲服で剣を受けつつ、肘を思い切り椛の頭にぶつけた。椛はしばらくよろめいていたが、やがてばたりと倒れ込む。にとりは椛の方へ心配そうに駆け寄っていった。
「ちゃんと息はある。気絶かな」
しばらく椛を見ていたにとりはそう言って、ヤイトの方を見る。ヤイトは何を促しているか分からなかったが、とりあえず弁明する。
「さすがに命を取るわけにはいかないと思ったからね。ああそれと人間の里に行く気はないよ、なんとなくこっちの方が肌に合ってる。なんとかここの住民に加えてもらえないかな」
「そっか。でもこのままだとヤイトは天狗の敵になっちゃうからまずは河童の方で弁明の余地をあげよう。私たちの秘密基地に連れて行ってあげる」
にとりはそう言ってヤイトの手を取る。ヤイトは少し困惑して、にとりに質問した。
「それっていくらかの代金とかが必要なことよね?」
「助ける対価を心配しているなら心配ないよ、そこの機械にまだ使えそうな部分があったら頂戴な。うちの研究室で解析して、幻想郷の技術発展に役立てたいんだ」
ヤイトはうなずいてにとりについて行くことを決め、ライトセーバーをコクピットから拾い上げた。そのついでにコクピット後方のつぶれたコンピューターに残る電子部品から使えそうなものを探したヤイトは、なんとか原形をとどめていたコンピューター・コア用のパワーレギュレーターをにとりに渡した。
「ありがとう。じゃあ秘密基地に案内するよ」
二人はスターファイターの墜落地点のほど近くを流れる沢のほとりに出た。にとりが何かリモコンのようなものを操作すると、岩盤の表面がせりあがってスライドし、階段が現れる。
「この先が私らの秘密基地だよ。私の研究室もここにある」
にとりはそう言ってヤイトと一緒に階段を降り、リモコンを操作して岩盤を閉じた。基地と言われた地下壕の中には明かりが灯っており、にとりと似たような格好の少女たちが走り回っている。にとりは廊下の壁に作られた扉を開け、その奥の部屋へヤイトを案内した。
「お茶を用意するからちょっと待っててくれないか」
にとりは壁際に置かれた調理台に置かれたケトルに湯を沸かし、それを奇妙な形のポットへと注ぎ込む。香ばしく心地よい香りがしたかと思うと、にとりはもうコップに液体を注いでいた。
「どうぞ。人間の里で作ってる茶葉で入れたものだが、幻想郷でもかなりおいしい部類に入ると思うよ。なにせ私のお気に入りなもんでね」
「ありがとう」
ヤイトは礼を言ってコップの液体を口に含んだ。甘みとほのかな苦みのバランスは絶妙で、ヤイトはジェダイ聖堂で飲んだ茶葉とは比べ物にならない旨味を感じため息を吐いた。
「おいしい。この味は好きよ」
にとりはその言葉を聞いてうれしそうな顔で言った。
「そうだろうそうだろう。この味は幻想郷史上五本の指に入る味だからね」
お茶の話がひとしきり終わると、にとりは本題を切り出した。
「ヤイト、それでさっそく本題なんだけどさ。君はどこから来た人で、何を知っているんだい?詳しく説明してほしいな」
ヤイトは考えこんで、ゆっくりと話し始めた。
「私がもともといたのは、銀河共和国っていうたくさんの星が集まったとても大きな、この幻想郷なんて比較にならないほど大きな国。それで、ちょっと前まで起きてた戦争が終わりかけたところでなぜか私たちが一緒に戦っていた兵士たちが裏切って攻撃してきたんだ。私はそれから逃げるために宇宙を進む船に乗ったんだけど遭難して、気づいたらさっきの場所にいた。私が知ってることといえばライトセーバーの作り方と機械の直し方くらいかな」
にとりは興味津々といった様子でヤイトに質問を投げかける。
「ところでライトセーバーって何?」
ヤイトは腰に下げていたライトセーバーをそっと手に取り、にとりに注意を呼び掛ける。
「危ないから近づかないでね」
ヤイトはにとりが離れたのを見てライトセーバーを起動した。緑色の光刃が生成され、ぶんぶんと音を立てる。
「これで大体のものは切れるよ。普通の刀と戦うと条件によっては刀を受けられずに切られちゃうけど、たいていの場合は相手の刀を受け止めて切り返すことができる。結構強力だけど、使うのは難しいかな」
ヤイトが刃を引っ込めると、にとりはまた近くに来てヤイトに尋ねた。
「さっきの機械は直せるかい?」
「うん。金属があれば簡単に直ると思うよ。それと、私にこの場所の政治体制とかを教えてほしいんだけど」
「それは簡単には説明できないからなあ……講義形式になるけどいいかい?」
ヤイトが頷くと、にとりは紙の束と筆を用意してヤイトの隣に座った。