狐少女の紀行録   作:コギツネ 

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episode.1 脱出

酷い雨の日だった。

 

いつも通り教室に行き、机の上に置かれた花瓶を片付け授業を受ける。

低俗な嫌がらせだ。

 

授業では必ず難しい問題を当てられる。

答えられなければ怒られ、答えられても生意気だと怒られる。

 

そんないつもの日常だった。

 

心の支えはいつも優しいお父さんとお母さんだけ。

そうだったのに。

 

「ねえ、どうして……どうしていないの。」

 

家に帰ると、二人はいなくなっていた。

 

「……ああ、かくれんぼだね!■■■を何歳だと思ってるのさ!」

 

■■■たちに与えられたのは小さくて、粗末な平屋。

二人が隠れる場所なんてないことは分かっていた。

 

でも、そうとでも思わないと。

自分を少しでも騙さないと。

気が狂ってしまいそうだった。

 

「どこかなぁ……ここにもいない……」

 

家じゅうをひっくり返し、居るはずのない両親を探し続ける。

前が見えないのはさっき殴られたからだ。

決して涙なんかじゃないはずだ。

 

どれだけ探しても二人は出てこない。

分かっていたんだ、今この家からは■■■以外の匂いはしない。

もう誰も居ないって。

分かりたくなんて無かったんだ。

 

「おかあさん……おとうさん……どこなの……」

 

静まり返った家に声がこだまする。

 

「いなくならないで……■■■を一人にしないで!!!」

 

その声は誰にも届くことはなく、空しく響き続けた。

 

 

 

 

「アンタ、まだ来てるの?いい加減どっか行けよ気持ち悪い!!」

 

同じ教室の子が■■■を殴りつける。

何が気持ち悪いんだろう。

耳と尻尾があるだけで、■■■はあなたと何にも変わらないのに。

 

「ホント、ずうずうしい奴だな。」

「獣のくせに何で来てるんだろうね。」

 

今日もみんなが■■■へ罵倒を浴びせる。

いつも通り、■■■が耐えればいいだけ。

そうだったはずなのに。

 

「てかさ、そんなんだから親もこいつのこと捨てたんでしょう。もうこいつに生きてる価値なんてあるのかしら?」

 

限界だった。

 

「……うるさい」

 

「は?何、歯向かうの?」

 

そう言ってその子は私を殴りつける。

 

「お仕置きが必要ね。そうだ、これなんかいいじゃない。」

 

そう言ってその子は■■■の指輪を奪い取った。

 

「それは!」

 

■■■は必死に奪い返そうとするが、周りの子たちに抑え込まれてしまった。

 

「二度と逆らえないようにこーしてやるわよっ!」

 

指輪が真っ二つに割れる。

大切なものだった。

昔おとうさんとおかあさんが買ってくれた、宝物だった。

唯一ふたりと■■■をつなぎとめてくれるものだった。

 

限界だったんだ。

 

■■■は椅子を持ち上げ、その子を殴った。

血が流れている。

その子の手から離れた指輪を回収し、ポッケにしまう。

 

「ってぇ!何すんだよ――」

 

なおも悪態をつくその子を椅子で殴り続ける。

そのたびにその子は変な声をあげ、ついにはピクピクと痙攣するだけになった。

 

周りの子たちはシンと静まり返っている。

■■■はそれを横目に、教室から……いや、この場所から逃げ出した。

 

持ち物は指輪だけ、それ以外は何もない。

必死に走るしかない。

きっと死ぬだろう、でももう限界だった。

 

山を下りたころにはもう気力は尽きていた。

喉が痛い、頭がふらふらする。

もう動けない。

■■■はその場に倒れこんだ。

 

「たす、けて……だれ、か……」

 

かすれて声もほとんど出ない。

ここで死ぬんだと思っていた。

 

「おいお前さん、大丈夫か!」

 

少ししゃがれた声がした。

まだ微かに開いている目で声の方を見ると、こっちへ人が走ってきているのが見えた。

 

「たす……けて……」

 

最後の声を絞り出す。

■■■の意識はそこで途切れた。

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