酷い雨の日だった。
いつも通り教室に行き、机の上に置かれた花瓶を片付け授業を受ける。
低俗な嫌がらせだ。
授業では必ず難しい問題を当てられる。
答えられなければ怒られ、答えられても生意気だと怒られる。
そんないつもの日常だった。
心の支えはいつも優しいお父さんとお母さんだけ。
そうだったのに。
「ねえ、どうして……どうしていないの。」
家に帰ると、二人はいなくなっていた。
「……ああ、かくれんぼだね!■■■を何歳だと思ってるのさ!」
■■■たちに与えられたのは小さくて、粗末な平屋。
二人が隠れる場所なんてないことは分かっていた。
でも、そうとでも思わないと。
自分を少しでも騙さないと。
気が狂ってしまいそうだった。
「どこかなぁ……ここにもいない……」
家じゅうをひっくり返し、居るはずのない両親を探し続ける。
前が見えないのはさっき殴られたからだ。
決して涙なんかじゃないはずだ。
どれだけ探しても二人は出てこない。
分かっていたんだ、今この家からは■■■以外の匂いはしない。
もう誰も居ないって。
分かりたくなんて無かったんだ。
「おかあさん……おとうさん……どこなの……」
静まり返った家に声がこだまする。
「いなくならないで……■■■を一人にしないで!!!」
その声は誰にも届くことはなく、空しく響き続けた。
「アンタ、まだ来てるの?いい加減どっか行けよ気持ち悪い!!」
同じ教室の子が■■■を殴りつける。
何が気持ち悪いんだろう。
耳と尻尾があるだけで、■■■はあなたと何にも変わらないのに。
「ホント、ずうずうしい奴だな。」
「獣のくせに何で来てるんだろうね。」
今日もみんなが■■■へ罵倒を浴びせる。
いつも通り、■■■が耐えればいいだけ。
そうだったはずなのに。
「てかさ、そんなんだから親もこいつのこと捨てたんでしょう。もうこいつに生きてる価値なんてあるのかしら?」
限界だった。
「……うるさい」
「は?何、歯向かうの?」
そう言ってその子は私を殴りつける。
「お仕置きが必要ね。そうだ、これなんかいいじゃない。」
そう言ってその子は■■■の指輪を奪い取った。
「それは!」
■■■は必死に奪い返そうとするが、周りの子たちに抑え込まれてしまった。
「二度と逆らえないようにこーしてやるわよっ!」
指輪が真っ二つに割れる。
大切なものだった。
昔おとうさんとおかあさんが買ってくれた、宝物だった。
唯一ふたりと■■■をつなぎとめてくれるものだった。
限界だったんだ。
■■■は椅子を持ち上げ、その子を殴った。
血が流れている。
その子の手から離れた指輪を回収し、ポッケにしまう。
「ってぇ!何すんだよ――」
なおも悪態をつくその子を椅子で殴り続ける。
そのたびにその子は変な声をあげ、ついにはピクピクと痙攣するだけになった。
周りの子たちはシンと静まり返っている。
■■■はそれを横目に、教室から……いや、この場所から逃げ出した。
持ち物は指輪だけ、それ以外は何もない。
必死に走るしかない。
きっと死ぬだろう、でももう限界だった。
山を下りたころにはもう気力は尽きていた。
喉が痛い、頭がふらふらする。
もう動けない。
■■■はその場に倒れこんだ。
「たす、けて……だれ、か……」
かすれて声もほとんど出ない。
ここで死ぬんだと思っていた。
「おいお前さん、大丈夫か!」
少ししゃがれた声がした。
まだ微かに開いている目で声の方を見ると、こっちへ人が走ってきているのが見えた。
「たす……けて……」
最後の声を絞り出す。
■■■の意識はそこで途切れた。