幻想入りしたジェダイの騎士と河城にとりと時々妖夢 作:古井論理
「じゃあ説明を始めるよ」
にとりは紙に何やら系統樹のようなものを書くと、ヤイトにそれを見せながら話し始めた。
「ここ幻想郷には、地上に限ると大きく分けて三つの種族がいるんだ。あんたのような『人間』、私のような『妖怪』、そして概念的な現象が姿を得た『妖精』がその三つだね。神様やら神霊やら仙人やらの数少ない例外たちはいるが、大体の奴はその三つに分けられるよ。そのうち人間と妖怪は種族として一つだが、妖怪はさらに種族が分かれるんだよ。例えば河童とか天狗とか吸血鬼とか魔法使いとか、そんな感じにね。さっきヤイトが戦った天狗とか私ら河童みたいのは同じ種類の妖怪だけで群れて社会を構成し、自分たちの生活を維持したりより良くしたりするために協力するタイプだ。ひとり一種族の妖怪もいる。そんな妖怪の大部分が住んでいるのがここ、妖怪の山ってことだ。今の妖怪の山は基本的に守屋の神様連中が上にいて、それを信仰する妖怪たちがそれぞれいろいろなことをやってる。人間の里と妖怪の山との間にはお互いに不可侵の約束があって、妖怪の山に侵入する人間は殺されても文句は言えないし人間の里の中で人間を襲った妖怪は退治されることになる。ここまでわかったかい?」
にとりはいったん話を切って、ヤイトの方をうかがった。ヤイトは頷いて続きを促す。
「それで、妖怪を退治する仕事をしている最強の人間が博麗の巫女。今の巫女は博麗霊夢といって、博麗の巫女の中でも強い方だ。君が妖怪の山に加わる場合、博麗の巫女とスペルカードで決闘して立場を勝ち取るか幻想郷の賢者たちを説き伏せる必要がある。ああそうだ、スペルカードっていうのはね……」
にとりが長かった説明を終えた頃には数時間の時が経ち、ラボの扉をたたく音が聞こえてきた。
「にとり、お昼ご飯持ってきたよ!」
その声に応じてにとりが扉を開けると、そこには小さな箱を持った河童が立っていた。弁当箱を受け取ったにとりは扉を閉めるとヤイトの隣に戻ってきて、そっと椅子に座ろうとする。そのにとりの肩を、虚空に現れた手が叩いた。
「ひゅい!?」
にとりがびっくりして振り返ると、ヤイトの背後から声が聞こえた。
「にとり、この外来人はどうするの?」
振り返ったヤイトの目に映ったのは、先ほどまではいなかったはずの黒いドレスの若い女だった。年齢は二十前後であろうか、しなやかな手には長い手袋をまとい、波打った長い金色の髪をいくつかの毛束に分け、リボンで括っている。切れ長の瞼の奥には紫色の瞳が妖しく輝き、唇はくっきりと赤い。ヤイトの目にはその魅力的な姿がどことなく謎めいて映った。銀河元老院最高議長のパルパティーンと会った時に感じたような、どことなく妙な空気をまとっているように思える。言葉にするなら、心理が読めないというのが適切なのだろうか。ジェダイの洞察力をもってしても理解が及ばない思考をしているのか、はたまた普段は何も考えていないのか。前者であれば危険であり、後者であれば太刀打ちできない畏怖の対象と言っていい。
「私は八雲紫。幻想郷では賢者と呼ばれている、ここの管理者の一人よ。あなたは外来人よね?何者?どこから来たの?そこの河童に気に入られた様子だけど、詳しい経緯が分からないわ。教えて頂戴」
警戒するヤイトの目を直視して、紫は真綿で包んだ刃のような口調で尋ねた。ヤイトは不安に耐えるべく毅然とした態度を心掛けながら、紫の目を見つめ返す。
「私は共和国に仕えていたジェダイの騎士、ヤイト・ヴァリエです。ジェダイというのはフォースという銀河全体を巡り様々なものと接点がある大きな力と調和して、よりよい世界を求める者のことです。この幻想郷に住むなら、私個人としては人間の里より妖怪の山の方が性に合っていると思います」
紫は少し困ったような表情をして、続きをしゃべるよう促した。何もしゃべっていないのに、ジェダイとしての洞察力に主張のみが訴えかけてきて本心が見えない。外へ漏らす思考を制御できるかのようだとヤイトは感じた。
「にとりの協力を得たのは、私が彼女の知らない技術を持ってきているからです。あなたがこの幻想郷の賢者……つまり管理者というわけですね。私をどうされるおつもりですか?」
「河童の知らない技術?」
紫の表情が少し曇った。にとりは少し慌てた様子だったので、ヤイトは説明を追加する。
「はい、私は宇宙船でこの山に墜落したんです。宇宙船はほとんどの部品が壊れきっていますが、一部の……コンピューターの基盤などの保護された部品の中には使えるものがあるかもしれません」
「そう、それは面白いわね。確かにあなたは妖怪の山の住人の方が向いてるかもしれないわ。というかあなた、外の世界から来たにしてはやけにSFなことしてるのね。もしかして宇宙の果てから来た外宇宙人だったりするのかしら?霊夢には会えたら会うといいわ。その目は華扇に気に入られそうね」
ヤイトは少し考え込んでいたが、首をかしげて尋ねた。
「華扇……とは、どなたですか?」
「そうね、えっと……」
紫は手をポンと打って何か思い出したように言った。
「妖怪の山に邸宅を構えている、仙人ってやつよ。彼女の家がある場所はそこの河童に教えてもらいなさい。そろそろ昼の仙術修行を始める頃でしょうから、見学にでも行くといいわ。そうそう、仙人の説明もしておかなきゃね。仙人ってのは世間とのかかわりを断ち切って、修行をしたり死神のお迎えを追い返したりして寿命を先延ばししながら仁義礼智信といった心がけを大事にして自分が常に正しくあるよう努力する者のことよ。華扇についてはちょっと特殊かしら、まあ会えばわかるわ。にとり、案内してあげなさい。天狗と起こした小競り合いについてはすでにほかの賢者が動いているから心配はしなくていいわ。こんないい子が来たらきっと華扇も喜ぶわね、ふふ」
紫がどこからともなく現れた空間のゆがみの中へ去っていくと、にとりがヤイトに話しかけた。
「じゃあ華扇さんの家に案内するよ」
にとりは研究室の扉を開け、鍵を指先で回しながらヤイトが扉を出るのを待っている。ヤイトは椅子から立ちあがって扉を出ると、にとりの後に続いた。
「華扇さんの家には動物がいっぱいいるけど、あれは華扇さんの友達とか弟子みたいなもんだから怖がらなくていい。沢の上流に向かっていくと岩場があって、いつもはそこを登ったあたりで修行をしているからそこを目指していくよ」
にとりはそう言いながら秘密基地の扉を開けて地上に出ると、沢に沿って歩き始めた。