狐少女の紀行録   作:コギツネ 

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レトルトスープと流星群

土煙をあげながら、とある山道を二輪車の「がら」は走っていた。

 

「なあ、ホントに行くのか?情報が不確定なうえにたかが星だぞ?」

「分かってないなぁ、浪漫があるんだよ浪漫が」

 

アイがこぼした愚痴にコギツネは反論する。

 

「はあ、全く女子かアンタは」

「女子だよ」

 

至極まっとうな反論である。

 

「仕方がないじゃないか、みんな口をそろえて言うんだもの。山頂で流星群を見ながら食べるレトルトスープが一番おいしいって。」

「そのために標高1000メートルオーバーの山に二輪で登るのは違うと思うんだがなぁ!?」

 

アイが吠えた。

 

 

実に数時間前、コギツネはとある国の酒場を訪ねていた。

 

「うーん、ロクな依頼がないなぁ……」

「仕方ねぇよ、この辺は魔物も弱いしな」

「そうだねぇ……ん?なんだろうこのポスター」

 

コギツネが何かを見つけたと同時に、

 

「それはですね!!」

 

何やら興奮気味の男が話しかけてきた。

 

「うぉっ、なんだよオッサン。」

「オッサンとは失礼な!まだ今年40になったばかりですよ!!」

 

それはもうオッサンだろう、とコギツネは思ったが話が抉れそうなのでスルーすることにした。

 

「何か知っているんですか?……お兄さん」

 

もし、過去に干渉できるなら。

悪戯心で「お兄さん」と口にするのを辞めろと数時間後のコギツネは言うだろう。

気を良くしたオッサンが、3時間にも及ぶ話をすることになるのだから……。

 

話を要約すると、今日は10年に1度の流星群が飛来するということ。

そしてこの国のすぐ近くにある山は星を見るのに絶好のスポットだということ。

そして―—

 

「星を見ながらのレトルトスープ!これが私のおすすめなのですよ!」

 

とのことだった。

死人のような目をして聞いていたコギツネは、この一言を聞いた途端耳がピンと立ち、目を輝かせる。

そしてアイは

 

「(あぁ、コレは行くんだろうな……)」

 

と、1人黄昏ていた。

結果、目を煌々と輝かせたコギツネはすぐさま商店へ走り、レトルトスープを購入。

そのまま一時出国の手続きをし、今に至るのだ。

 

 

ガタガタと揺れながら「がら」は山道を走ってゆく。

その音を聞いて、アイは

 

「なぁ、コギツネ。「がら」ってこのレベルの道走れるんだったか……?」

 

と、おそるおそる質問した。

コギツネの返答は―—

 

「さあ、何とかなるでしょ。それより時間もやばいし飛ばすよ。」

 

酷いモノだった。

 

「待て待てアンタソレ死――」

 

大きく土煙をあげ、「がら」が爆走する。

論理主義と刹那主義というのは、対立が避けられない運命なのである。

 

 

「うん、何とか間に合ったね。さっさと火を起こして湯を沸かさなきゃ。」

 

呑気なコギツネに対し

 

「はあ……死ぬかと思った……いや、壊れると思ったの方がただしいのかな……」

 

アイは憔悴しきっていた。

せめてもの復讐だと恨みがましくコギツネを睨みつけるのだが、残念なことに目がないのでコギツネはソレに一切気づくことはない。

 

「さあ、湯が沸いた。あとは粉を溶かしてっと……」

 

普段ならほほえましく映る主のキラキラした目が、今日だけは悪魔のように見えたのだった。

 

 

「さて、20時20分……あと3分で流星群が見える。年甲斐もなくワクワクしているよ。」

「アンタ、15だよな。」

「はいはい、正論魔のアイは黙って。こういうのは雰囲気が大事なんだよ雰囲気が。」

 

暴君である。

 

「ちょっとは正論を聞くのも必要だと思うけどな!大体お前は――」

 

何時もの口喧嘩が勃発しようとした時、二人は自分の目に映った光景を見て、言葉を失った。

 

無数の軌跡。

数多の星たちが果て続ける終着点。

それらは息をのむような美しさで、コギツネとアイの心を揺さぶった。

 

「……綺麗だ。」

「……ああ、悔しいくらいにな。」

 

この時ばかりは、二人の意見は一致した。

そしてコギツネはレトルトスープを手に取り

 

「……うん、これは良い。何倍も美味しく感じるよ。」

 

とつぶやくのだった。

 

 

「ね、来てよかっただろう。」

「まあな……でも二度とあんな経験はしたくないな。」

「はぁ、もう少しキミは素直になるべきだと思うよ。」

 

二度とあのような経験をしたくないのは、まぎれもない本音である。

ただ……

 

「(まあ、たまになら星を見るのも悪くないな。)」

 

そう思うアイなのだった。

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