幻想入りしたジェダイの騎士と河城にとりと時々妖夢   作:古井論理

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茨華仙の屋敷

「おはようございます」

 

 目を開けた瞬間ヤイトの視界に飛び込んだのは、周囲を取り囲むおびただしい数の獣たちと華扇であった。

 

「半時ほどで回復するとは、大した回復力ですね」

 

 華扇はそう言ってヤイトの額に左手を当て、起き上がろうとするヤイトを制して言った。

 

「ちょっと待ってください。竿打、座布団を取って来てくれる?」

 

 華扇の声に応じて、大鷲がバサバサという羽音を立てて舞い上がった。その大鷲は動物たちの頭上を飛び越えて隣の部屋へ飛んでいくと、四角いクッションのようなものを掴んで戻ってきた。

 

「竿打、ありがとう。ちゃんと取って来ましたね」

 

 華扇はそう言って畳の上に座布団を置き、ヤイトの枕元に置いてあったちゃぶ台を座布団の前に配置する。

 

「ヤイト、立ち上がっていいですよ。そこの座布団に座ってください」

 

 ヤイトが座布団の上に足を組んで座ると、華扇は少し感嘆した様子で言った。

 

「貴方、結跏(けっか)趺坐(ふざ)で座るんですね」

 

「ジェダイ聖堂での鍛錬で、瞑想などで平床に座る時はこの座り方をするようにマスターが言っていました。この座り方を、幻想郷ではそう呼ぶのですか」

 

「ええ、仏僧が座禅をする際の座り方です。座禅というのもまあ、平たく言えば瞑想のようなものですね」

 

「そうなのですね。ということは仏僧とはジェダイと似たようなものなのでしょうか」

 

 そう聞かれた華扇は首を傾げた。

 

「ジェダイというのはどういうものなのですか?

 

 ヤイトはジェダイについて説明しようとして、どの範囲まで理解できるだろうかと考え込んだが結論が出ず、分からないと言われたところを後で説明しようと心に決めた。

 

「並外れた反射神経を持ち、銀河を流れる力『フォース』を感知できる個人がフォースのライトサイド、明るい部分とつながり調和することを目的に集まって修行をしている集団です。ジェダイコードという五つの戒律によって自分をただすことが求められる行者であり、自己研鑽を続ける剣士であり、国に仕える騎士であり、少し前から軍隊を率いる将軍でもありました」

 

「ジェダイコードとは?具体的にどのようなものなのですか?」

 

「ひとつ、感情はなく平和がある。ひとつ、無知はなく知識がある。ひとつ、熱情はなく平静がある。ひとつ、混沌はなく調和がある。ひとつ、死はなくフォースがある……というものです。ジェダイの行動の究極目標のようなものですね。他者に怒りを向けることを禁じて、フォースのダークサイドへ至る感情を捨てるよう説くものです。ダークサイドというのは怒りや絶望と言ったような負の感情から生まれる強く危険で不安定な力で、それを日常的に使うと肉体は衰えやすくなり心は堕落していきます。ジェダイはダークサイドを信奉するシスという人々を打ち倒し、ライトサイドの守護者として銀河に立っていたのです」

 

「立っていた、とは?」

 

「銀河に広がった戦争の最後に、ジェダイはなぜか一緒に戦っていた兵士たちから裏切りを受けたのです。私はそれから逃れようとして、偶然ここにたどり着きました。ここにはフォースが感じられませんので、私は勘がよく働くだけの単なる人なんですけどね」

 

 華扇は首を横に振って否定する。

 

「ヤイト、貴方はただの人などではない。先ほどの体さばき、なかなかの熟練度が感じられました。霊夢より体術の熟練度は高いかもしれない。この幻想郷では中の上、あるいは上の下くらいの強者に匹敵するほどの実力を持っているはずです。ジェダイの中でもあなたは優秀な方なのですか?」

 

 華扇の質問に、ヤイトは「いいえ」と言って首を横に振った。

 

「私はただフォースの感知能力が高かったから一人前のジェダイになるのが早かっただけで、実力としては中の下くらいだと思います。総合的にみれば弟子(パダワン)を取るようなジェダイマスターはおろか、実力ある優秀なパダワンにも及びません。しかもジェダイとして尖った部分だったフォースがここにはないので、あまり強いほうではないかと。先ほど手合わせに応じたのはなんとなくそうした方がいいような気がしたからです。体術は得意でしたし、もしかしたら勝てると思ったのかも。修行が足りませんね」

 

「修行が足りないことには同意しますが、そこまで悲観するようなものではないかもしれませんよ?」

 

 華扇はそう言って、ちゃぶ台の上に一幅(ひとはば)の巻物と紙の束を出した。

 

「これは仙術に関する書物です。読み方が分からないなら、これが読めるようになるまで文字の勉強をしましょう。読み書きはできますか?」

 

「そうですね、文字と言葉の雰囲気さえ教えていただければ大体の言葉は読めるでしょうか」

 

「そうですか、では後で文字を教えましょう。ともかく、私とともに修行をすれば、貴方は乱れに乱れた今の幻想郷のパワーバランスを調和させ、幻想郷を安定させることができるかもしれない。ここ幻想郷に来た以上、ここでのルールには従ってもらいます。貴方は強いのですから、幻想郷の秩序を保つ側であるべきです」

 

 華扇はそう言うと、ヤイトをじっと見つめた。

 

「ああ、えっと」

 

 ヤイトが戸惑っていると、華扇は目線を下げた。

 

「ごめんなさい、貴方もここに来たばかりで思い入れもないのにこんな事を言われても困るだけだということに最初から気づいておくべきでした。まずは幻想郷の現状を見ていただいて、それから決めても構いません。というかその方が良いでしょう。貴方は……そうですね、人間の里と妖怪の山の中間地点にある山道の小屋を拠点として貸します。貴方が寝ている間に紫が来ました。紫は貴方が妖怪の山に住みたがっていると言っていましたが、妖怪の山に居を構えるのは庵に半年ほど住んでからにしましょう。紫には私から伝えておきます。森を行き交う幻想郷の人妖に触れて、この幻想郷を知ってください」

 

 華扇はそう言うと、ヤイトに一枚の紙切れを渡した。

 

「これが貴方の住む山小屋への道順です。管理人が常駐していたのは十年ほど前までなので、今はかなり荒れていると思います。なので貴方の仕事は山小屋の管理ということにしておきましょう。山菜を取りに来る人間や、森を住処にする妖怪とよく遭遇することでしょう。人間が妖怪に襲われているなら、人間の方を助けてください。人間に嫌われるとやっていけませんからね」

 

 紙切れを見るまでヤイトは幻想郷での彼女の扱いを何となく不思議に思っていたが、ジェダイや宇宙のことを何も知らない文明の対応としては普通なことであると思い出してやっと納得した。ヤイトは妖怪の山を降り、紙に記された道順に従って山道を進む。やっとのことで辿り着いた山小屋は、想像していた数倍荒れ果てていた。蔓が蔓延り、いかにも寂れた廃墟といった状態である。ヤイトは山小屋の修繕を始めることに決め、にとりの元へ大工道具を買いに行くことにした。

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